(写真提供:樋口直哉)※以下、全ての写真とイラストは樋口さんに提供いただいております。
夏になると毎年「そうめん使い切り」などのレシピ記事が次々と公開されますが、その前に皆さん、そうめんに関して思うことがありませんか?
「なぜスーパーには複数のそうめんが陳列されているのか?」
という問題です。
確かにそうめんに需要があることは分かるのですが、スーパーに並んでいる商品数が多くて、選ぶのが難しい……と思うわけです。
値段とパッケージを凝視しながら、「一体何が違うの?」と悩んでしまうことを料理研究家の樋口さんに相談したところ、そうめんの選び方を解説していただけることに。
(樋口さんいわく、そうめんの選び方で味わいは全く別の物になるんだとか)
▲料理研究家の樋口直哉さん
前置きが長くなりましたが、今回は料理研究家の樋口直哉さんに「そうめんの選び方や理想的な調理方法」について伺っていきます!
そうめんは「手延べ麺」と「機械麺」で全くの別物になる
メシ通編集部:樋口さん本日はよろしくお願いします。自分に合った、おいしいそうめんの選び方を教えてください。
樋口直哉さん(以下、樋口):分かりました。まず、そうめんは「麺の構造」で大きく2つに分けられます。いわゆる「手延べ麺」と「機械麺」です。「手延べ麺」は文字通り、生地を手作業で伸ばしているのに対して、「機械麺」は生地を機械が伸ばして作られています。
メシ通編集部:手延べ麺と機械麺にはどのような差があるんでしょうか?
樋口:確かに機械の精度や技術も上がってきているんですが、原則的には手延べ麺と機械麺は別物です。そもそも麺の構造が全く異なるので、違う食べ物であると考えてもよいかもしれません。
▲手延べ麺の構造(左) 機械麺の構造(右)
樋口:手延べ麺と機械麺の構造のイメージです。手延べ麺は生地を形成するグルテンを紡ぐように作られているので、ロープのような構造をしています。一方で機械麺は、生地をカットして作られているので、グルテンの方向が直線上、長い棒のような構造になります。
メシ通編集部:麺の構造の違いはおいしさにどう影響するんでしょうか?
樋口:手延べ麺はグルテンが外側に巻かれているので、噛んだときに外側が硬く、内側が柔らかい食感になります。一方の機械麺は外側が柔らかく、内側に食感が残る、うどんのような噛み応えです。
今は機械麺の場合でもグルテンの方向を不均一にするなどの技術もありますが、そこまでメジャーではないので、おいしいそうめんを求めているのであれば、手延べ麺をおすすめします。
メシ通編集部:機械がいくら発達しても、そもそも麺の構造が違っているため、手延べ麺の方がおいしく感じやすいわけですね。ちなみに、手延べ麺と機械麺の見分け方はありますか?
樋口:基本的に、手延べ麺にはパッケージに「手延べ」と書いてあります。逆にその文字がなければ機械麺である可能性が高いです。
メシ通編集部:ちなみに、機械麺のよさってあるのでしょうか?
樋口:機械麺のよさは大量生産が可能なので価格が安価な点です。例えば茹でるのではなく、茹でた麺を揚げて、皿うどんのように食べるのであれば機械麺で十分です。同じそうめんといえど、手延べ麺と機械麺では別の食べ物と言ってもいいくらいに違いがあるので、それぞれ使い分けるとよいと思います。
「中力粉」or「強力粉」 そうめんの原材料にも2種類が存在している
樋口:続いては、使用する原材料の違いについて、お話ししていきます。
ざっくりいうとそうめんの原材料は、「中力粉(うどんなどに使用される小麦粉)」で作られる場合と「強力粉(パンなどに使用される小麦粉)」で作られる場合の2つに分類できます。(※準強力粉を使用するそうめんもありますが、ざっくり捉えてください)
メシ通編集部:中力粉で作られたそうめんと、強力粉で作られたそうめんには、どんな差があるんでしょうか?
