
仮面ライダーが好きだ。
現在20作目が放送中の平成仮面ライダーシリーズ。吸血鬼やゲームなど毎回斬新なアイデアによるライダーのデザインや設定、複雑な人間関係、そして怪人との壮絶な戦いで繰り広げられるアクション。
2000年から開始した本シリーズは、作品ごとにライダーたちの熱い物語を見せてくれました。いくつになっても楽しめるその世界観に、魅了されたメシ通読者の皆様も多いことでしょう。かくいう31歳の自分も、平成ライダーを心から愛するファンの一人です。
そのアクションシーンは、変身前の俳優ではなく、スーツアクターによって演じられていることはご存じでしたでしょうか? 彼らは、ライダーや怪人のスーツの中に入り常人では考えられない動きを見せ、かつ自分の顔は見せることのない「影の立役者」と言えるでしょう。
ある時、かつてシリーズの中で悪役を中心に演じ続けたスーツアクターが、経営している居酒屋さんがあるということを知りました。一体どんなお店なのか。新宿駅から約20分、西武新宿線・野方駅に降り立ちました。

ここがそのお店、鶏あえず 野方店。
唐揚げや地鶏のうまい居酒屋さんとして、町の人々に愛されているとのこと。憧れのアクション俳優に会えるワクワクを抱き、いざ店内へ。

???:へえ? 『メシ通』? どこかのサイトでうちの店を調べてきたのかい? 誰かに聞いたのかな?
圧倒的、眼力。
この男性こそ、元スーツアクターにして「鶏あえず」のオーナー、永瀬尚希さん。お客さんとしてではなく取材で来た事を説明したら、表情がすっと変わられました。正直なところ……強力なオーラに押されています。憧れも含め、相当な緊張をしながら取材が始まりました。
想像を絶する、スーツアクターの現場とは
──永瀬さんは元々スーツアクターとして活躍されていたと聞いて、こちらのお店まで来たのですが……
永瀬さん:そうそう、平成ライダーシリーズでスーツアクターをやってたんだよ。といっても、演じるのはほとんど怪人や悪役のライダー。普段は感情を閉じ込めているおとなしい奴なんだけど、いざ変身すると感情が爆発して暴れまわるキャラクターとかね。殴る蹴るが自由にできるのが面白くてね。普段そんなことをしていたら社会で捕まるキャラクターを、楽しんで演じていたよ。
──ちなみに、永瀬さんご自身はどのような性格なのか聞いてもよろしいでしょうか……?

永瀬さん:え? 全然真逆の性格。俺さ、基本的に明るくてさ。ほら、悪役って真逆のネガティブな奴を演じられるから楽しくて。自分にない要素を持つキャラクターだから「きちんと役に入り込めて楽しいなー、こんなやばい奴いるんだなー」と。
──よ、よかった……! では、スーツアクターのお仕事についてより詳しく教えてください。過酷な現場であったことは重々承知しているのですが、ぜひリアルなお話をお聞きしたく思います。
永瀬さん:とても成功への道が険しい仕事だよ。遊園地のヒーローショーで1、2年下積みをして、それから撮影所でさらに経験を積む。面をつける手伝いをしたり、戦闘員や怪人を演じながら、ごくまれにヒーロー役がある。……アクション監督に認められればね。その期間が2年ほどあって、ようやくキャラクターをやらせてもらえる。
変身する前の俳優さんに変わってスーツに入るわけだけど、呼吸困難になるくらい暑くて動きづらく、モノによってはほとんど視界が見えない。相手の動きが見えなくても、自分を信じ、相手を信じてアクションするしかないんだ。
閉所恐怖症の人は絶対無理だし、動かなくて1分もしないうちに「脱がしてくれ、ここから出してくれ」となってしまう。過酷な状況でアクションをしなくちゃいけない、本当の職人にしかできない仕事だね。
──そんな中で、長年やられていた悪役を演じるコツをうかがっても良いでしょうか?
永瀬さん:そうだね、変身する前の役者さんとのディスカッションは大切にしてたかな。この役をどう演じるかを彼らと話し合い、動きをシンクロさせられるようにするんだ。まずは変身する前の彼らの演技の特徴をつかむ。変身前が常に下を向いている暗い性格の役なら、変身後の俺の目線もずーっと下向き。
そしてアクションをする時は、そのライダーや怪人のモデルになった生物の動きにパッと移行する。例えば、「蜘蛛」とか「虎」とかね。
──スーツを着る前と着た後の役者同士の戦いと信頼関係が、数々の名シーンを生んだんですね……。
「飲食店経営者」と「役者」 二足のわらじで駆け抜けた現役時代
──より詳しい話を聞くためにも、まずは「鶏あえず」名物の唐揚げ(280円・モモ)をいただきます。

