【忘れられない食体験】料理人・三上奈緒さんと訪ねた秋の京丹波は、知られざる食材の宝庫でした

日本全国を旅し、手に入れた地元食材でポップアップレストランを開く、”旅する料理人”こと三上奈緒さん。2019年秋、京都府・京丹波町への旅に着いていってみました!

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2019年、“旅する料理人”と旅したおいしすぎる京丹波町

食材の産地を旅しながら、各地でポップアップレストランを開く”旅する料理人”として活動する三上奈緒さん。そんな彼女の旅について行くことになりました。

 

秋深まる2019年10月下旬、奈緒さんとその仲間たち数人と連れ立って東京から向かったのは、京都府京丹波町。京丹波町は知られざる食材の宝庫で、訪れた時期はちょうど名産の黒枝豆がベストシーズンを迎える頃でした。

 

今回はおいしい記憶がたっぷり詰まった秋の京丹波町への旅を振り返り。奈緒さんはどうして旅をしながら料理をするのか、彼女のストーリーも一緒にお届けします。

 ※この記事は緊急事態宣言以前の2019年10月に取材しました

 

知られざる食材の宝庫・京都府京丹波町

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京丹波町は、京都府のほぼ中央にある丹波高原に位置する町。みんながよく知っている舞妓はんがいる京都市から、車で1時間くらいのところにあります。

 

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昼夜の寒暖差が大きく、粘土質の土壌、きれいな湧水があることから、京丹波町は農業に最適の場所。黒豆、栗、小豆、松茸、鮎などおいしいものの宝庫で、古くから食の供給地として京の都にも重宝されていたそうです。

 

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訪れた時はまさに黒枝豆のシーズン真っ只中。10月上旬から下旬のわずかな期間がおいしさのピークだということで、地元のスーパーでもフィーチャーされていました。

 

まずはその黒枝豆の収穫体験をさせてもらえるということで、さっそく奈緒さんと一緒に畑へ向かいます。

 

たわわに実った黒枝豆。採れたてをさっそく食べてみた

農家の城崎さんと古谷さんの案内で畑に到着。長いハサミを持って枝豆を収穫していきます。

 

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そもそも枝豆とは、完熟前の大豆のこと。黒枝豆は京丹波特産の黒豆を早採りしたもので、通常の枝豆よりも黒っぽい色で粒が大きく、コクがあって濃厚な味わいが特徴です。

 

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葉っぱをかき分けると、パンパンに実った枝豆のさやが! 教えてもらった通りに芯の根元を切ろうとするのですが、これが太くてけっこう硬い。

 

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冬にかけて朝晩の気温差が激しくなると、枝豆は糖分を蓄えながら成長するので、上質な黒豆になるのだそう。さらに朝方にかかる“丹波霧”と呼ばれる濃い霧が田畑を潤してくれるので、京丹波で採れる野菜はおいしいのです。

 

ちなみに枝豆の時は縦長い形なのに、黒豆に熟すと真ん丸の球体になる理由は「人間とおんなじで、豆も時間が経つと丸くなるんや」と農家さん。うまいな。

 

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収穫したばかりの黒枝豆をさっそく調理して食べてみることに。

 

これまで枝豆=茹でるだと思っていたのですが、農家さん的には蒸すのがオススメということで、両方やってみました。

 

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蒸した方はホクホクとしていて味わいが濃く、茹でた方はプリッとした食感でいくつでも食べられる(写真は茹でた方)。採れたてフレッシュな黒枝豆はかなり美味。

 

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奈緒さんはほかにも、細長くて甘みのある「京かんざし」という人参や、九条ネギ、栗を生産する農家さん、イノシシのハンターさんなどなど合計6軒を回って食材を収集。

いよいよディナーの準備に入ります。

 

京丹波フルコースディナー開宴

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今夜のポップアップレストラン会場は、築150年の古民家を改修した「農家民宿 京の出合」。1日1組限定の宿で、宿泊者は今回のように農業体験もできるので、都会の喧騒からエスケープしたい人はぜひチェックしてみてください。

 

 

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今回の厨房は、けっして設備が充実しているとはいえない古民家のキッチン。オーブンすらない中、自ら持参した調理器具と民宿にあるものをフル活用しながら、奈緒さんはテキパキと料理を進めていきます。

 

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真っ赤な万願寺唐辛子は魚焼きグリルでこんがりと。

 

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庭には炭火焼きステーションを用意。お肉や野菜を豪快に焼きます。

  

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厨房の奈緒さんは一品目のスープを仕上げます。いよいよディナーのスタートです!

