【鉄道メシ】日本唯一の地下鉄専用踏切わきでにぎわう「居酒屋 げんき」【上野】

f:id:Meshi2_IB:20161225103712j:plain

三度のメシより鉄道大好き! ライターの望月崇史(もちづき・たかふみ)です。

大好きな「鉄道」を見ながら「メシ」を一緒に味わえば、もっと美味しいハズ……。そんな飽くなき「美食」追求の思いからお届けしているのが「ライター望月崇史の鉄分補給メシ」。

 

列車を見たり、レールの音を聞いて、“鉄分”を補給しながら、メシを楽しめるお店を訪ねます。今回は、東京上野にある、鉄分補給にぴったりな居酒屋さんを訪ねました。

 

郷愁と旅情を誘う上野

東京の北の玄関口・上野 ──。

駅が出来たのは明治時代ですが、当時のれんが造りの駅舎は残念ながら関東大震災で焼け落ちてしまいました。

f:id:Meshi2_IB:20161225102822j:plain

二代目となる現在の駅舎は、震災復興で建て直された昭和初期のもの。リニューアルはされていますが、コンクリートの質感や窓割りなど、どことなく昭和モダンの雰囲気を漂わせていますよね。

 

ちなみに建設に当たっては、戊辰戦争(上野戦争)のさまざまな遺品などが発掘されたといいます。

参考:鹿島ウェブサイト

 

上野駅で旅情を誘うのが、かつて東北方面の列車が発着していた地平ホーム。

石川啄木の歌碑がその面影を今に伝えます。

f:id:Meshi2_IB:20161225102843j:plain

現在は、常磐線特急「ひたち・ときわ」の一部と高崎線特急「草」「(スワロー)あかぎ」、このほか上野始発の普通列車などが、時折発車していく程度。

 

静岡育ちの私自身は東海道線ユーザーでしたので、昔は「東京」という行先に胸ときめくものがありました。たぶん北のほうに生まれ育った方は、小さい頃「上野」という行先に同じようなものを感じておられたのではないのでしょうか?

 

 

地下鉄なのに踏切が……

上野駅の入谷口を出て、ほとんど渋滞しない高速道路・首都高1号上野線の高架下を通る昭和通り(国道4号)を渡ったところで踏切に出くわしました。

f:id:Meshi2_IB:20161225102854j:plain

上野駅の地平ホームからはだいぶ離れています。いったいなぜ、こんな所に踏切があるのか……。

そもそも電車なら踏切の上だとしても、上の方に電気を通す「架線」がありそうなもの。

しかし、この踏切の横は本来なら架線がありそうな高さにビルが建っています。よく見ると、JRの在来線とはレールの幅も違うんですよね。

 

一体、どんな車両が今からやってくるのでしょうか?

 

やって来たのは……

f:id:Meshi2_IB:20161225102906j:plain

東京メトロ・銀座線の1000系電車でした!

実はココ、鉄道好きにはすっかりおなじみ、日本唯一とされる「地下鉄専用の踏切」なのです。

 

上野といえば、パンダより世界遺産より鉄道好きには「踏切」!

普段は浅草渋谷間を行ったり来たりしている銀座線の電車が、東京メトロ・上野検車区(車庫)に入るため、地下から登って来てこの踏切を通ることがあるんです。

 

銀座線は「第三軌条方式」と呼ばれる“三本目のレール”から電気を取っていますので、架線はありません。その分、地平に近い部分に強い電気が流れていますから遮断機だけでなく、線路にも厳重な柵が設けられていて列車が通る時だけ柵が上下します。

 

ちなみに私がこの踏切の存在を最初に知ったきっかけは、何と言っても懐かしの地下鉄漫才! 春日三球・照代の「地下鉄の電車はどっから入れたの?」という十八番のネタです。そう、ここから入れてたんですねー!

