ホントは秘密にしておきたい「倉庫中華」で脂っこい中国料理のイメージが完全に覆された【ディープな大阪】

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関西の友人に「ヤバそうなお店がありましたよ!」と教えてもらったのが、大阪市東住吉区にある「邯鄲小吃館」というお店だった。

「はんだんしょうちゅかん」と読む。そのお店は、古いビルの一階の倉庫内で営業していて、看板も出ておらず、知る人ぞ知る、でも知っている人に言わせるとそこでしか味わえない料理が食べられるすごいお店なのだという。

 

変わったシチュエーションの飲食店が大好きな私は、すぐさま「行きましょう!」と返事をしたのだが、予約ができたりするものなのか、それ以前に、どういう時間帯に営業しているものなのか、まったくわからない。

検索してみると店内の様子を伝えるブログなども出てはくるのだが、詳細な情報はつかめず。なんとかいろいろな手段で接触を試みた結果、幸運なことに取材を受けてもらうことができた。

今回は、“倉庫の中”という不思議な場で営業するお店の魅力や、なぜこんな場所で営業することになったのかという経緯について店主のお話を聞きつつ、楽しく食べて飲んできた模様をレポートさせていただきます!

 

飲食店には到底見えない

某日、地下鉄谷町線・駒川中野駅から歩いて10分ほどの距離にある「邯鄲小吃館」にたどり着いた。

「たどり着いた」とサラッと書いたが、取材に同行してくれた参加者が先にその周辺に着いたものの「場所がわかりません!」「あ、ここかな? ここだ!」というような連絡がくるほどその場所は難解。私自身、一度は目の前を通り過ぎ、ちょうど参加者に遭遇したおかげで場所が分かったほどである。

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このように、およそ飲食店らしい目印はない。

 

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看板も出ておらず、この倉庫をもともと使っていたと思われる会社の名前が見てとれるのみ。

 

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ちなみにこれは今回の取材に同行してくれた友人が昼間に撮影してくれたもの。

この中でおいしい中華料理が食べられるなんて誰が想像できようか。

 

本当に倉庫だった

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とにかく、ここであることは間違いないようなのでおそるおそる重たい引き戸を開けてみる。

 

すると……

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ジャーン。

 

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左手には掘りごたつ式に作られた小上がり席、右手にテーブル席がある。

 

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空間としてはもう完全に倉庫である。

 

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そして、入ってすぐ右手には厨房、というか調理スペースがあり(写真はお店の奥側から撮影)、

 

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ホワイトボードに料理メニューが並んでいる。

 

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よく見ると客席のテーブルも倉庫によくあるパレットを再利用したものだし、

 

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もともとが倉庫なので、調理設備も簡易なもの。調理スペースに置かれているのはカセットコンロである。

 

中国で本場の家庭料理に開眼

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店内のどこを見ても驚くことばかりだが、まあ、まずは生ビールで落ち着こう。

 

店主は、井口博史さん。

井口さんの肩書きは「出張料理人」だ。ホテルや飲食店から個人宅まで、条件が合えばどこにでも出張して料理を振る舞うという。カセットコンロと最低限必要な調理器具さえあればどんな場所でも料理を作ることができる。だから、このような倉庫そのままの場所でも営業できるんだとか。

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▲こちらがこのお店のマスターである井口博史さん

 

「涼菜」メニューの中から4品をオーダーし、目の前で作っていただきつつお話しを聞いた。

井口さんは飲食業を始めて40年ほどになるという。もともとは大阪の、いわゆる“町中華”のような、日本的な中華料理を出すお店で働いていた。

 

しかし、そのお店がバブルのあおりをうけて閉店。そんなある日、子どもの頃から胸に抱いていた “歌手になる”という夢をかなえるチャンスがふいに訪れた。中国から日本へ音楽を学ぶために留学していた学生と仲良くなり、思い切って「中国で歌を歌いたい」と提案してみたところ、「ぜひ来るといい」と快諾された。

 

当時20代半ばだった井口さんは即座に中国に渡ることを決意。それから3年間、ホテルのバーなどで歌を歌って暮らす日々を送る。その際に住んだのが店名にもなっている「邯鄲市」。北京から南に450キロの場所に位置する河北省の町である。

 

そこで出合った中国の家庭料理に衝撃を受けた。日本で自分が作っていたチャーハンや酢豚といったものとは違い、脂っこくなく、毎日でも食べられる料理がたくさんある。高級料理ではなく、日本でいう大衆食堂や屋台のようなお店で提供されている安価な庶民の味。

3年間の歌手生活に終止符を打って日本に戻ったとき、自分が親しんだ中国の家庭料理を出すお店をやりたいと思い、再び飲食業の道へ。すでに料理人としての経験もあったおかげで、中国で食べたさまざまな料理の作り方も頭の中にきっちりしまってあった。

