未来の飲み屋は、カウンターも無人化されてしまうのか
中野の九龍城とも呼ばれるワールド会館を擁する中野新仲見世商店街。
路地裏の一角に、その店は忽然と姿を現した……。
無人のカウンターには大型モニターが設置されており、そこにはCGのキャラクターが……。さらに看板にはキーボードや電話が貼りついていて、漫画のフキダシのようなものも。
「AVASTAND(アバスタンド)」と書いてある。なんだ? このお店は。
さすが中野、ついに飲み屋さえも無人化してしまうのか? などとしばし店の前でボーっとしていたら、カウンター横の扉から現れたダンディな紳士から声をかけられた。
このお店のオーナーの高崎さんだ。
高崎:(注:実際はアバターではなく生身の高崎さんです)こんばんは! ウチはこちらのモニターに映るアバターを介して会話を楽しみつつ飲んでいただけるお店なんです。
──そうなんですね……なんだかこの見た目に圧倒されてつい見入ってしまいました。こちらのキャラクターはAIか何かで会話されるのですか?
高崎:いえAIではなく、こちらはAvaTalkという当社で開発した会話ツールを使い遠隔地にいるスタッフの表情やポーズを読み取ったアバターをモニターに投影しています。声は音声変換せずにそのまま本人の声が流れます。
▲AvaTalk:お互いの表情を読み取ったアバターを介して話をする会話ツール
──画面下にあるカメラとマイクでこちらの様子がスタッフさんに伝わるんですね。
高崎:はい。直接お話していただいた方がわかりやすいと思うので、ちょっと飲んでいきませんか?
──ですよね~。じゃあちょっと一杯いただきます!
メニューはすべて500円(税込)均一。その都度、現金払いでチャージはなし。
とりあえず生ビールをいただきます。
高崎:じゃあまずはウチの一番人気アバ子がいいかな。呼び出すのでちょっとお待ちを。
アバターを介してもあふれ出るキャストの個性
アバ子:はじめましてアバ子です~。
──えっ! だ、男性の声?
アバ子:そう! ギャップがいいでしょ~!
──いきなりだったので驚きました(笑)。アバターは自分で選ぶんですか?
アバ子:アバターは今のところ8種類あってスタッフが自分で選んでますね。こんな感じで年齢性別いろんなタイプがありますよ。
──なんで女性のアバターにしたんですか?
アバ子:ノリでそうしたんだけど結構評判が良くて。最近はリピーターもいるんですよね~。
──お客さんはどんな人が多くてどんな事話してます?
アバ子:お店を始める前は男性客が多いのかと思っていたけど、半数くらいは女性。あとカップルでくる人も多いかな。会話だと、この辺で美味しいお店教えてくださいっていうのが一番多いね。ちょっとアバターの下のスペースを見てみて。
するとアバターの下に最寄りのトイレまでの地図が表示される。
アバ子:こんな感じで画像や検索したお店なんかを表示できるので、一緒にお店探ししたり。
──なるほど、確かにこれは便利だし話も弾むな~。
アバ子:これは使った事ないけどタチの悪い客にお帰りいただく時用にこんな画像も用意してあるんだ~。
──ウケる!(笑)
アバ子:あとはジョージさんていうタロット占いができる人がいるので、運勢占ってもらう事もできるよ。ちょうど今いるから占ってもらったら?
──いいですね! お願いします。
アバ子:じゃあ交代するね~。
すると、画面が切り替わって別のアバター画像が現れました。
タロット占いの得意なジョージさん
ジョージ:ジョージです。はじめまして!
──こんにちは、BLObPUS(ブロッパス)です。よろしくお願いします!
ジョージ:変わったお名前ね? お仕事は何をされてるの?
▲挨拶がわりに自分を模したフィギュアを見せる
──これは「ヤモマーク」さんていうソフビメーカーさんが僕をモデルに作ってくれたファギュアなんですけど、僕もこんな感じの怪獣ファギュアとか作ったりしてます。最近は今日みたいに気になるお店を見つけて取材したり、なんだかいろいろやってます。
ジョージ:うわー! ご本人にそっくりの人形(笑)。なんだか中野っぽい人ね~。
──ははは。占いですけど、皆さんどんな事を占ってもらうんですか?
ジョージ:恋愛の相性とか……あとは引越しの場所に関しても多いかな。BLObPUSさんは何を占って欲しい?
──う~ん。どうしよう。最近同世代の知り合いで、東京を離れて地方に拠点を移す人が結構いるんですけど、もし自分が移るとしたらどの辺がいいか占ってもらおうかな。
ジョージ:移住先ね。すこし漠然としているので候補地とかあるかしら?
