元五輪スノーボーダーがなぜかカフェオーナーに──。成田童夢よ、どこへ行く?

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妹・今井メロさんとともに脚光を浴びたトリノ五輪から12年。アニヲタキャラのサブカルタレントとして活躍してきたあの成田童夢さんが、このたび東京浅草でカフェをオープンさせたという。

なぜ“主戦場”にしてきたアキバではなく浅草なのか、はたまた、いったいなんでまたカフェなのか。それらの真相をうかがうべく、なにをしている人なのかがイマイチ謎なご本人を直撃した──。

 

話す人:成田童夢(なりた どうむ)さん

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1985年9月22日、大阪府生まれ。幼少期からさまざまなスポーツに親しみ、9歳から本格的にスノーボードに挑戦。16歳だった01年にナショナルチームの強化指定選手入りを果たし、翌年、全日本選手権、ワールドカップで初優勝。06年にはトリノ五輪代表の座も勝ち取った。その後は紆余曲折を経て、タレントに転向。正式に現役引退を表明した11年には、JIBA(日本痛板協会)の名誉会長にも就任するなど、趣味のアニメとスノボをリンクさせたニッチでコアな活動でも世間をにぎわせた。現在は11月にオープンさせた「和馬’s カフェ」の事業拡大にまい進中。

 

場所は辺鄙だが味は本格派

f:id:Meshi2_IB:20181203185205p:plain成田:最初は物件探しも秋葉原で始めたんですけどね。でも、しっかりした大きめのキッチンを備えた手頃な物件はやっぱりあの街ではなかなかなくて……。方々探してたどり着いたのが、浅草上野にも近いこの場所だったんです。2020年の東京五輪の外国人客増加を見越して? そこを狙うつもりだったら、最寄り駅からも微妙に遠いこんな場所にはしませんよ(笑)。

 

いつもながらの人懐っこい笑顔で僕らを出迎えてくれた成田さんは「銀座線・稲荷町駅徒歩10分」という、いささか不便な立地の理由をそんなふうに説明した。浅草エリアでもかなりはずれにあたる場所で、繁華街でもないので人通りは正直多いとは言えない。

 

f:id:Meshi2_IB:20181203185205p:plain成田:表向きはカフェなんですけど、実は近々始めるお弁当のケータリングと宅配の3本柱でやっていきたいと思ってまして。なんで、ある程度の注文を一気にさばけるキッチンっていうのが絶対条件でもあったんです。夜はこのとおり、人通りも少ないから「あれ?」と思われたかもしれないですけど、近所にはオフィスもけっこうあるので、ランチタイムはそれなりに。このあたりは飲食店自体が少ないから、ご高齢の方々のお茶飲みスペースとしても喜んでもらってる感じです。

 

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▲店内はいたってシンプル。壁には謎の人物「和馬」氏の額装が

 

それにしても、店名ともなっている「和馬」とは誰なのか。「成田童夢の店」であり、「和馬's Cafe」でもあるとは、なかなかどうしてややこしい。

 

f:id:Meshi2_IB:20181203185205p:plain成田:和馬さんは、いまは「旅する詩人」として経歴や素姓のいっさいを伏せて活動されているアーティストさんで、昔から僕のことを応援してくださっている方のひとりです。あまり詳しくは言えないんですけど、もともと飲食業界ではかなり名の知れた経営者だった方でもあるので、ひと言で言うと、僕のほうがそこでのノウハウをお借りしてる格好。そういう経緯もあって、内装こそ簡素ですけど、お出ししている料理に関しては、かなりこだわって作ってます。看板メニューのピザなんかもオーダーを受けてから生地からのばして焼きあげてますからね。

 

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▲新メニューだという「阿波尾鶏のテリヤキチキンポテトピザ」(2,680円)

 

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▲こちらも新メニューの「めんこいめんたいピザ」(2,680円)

 

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▲同じく新メニューの「まよまよコーンピザ」(2,180円)