樋口:中力粉で作られたそうめんは、もちもちとした食感が特徴です。揖保乃糸や小豆島そうめんなどが代表例です。
強力粉で作られたそうめんは、グルテンが多くコシが強いことが特徴です。三輪そうめんや島原そうめんが代表的ですね。
メシ通編集部:同じそうめんでも麺の構造や原材料に応じた種類があるんですね。
▲麺の構造や原材料の違い等でさまざまなバリュエーションがあるようです
樋口:そういうことです。商品ごとに細やかな特徴の違いもありますから、それを知った上で全国を巡るような感覚でお好みのそうめんを探してみると面白いと思います。
メシ通編集部:麺の構造や原材料ごとにおすすめの食べ方などは存在するのでしょうか?
樋口:もちろんありますが、まずはベースとなる「めんつゆの作り方」と「僕が考える正しいそうめんの茹で方」からご紹介していきますね。
メシ通編集部:ぜひお願いします。
おいしいそうめんはおいしいめんつゆと共に
樋口:まずは基本のめんつゆの作り方からご紹介できればと思います。
メシ通編集部:めんつゆは自家製の方がいいのでしょうか?
樋口:もちろん市販のめんつゆを使っていただいて構いません。ですが、麺は細いほどタレとよく絡むため、そうめんはめんつゆの味わいに左右されやすくなります。
また、市販のめんつゆは一般的には保存期間を長くするために、糖分を増やして甘くする傾向がありますし、殺菌充填の過程で香りが少なくなってしまうんです。
メシ通編集部:保存期間を長くするために糖分を増やすとはどういうことでしょうか?
樋口:めんつゆの保存期間は「濃縮度」に左右されます。つまり、ストレートタイプよりも2倍濃縮タイプ、3倍濃縮タイプの方が賞味期限が長いのです。食品を長持ちさせるには自由水の割合を少なくする必要があります。とはいえ塩分を増やすとしょっぱくなり過ぎてしまうため、代わりに砂糖などの糖分を入れて、保存期間を延ばしているのです。
メシ通編集部:なるほど。
樋口:自家製のめんつゆを作ることで、すっきりとした味で、香り高いめんつゆができます。そして簡単ですぐにできますので、余裕のある方はやってみてください。
基本のめんつゆの作り方
材料(3〜4人分)
- 水……300ml
- 醤油……50ml
- みりん……50ml
- かつお節……10g
樋口:まずは鍋に材料を全て入れて、弱火で1分ほど加熱します。
樋口:沸騰してきたらザルとボウルを用意してこしておきます。
樋口:氷水(分量外)が入ったボウルに当てて、5分ほど急冷すればめんつゆの完成です。
※温かい状態のめんつゆは氷水で急冷することで、細菌の繁殖を抑える効果があるそうです。
メシ通編集部:思っていたよりも簡単に短時間でできるんですね。
樋口:そうなんです。かつお節の香りも楽しめるめんつゆになっていますので、ぜひやってみてほしいです。冷蔵で2〜3日は問題なく保存できますので、少し多めに作ってもよいと思います。
続いては正しいそうめんの茹で方をお伝えしていきます。
正しいそうめんの茹で方
材料(1人分)
- そうめん……100g(2束)
- お湯……適量
樋口:最もなじみがありそうな中力粉を使ったそうめんを使用して解説していきます。鍋で沸騰させたたっぷりのお湯にそうめんを投入し、2分ほど弱火で茹でます。
樋口:ちなみに、そうめんは基本的に1束50gになっているので、2束で1人分相当のボリュームになります。
メシ通編集部:茹でた後の重量はどうなるのでしょうか?
樋口:そうめんは茹でると水を吸って約2.5倍の重さになります。パスタは茹でると約2.3倍の重さになるので、そうめんの方が吸水率が高く、結構増える印象です。
ちなみに実際には付着水(※麺の表面や間につく水分)の影響で2.8倍ほどに増えるので、茹で過ぎには注意しましょう。
メシ通編集部:ちなみに、そうめんは弱火で茹でるのがいいんですか?
樋口:弱火で十分です。重要なのは、常に沸騰した状態のお湯でそうめんを茹でることです。茹で不足のそうめんは粉っぽくコシのない食感になるので、しっかりと火を通すことでおいしくなります。
なので、お湯が沸騰した状態さえキープできていれば、火加減はあまり関係ありません。
樋口:吹きこぼれなどを防ぐためにも、弱火で茹でる方がやりやすいと思います。ただし、大量にそうめんを茹でる場合はお湯を沸騰させ続けるために火を強めたり、弱火に落としたり調整しながら茹でてください。
樋口:続いて、茹で上がったそうめんはザルにあげ、冷水(分量外)をかけて粗熱を取っていきます。触れることができる程度まで冷やせたら、そうめんを手でこするように洗っていきます。
メシ通編集部:なぜ茹で上がったそうめんを手で洗うのでしょうか?
