「山形」と聞くとどのようなイメージがありますか?
芋煮、さくらんぼ、あたりはパパっと思い浮かびますが、これ以上すぐにでてくる方は多くはないのではないでしょうか?
そんな一見地味に見える山形県ですが、6.5メートルの巨大鍋で芋煮を作り、「8時間で最も多く提供されたスープ」としてギネス世界記録に認定されるなど、エキセントリックな一面も。
何をどう考えたらこのようなアウトプットになるのでしょうか。
その実体を探るべく、今回山形出身のアーティスト2人にお集まりいただきました。
1人は世界初の“ヴィジュアル系演歌歌手”として話題の最上川司さん。そしてもうお1人は山形弁カバーアルバム「方言革命」をリリースするなど郷土愛あふれるシンガーソングライター・朝倉さやさん。
このお2人の対談を通して、現地の人にしかわからない山形の魅力、山形という地の特徴を探っていきたいと思います。
山形の魅力は祭りにあり!
――まず、毎年発表されている「都道府県魅力度ランキング」で、2018年に山形県が何位だったかご存知ですか?
朝倉:そりゃあもう、1位でしょう!
最上川:ですよね!
――なんと……。残念ながら実際のランキングは、30位なんです……。ちなみに、東北の中では最下位。
朝倉&最上川:えぇーー!! 嘘でしょ?
――ただ、2017年が37位だったので、急上昇ではあるんですよ。かなり健闘はしているようなんですけど、どうしても地味な印象もあると思うんです。
最上川:そうかなぁ。
――(納得されてない……)では、山形には何があるの? って聞かれたら何て答えますか?
最上川:まずは芋煮ですね。あとは冷たい肉そばと……。
――まずは美味しいものが沢山あるというところですかね。メシ以外だと?
最上川:花笠まつりは東北三大祭りの一つですよ。
朝倉:花笠まつりももちろんですし、あとは2016年にユネスコの無形文化遺産に登録された新庄まつりもあります。お祭りは盛んだと思います。
――花笠まつりには行ったことがないんですけど、どういうお祭りなんですか?
最上川:いろんなチームが踊り狂ってます(笑)
朝倉:七日町っていう山形のメインストリートいっぱいに踊り手さんがいて、花笠を持って「ヤッショーマカショ」って掛け声をかけ合いながら踊るんです。
――祭りの思い出というと、どういうものがありますか?
朝倉:私は小さい頃から花笠祭りが身近だったので、子供の時は一緒に付いていって踊ったりしていました。高校生くらいになると、小中学生時代の友達と久しぶりに会える場所になってました(笑)。大体みんな文翔館(山形県山形市の中心部にある国の重要文化財)の周りにいるんですよ。
最上川:僕は河北町という、山形市内から車で40~50分かかる町の出身なので、実は花笠まつりを見に行ったことがないんです。出演させてもらったことはあるんですけどね。でも、河北町にもどんが祭りというお祭りがありまして、それは毎年楽しみにしていました。
――その祭りはどういったお祭りですか?
最上川:囃子屋台(はやしやたい)っていって、でっかいトラックの荷台にやぐらを組むんです。そこで太鼓をたたく小学生と笛を吹く中学生と、大人数人で音楽を鳴らしながら町を三日間走り続けるんですよ。それが6・7台あって、各公民館で止まって踊りを見せたりして。
――三日間も!
最上川:朝倉さんもおっしゃっていましたけど、お祭りは昔の友達に会える場所でもあるんですよね。高校くらいでそれぞれが違う道に進んでも、地元の祭りで一年に一度は会える。僕は年齢不詳なんですけど、僕くらいの年になるとお子様抱えた同級生に会ったりもします。
――なるほど。年齢は非公開なんですね。
最上川:自分、ビジュアル系なんで。
――な、なるほど……。……お祭りは同窓会的な意味もあるということですが、昔気になっていた子に会ったりもしたんじゃないですか?
最上川:ありますね。本当は気になってるのに、全然気にしてないふりしちゃったりとか(笑)。心の中では喜んでるのに、男は大体そんなもんですよね。
朝倉:そうやって本当の地元の人が集まるからこそ、県外の人達にも本当の山形を体験してもらえる、お祭りはそういう場所でもあると思うんです。
――山形の県民性を調べると、「意外と派手好き」って言われていたんですけど、そうなんですかね。
最上川:どうなんだろう……?