 

実は地下鉄漫才をよ~く知ってる世代の方々が集いそうな渋いお店が、この踏切脇にあります。その名は「居酒屋 げんき」

ちょっとさっきの写真をもう一度見てみましょう。おわかりでしょうか?

f:id:Meshi2_IB:20161225120153j:plain

そう、もう線路のすぐわきにあるんです!!!

 

f:id:Meshi2_IB:20161225103548j:plain

日本唯一の“踏切の警報音”を聞きながら一杯やれば、こんなに美味い酒はないのでは……。ある意味、ここって日本一ゼイタクな「鉄分補給」居酒屋さんかも!?

そんな期待を抱きながら、平日夕方5時からの営業時間に合わせて訪問しました。

 

鉄も喜ぶ、居酒屋「げんき」

f:id:Meshi2_IB:20161225102922j:plain

赤ちょうちんに気分を良くしながら暖簾をくぐれば、正面の壁に見えてきたのは……素晴らしい!

 

まさに、さっき写真に収めた銀座線の踏切のイラストが飾ってあります!

 

f:id:Meshi2_IB:20161226082430j:plain

▲イラスト作家・杉本聖奈(まりな)さんの立体イラスト作品『元気な踏切』のポストカードを拡大コピーしたものだそう

 

もちろんそのわきには「げんき」も。ここに飾ってくれと言わんばかりの絵柄じゃないですか。

 

そしてそのかたわらには……

 

寝台特急「あけぼの」の絵ではないですか! 

f:id:Meshi2_IB:20161225102939j:plain

▲こちらも杉本さんによる1枚。立体イラスト『あけぼの~ Come Back!』のポストカードを拡大コピーしたもの

 

寝台特急「あけぼの」は、昭和45(1970)年から平成26(2014)年まで上野青森間を結んでいた、最後の“上野青森行の夜行列車”です。

 

元々は奥羽本線経由でしたが、山形新幹線の工事などで経路が変更され、晩年は上野から高崎線、上越線、信越本線、羽越本線、奥羽本線を経由する日本海回りのルートで、12時間あまりをかけて、上野から秋田を経由して青森まで結んでいました。

さすが、貴重なロケーションにある居酒屋さんです。

 

f:id:Meshi2_IB:20161225102948j:plain

寝台特急「あけぼの」、2010年筆者撮影

 

私も晩年の寝台特急「あけぼの」には、よくお世話になりました。

上野を夜9時台に出発、青森には午前10時前の到着で、大好きな「蔦温泉旅館」へ行く時とかに使っていたんですよね。

 

朝起きると、秋田駅では6時台から駅弁屋さんの関根屋が、台車を出して駅弁を販売。

短い停車時間なんですが、みんな車内から出て来て朝飯を買い求めた記憶が甦ります。

ちょっと旅慣れた人は、秋田では買わず8時半過ぎに着く大館(おおだて)の駅弁屋さん花善に、名物の「鶏めし弁当」を予約しておいて、デッキのところで受け取ったりしていました。

 

「あけぼの」に乗ったことがある人なら、この絵1枚あれば、思い出だけでビール1杯飲めちゃうくらいなんですが……それだけじゃあもったいない! ではさっそくいくつかメニューをいただいてみましょう。

 

イチオシは500円の三点盛り

f:id:Meshi2_IB:20161225103008j:plain

まずは生ビール中(中)500円と、お通しを。

 

f:id:Meshi2_IB:20161225103026j:plain

ええと、ツマミはどうしようかな。なんでも、カウンター上にある料理の「三点盛り」(日替わり、約5〜6種類から好きに選べる)はお店の必須アイテムだそうで、日替わりの3品をお好みで選んでワンコイン500円という超良心的な価格帯。 

 

f:id:Meshi2_IB:20161225103140j:plain

チョイスしたのは、マカロニサラダ、モヤシゴマあえ、大根と鶏手羽の煮物。

これでナント 500円!

