昼には売り切れてしまう名店の「卵サンド」。忘れられない味の秘訣は“だし”と米粉だった

行列ができるパン屋さん「こめいち」。こちらの名物「だし巻き卵サンドイッチ」は、お昼には売り切れてしまうほどの絶品の味。今回はこのサンドイッチの誕生秘話に迫りました。

週3で食べるほど、このお店の「卵サンド」にハマってしまった

皆さま、こんにちは。突然ですが、最近おいしいパン、食べていますか?

私は食べています! なぜなら。

ありえないほどおいしいパン屋さん「こめいち」に出合ってしまったから……。

このお店には2023年から通い詰めているのですが、特に週に3回は食べるほどハマっているのが「だし巻き卵サンドイッチ」。

 

 

ランチタイムに、夕方のおやつタイムにと、自分の食生活にとって欠かせない存在になりつつあります。小麦粉ではなく米粉を使ったパンなので、中年のおなかにも重くなくて優しい感じなんです(大切)。

というわけで、オーナーの根深(ねぶか)さんに「こめいち」のおいしさの秘訣(ひけつ)とサンドイッチ誕生秘話を聞きに行ってまいりました!

 

高校卒業後、夢だったパン屋さんではなく割烹料理店へ就職

▲“た”とあるのが「だし巻き卵サンドイッチ」(480円)

 

──いつもおいしい「だし巻き卵サンドイッチ」をありがとうございます。

 

根深さん:気に入っていただけたようでなによりです。一番売れるメニューなので、もしも売り切れてしまっていたらすみません。

 

──いつも昼過ぎには売り切れていますよね。他では食べられない味なので、買えたときは「ラッキー!」という感じです。まずはこちらのお店を始めたきっかけから教えてください。

 

根深さん:実は僕、子どもの頃から「将来は絶対にパン屋さんになる」って決めていたんですよ。

 

──ほほう……。

 

根深さん:で、高校を卒業したらすぐにパン屋さんに就職して修業するつもりだったんです。でも、お世話になった先生から「パン屋より料理人になった方が幅広く仕事ができるからどうだ! やってみないか!」と、強く勧められ、断りきれず……。
縁あって、その先生の知り合いの割烹料理店へ就職することになったんです。

 

──本当はパン屋さんになりたかったのに……。

 

▲「こめいち」名物のだしを使った米粉の食パン。もっちりとした米粉のパンからだしのいい香りが漂います

 

根深さん:就職したお店は、親方ひとりでやっている割烹料理店でした。この親方がすごい人で、夜のコースメニューはもちろん、ランチも素晴らしいんです。ちょっとした小皿のポテトサラダも、切り干し大根の煮物も、一つひとつが丁寧で、とにかく凝っていました。そのお店では、コースメニューをすべて作らせてもらえるようになるまで、10年ほど修業しました。

 

「フグ免」を持っているパン屋さん

東京タワーの見える三田通りから一本奥に入ったところにある「こめいち」

 

根深さん:割烹料理店での修業中、いろいろなことにも挑戦して、免許も取得しました。僕、「フグ免」を持ってるんですよ。

 

──「ふぐめん」?

 

根深さん:フグをさばくための免許です。

 

──おお。フグをさばけるパン屋さんなのですね! 和食の技術を持っているパン職人さんとは、珍しいです。

 

根深さん:その後、縁あって大手のパン屋さんに入社して。まずは食パンから始まり、さまざまなパンを作っていきました。やっと小さい頃からの夢がかなって、すごくうれしかったですね。

 

▲「だし巻き卵サンドイッチ」の包み紙を開いたところ

 

──10年越しの夢がかなって、やっとパン屋さんへの転身ができた。

 

根深さん:毎日パンを作っているうちに、自分独自のパンが作りたくなって。和食の修業をしたこともあってか、とにかく、いろいろなパンのアイデアがどんどん湧いてくるんです。でも、そのパン屋さんでのパン作りも楽しい。独立するか、このままこのお店にいるか、だいぶ考えました。
パンの道に入ってから8年。自分がやり切れたのかを知りたくて、あるパンのコンテストに出品することにしたんです。

 

──おお。結果は……。

 

根深さん:そのコンテストでグランプリをいただいて。これならいけるかもと、満を持して独立。「こめいち」を開店しました。そこで割烹料理店修業時代に得た和食の技術を生かして、米粉とだしを使ったパンを提供することにしたんです。

 

──すごくオリジナリティーのあるパンですよね。

 

根深さん:お店をやるからには自分の個性を出したい、他ではまねできないものを作りたい、今までの経験を最大限に生かしたいと考えたんです。小麦粉ではなく米粉を使ったパンにしたのも、だしのような和の素材と相性がいいと思ったから。ただ、満足のいくものができるまでは相当苦労しました。

 

小麦粉を使わず、米粉のパンで作る卵サンド

▲「だし食パン」(1斤 800円、1/2斤 450円)。焼き上がった「だし食パン」。厨房(ちゅうぼう)の中はだしのいい匂いがしていました

 

──納得できる米粉のパンができるまで、試行錯誤されたのですね。

 

根深さん:もちろん小麦粉で作るパンは今までのお店で勉強してきましたが、米粉の食パンは初めて。割烹料理店での経験や、本からの情報などをもとにいちから開発したんです。
米粉の配合から始まって、パンに合わせるためのだしの昆布の種類や分量、ちょうどいい風合いに焼くための発酵時間も微妙に違う。すべてがうまく決まってきれいに焼き上げるまでは、本当に大変でした。

 

──米粉を使ったパンならではの独特の舌触りと風味は、一度食べると忘れられない味ですよね。すぐ売り切れになってしまうのも納得です。

 

根深さん:ウチのパンはすべて、小麦粉を使っていない米粉のパンです。たまたま私の知り合いの何人かがグルテンアレルギーで困っていて、パン屋さんをやるならぜひグルテンフリーのパンも作ってほしいと言われていました。それもこのパンを開発することになった理由の一つですね。

 

▲サンドイッチを開いたところ。内側には「ゆず胡椒マヨネーズ」が塗ってあります。これが卵焼きと抜群の相性!