――いや、最上川さんは相当派手じゃないですか(笑)。山形のお祭りでメシと言えば、どんどん焼きが有名ですよね。
朝倉:どんどん焼きは山形来たらぜひ食べてもらいたいです! というか、お祭りじゃなくても山形駅の近くで食べられますよ。高校生の時はおやつによく食べていました。山形駅のカジョセン(山形の大型ランドマーク「霞城セントラル」の略)の方に行くところにあって、チーズダブルがけとかも出来るんです。
最上川:へぇー! それは知らなかったです。
芋煮は〆までやりきる
――先ほど山形についてお聞きした時、真っ先に出てきたのは芋煮でした。芋煮会が盛んだとは聞いたんですけど、僕は東北出身じゃないので芋煮会がどういうものなのか、いまいちイメージできてないので、教えてもらってもいいですか?
最上川:芋煮会は山形人には身近ですね。
朝倉:毎年秋になったら「いづすっか?」みたいな感じですよね(笑)。
最上川:やり方としては、河原にブルーシートを敷いて、でっかい火をくべるんです。そこにでっかい鍋を置きまして、薪で炊くんです。
――外で!? それは知らなかったです。バーベキューみたいなイメージなんですね。
朝倉:その時期になると、スーパーで鍋などのレンタルがあって、家族はもちろん、職場の仲間や友達同士でも気軽にやりますよ。すっごい楽しいんです!
――若者同士でもやるんですか?
朝倉:やりますよ!
最上川:小学校の学校行事でもやりますからね。小学生だと、芋ばっかり残って肉がすぐ無くなる(笑)。
――芋煮は地域によって味付けと肉の種類が全く違い、その違いによって血が流れる場面があると聞いたのですが……?
朝倉:血は流れませんよ(笑)! 山形の中でも地域ごとに特色があるみたいですね。私、山形出るまで芋煮は醤油・牛の一択だと思ってたんで、別の芋煮があることは知らなかったです。
――そうなんですね。
朝倉:違う地域の友達と食材を持ち寄ってダブル芋煮会をしたりします。庄内の人と山形市の人で、味噌・豚と醤油・牛の二つを作って食べたんですけど、どっちも美味しかったですよ。
――不用意に対立を煽りたがるのはメディアの悪い癖ですよね(すみません……)。
朝倉:この間、実家から送ってもらった芋を使って一人芋煮会をやりました。最後はうどんとカレーを入れて、カレー芋煮うどんにして食べる。
――〆もやるんですね。芋煮って言葉から煮物をイメージしてましたけど、鍋みたいな感覚なんですね。
最上川:そうですね。メシでいえば「ひっぱりうどん」って知ってますか?
――納豆を入れた混ぜうどんのようなものですよね?
朝倉:そうです! 乾麺のうどんとサバ缶と納豆があればすごく簡単にできるんですよ。
最上川:僕の地元ではサバ缶を入れないので、「サバ缶を入れる」という話を聞いた時けっこう衝撃を受けました。
朝倉:えぇー!! サバ缶入れないんですか? サバ缶なしにひっぱりうどんは語れないと思ってました。
最上川:僕の実家では納豆と生卵に醤油入れて食べますね。
――そもそも「ひっぱりうどん」はどうやって食べるんですか?
朝倉:食卓の真ん中に茹でたうどんの鍋を置いて、鍋から取ったうどんをサバ缶や納豆を入れた特製ダレにつけて食べるんです。家庭によって味は違いますけど、山形県民は100%食べてるんじゃないですかね。私の知り合いにはバターを入れるっていう人がいて、試してみたらコクが出てすごく美味しかったです。
最上川:納豆と乳製品は合いますからね。僕は納豆ごはんと牛乳の組み合わせでよく食べるんです。周りからは「嘘だろ?」って言われますけど(笑)。
朝倉:私、山形から出て初めてひっぱりうどんが山形の郷土料理だって知ったんです。こんな簡単で美味しいのに、他の地域で食べられてないのはもったいないですよ!
――その他に「冷やしラーメン」は有名ですよね。山形って寒いイメージがあるのですが、冷たい麺類が多いのに驚きました。
最上川:実は山形って夏は暑いんですよ。日本の歴代猛暑日記録で、今は4位くらいですけど、ついこの間まで1位だったくらい。冷やしシャンプーっていうのもありますからね。
朝倉:「冷やし中華始めました」「冷やしラーメン始めました」と同じような感じで、「冷やしシャンプー始めました」っていうのれんが美容室にかかるんですよ。それを見ると夏が来たなって思います。夏は暑くて冬は寒いからこそ、いろんな工夫をして特徴的な文化が生まれているのかなって思います。
――最上川さんの出身地、河北町は冷たい肉そばの発祥地だそうですね。
最上川:そうですね。僕も小さい頃からよく食べていました。小さいときから身近にあったんで、特別なものだとは思ってなかったんですけど、高校に入って隣の市の友達から「河北町の肉そばほんとにうまいずねぇ」って言われて、「そうなんだ」と。そんなに誇りを持てるくらい美味しい食べ物なんだなって思いましたね。上京してきたら、僕もこの味が恋しくなっちゃって。
朝倉:我々山形市民も、河北町に冷たい肉そばを食べに行ってました。今は山形の市内にもたくさんあるんです。お祭りにもたくさん出店しているので、暑い夏まつりで食べる冷たい肉そばはオアシスって感じです。
上京して一番驚いたことは?
