パン好きを惹きつけてやまない、山型食パンの「山(上の耳)」の話
山型食パン。またの名をイギリス食パン。
四角い食パンと比べると、ちょっぴり贅沢なイメージです。
その魅力は何といっても、「山(上の耳)」の部分。
香ばしい香りと、艶めくビジュアル、そして、ほかの3辺とは明らかに違う、特別な味わい。
皆さんは、この部分が最高だと思ったことはありませんか。
そんなことを考えていたある日、パン好きで知られるメシ通編集D氏より一通のメールを受け取った筆者。
そこには、
「下(山以外の3辺の耳+中の白い部分)は、あくまで前座。山(上の耳)の部分こそがクライマックスである」
「山こそがデザート!」
とあったのです。
私は少々混乱しました。
なぜなら、真っ先に山にかぶりついて食べていたからです。山が好きならあたりまえのことと思っていました。
私はショートケーキの苺は先に、定食は好物をいちばん初めに食べる性格です。好きなものを前にして、我慢が効かないタイプです。
しかし、編集Dは、メイン(山)を食べずにオードブル(下)から食べていたなんて……。
山を偏愛している同士でも、ここまで食べ方が違うとは。興味深いです。
ほかの皆さんはどう食べているのか知りたくなった私たちは、Twitterでアンケートを実施。
パンのプロであり、以前メシ通の記事に出ていただいた「パン屋 salut!!(サリュー!!)」のシェフ・末次佑介氏を迎え、3人で考察してみることにしたのでした。
山型食パンがメジャーになった訳
──本日はよろしくお願いします。さて、山型食パンですが、近ごろはどこのパン屋さんでも買えるようになりましたね。四角い食パンと同様、スーパー併設のパン屋さんでも見かけるほど、一般的な存在になりました。喜ばしいことですね。
▲大好きなパンの話で全員笑顔(左から、筆者・編集D・末次佑介氏)
編集D(以下、編D):山型食パン愛好家として大変に喜ばしいことですね。末次さん、山型食パンがここまで受け入れられたのはどうしてだと思いますか?
末次佑介さん(以下、末次):歴史をたどれば、世界的には山型食パンのほうがルーツは古いと思いますよ。
ただ日本人は柔らかいパンを好きな方が多かったので、山型食パンよりも先に、四角い食パン(以下、角食)が流行っていたんだと思います。多分……。
その後、食の多様化によって、柔らかさを求めるだけではなく、食感の違いや香ばしさなどを食パンに求める人も増えて、山型食パンがフォーカスされた感じではないでしょうか。
編D:なるほどー。
──サリュー!!でのお客様からの反応はいかがでしょうか。
末次:いわゆるプレーンな山型食パンであるイギリス食パンは今は出していませんが、「山型」の形でいえば玄米食パンとホテルブレッドの2種類を出しています。
ホテルブレッドは、ソフトな食感。玄米食パンは、玄米のでんぷんでもっちりした食感です。特に玄米食パンは、玄米の持つビタミンやミネラルなどの栄養素も摂れるので、選ばれる方が多いですね。
味は、どちらもおいしいです。
▲サリュー!!の「玄米食パン」(380円/税込)
角食との作り方の違いは
編D:角食との作り方の違いは何ですか。
末次:製法に関して言えば、お店ごとにレシピはさまざまだと思いますが、ビジュアルのみを言えばやはりあの上の「山」の部分ですよね。
角食との形状の違いが生まれるのは、焼くときにパン型の上に、蓋をするかしないかなんです。
あとは、同じ山型食パンでも、山の食感を「パリッ」っとさせるのか、見た目に「ピカピカ」のツヤを出すのかでは、製法から違ってきます。
「パリッ」はオーブンに入れた時に、オーブン内を適量かつ適温のスチームで満たします。
「ピカピカ」は焼く前に、山の部分に溶き卵を薄く塗ってから直火で焼くことで、美しいツヤと焼き色がつきます。
編D:おお! あの山の独特の食感と美しさは、そうやって生まれるのですね。
──「パリッ」は蒸気が決め手という、これまたお店ごとの個性が出そうです……。
では、本題に移りたいと思います。今回の主題である「山型食パン、どこから食べますか?」ですが、事前にTwitterでアンケートを取ってみました。
結果は後ほど見ていくとして、まずはこのメンバーから、食べ方を順に発表したいと思います。まずは私から。好きなものは初めに食べたいので、山(上の耳)からいきます!
末次:僕も山から派ですね。
特にトーストした時の香ばしさは一発目にいかないと!
でももしかしたらちょっと残しておいて、最後の一口も山で締めるかも(笑)。
編D:私は下からです!