 

1品目: バターナッツのスープ

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「バターナッツ」というナッツのような甘い風味のするかぼちゃをポタージュスープに。仕上げにオリーブオイルを垂らし、すだちをひと削り。

 

なめらかで優しい甘味。バターナッツのコクと風味がそのまんま味わえるスープでした。最後に削ったすだちの香りが爽やかなアクセントに。

 

2品目: 野菜の盛り合わせ

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京かんざし、九条ネギ、ピンク色が綺麗な「もものすけ」というカブ、「パープルスイートロード」という紫芋、「シルクスイート」というさつま芋、インゲン、玉ねぎ、落花生、オクラなどの野菜に火を入れて、九条ネギと白ワインビネガーと醤油などを使った特製ソースで。上にはフェンネルやミントなどのハーブで飾り付け。

 

野菜の色が美しい...! 野菜によって火の入れ方を変えることで、それぞれの旨味が引き出されていました。炭火焼きした九条ネギは根っこごと食べられることに驚愕。さらにお芋がおいしすぎて悶絶。

 

3品目:京かんざしの葉っぱのかき揚げ

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京かんざしの葉っぱが主役のかき揚げ。ニンニクの効いたマヨネーズ、アイオリソースを添えて。

 

人参(京かんざし)の葉っぱを食べるのは初でしたが、春菊のような華やかな風味がして、濃厚なアイオリソースとの相性が最高でした。隠し味のクミンがさらにいい!

 

4品目:豆のピラフ

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京丹波産のコシヒカリと栗、黒豆、瑞穂大納言小豆、黒枝豆を土鍋で炊き込んでから、万願寺唐辛子と一緒にバターで炒めてピラフ風に。仕上げに大葉とその実を散らして完成。

 

もちっとしたお米と、ホクホクの栗、弾力のある豆の食感のコントラストが楽しいご飯。バターの風味が食材をまろやかにまとめていて、秋を感じる味わいでした。

 

5品目:ジビエの炭火焼きグリル

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地元で捕れたジビエをスパイスでマリネして炭火焼きに。写真上から鹿、イチジクの葉を巻いた鹿、イノシシのロース。付け合せはプリプリの「大黒本しめじ」と「ハタケしめじ」のソテー。

 

完璧な火入れ具合で、臭みもなくジューシー。メキシコのチリを混ぜ込んだチリバターと濃厚なお肉の味がとってもマッチしていました。

 

6品目:イチジクの葉っぱのアイス

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最後のデザートは、またまたイチジクの葉を使ったアイスクリーム。トップには焦げ目をつけて香ばしさを出した、ふわふわメレンゲをのせて。

 

……え、イチジクの葉ってアイスになるの? なるんですね。例えるなら柏餅のような風味でしょうか。さっぱりとしていてコースの締めにぴったりでした。

 

京丹波の農家と東京がつながった夜

奈緒さんの料理を体験してみて思ったのは、とにかく食材へのリスペクトに溢れているということ。

 

ソースも、調理方法も、美しい盛り付けも、すべては食材を輝かせるためにベストなものを選んでいるということが、見た目と味わいからビシビシ伝わってくる。そんな感じなのです。

 

農家さんと話し、畑を見て、肌でその食材の魅力を感じた人でないと、こんな料理は作ることができないだろうなぁと素人ながらに思ったのでした。

  

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個人的にうますぎて感動したさつま芋の生産者、田内さんは「皆さんがおいしいと言ってお芋を食べてくれて、とってもうれしかった」とスピーチ。野菜を作った人に直接「おいしい」と言えるのっていいなぁと思いました。

 

奈緒さんが“旅する料理人”になった理由

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楽しいディナーの翌朝。奈緒さんに、今回の京丹波町の旅の感想を聞いてみました。