──揚げ具合と中のお肉の柔らかが絶妙で、うーん、ビールとも相性抜群!
永瀬さん:鶏肉に下味を漬けて一晩置く。そしてそれを二度揚げするのが、この味を出すコツだね。
──なるほど! ……ここからは永瀬さんの現役時代から今に至るまでのお話をうかがえればと思います。
永瀬さん:上京したのが18歳の時。しばらくバイトはしていなくて。23歳で結婚して子どもが生まれたんだけど、そこから役者をしながら新宿のカラオケ店で働き始めたね。バイトが朝6時に終わって、家でシャワーを浴びてから稽古場へ……といった生活だったな。
そのカラオケ店は通信カラオケの波に巻き込まれダメになっちゃったんだけど、その時には役者として年間9本(!)の舞台をやるようになっていた。あの頃は、スーツアクターではなく普通に顔を出している俳優だったね。
舞台だけでなくいろんなドラマに出れるようになった頃には、初台のラーメン店で働き出して。ラーメン店なんだけど、僕が賄いで作ってメニューになった親子丼がおいしいって評判になってたんだよ。

永瀬さん:スーツアクターを始めることになったのは30歳の時。先輩の役者さんが当時の主役ライダーのスーツアクターだったんだけど、けがをされてしまい、一時的な代役に僕が指名されて。「お前、明日から仮面ライダーの主役な」って。
「まあ小学生の息子も喜ぶし、ありか」と、先輩が復帰する間の代役として続けていたら、今度は別のライダー役をもらって。翌年以降の作品でも怪人や敵ライダー役を数多く演じさせてもらったよ。
──永瀬さんの場合はいきなり主役からのスタートだったわけですね。
永瀬さん:撮影と同時にお店で働くのも続けてたんだけど、ラーメン店が親子丼の影響もあってか地鶏の居酒屋さんに変わって。シリーズ4作目の頃には、番組のファンがたくさん来てたんだよ。
その後、ヘッドハンティングをされて四ツ谷のジンギスカン屋さんと、六本木にあったこのお店の1号店だった「Yakitori Dining 鶏あえず」(現在は閉店)の責任者を任されるようになったね。
──売れっ子になったのに、同時に飲食店の仕事も続けていらっしゃったんですか? しかも2軒も?
永瀬さん:飲食店をやっていた父親の影響で、自分のお店を持ちたいと思っていたのよ。カラオケ店の厨房で新しいデザートを提案してた頃からずっと、「役者を継続させる夢」と「飲食店を経営する夢」が同時に頭の中にあってね。
──二つの夢を追う人生ですね。ロマンあふれる二足のわらじ生活ですが、正直かなり大変だったのでは?