逸見さんには既にお伝え済みですが(笑)、山がクライマックスなので、前座である下から食べます。最初に山を食べてしまい、その後ずっと同じ味が続くのもなー、と。
──では、Twitterのアンケート結果を見ていきましょう。
──いかがでしょうか。
末次:山(注/アンケートでは「耳(上)」として記載)が半数超えてますね。
編D:やっぱり山からが多いのかな。
──それがですね、リプを見るとそうでもないんです……。たとえば、
──初めに山(上の耳)を食べるには食べるんですが、一口だけで、あとは下から食べるという意見ですね。
編D:これ、わかります。下を食べるときには、何かを塗っておきたいという(笑)。
末次:僕もこれに近いかもです。
▲こんな順番ですね
──続いて、こちらはいかがでしょう。
編D:なるほど。これもわかります。私は、山を最後に食べていますが、白い部分も少し残しておいて、いっしょに食べるんです。この方がおっしゃる「身」の部分があることによって耳が引き立ちます。なので「身」も必要なんです。
末次:ですね。コントラストがより際立つというか。
▲少し残しておくのが編集D流です
──白い部分は「身」ということで(笑)。なかなか変態なトークになってきました。読者の皆さま、どうかついてきて……。では次です。
末次:これ、わかります! そうなんですよ。あの山の香ばしさと香りが逃げないうちに一口食べておかないと!
編D:ええっ。逃げます?
末次:おいしさは変わりませんが、焼きたてと時間が経ったものでは、食感や香りは変化しますね。湿度なんかでも食感は変わりますよ。
──なんと! 限定のおいしさでもあるのですね。
編D:え、もしかして最初に食べておかないと、もったいない……?
──編Dさん、揺れてきてますねー(笑)。では次です。
編D:これ! これすごくよくわかります。
──我慢して食べた先に幸せが待っている、と。
編D:そうそう。やっぱり逆は考えられないかも。
末次:アハハハ。戻っちゃった。
──では次です。
──この方は、右下ルールがあるとのことです。
末次:やっぱり山ってデザートっぽく感じる人が多いんですね。
僕、山を使ったメニューのレパートリーもあるんですが、お店に出してもすぐ売れちゃう。
それどころか、食パンの端の「大きな面の耳(食パンを買う際に、残すか切り落とすか聞かれる部分)」も、じつはそれだけを予約されるお客様もいらっしゃるくらいなんです。
──だってサリュー!!の耳はおいしいに決まってるからなー。
編D:山の場合も、面の場合も、厚みや食感がお店によって違うので、そういうところもたまらないんですよね。末次さん、山と面のメニュー、ぜひうかがいたいです!
末次:いいですよ。ぜひ!
※山と面のメニュー&レシピをうかがってきました。次回、逸見の記事にてご紹介いたします。お楽しみに。
──さて、最後です。
末次:一本の短編映画のような。
編D:短い旅のような。
──パンを旅する(笑)。これ、新しいですね。横からでしょうか。
編D:ですね。山も初めに一口いくから、香ばしさを逃さない食べ方ですね。
末次:これ、いいと思います。「素」も味わいつつ、最後は味を変えるっていう食べ方が。まねしてみたくなります。
編D:これなら、いけそうな気がします。やってみたいと思います。
──おおー! 「山から派」と「下から派」のいいとこどりを叶えた「横から派」の出現により、歩み寄りができましたね。ほかの人の意見もそれぞれに山型食パンへの愛情が伝わるものばかりでした。いろいろ試してみたいと思います。
一枚の山型食パンに、これだけの物語があるとは驚きです。さてそろそろ終了ですが、皆さま何か話しておきたいことはありますか?
編D:末次さん、「山型食パンを最高においしく食べるための焼き方」ってありますか? あったら教えてほしいです。
末次:ありますよー。「直火で焼く」です!
バーベキューの串なんかでうなぎのようにパンを刺して、コンロの火で炙るんです。
両面とも、10秒くらいずつ。中の水分が保たれたまま焼きあがるので、香ばしさが戻ってきつつ、もっちりとした食感が楽しめます。
キャンプなんかでもよくやりますよ。ぜひ試してみてくださいね。
もうトースターには戻れなくなるかもですが(笑)。
──それはすごそう。ぜひやってみて、次回リポートしたいと思います。ではこれにて終了いたします。今日は楽しい時間をありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。
山型食パンを楽しむためのヒントが見つかりましたか?
また、皆さまのこだわりの食べ方などありましたら、ぜひコメントでお知らせいただければ3人とも超喜びます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。