 

そうして始めたのがこの「邯鄲小吃館」というお店なのだ。「小吃館」とは、一品料理、軽食を出すお店という意味の中国語だ。

 

シンプルだが鮮烈な味わい

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そんなお話を聞かせてくれつつも井口さんは手際よく料理を作っていく。

 

それではここで「涼菜」メニューをいくつか紹介していこう。

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▲ゆばとセロリ(400円)

 

シャキシャキして香ばしい味わいのセロリと湯葉の柔らかな食感が味わえる、まさにこれぞ“おつまみ”な一品。味付けはごま油と塩だけだという。

 

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▲黒鯛(800円)

 

チヌとも呼ばれる黒鯛の新鮮なものを仕入れ、キュウリとネギを加えて砂糖と醤油とごま油で和えたもの。唐辛子が効いていてピリッとくる。

 

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▲豚の心臓(600円)

 

豚ハツと白ネギ、黒酢と塩と砂糖とごま油を混ぜ合わせたらできあがり。

 

と、上記の通り、どの料理も作り方はとてもシンプル。味付けを惜しげもなく教えてくれる井口さんは、「誰でもできる料理ばっかりでしょ?」と笑う。

確かに、素材と調味料さえそろえば自宅でもマネできそうである。しかしこれがもちろん、こんな顔になるほどうまいのだ。

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中華の最新形を求めて人が集まる

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次に井口さんがサッサッとボールの中で何やら混ぜ合わせて作ってくれていたのが、

 

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▲イタリアン黒キャベツ(400円)

 

カーボロネロと呼ばれるイタリア野菜と紫たまねぎのスライスにオリーブオイルを絡め、塩、コショウで味付けしたもの。

 

カーボロネロの、パリッとした歯応えの後に広がる少しほろ苦い味わいが絶妙。これはまたビールが進む。

というか……イタリア野菜だし、オリーブオイルを使ってるし、ここまで食べたものすべてがいわゆる中華料理のイメージと全然違う!

 

井口さん:おっちゃんが作る中華料理っていう感じじゃないでしょ(笑)。地域によっても違いますけど、今は中国の人もそんなに油コテコテの料理、食べないですよ。みんな健康志向だし、女性もダイエットを意識しているし。油っこい料理はまず、女性が箸をつけないです。今も毎年中国に行っているんですけど、新しい料理がどんどん出てきてますね。それを食べては取り入れて自分で作ってみるんです。ここで出しているのもそういう料理です。

 

さきほど紹介した豚ハツや黒鯛を始め、食材の一つ一つには下処理がしてあるものの、この場では火を使わずに作れる料理ばかり。調理工程をシンプルにしてあるからこそ、この倉庫や出張先など、本格的な調理設備がない場所でも作ることができるというわけだ。

 

井口さん:たまにこの場所を20~30人で貸し切るお客さんもいるんですけど、それぐらいの人数でも全然大丈夫です。これで十分。カセットコンロって結構ガス代かかるんやけどね(笑)。

 

この倉庫内で営業を始めてから1年ほどになるそうで、これまでも大阪市内のマンションの一室など、厨房設備のない場所でお店をやってきた。どこも今と同じように看板のないお店だったという。

 

井口さん:ご常連さんがお客さんを連れてきてくれて、連れて来られた方が面白がってまた友達を連れてきてくれたりね。そんなふうに広がってお客さんが来てくれるんで、場所はどこでもできるんですよ。みなさん、看板がなくても探して来てくれます。だから、どこでもできる。

 

料理やシチュエーションはもとより、井口さんご本人のオンリーワンな魅力が自然と人を引きつけるのだろう。

 

井口さん:この倉庫でもいつまでやるかはわからないです(笑)。私はあまりお店を大きくしたいとか、増やしたいとか、そういうタイプじゃないんです。気軽に楽しくやりたいですね。「なんでこんなんするんですか」って言われたりもしますけど、ファッションやヘアスタイルも一人ずつ違いますやん。それと同じですわ。料理人にもいろいろなスタイルの人がいていいと思うんです。

 

究極の鳥だしスープ

そろそろ温かい料理を、とお願いしたのが「鳥肉ダンゴ(一人前 800円 ※写真は4人前)」。

こちらもカセットコンロで手際よく調理し、テーブルの上に運ばれてくる。

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見ての通り、鳥ダンゴがゴロゴロ入っております。ダシなどは使わずに水から作っているそうで、スープの味は鳥ダンゴから染み出るうま味に塩を加えただけだという。