 

たしかに、この日出してもらった3種のピザはどれも、シンプルな店構えとはかなりギャップのある(失礼!)もちもちトロトロの本格派。

定番のカフェ飯やガッツリ系の定食から、高級地鶏を使った親子丼、A5ランクの稀少部位を使ったステーキまでをも取りそろえる豊富なメニューからは「タダ者ではない」感がプンプン漂ってくるほどだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20181203185205p:plain成田:いまの僕があるのは、和馬さんをはじめ、いろんな方々が応援してくださったおかげ。だからこそ、これからはこのお店を拠点にして僕自身が若い人たちを応援していく側になりたいな、と。お店の一角には配信ブースも作ってあるので、将来的にはこのお店からいろんな発信もしていけたらと思ってます。一応、10000人以上のフォロワーをもつインフルエンサーを対象に、生配信と引き替えで「月に3回までピザ1枚無料」とかの優遇サービスもやっていく予定なんですよ。

 

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迷い悩んだ“暗黒期”を経験して

ところで、語感的にもなんとなく収まりのいい「サブカルタレント」に落ち着くまでには、ラッパーや地下アイドルのプロデュース、声優にヲタ芸師などなど、どこか迷走している感が否めなかった成田さんだけに、やはり気になるのが「五輪後、どこへ向おうとしていたのか」という部分。

肩書きだけがどんどん増えていく状況のなか、ご本人はいかに考え、動いていたのか。

 

f:id:Meshi2_IB:20181203185205p:plain成田:五輪のあとは、自分で「暗黒期」って呼んでる時期が4〜5年続いて、その頃は知り合いが経営している居酒屋さんで普通にバイトとかもしてました。でも、どこに行っても「あの成田童夢?」って顔を指されてしまって、それに嫌気がさしちゃって……。いまみたいに「いろんなことを幅広くやっていけばいい」って開きなおれるまでには、けっこう時間がかかりましたね。

 

「オリンピックは声優になるための手段」を公言するアニヲタキャラの兄貴と、ガンガンズンズングイグイの謎ラップで滑走するまえに盛大にスベった妹という、クセの強すぎる“初登場”を鮮明に覚えている我々からすると、成田童夢という男にはそもそも怖いものなどないようにも思えるが……。

 

f:id:Meshi2_IB:20181203185205p:plain成田:成田家のなかでは、たぶん僕がいちばんメンタルは弱いんじゃないですかね(笑)。やっぱり強いのは弟の緑夢。その次に親父の順。メロなんかも世間的には打たれ強いと思われてるかもしれないですけど、僕よりは……ってレベルで、そこまで強くはないんです。ちなみに、例のラップに関しては「あれはラップじゃない」と兄貴としてダメ出しもしましたけどね(笑)。

 

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▲ラッパー“MC106”として活動していた頃(YouTubeより)

 

本人の言う“暗黒期”を脱した直後には、自らも「きどいち!」なるユニットのラッパー“MC106(ドーム)”として活動していた過去もある。

その当時は「本気で天下を取ろうと思っていた」というほど真剣に打ち込んでいたというから、何事もとことん極めなくては気が済まないアスリート気質はもはや性分と言ってもいいだろう。

 

f:id:Meshi2_IB:20181203185205p:plain成田:ただそれが相方との温度差を生む原因にもなっちゃって。ずっとそういう気持ちでスノボにも打ち込んできたから、僕のなかでは「やる以上はてっぺんを目指す」っていうのはわりと普通の思考なんですけど、人によっては必ずしもそうじゃなくて……。そういうヘンに生真面目なところが邪魔をしてうまくハマれなかった部分はあるかもしれません。まぁ、ずっと夢だった声優に関しては「有名な作品に出たい」ってところが唯一のモチベーションでもあったから、端役でもいきなり『ONE PIECE』に出ちゃって、そこで満足しちゃった感はありますけど(笑)。