 

▲切ってみます。もちっとしたパンの質感が食欲をそそります。手が大きいのでサンドイッチが小さく見えますが、けっこうな食べ応えです

 

▲どうですか、この美しさ!

 

和食のいいところを生かした独自のサンドイッチを開発

──さてここで、「だし巻き卵サンドイッチ」のおいしさの秘密についてお聞きしたいです。このサンドイッチ、パンだけでもおいしいし、具材のだし巻き卵も抜群の風味で。サンドイッチにして一緒に食べると、口の中がなんとも至福の世界に……(うっとり)。

 

根深さん:お店の看板メニューですね。利尻昆布とかつお節の本枯節で取っただしを入れた食パンを使っているんです。パンの内側には、ゆず胡椒とマヨネーズを1:4で混ぜ合わせたものを塗っています。

 

──おおお! ものすごく素材にこだわったパンとソース。もと割烹料理人ならではの繊細な発想ですね。

 

根深さん:だし巻き卵の材料は、サンドイッチ1個あたりで卵は1.5個~1.8個かな。卵液は裏ごししています。和食屋さんではおなじみの銅のフライパンを使って、1個ずつ作ったものを挟んで完成です。

 

▲熱伝導効率のいい、銅の卵焼き器を愛用しています

 

▲丁寧に、かつ美しく焼いていきます

 

▲ふっくらと焼き上がりました。完成です

 

▲おいしい卵焼きができましたよ!

 

──それにしても、手が込んだサンドイッチですね。こんなんおいしいに決まってます。

 

根深さん:そうなんです。だからまとめて大量には作れないんです。

 

▲だしのいい匂いが! このままあら熱を取ります

 

▲米粉の食パンに「ゆず胡椒マヨネーズ」を塗って、卵焼きを挟んだら、出来上がり!

 

▲これを……

 

▲包んだら、“た”と書いて、ショーケースへ

 

──「こめいち」は私のような地元のファンだけでなく、お昼時には近所で働く人もたくさん並んでますよね。先ほどの男性は「社内の人の分」と言って8個も買っていかれてました。なぜ港区に?

 

根深さん:生まれ育った地域に貢献したくて。僕、ずっと港区なんです。大都会ですが、ぽっかり広がる昔ながらの住宅地も多い。そういうところが好きです。

 

 

──そうなんですよ。意外と古い街並みが残っています。東京タワーが近いこの辺りは、外国の人も多いですよね。

 

根深さん:外国の方もよく来てくれます。気に入ってもらえるとうれしいですね。ビーガンメニューがあるので、それ目当てに通ってくださる方も多いです。もちろん小麦アレルギーのある方やお子さんにも、パンにかぶりつく喜びを味わってもらいたいです。

 

食パンに和食材をのせた「惣菜パン」シリーズも絶品

▲「まいたけ」(250円)

豆乳チーズと相性抜群の惣菜パン「まいたけ」。素材の味をダイレクトに楽しめます。 

 

──米粉の食パンに和の具材がのった「惣菜パンシリーズ」も大好きで、特にこの「まいたけ」のファンです。まいたけ、ホワイトソース、米粉の食パンの相性が良すぎてたまらないんですが、これ、ビーガンメニューなんですね。

 

根深さん:「まいたけ」は下にホワイトソースが敷いてありますが、これ、豆乳バターと豆乳、ビーガンチーズを使っているんです。コクがあっておいしいですよね。

 

──これも一度食べると忘れられない味です。今日は「だし巻き卵サンドイッチ」「まいたけ」「たまねぎ」「ねぎみそ」「切り干し大根」「フレンチトースト」を買うことにします!

 

根深さん:わかりました。

 

▲「たまねぎ」(250円)

優しい甘みとピリッとした辛味が米粉の食パンとマッチ。

 

▲「ねぎみそ」(280円)

長ねぎ+みそ+豆乳チーズ。やみつきになる一枚。

 

▲「切り干し大根」(270円)

さつま揚げ入りでコクのある一枚。

 

▲「フレンチトースト」(300円)

ほどよい甘さでランチの後にぴったりの一枚!

 

──今日はいろいろとすてきなお話をありがとうございました! また買いにきます。

 

根深さん:こちらこそありがとうございました!

 

お店情報

こめいち

住所:東京都港区芝3-14-11
営業時間:10:00~18:00
定休日:日曜日、月曜日、祝日

komeichi.shop

書いた人:逸見チエコ

逸見チエコ

ライター、イラストレーター、まんが家、猫カメラマン、ボサノヴァシンガー。主な著書に『猫カフェめぐり~あの猫に会いにでかけよう~』(エンターブレイン)『まちの看板ねこ』(宝島社)などがある。横幅の広い顔の猫が好き。

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