──そうですね。なんとなく気候が過ごしやすそうなイメージがあるので静岡とか。魚が好きなので沼津の近くがいいかな。あとは苺と餃子があるからってわけでもないけど、栃木あたりも占ってもらえますか。
ジョージ:どれどれ…まずは静岡から。仕事的には…。比較的早めに移ったほうが安定しそう。恋愛については停滞(笑)。
──ほう! まぁ恋愛はどうでもいいや。
ジョージ:次は栃木……。悪くはないみたいだけど数年で退屈して、また他に移りたくなりそう。占い的には静岡の方が安定した結果が出てるわね。
──静岡の方が良さそうですね~。沼津は深海魚水族館もあるし!
ジョージ:あくまでも占いだから参考までにね!
高崎:今日はもう一人女性スタッフがいるので、彼女ともお話してみてください。
するとまた画面が切り替わって、今度はちょっと色っぽい女性のアバターが。
セクシーなフジコさんも登場
フジコ:フジコです。よろしくお願いします。
──素敵な声ですね。声優さんみたい!
高崎:ですよね。とても色っぽい声をされているので、峰不二子っぽいなと思いフジコさんと名乗っていただいてます。
フジコ:ウフフ……。ありがとうございます。BLObPUSさんも素敵よ♡
──冗談でも照れるなぁ……。
フジコさんはとても落ち着いていて素敵な声の持ち主。試しにラジオの交通情報とか読み上げて欲しい♡
ドキドキして喉が渇いたところでビールをもう一杯。
▲ビール 500円(税込)
──これ、スタッフにもドリンクのご馳走ができたりするんですか?
フジコ:それはやってないんですよ~。他のお客様からも要望があったので、検討中みたいです。
──たしかに。一緒に飲めた方が話が弾みそう。だいたいお客さんはどのくらいの時間滞在しているもんなんでしょう?
高崎:もともとこのお店は、「人はアバターとどの程度長時間お話ができるんだろうか?」という疑問を確認したいと思ってオープンしたんです。だいたい平均30~40分くらいは滞在していらっしゃいますね。
フジコ:長いと2時間くらいお話した女性もいらっしゃったとか。
高崎:このお店ではアバターはスタッフだけですが、将来的にはお互いにアバターになって会話するアプリの開発を完成させる予定です。コミュニケーションのツールとしてだけでなく、医療や介護の分野でも活用できるようなものにしたいと思っています。
──確かに双方アバターを介して会話すると、プライベートで知り合いには相談しにくいことも話せたりしそうですね。
高崎:その時は個人情報など利用のガイドラインをしっかりしないといけませんが。実際の接客でアプリの完成度を高めていきたいです。
──お店に関しては、なにか今後のアイデアなどは考えていますか?
高崎:そうですね。遠隔地にいてもここにいるかのようにお話できる利点を活かして、地方の名産品などを飲食していただきながら、生産者のアバターとコミュニケーションしていただくようなイベントをやってみたいです。
──いいですね~! それは楽しみです。
高崎:ほかにもフードは隣のラーメン屋さんから出前を取ってこのカウンターで食べてもらったりしているので、近隣のお店とも何か連携してやってみたいですね。アバター下の表示スペースにお店の情報なども掲載できますので、ご興味があったら気軽にご相談いただければ。
──ここで出前とって食べるのもいいですね。後輩の店が出前してるんで、長めに滞在するときに持ってきてもらおうっと。
高崎:あっ! そういえばフジコさん今日はシフト早上がりでしたね。
フジコ:はい。そろそろ。
──残念だな。次回はもう少しお話しましょう! お疲れさまです。
フジコ:ありがとうございます。それじゃまたねBLObPUSさん。
う~ん。やっぱり素敵な声だなぁフジコさん。
こんどまたゆっくりお話をしに来ようかな!
最初は怪しげなお店かと思ったけど、医療や介護など人々の生活を支える技術を探求する会社が運営している、いたって真面目なお店でした。
楽しく会話をすることでアプリの開発にも貢献できるとのことなので、みなさんも気軽に訪れてみては?
お店情報
AVASTAND(アバスタンド)
住所:東京都中野区中野5丁目55番12号
電話番号:なし
営業時間:水曜日〜金曜日18:00〜23:00 土曜日15:00〜23:00
定休日:日曜日、月曜日、火曜日、さらに雨の日とバグった日もお休みです!
書いた人:BLObPUS
オリジナルキャラクターの怪獣フィギュア「BLObPUS(ブロッパス)」をリリースしたのをきっかけに活動開始。国内外のフィギュアイベントに参加しつつ中央線沿線を飲み歩く怪獣おじさん。蓄光素体にメタリックカラーを基調とした独特の色使いで彩色にも定評がある。