 

f:id:exw_mesi:20200223221046p:plain奈緒さん:東京の人たちをここへ連れてくることができてよかったなと思います。今回食べた食材も里山の風景も、地元の人にとっては日常のことだけど、東京の人にとっては特別。

私も含めてですが、こうして外の人がその土地に行くことで、地元の人自身も気づいていない土地の魅力を発掘するきっかけになるんじゃないかと思います。

 

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筆者が印象的だったのは、やはり農家さんと一緒にテーブルを囲み、彼らが育てた野菜を一緒に食べたこと。野菜の種類や育て方、町のいいところなんかも聞くことができて楽しかったし、農家さんもなんだかうれしそうでした。

 

f:id:exw_mesi:20200223221046p:plain奈緒さん:相手の喜ぶ顔を見てうれしくなるって、人間の根本的な原動力だと思うんです。私もそれがあるから料理を頑張ることができる。
でも、農家さんは地に根を張ってお仕事をする人。毎日畑にいるから、自分の育てた野菜がどう料理されて、どんな顔をしてお客さんが食べているのかを見る機会って意外とないんですよね。私のポップアップレストランは、それができる場所でありたいと思っています。

 

“農業”は人間にとって生きるために絶対に必要な職業。けれども農業人口は減り続けており、若手農家が参入して有機農業などの新しいことを始めようとすると、今度はそれが地域に受け入れられなかったり。農業を取り巻く環境はとても過酷です。

 

f:id:exw_mesi:20200223221046p:plain奈緒さん:だから私は、旅する料理人の活動を通して農家さんを応援したいんです。私にできるのは料理だから、料理を通して彼らの存在を世の中にアピールすると同時に、彼ら自身が自分の仕事に誇りを感じられる場を作りたいと思っています。

 

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(写真提供:三上さん) 

 

f:id:exw_mesi:20200223221046p:plain奈緒さん:私は「三上奈緒の料理を食べて!」というのではなく、「◯◯さんが作ったこの野菜がおいしいから食べてみて!」って気持ちで料理を作っていきたい。

地球環境や食にすごく興味があるわけじゃなくても、シンプルにおいしいご飯を食べることで農家さんに還元できる。自分の料理はそのために在れたらいいなと思います。

 

 【今回の旅に協力してくれた京丹波町の皆さん】

農家さん:

城崎正継さん、古谷孝夫さん、田内文弥くん、高橋慎也さん、樅山宣隆さん、杉浦みほさん

コーディネーター:

多田衣里さん(京丹波町ケーブルテレビ職員/地域おこし隊OB)

河田朋子さん(京丹波町地域おこし協力隊)

 

旅ができなくても、旅を届ける料理人

新型コロナウイルスの影響で現在は旅を自粛している奈緒さん。旅する料理人、万事休すか......? そんなわけありません。

 

コロナ渦中の2020年4月、奈緒さんは日本のどこにいても旅の体験ができる、オンラインツアープログラム「おもこりツーリズム!」をスタート。参加者の自宅に届いた食材を、Web会議ツールで食の生産者さんたちと交流しながら料理したり味わったりと、オンラインならではのプロジェクトが大評判。

 

www.okomori-tourism.com

 

さらに、奈緒さんがこれまで出会った農家さんの野菜やお肉などをまとめてデリバリーする「まごころなおちゃん便」も不定期で開催。作り手の顔の見える新鮮食材が手に入るうえ、おすすめの調理法などを書いた奈緒さん手書きの食材リストも素敵です。

 

www.instagram.com

 

彼女が発信する食をつなぐ旅に、あなたも参加してみては?

※この記事は緊急事態宣言以前の2019年10月に取材しました

 

三上奈緒さん・プロフィール

旅する料理人。旅先にて生産者を訪問し、その場で集まった食材で料理をするのがライフワーク。 東京農業大学卒業。栄養士として小学校で勤務後、渡仏し料理の道へ。アヌシー、プロヴァンスのレストランで修行。 帰国後、青山の「ラ・ブランシュ」、米・カリフォルニアの地産地消レストラン「ChezPanisse」を経て、現在は愛媛や五島列島など日本各地にてポップアップレストランを開催。子どもたちへの食教育として、Edible schoolyard japanのchef teacherも行う。

www.naomikami.com

 

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