 

f:id:Meshi2_IB:20161225122249j:plain

よく出るというホッピーセット 400円と組み合わせれば、マジで1,000円でお釣りが来ちゃいます。

 

これぞ、上野クオリティですね。

道理で夕方5時の開店を過ぎた途端、続々とお客さんがやって来て、6時前にはほぼ満席になっちゃう訳です。

 

新鮮マグロとグツグツ肉豆腐

f:id:Meshi2_IB:20161225103156j:plain

おススメの「マグロブツ」(550円)をいただきます。

 

ご主人によれば、魚は築地から仕入れているのだそう。

そういえば以前「あけぼの」に乗って青森・下北半島へ行った時も、地元の方が仰ってました。「イイ魚はみ~んな築地へ行っちゃう」って。

その築地の魚をおトクにいただける訳ですから、ありがたいものです。

 

f:id:Meshi2_IB:20161225103228j:plain

もちろん、寒い冬にうれしいメニューも。

「肉豆腐」(500円)は、鍋のままで出てきてビックリ!

普通の飲み屋さんですとあらかじめ仕込まれたものを注文が入ると、サッと盛り付けて出してくるような料理が一般的かと思うのですが、ココは違う!!

 

肉豆腐がグツグツ煮えたまま、いい匂いと共に鍋で運ばれてくるのです。これはうれしいサプライズです!

 

神出鬼没!? 踏切の開閉時間

ここで「げんき」店主の山本さんに「地下鉄の踏切の横だけに、鉄道ファンも来ますか?」と聞いてみたところ、あまりファンと思しき人は来ないとのこと。

f:id:Meshi2_IB:20161225103241j:plain

店を切り盛りする山本剛さんは、昭和8北海道・室蘭生まれ

 

ただ、東京メトロに勤めている方は、よくいらっしゃるといいます。なんと昭和8(1933)年生まれだという山本さんは、北海道・室蘭の出身。お父様が国鉄マンで、保線の仕事をされていたといいます。

 

高校卒業後、青函連絡船に揺られ東北本線の列車に乗り継いで上京。

2000年代に入り60代になってから、それまでの勤め人生活に終止符を打ち、この場所で「げんき」を開きました。

 

実はこのお店も、それまでの建物を自分の手でリフォームして作り上げたのだとか。昭和な風情のわりには思ったより歴史の浅いお店ですが、どこか懐かしい雰囲気がするのはご主人の人柄でしょう。

 

ちなみにご主人によると「げんき」わきの踏切が開閉する時間は、時刻表などは存在せず「ホントに不定期」なんだそう。

ただ踏切が閉まるヒントになりそうなのが、銀座線の「上野止まり」の列車の存在。

確かに上野の1つ渋谷寄り、上野広小路駅の浅草方面行の時刻表を調べると、時々上野行があります。この列車の一部が上野到着後、地上に上がって来て車庫に入る可能性があるんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20161225103248j:plain

特に本数が多いラッシュ時間帯の後は、他の時間帯よりも踏切を通る銀座線の電車に出合いやすいかと思われます。

 

上野の隠れ家的な、“鉄分補給”「居酒屋 げんき」。

日本唯一の地下鉄専用踏切の音と共に、上野駅からの旅を思い浮かべながら、リーズナブルに1杯やれたらますます「元気」になれること、間違いなしです!

 

お店情報

居酒屋 げんき

住所:東京都台東区東上野4-11-8
電話番号:03-5827-7277
営業時間:17:00~22:30(LO)
定休日:土曜日、日曜日、祝日

※この記事は2016年12月の情報です。
※金額はすべて税込みです。

 

書いた人:望月崇史

望月崇史

1975年静岡県生まれ。放送作家。 ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは足かけ15年、およそ4500個! 放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。 ラジオの鉄道特番出演、新聞・雑誌の駅弁特集でも紹介。 現在、ニッポン放送のウェブサイトで「ライター望月の駅弁膝栗毛」を連載中。

過去記事も読む

トップに戻る