樋口:そうめんは、製麺の過程で麺同士がくっつかないように油でコーティングされているんです。茹で上がったそうめんをしっかりと洗うことで、コーティングされた油を落とすことができます。
洗っても油が完全に消えるわけでないのですが、匂いが減るので、冷たいめんつゆにくぐらせて食べる場合はしっかり洗ったほうがよりおいしく食べられます。
メシ通編集部:茹で上がったそうめんはどの程度洗うとよいでしょうか?
樋口:実際に茹で上がったそうめんを手で触っていただくと、油っぽさを感じられると思いますので、それがなくなるまで洗うようにするといいですよ。
樋口:しっかりと手で洗ったそうめんを冷水(分量外)に入れて冷やして、盛り付ければ基本のそうめんの完成です。
メシ通編集部:ちなみに、そうめんを盛り付けるときは、水が入った器に入れるのがいいですか? それとも、もりそばのように、水に浸かっていない状態に盛り付けるのがいいでしょうか?
樋口:ここは個人の好みになってきますが、水が入った器に盛り付けると、食べている間も水を吸ってしまうのですぐに食感が悪くなってしまいます。ただ、箸の通りがよくなり食べやすくなるというメリットもあります。
一方、水を切って盛り付けると、吸水は抑えられますが、時間がたつと麺同士がくっついて食べづらくなります。ここはトレードオフなので、お好みの方法で盛り付けていただければと思います。
ごま油でコーティングされた小豆島そうめんの特徴と楽しみ方
樋口:ここからは代表的なそうめんの特徴と楽しみ方について、ご紹介していければと思います。まずは、小豆島そうめんからいきます。
メシ通編集部:小豆島そうめんには特徴があるのでしょうか?
樋口:小豆島そうめんは、原材料に中力粉が使用されていますので、もちもちとした食感で少し太めのそうめんです。また、ごま油を使って麺をコーティングしているので、香り高く食べ応えがあることが特徴になります。
メシ通編集部:麺をコーティングする油にも個性があるんですね。
樋口:そうなんです。ちなみに茹で上がった後に小豆島そうめんを洗っても、ごま油の風味や香りが残りますよ。
メシ通編集部:小豆島そうめんはどのように食べるのがよいでしょうか?
樋口:めんつゆで食べてもおいしいのですが、今回はごま油の風味を活かした薬味和え麺をご紹介しますね。
小豆島そうめんを使った薬味和え麺の作り方
材料(1人分)
- 小豆島そうめん……100g(2束)
- 万能ねぎ(小口切り)……20g
- みょうが(薄切り)……10g
- すりごま……10g
- 醤油……10g
樋口:まず、ボウルにそうめん以外の材料を全て投入し、軽く混ぜ合わせておきます。
樋口:小豆島そうめんを2分ほど茹でてよく洗い、水気をよく切ってからボウルに入れ、具材とよく混ぜ合わせれば完成です。
樋口:いわゆる和え麺のスタイルなんですが、ごまの味がきいてさっぱりした味わいです。めんつゆを作る手間がいらないのもメリット。小豆島は醤油の名産地なので、おいしい醤油を使ってください。
麺の細さと歯切れのよさが特徴。三輪そうめんの楽しみ方
樋口:次は、三輪そうめんの特徴をご紹介していきます。
メシ通編集部:お願いします!
樋口:三輪そうめんは、原材料に強力粉が使用されており、麺は細めですがコシが強く歯応えがあるのが特徴です。
メシ通編集部:三輪そうめんはどのように食べるのがよいでしょうか?
