「一人飲み」の愉悦
若い頃、筆者は会社の仲間や友人の集まりでもなければ、わざわざお店に出向いてお酒を飲むようなことはしないタイプでした。
けれど年齢を重ねて、気がつけば一人飲みもけっこう楽しめるようになっていました。
大人数でワイワイ飲むのももちろん楽しいのですが、一人飲みにはそれとはまた違った喜びがあるのです。
いいトシの大人になったいま、一人飲みがなぜ楽しいのか、あらためて考えてみたくなりました。そこで、その理由を整理してみたいと思います。
理由1:気の向くままに好きなものを好きなペースで飲むことができる
仕事仲間や友人はもちろん、家族や恋人といえどもメニューを選ぶ時に相手が苦手な食べ物だからとか忖度(そんたく)していませんか?
一人なら好きなものを頼んでも、好きなペースで飲んでも誰にも文句は言われません。そもそも一人ですから他人とスケジュール調整する必要もありません! まさに自由に飲めるのです。
理由2:店主やスタッフとの会話を楽しめる
開店直後の時間帯などは比較的混んでいないことが多いので、自然とお店の人と言葉を交わしやすかったりします。筆者は初めて行った街ではその土地の情報を聞いて、2軒目以降のお店選びや観光の参考にしています。
理由3:店内の「誰かの会話」も酒の肴にできる
「一人で飲みに来るんだから他人をシャットアウトしたいんじゃないの?」
それはそうです。そもそも誰ともしがらみなく飲みたいわけですから。
ですが一人で飲んでいると、どうしても聞こえてきてしまうんですよ、他人の会話が。大概の人は、酔うと声が大きくなりがちですよね。当然、さまざまな会話が聞こえてしまいます。
「あそこの寿司屋が引退するのでお店を取り壊してマンションにするらしい」とか「休日のキャバ嬢3人組があけっぴろげに話す、ヤバい常連客の話」「学校の先生らしき若い人の恋愛話」などなど。
普段聞けないような話がなんとなく耳に入ってきてしまうんです。
盗み聞きみたいであまり品が良いものではないですが、物書きや漫画家さんだったらこの話から1本書けるんじゃないかと思うような話にもたまに出くわします。
逆に酒場で大声を出して話す人は気をつけた方がいいですよ! 意外と周囲に聞こえているものです。
理由4:カウンターに座っていると、知らないお客さんと交流ができる
一人客はだいたいカウンターに案内されます。カウンター席は隣のお客さんも一人で来店している確率が高いので、キッカケさえあれば会話に発展しやすいです。
隣の人が注文したメニューの感想から会話が始まったり、店主と隣のお客さんが自分の好きな映画の話をしているのに加わったり。
自分も何度かお店で顔を合わせるうちに、なんとなく友人になったケースもあります。
一人飲みは大人の嗜(たしな)み。気をつけておきたいこと
注意点1:他のお客さんとの距離感に気をつける
お店での会話が縁で友人になることもありますが、もともと自由に飲むための一人飲み。
他のお客さんとの距離感には注意しましょう。
自分が敬遠しているのは、なにかとマウントをとってきて偉ぶってくる奴、やたら住所など個人情報を細かく聞き出そうとする奴、おごってほしい感全開な奴……など、普通にヤバいタイプですが、話をしてみて「あまり合いそうにないな」と思ったら無理に話さないのが一番です。
そもそもお互いに赤の他人なのですから。
ちょいちょい一緒に飲む友人くらいまでの関係になれるのは、ほんの少し。
大概は「またお会いしましたね」と軽く世間話をするくらいの関係がちょうどいいのです。
どんなところにも合わない人間というのはいますから、そんな時はサッサと切り上げて帰るのが一番。また後日飲み直しましょう。
注意点2:酔い過ぎて前後不覚になるのは厳禁
一人飲みですから前後不覚になるまで飲むなんて言語道断。
そうならないために、あえて立ち飲みを選択するのもオススメです。なにしろ、ずっと立っているのも脚が疲れますから、当然、短時間でサクッと切り上げることになります。飲み過ぎ防止のために、あえて立ち飲み屋を選択するのはアリでしょう。
当たり前ですが、酔い過ぎて他のお客さんやお店に迷惑をかけるのは禁物。自己管理に気をつけて楽しく飲みましょう。
中野の酒飲みの間でひそかに評判の「立ち食い天ぷら屋」
さてさて、そんなわけで「立ち飲みで、かつ一人飲みには最適」と個人的に思っているお店をご紹介したいと思います。
今回訪れたのは、東京・中野北口昭和新道商店街にある立ち飲みのできる天ぷら屋「小出屋 天太」。
カウンターの前にある大きめの天ぷら鍋で、注文を受けてから丁寧に天ぷらを揚げてくれます。目の前で揚げるので、パチパチッと弾く天ぷらを揚げる音は迫力満点。この音を聞いているだけで食欲がそそられますね。
まずは一杯目! 「梅干し✖️レモン」で疲れを癒やす
▲こだわり酒場の梅干レモンサワー(500円)+お通し(300円 ※内容は日替わり)
さてさて、仕事後の疲れた体には酸っぱいものが合いそうです。というわけで、こちらを注文。梅干しとレモンをダブルで味わえるので、その酸味でなかなかシャキッとします!