永瀬さん:とある悪役ライダーを演じた時、宇宙ステーションで戦うシーンの撮影があったんだけどね。その時は六本木のお店が朝5時まで営業していて、6時まで閉店作業。そこから家に帰りシャワーを浴びた後、大泉の撮影スタジオに移動して、8時からタイムテーブルに合わせて一日中撮影。終了後にはまた家に帰ってシャワーを浴びてお店に再び行って。また朝まで働いて、撮影所へ……という生活を3日間繰り返していた。
撮影だけでなく舞台もやってたから、ほぼ一年中似た感じのスケジュール。そんな生活を23年間ずっと続けていたね。
──(絶句) 大変というレベルをゆうに超えた生活だったんですね……睡眠時間がほとんどない。
永瀬さん:特に8作目の作品の頃はすごく盛り上がってね。人気の若手スーツアクターを雇っていたこともあったから、お店に来る客足が本当にすごかった。六本木のお店が完全入れ替え制になるくらい大繁盛。土日含め60席あるお店が全部埋まったね。
撮影と飲食店経営の両立はこなせていたけど、いろいろ考えた結果「役者を引退しよう」と決めたのがシリーズ12作目の頃だった。
スーツアクターや人々の心休まる憩いの場を
永瀬さん:でも、最終的に六本木のお店は閉めることになったよ。2011年に震災があって、以後も5年は続いてたんだけど、やっぱり震災の余波で続けるのが難しくなって。そこで後進の指導用の2号店として始めた、この野方のお店一本に絞ることにした。

──そうだったんですね……。
永瀬さん:大変な時期ではあった。一方で引退したことで、現役のスーツアクターのサポートができる立場にもなったよ。先輩がこのお店に来て本音をふと語ってくださったり、番組のスタッフさんが顔を出してくださったり。今でも撮影を終えた仲間たちがよくリラックスしに飲みに来てくれているよ。

そう言ってご案内いただいたのは、一般の方も利用できる2階・パーティールームでした。スタッフが料理を運んできて、飲み物はお客様本人がサーバーで注いで飲める形式を採用。3,500円で6品ついて2時間飲み放題、それ以降は1,000円プラスで終電まで楽しめる、カウンター式の1階とはまた違った雰囲気のフロアです。

▲評判メニューのひとつ、日向地鶏のもも焼き(900円/写真提供:永瀬さん)
永瀬さん:引退はしたけど、若手の俳優さんたちのサポートはずっと続けたいと思っている。このお店で支援しながら、今現役で活躍している俳優も多数いてね。
実は、このお店だけじゃなく高円寺でスーツアクターのスタジオも運営してる。現役のスーツアクターの皆さんがアクションを教えてて、彼らとこのスタジオを育てていくのも夢なんだ。

昨年オープンした、永瀬さんプロデュースの高円寺にある「Studio SIEG」では、現役のスーツアクター・スタントマンの皆さんによる本格的なアクション教室が開催されています。その他にもキッズアクションやヨガ、さらには忍者アクションエクササイズにも取り組んでいくとのこと。レンタルスペースとしても利用可能だそうです。
──スタジオの他にも舞台のプロデュース・脚本・演出をされているそうですね。
永瀬さん:そうそう。今も舞台の次回作「ヒーロー4」の脚本を製作中。来年上演できればいいかな。これはその「ヒーロー」シリーズのオリジナルキャラクター・アニマルAとその2号・タイガーファイター。昭和感満載でしょ。


(写真提供:永瀬さん)
──本当にすごすぎます……永瀬さんは自らヒーローを作る人にもなったんですね……。
永瀬さん:これからも舞台やイベントの仕事もあるし、まだまだかなえたいことはたくさんあるね。六本木のお店もいつか復活できたらと思うよ!
かつて平成ライダーの敵の「中の人」として走り抜けた永瀬さん。その半生は、飲食店経営の夢も同時に追いかける物語でもありました。そして今も大きな夢の実現へ走る重厚な生きざまを伝えてくれながらも、これまで支えてきた後輩や現役の仲間たちについて語るときはまるで「おやっさん」のような優しい口調に。
熱々の唐揚げをいただきつつ、永瀬さんの圧倒的情熱と、それゆえにあふれる懐の深さをひしひしと感じた時間でした。
撮影:榊原太郎
お店情報
鶏あえず 野方店
住所:東京都中野区野方6丁目3-4
電話:03-5364-9331
営業時間:18:00〜24:00
定休日:1月1日、2日
書いた人:ダイゴロ

コピーライターを営んでおります。 広告制作に携わる一方で、月刊公募ガイドにて「コピーはコーヒー牛乳飲みながら。」を連載中。人狼が、最近のマイブームです(強くはない)。
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