樋口:三輪そうめんは、細いのにコシがありますので、パスタのカッペリーニにちょっと似ています。なので、洋風の冷製パスタのようなイメージで調理すると特徴を活かせるため、明太子の冷製クリームパスタをご紹介できればと思います。
三輪そうめんを使った明太子の冷製クリームパスタ
材料(1人分)
- 三輪そうめん……100g(2束)
- 明太子……30g
- 生クリーム(同量のマヨネーズでも代用可)……10g
- オリーブオイル……大さじ1
- 刻みのり……適量
樋口:まずは、ボウルに三輪そうめん以外の材料を全て投入し、軽く混ぜ合わせておきます。
樋口:三輪そうめんは麺が細いので、1分ほど弱火で茹でます。
樋口:茹で上がった三輪そうめんをよく洗い、水気をよく切ったら具材を軽く混ぜ合わせ、刻みのりをのせれば完成です。
樋口:明太子パスタよりもさっぱりした味わいで、ちょっと食べるのにいい感じです。フランス料理の人がたまに使っていたりするんですが、洋風の料理に合いますね。
バランスのよい味わいが特徴。島原そうめんの楽しみ方
樋口:次は、島原そうめんの特徴をご紹介していきます。
島原そうめんは、三輪そうめんと同様に、原材料に強力粉が使用され、強いコシと食べ応えがあります。
本州の感覚だとそうめんは夏の食べ物というイメージですが、九州では年中食べる習慣が根付いています。今回は釜揚げうどんのように島原そうめんの地獄炊き(釜揚げ)をご紹介していきます。
メシ通編集部:釜揚げうどんのように調理すれば、寒い時期でもそうめんを楽しめそうですね。
島原そうめんを使った地獄炊きそうめん
材料(1人分)
- 島原そうめん……100g(2束)
- めんつゆ……20g
- 万能ねぎ(小口切り)……10g
- 生卵……1個
- かつお節……5g
樋口:島原は、実はそうめんの隠れた名産地でいい生産者が多いんですよ。この銘柄の茹で時間は2分でしたが、釜揚げ風なので1分50秒ほどでOKでしょう。
樋口:島原そうめんを茹でている間に、器にそうめん以外の材料を入れ、つけダレを作っておきます。
島原そうめんを茹でたら、温かいままテーブルに並べれば完成です。地獄炊きはそのままいただきますので、ザルに取ったり水洗いしたりする必要はありません。
樋口:この溶き卵で食べるのがおいしいんですよ。そうめんは麺自体に塩気があるので、味がまとまりやすいんです。卵のまろやかさとそうめんの歯切れが絶妙です。
太さと強いコシが特徴。半田そうめんの楽しみ方
樋口:最後に半田そうめんの特徴をご紹介していきます。
半田そうめん、いわゆる半田めんは原材料に準強力粉が使用され、特徴は太さともちもち食感です。ひやむぎとそうめんの中間的な太さで、どんな味付けや食べ方にも対応できます。
ラーメンのスープを張って温かい状態で食べるのがおすすめなんですが、今回は徳島名産のすだちを使ったすだちそうめんをご紹介できればと思います。
メシ通編集部:よろしくお願いします。
半田そうめんを使ったすだちそうめん
材料(1人分)
- 半田そうめん……100g(2束)
- 水……500ml
- 醤油……大さじ2
- みりん……大さじ2
- かつお節……15g
- すだち……1個
樋口:すだちの香りや風味を活かすために、薄味のつゆを作っていきます。
鍋に、水、醤油、みりん、かつお節を入れ、弱火で1分ほど煮立たせます。
樋口:ザルとボウルを用意してこしたら、氷水(分量外)を入れたボウルなどに当てて急冷しておきます。温かいつゆで食べたい場合は、このままでも大丈夫ですよ。
樋口:続いて半田そうめんを茹でていきます。麺が太いので5〜6分ほど弱火で茹でます。
樋口:半田そうめんを茹でている間に、すだちを薄切りにしておきましょう。
樋口:時間通り茹でて、よく洗って冷やした後、器に盛り付けてつゆを入れます。
樋口:その上に、薄切りにしたすだちを並べれば完成です。
樋口:すだちの香りがすっきりとしたひやかけスタイルです。めんつゆよりも淡い味なので、そうめんの食感がより際立ちますね。
まとめ
今回は、料理研究家の樋口直哉さんにそうめんの選び方に関するアレコレを教えていただきました。そうめんの構造や原材料の違いを多くの方に知っていただき、そうめんを選ぶ際の1つの基準となれればと思っています。