▲ドネルケバブマニアのメルツさん
くるくる回る巨大な肉塊、香ばしくただよう肉の匂い……。
つい手を伸ばしてしまう料理、ドネルケバブ。
そんなドネルケバブに、6年前に魅了されたメルツさん。
あまりに食べ歩きすぎて、70名以上のドネルケバブ屋さんとSNSで繋がった。
好奇心は日本国内にとどまらず、本場トルコまで足を伸ばした。
自身のブログ「メルツのドネルケバブログ」は日々ドネルケバブの感想が並び、ドネルケバブwikiも運営している。
そんなドネルケバブマニアのメルツさんにお話をうかがった。
ドネルケバブが好きすぎて、マンションの相談にものる
── いつハマったんですか?
メルツ:大学4年でハマりました。その頃は秋葉原の「スターケバブ」に週4で通ってましたね。秋葉原まで行って、ドネルケバブ食べて、そのまま家帰る日々。気に入ったものを食べ続ける才能があるんですよ。
── スターケバブってそんなにおいしいんですか?
メルツ:ケバブグランプリ初代優勝店だけあってうまいですね。2014年から1年半で20万円分ポイントカード貯まりました。想いが詰まりすぎちゃってブログでもスターケバブについてはなかなか書けないんです。
── それだけ通いまくったら、顔覚えられますよね?
メルツ:当然覚えられてますね。すごい頻度で秋葉原来るもんだから、当初は極度のアニメ好きだと思われてたそうなんです。
でも、まったく別の場所で、スターケバブがイベント出店したさい「おい! いつもの奴がまたいるぞ!」って店員さんたちザワザワして。「こいつはアニメじゃない!ケバブ目当てだ!」ってなったようで。それがきっかけで店員さんたちと会話するようになり、次第にSNSで繋がって、仲良くなりました。
── ギョッとしただろうな~。仲良くなってどんな話をするんですか?
メルツ:どの店が流行ってるとかケバブ情報をやりとりしたり、新ソースや新商品の相談にのったり。借りるマンションの相談を受けたこともありますよ。実際に何件か不動産屋さんに足を運びました。
── プライベートな部分まで食いこんでる!
メルツ:いまやSNSで、日本のドネルケバブ屋さん70〜80人と繋がってます。多くはトルコの方ですね。日本に住んでるトルコ人は6000人ぐらいと言われてるので、約1%と繋がってますね。
ちなみに、ハンドルネームの「メルツ」はトルコ人の地下アイドルに命名されたんですよ。トルコの言葉で「男らしい」「勇敢な」という意味ですね。ライブには6〜7回行きました。
── ドネルケバブ人脈、恐るべし
メルツ:本場トルコに遠征したときは、行きつけのトルコ料理店の店主が「日本から来たドネルケバブマニアが本を書こうとしてるから、写真を撮らせてやって欲しい」って、行く先々のケバブ店に電話で話をつけてくれて。
そのおかげでお店の写真はもちろん、有名店の創始者やオーナーとか、ドネルケバブ界の偉人たちと2ショット写真も撮らせてもらえました。
▲トルコのケバブ店の様子
兄弟や友だちを呼んで、ドネルケバブ屋は増えていく
── ドネルケバブ屋は日本に何軒ぐらいあるんですか?
メルツ:移動販売車とかふくめると分からないんですが、店舗としては150店以上あるでしょうね。東京、大阪などの大都市圏に集中してて、そのうち50店以上は行きました。
── 外観やシステムが似たようなお店が多いとおもうんですけど、どうやって増えてるんですか?
メルツ:ドネルケバブ業界も人手不足なので、外国の方の場合は国から兄弟や友だちを呼び寄せてます。ある程度修行したら、独立したり従業員に戻ったり、とにかく人の動きがダイナミックですね。
── メルツさんはドネルケバブ屋さんにはならないんですか?