二杯目以降はグラスに残った梅干しを活用して、追加の「レモンサワー(380円)」を注いでもらえば、よりお得に酔えます。まずは渇いた喉を潤しましょう!
個人的に推したいオススメ天ぷら5種
さて主役の天ぷらを揚げてもらいましょうか。個人的に推したい天ぷらネタ5種を注文することにします。目の前で店長さんが手際よく揚げていきます。
いよいよ天ぷらが完成! 揚げたての天ぷらならではのパチパチとした音が衣の表面で踊っています。
▲大海老天(380円)
王者はやはりプリプリの大きな海老! 噛み締めると海老の甘みがジュワーと広がり、揚げたてのクリスピーな衣と相まって最高です。このお店に来た以上は確実に注文したい逸品。
▲イカ天(220円)
コリコリ、モチッとしたイカの食感がたまらない! イカそのものは淡泊な味わいのはずなのに、天ぷらとして揚げる工程を経ることで味が濃厚になる気がします。
▲キス天(220円)
外はサクサク、中はフワフワ、とろけるような舌触りが格別なキス天です。衣を軽めに揚げているためか、何枚でも食べられそうな仕上がり。病みつきになりそうです。
▲舞茸天(150円)
こりゃデカい舞茸! ザクザクとしたと豪快な歯触りと、キノコ系ならではの芳醇(ほうじゅん)な香りが見事にマッチします。炭酸系のお酒ならすべてマリアージュするでしょう。
▲れんこん天(100円)
ザクザク、シャキシャキとした歯触りが心地よいれんこん天。ただクリスピーなだけでなく、噛み締めるたびにれんこんのじんわりとした滋味が口いっぱいに広がります。うん、うまい。
だしと天ぷらの無限ループ
天ぷらを食べ始めつつ壁に貼り出されたメニューを眺めていたら、気になる一杯を発見! このお店、天ぷら以外におでんも絶品なのですが、そのおでんのだしで日本酒を割った「だし割り」というオリジナル酒が楽しめるのです。
夏場などは氷を入れて冷たくして提供しているということなので、三杯目はこれに決定。
▲だし割り(680円)
結果、大正解! 天ぷらとだし割りという、間違いなくお互いに好影響を与えそうな組み合わせ。これと天ぷらを交互にやっていると、食も酒もぐいぐい進みました。
「一人飲みは、飲み方がわかっている人じゃないとダメ」
少しおなかが落ち着いたところで店長さんに話しかけてみました。
──こういう立ち飲みスタイルのお店だと、一人飲みのお客さんも多いと思うのですが、どんなタイプの方が多いのでしょうか?
店長:ウチは営業時間が長いので時間帯によって客層が変わりますね。早い時間は会社員ぽい人が多いし、深夜は飲食店で働く人が仕事帰りに寄ってくれる感じかな。
──いろいろなタイプの方がいらっしゃるんですね。何か接客などで気をつけていらっしゃることはありますか?
店長:これは一人のお客さんに限らないのですが、最低限のルールが守れない方は、来店をご遠慮いただいていますね。騒いだり、他のお客さんに変なウザ絡みをしたり……。誰かの迷惑になるような飲み方をする人はダメですよね。
──私はここで初対面のおじさんと話が盛り上がって、すごく仲良くなったことがあるんですが……。
店長:ルールを守って、お客さん同士楽しく飲んでくれるのは全然OKですよ。狭いお店なので、お互いに気を使って気持ちよく飲んでほしいですね。
そんな話をしていたところ、隣で飲んでいた30代くらいの男性が……。
隣客:自分、普段は営業やってるんですけど、こういうところで他のお客さんと話をすることでけっこう鍛えられました。いろいろな業界の方や、さまざまなタイプの方がいらっしゃるので、仕事の時にもちょっとした会話だとか、お客さんとの間の取り方なんかにもそれは役に立ってます。「百人組手」みたいな感じですかね(笑)。
なるほど、そんな使い方もあるのか……。筆者はあまり気を使い過ぎて楽しめないのは嫌なので、気が合わなそうだと感じるお客さんとは適度に距離を取るかな。
いずれにしてもこのお店、一軒目にサッと立ち寄るのも良し。深夜まで営業しているので、はしご酒のシメにも使えます。
みなさんもぜひ立ち食い天ぷら「小出屋 天太」でアツアツの天ぷらを酒の友に一杯やってみませんか?
お店情報
小出屋 天太
住所:東京都中野区中野5-49-5
電話番号:非公開
営業時間:18:00〜翌4:30(L.O.4:00)
定休日:日曜日
書いた人:BLObPUS
オリジナルキャラクターの怪獣フィギュア「BLObPUS(ブロッパス)」をリリースしたのをきっかけに活動開始。国内外のフィギュアイベントに参加しつつ中央線沿線を飲み歩く怪獣おじさん。蓄光素体にメタリックカラーを基調とした独特の色使いで彩色にも定評がある。