東京から358km南に位置する絶海の孤島・青ヶ島。
島民およそ170名。面積、約6㎢の小さな島だ。
世界的にも珍しい二重カルデラを有しており、海外で発表された「死ぬ前に見たい世界の絶景13選」に日本から唯一選ばれた。
ただし、たどり着くのが難しい。アクセス難易度S級だ。
島への直行便はない。八丈島を経て、ヘリか船でアクセスするのだがヘリは1日1便で9席だけ。島民の足としてヘビーユーズされているのでなかなか予約が取れない。
▲青ヶ島の港はまるで要塞。コンクリートで固めている
船は週4~5便あるのだが、就航率が低い。通年で50%ほど、海が荒れる冬場はさらに低い。
それもそのはず。断崖絶壁に囲まれた島で、港には防波堤がない。すこしでも波が高ければ着岸できないのだ。
宿の人から「1週間船が出ないこともザラ」だと聞いた。
いつ行けていつ帰れるのかまるで読めない、それが青ヶ島。
堅気の商売人には上陸が難しい離島だが、自由業の強みをいかし、海が荒れる12月に渡ってきた。
地熱で蒸して、地熱で作った塩で食う
わざわざ渡ったのには理由がある。
「ひんぎゃの地熱釜」で蒸した料理を食べるためだ。
青ヶ島は1785年に大噴火を経験し、数十年にわたり全島民が避難していた活火山の島。
いたるところに水蒸気が噴出する穴がある。これを島言葉で「ひんぎゃ」と言う。火の際(ひのきわ)が語源だそうだ。
電気がない時代には暖房や調理に利用していた。
いまも地熱はサウナや製塩、蒸し釜として利用されている。
カルデラ内部の「青ヶ島村ふれあいサウナ」は地熱を使ったサウナ施設。そのすぐ近くにあるのが地熱釜だ。
フタを開けるとカゴが設置されている。
好きな食材を入れるだけで、蒸し料理ができるという寸法。
島のお店は雑貨店1軒、居酒屋さん2軒のみ。昼メシが食べられるところがないので、宿は基本的に1泊3食付きだ。
宿の人にあらかじめ言っておけば、昼メシがわりに地熱釜セットを用意してくれる。
じゃがいも、卵、ウインナーにくさやとたっぷり包んでくれた。
くさやは八丈島製のものだろう、あまり匂いがきつくない。
八丈島のくさやは他の伊豆諸島のものと少々製法が違っていて、くさや汁からあげた後に水洗いをする。だから、あんまり臭くない。
とはいえ、匂いがあるにはあるので他の食材と分けて入れた。
食材を入れ、フタを閉めてからバルブを開く。
すると、熱い蒸気が流れこんでくる。
40分ほど蒸しあがりを待つ。
あたりを散策していたら、あっという間だ。
完成!
熱々で湯気がたっている。
素朴な見た目がかえって食欲をそそる。
じゃがいもも中心まで熱が通って、柔らかい。
仕上げはこれ、ひんぎゃの塩。
地熱蒸気で海水の水分を飛ばし、作った塩だ。
う~~ん、ホックホク。
素材そのままの味。うまい!
卵は固ゆで。
くさやは手で身をほぐして食べるのが地元流だとか。
シンプルな調理のシンプルなお昼ごはん。
ようやくたどりついた絶海の孤島の空気を味わっているようで、特別な一食だった。