メルツ:IT系でサラリーマンをしてますし、これからも食べるほうに徹します。それに一生懸命お仕事をされているケバブ屋の方ほど、「自分のお店の味は周りに比べてどうなのか」とかドネルケバブ情報に対するニーズが高いので、自分の役割は食べ続けて消費者として見識を深めることなのかなと思っています。
ドネルケバブはたこ焼きに近い
── 本場トルコにも行ったんですよね
メルツ:2015年、2017年と2度行きました。現地のドネルケバブはソースをかけません。焼いた薄切りのベーコンみたいな脂と食感で、フレッシュな肉に染み出るスパイスの風味。しっかり下味がついてソースが無くてもうまいですし、ずっと食べ続けられますね! 「やっぱり現地は違う。日本独自のローカライズされてたんだ」と違いに深く感銘をうけました。
── ドネルケバブばっかり食べたんですか?
メルツ:「ドネルケバブ屋を巡りまくるぞ!」と意気込んでたんですが、仲のいいトルコ人たちに「ドネルケバブだけなんて狂ってる!」って説教されて、大統領も行くようなトルコ料理の名店などを紹介されました。
── トルコ人からしても狂ってるって感覚なんですね(笑)
メルツ:ドネルケバブは、トルコ人の感覚ではトルコ料理ではなく「トルコのファーストフード」なんですよ。日本でいえば、たこ焼きみたいなポジション。日本に来た外国の友だちが、たこ焼きばっかり食べてるようなもんです。
── そりゃお節介したくなる!
── そもそもケバブとドネルケバブって違うものなんですか?
メルツ:本来ケバブはトルコ語で「炙って焼いたもの」という意味なので、魚や野菜のケバブもあるんです。
とはいえ、トルコ料理は特に肉料理が多彩なので、一般的にはケバブといえば「焼肉」と考えていいと思います。ドネルは「回転する」って意味なので、ドネルケバブは回転焼き肉です。
▲焼いた栗も「ケスターネ・ケバブ」
── あの回転がドネルケバブの肝だったのか
メルツ:ケバブをハンバーグとすれば、ドネルケバブはハンバーガーです。ハンバーグはレストランのメニューにもあるし、家でも食べるじゃないですか。それがケバブ。でもハンバーガーはファーストフード店でしか食べないですよね。ドネルケバブもそんな感じです。
── ああ、料理とファーストフードの違い
メルツ:ドネルケバブは19世紀なかばに生み出されたようなんですが、そのころから広場の屋台やお店の軒先で出してます。生まれたときからファーストフード。最近の日本ではトルコ料理として有名になりすぎて、トルコ料理店でも出すお店がありますけど、本来トルコではトルコ料理を食べるお店とドネルケバブを食べるお店は基本的には分かれていますね。
ドネルケバブは人と話す手段
── 日本のドネルケバブ屋さん、全店舗巡りたいですか?
メルツ:全店巡るより、気に入ったお店を通い続けるほうが好きですね。お店ごとの特色といった大きな違いも面白いんですけど、小さな違いも面白い。
── 小さな違い?
メルツ:ドネルケバブって、同じ店でも人によって味が変わるんですよ。お肉をどのタイミングで切るか、どんな厚みで切るか、そしてどれぐらいソースをかけるか……。場合によっては同じ人が作ってもコンディションで味が変わる。そんな人間味のある小さな違いも面白いんです。
── そこまで入りこむと、たとえ1店舗でもキリがないですね
メルツ:ドネルケバブはファーストフードですけど、人間味を楽しむ、その先のコミュニケーションを楽しむ。たわいもない話をするのが楽しいですね。通い続ければ「元気?」と自然に言い合ったり、札幌や九州のケバブ屋さんでも「あ、ひさしぶりです」って言えたりするようになる。それが魅力だし、同じ店に通いつづけるメリットです。
── なるほど、コミュニケーションツールなんだ
メルツ:とあるテレビに出演したとき「あなたにとってドネルケバブとは?」って聞かれて「人と話す手段であり、自分の趣味であり、生きていく上で必要な食べ物。アイデンティティー。ケバブを抜いたら自分でなくなる」と答えました。
── メルツさんの核……
おいしい店を見抜くポイント
── おいしい店の見分け方ってあります?