 

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▲雪山に舞う姿はやはりトップアスリート!!(写真提供:成田童夢)

 

元五輪選手として後進の育成も

現在は、父・隆史氏の主宰する「夢くらぶ」にふたたび籍を置き、スノーボードのコーチや解説なども務めているという成田さん。その奇抜なキャラで「スノボ=フリーダム」な印象を日本中に植えつけた当人の口からはしかし、意外な言葉も返ってきた。

 

f:id:Meshi2_IB:20181203185205p:plain成田:たしかに当時の僕も、見た目的にはアレだったかもしれません。でも、自由でいることと、むやみにチャラつくのはイコールじゃない。こう見えて、当時から代表選手として恥ずかしくないよう礼儀なんかには気をつけてきたつもりです。子どもたちにスノボを教えるときも、まずは「雪山に行けて自由にスノボができるのは、当たり前じゃないよ。お父さんお母さんのバックアップがあって初めてキミたちはここで滑れるんだよ」ってことを伝えるようにしてるんです。

 

奇しくも、「うっせーな」「反省してまーす」発言で世間を騒がせた國母和宏らとは、ともにトリノ五輪で日の丸を背負った間柄。よくも悪くも、日本における新興スポーツ、スノーボードの先鞭(せんべん)をつけてきたのが、成田さんら30代前半の世代でもある。

 

f:id:Meshi2_IB:20181203185205p:plain成田:いまは全日本スキー連盟と日本スノーボード連盟っていう組織が別々にあって、決して一枚岩とは言いがたい。指導者の端くれとしても、元五輪選手の立場としても、競技そのものの発展のためにも、もっと風通しがよくなればいいなとは思ってます。

 

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▲左上より時計回りで「昔なつかしナポリタン」(1,000円)、「こだわり海老カレー」(1,000円)、焼きカルボナーラ(1,280円)、豚丼(味噌汁付、1,000円)

 

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▲同じく左上より「フレンチトースト」(880円)、「とろとろマシュマロピザ」(1,820円)、「スティックフレンチトースト」(400円)、ストロベリーピザ(1,820円)  

バッシングされても無問題

なにかと悪目立ちもしてしまうキャラの成田さんだけに、そのありようをめぐっては、SNSなどでも賛否さまざまな意見が噴出する。

だが、そうした声も「知っている」と言うご本人は、最後に笑ってこう締めくくってくれた。

 

f:id:Meshi2_IB:20181203185205p:plain成田:バッシングも無関心でいられるよりはずっといい。いくら書かれても、僕はなんとも思わないです。スケールは全然違いますけど、たとえばマライア・キャリーがいくらネットで「あいつの歌声は聴くに耐えない」とか言われたところで、当の本人はいっこうに気にしないじゃないですか。それと理屈は同じ。そんなにムカつくなら、ぜひ聞こえるところで、なんならウチの配信ブースを使ってもらってもいいので、お店に来て直接言ってほしいなって。最低な出来事を指折り数えるより、「毎日が最高」と思って過ごしたほうが、人間幸せになれると思いますしね。

 

紆余曲折を経て、たどり着いた元五輪ボーダー・成田童夢の新たな「拠点」。話のタネに、東京観光のついでに、一度訪れてみてはいかがだろうか。

 

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▲夜はこのとおり閑散……。でも、スカイツリーはキレイ

 

お店情報

成田童夢の店 和馬's Café 東京浅草

住所:東京都台東区松が谷2-15−8 浅草K2ビル1F
電話番号:03-4500-1888
営業時間:11:00〜21:00
定休日:不定休

 

書いた人:鈴木長月

鈴木長月

1979年、大阪府生まれ。関西学院大学卒。実話誌の編集を経て、ライターとして独立。現在は、スポーツや映画をはじめ、サブカルチャー的なあらゆる分野で雑文・駄文を書き散らす日々。野球は大の千葉ロッテファン。

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