――他に、東京に出てきて初めて知った山形だけの文化は何かありますか?
最上川:ヒーターの前にダクトを置いて、こたつの中に通すのはこっちではやらないですよね。
――ん? どういうことですか? こたつの電気はつけないんですか?
最上川:つけないです。
朝倉:こたつだけじゃなくて、自分の周りに毛布を敷いてヒーターから温風を頂くこともあります。
最上川:山形のホームセンターには、それ用のダクトが売ってるんですよ。ダクトを固定するための針金とか、それ専用の商品が売られてるんです。
――他には何かありますか?
朝倉:方言なんですけど、「かます」って言葉が通じなかったのは驚きました。前に友達と料理を作っていて、「それかましといて」って言ったら「ずっと何言ってるの?」みたいな顔されて(笑)。
――「かます」、確かに初めて聞きました。
朝倉:「混ぜる」っていう意味ですね。あとは「リンゴがみそになる」とか。
――新書のタイトルみたいですね。どういった意味ですか?
朝倉:普通のリンゴはシャキシャキしてるじゃないですか。でも、たまにシャキシャキ感がなくなってしまったリンゴがあると、「リンゴがみそになる」っていうんです。
最上川:みそリンゴって言いますよね。
――山形では菊の花を普通に食べるって聞いたんですけど本当ですか?
最上川:普通に食べます。
朝倉:湯がいて、醤油とかで食べるんです。そこに少しラー油を入れると美味しいですよ。シャキシャキで美味しいんです。
最上川:それもスーパーで普通に売ってます。
朝倉:それと、山形ではアケビの外側を食べるんですよね。中の甘い部分じゃなく。
最上川:あの苦みがまたいいんですよね。大人の味ですけど。
朝倉:確かに、子供の頃は美味しさが分かんなくて、食卓に出てきたら「アケビかぁ……」って思ってました(笑)。
最上川:ちょっとゴーヤに近い味かもしれないです。
朝倉:炒め物とか、肉詰めとかで食べます。
――野菜の一種みたいな感じなんですかね。
朝倉:いや、アケビはアケビです(笑)。他にない衝撃的な味なので。あとはひょうって知ってます?
――ひょう? どういう食材ですか?
朝倉:そこらへんに生えてる野草なんですけど、普通にスーパーでも売ってるんです。
――やはり独自の食文化があるんですね。逆に東京で衝撃的だったことはありますか?
最上川:やっぱりビルディングの高さですかね。ずっと上見て歩いてましたもん。
――ビルディング(笑)。
朝倉:私もそれは衝撃的でした。山形で一番高い建物はカジョセンくらいですもんね。
最上川:山形といえば、やっぱりあのマンションですかね(笑)?
朝倉:ああ! 山形に新幹線で行くときに、ずば抜けて高いマンションが見えるんですよ(笑)!
最上川:すっごい田舎の風景に、たっかいマンションが立ってるんです。
朝倉:あれ見ると、もうそろそろ着くから支度しようって思いますよね。あのマンションに住んでる先生がいて、学校の人気者でした(笑)
最上川さんと朝倉さんの対談、いかがでしたでしょうか?
山形について語るときのお2人の笑顔がとても印象的でした。本当に地元を愛してるのだなあと。なにより、外から見るだけではわからない山形の魅力をたくさん知ることができ、とても楽しかったです。
山形に行った際はお祭りと食を堪能し、ぜひ"カジョセン”を見に行ってみてはいかがでしょうか?
お店情報
肉そば鶏中華最上川
住所:東京都港区新橋1-16-8 第三西欧ビル 1F
電話番号:03-3503-1123
営業時間:[月~金]営業時間:11:00~15:00、17:00~22:00 [土・日・祝]営業時間:11:00~17:00
オフィシャルサイト
撮影:山口真由子
書いた人:青山晃大
1983年三重県生まれ、音楽ライター。2006年からフリーランスで活動。現在は〈ザ・サイン・マガジン・ドットコム〉〈Qetic〉〈CROSSBEAT〉〈Real Sound〉他で執筆しています。