なのに本当においしい……。スープがおいしいとなれば、このうま味の源泉である鳥ダンゴは当然ながらなおさらにおいしい。肉のうま味がギュッと結晶化されたような。ショウガが効いていて後味は香ばしい。

 

同行してくれた友人たちと「ああ……本当にうまい。これは究極の鍋かもしれない」とぼう然としているところに次なる一品が登場。

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▲スルメイカクミン炒め(800円)

プリッとした食感のスルメイカがクミンのスパイス感と玉ねぎの甘みを身にまとって最強のおつまみへと進化した一皿。こちらも味付けは塩と一味とクミンのみ。

 

定番料理もひと味違う

料理もさることながら、どうしても独特なスタイルの厨房に目がいってしまう。

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こんな風に調理用テーブルの上に保存容器に入った調味料が並んでおり、それをパッパッと加え、こともなげに次々とおいしい料理を作っていく井口さん、かっこよすぎる。

 

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そんな調理の様子を間近でじっと見ていて、ふと「お邪魔じゃないですか?」と心配になって聞いてみたが、「全然大丈夫です。ご常連さんもみんな、見るのが楽しいって言いますね。私もこうやって目の前でお客さんとしゃべりながらやるのが大好きなんですわ。厨房の奥でジッと料理してるだけって、私にとってはあんまり楽しくないんです」とのこと。

 

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そうこうしているうちに「はい、できあがり!」と次なる一皿を手渡された。

 

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「麻辣豆腐(600円)」である。

 

豆腐とキクラゲ、たっぷりの唐辛子が入った一品。見た目の通り、辛くはあるのだが、「激辛!」という感じではなく、じんわりと効いてくる辛みである。よくイメージするどろっとした「麻婆豆腐」とは違い、サラッとしているのが特徴。

 

井口さんは、定番料理をそのままに作るのが好きではないそうで、例えば中華料理の定番「エビチリ」も、このお店ではエビの代わりにアボカドを使った「アボチリ」にアレンジして出しているという。「自分が作っていて楽しい料理を出したいんです」という。そんな井口さんの話を、みんなで聞きながら飲み食いするのもまた楽しい。

 

羊肉の水餃子に舌鼓!

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「邯鄲小吃館」には米や麺類など、いわゆる締めの一品的なメニューはない。

 

そのかわりに常連さんが必ずといっていいほど注文するというのが「水餃子(5個 400円)」だ。もちろん私もオーダーさせてもらう。すると、おもむろにまな板の上に粉をひく井口さん。

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水餃子はオーダーを受けて皮から作るのだという。ここからは水餃子が見事な手際で作られていく模様を画像のみでご覧いただきたい。

 

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こうしてできあがった水餃子は、黒酢でいただくのがおすすめの食べ方。

 

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厚めの皮のモチモチ食感の下からはあんに使われている羊肉の濃厚な味わいがドーンと現れる。羊肉ならではの風味だが、決してクセは強すぎず、つるんと喉に下りていく。

 

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ここに紹興酒をあわせればもう完璧。

 

リーズナブルさも魅力

井口さんは言う。

「ここ数年では中国の人も昔は食べなかった生魚を食べるようになったり、食文化というのも常に変わっていってるんです。昔ながらのイメージの中華料理もそれはそれでもちろんいいですけど、こういう中華料理もあるっていうことを知ってもらえたらなとは思いますね」

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まさにそんな井口さんの言葉通り、自分の中の中華料理のイメージが刷新された一夜だった。一品一品、運ばれてくるたびに「ワァッ」と歓声が上がるような驚きがある。

しかもどのメニューもリーズナブル。ビールからチューハイ、そして紹興酒から焼酎へと渡り歩きながらワイワイお酒を飲んだがお会計は一人3,000円弱。大満足である。

 

ホワイトボードにはまだまだ気になるメニューがたくさんあった。片っ端から確かめるためにまた倉庫のドアを開けにいこうと思う。

 

お店情報

邯鄲小吃館(ハンダンショウチュカン)

住所:大阪大阪市東住吉区中野1-15
電話番号:Facebookを参照のこと
営業時間:平日17:00~23:00ごろ(お客さんが帰るまで)、土曜日・日曜日15:00~23:00ごろ ※営業時間はその日によって変更あり
営業日:不定休
Facebook:https://www.facebook.com/HanDanXiaoChiGuan/

 

書いた人:スズキナオ

スズキナオ

1979年生まれ、東京育ち大阪在住のフリーライター。安い居酒屋とラーメンが大好きです。exciteやサイゾーなどのWEBサイトや週刊誌でB級グルメや街歩きのコラムを書いています。人力テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーでもあり、大阪中津にあるミニコミショップ「シカク」の店番もしており、パリッコさんとの酒ユニット「酒の穴」のメンバーでもあります。色々もがいています。

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