メルツ:まず、お客さんがいるかどうか。やっぱりお客さんが多い店は、いつも肉切ってるからフレッシュですね。タイミング逃した良い肉より、タイミングぴったりのそこそこの肉のほうがうまい。ただ、フェイントもあります。わざとのろのろ提供して、時間をかけて列を伸ばす遅延戦術をする店もあるんですよ。
── 牛歩だ!
メルツ:ベリーダンス踊って遅延なんて大胆な手法を見かけたこともありますよ。
── そこまでやる!?
メルツ:あとはメニューに「ソースなし」があるかどうかもポイント。ソースがなくても食べられるのは、肉に自信がある証拠です!
── 今度からチェックしよう!
「正解のケバブ」が分かっている状態にしたい
── 最終目標ってあります?
メルツ:頑張ってる人がむくわれる社会にしなきゃいけない。
── 大きな目標ですね
メルツ:たとえばラーメンだったら小さい頃から食べるから「このラーメンおいしい」「あの店は好みじゃない」みたいな議論ができる。そうするとラーメン屋も頑張ってレベルが上がる。でも、ドネルケバブはみんなそんなに食べたことがない。
── この店がいい悪いじゃなくて、ドネルケバブがうまいマズイの話になっちゃうのか
メルツ:そうです! それぞれが、うまいケバブ、正解のケバブが分かっている状態にしたい。そうでもない店と頑張ってる店がいっしょくたに判断されますよね。実際に心身ともに限界がきて、頑張っていたドネルケバブ屋さんが国に帰ったりお店を畳んだりしたケースもあります。
頑張ってる人が報われるように、おいしいと思うお店や工夫をしていると思うお店をピックアップして、自分なりのドネルケバブの楽しみかたを説明していくことで、ドネルケバブに少しでも関心が集まればと思います。
── そういうことですか
メルツ:「今日どこでご飯食べよう」ってなったとき、僕はドネルケバブ一択なわけですよ。どこのケバブ屋に行こうかが問題なだけで。ドネルケバブ界自体が盛り上がってくれることが、僕の生活クオリティの底上げにもなるわけです。
東京のオススメ3店舗
◎スターケバブ(秋葉原)
秋葉原に3店舗を展開する老舗のケバブ屋さん。ケバブグランプリ初代優勝店で、看板メニューであるビーフのドネルケバブは、本場トルコのようにソースが無くても美味しく食べることができ、何百食と食べても飽きることがない素晴らしい一品。
そして他のお店では食べられないオリジナルメニューやソース、サバサンドやケバブのり巻きといった多彩なメニューも魅力です。
◎ザ・ケバブファクトリー(浅草)
大勢で訪れても座って食べられる広い店内を持つ、都内では貴重なケバブ屋さん。
「ソース無し(オリジナル)」で頂くドネルケバブは、スパイスで和えた野菜が入る本格派の一品。
このほか焼きたてのシシケバブやアダナケバブ、ラムチョップといったトルコ料理も楽しめます。いま現在、トルコアイスパフォーマンスの名手が在籍中なので、トルコアイスもぜひ。
◎アジアンケバブ(六本木、白金、三田、芝浦、上野、戸越、中延、大井町)
港区や品川区を中心に8店舗を構える、店舗数では国内最大級のケバブ屋さん。チキンのドネルケバブは、下味にサフランを使ったほかのお店とは違うエキゾチックな香りと味わい。
特色はお肉の上に盛られるたくさんのキャベツで、これに絶妙なコクと辛さのミックスソースがたまらない。
ほとんどのお店で、席に座って食べられることも魅力です。