野菜はデザインできる?銀座の植物工場で採れたて野菜を食べてきた

露地栽培、ハウス栽培ときて、水耕栽培。野菜はついに工場で生産されるようになりました。未来、来たね。銀座生まれ銀座育ちの野菜を食べられる時代の到来です。東京・銀座の伊東屋ビル11階の”植物工場”で生まれ育ったチャキチャキの銀座っ子を、同ビル12階「CAFE Stylo」で実際に食べてきました。

エリア銀座(東京)

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飲食店で使う食材、特に野菜は野外の畑で作るというのが、いたって当たり前の認識だ。

ところが、最近はそうでもないらしい。

Google先生に聞けば、店舗に設置した植物工場で採れた野菜をそのまま食べさせてくれる飲食店があることを、コンマ1秒で教えてくれる。

露地栽培ではなく、植物工場産の野菜を食べる。つくば万博世代の僕らにとって、妙に魅力的なアクティビティーだ。

一度行ってみる価値はある。

 

そもそも「植物工場」って何だ?

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▲コスモサンファームⅡ型の播種・収穫作業室と栽培室の様子(提供:サンパワー株式会社)

 

実際に食べに行く前に、植物工場について多少のことは知っておきたい。

そこで、一般財団法人社会開発研究センター理事の森康裕さんにお話をうかがうことにした。f:id:Meshi2_IB:20170721172051j:plain

森さんはLED光を使った植物栽培のエキスパート。

光源システムを始めとするハードウェアの部分から栽培ノウハウのようなソフトの部分まで、現在日本で稼働している植物工場のいたるところに森さんの研究の成果が活かされている。業界トップクラスのすごい人なのだ。

まずはじめに、植物工場の現状についてうかがってみた。

 

f:id:Meshi2_IB:20170803143403j:plain森康裕さん:日本の植物工場にはこれまで3つの波があったんです。1980年代半ばに最初のブームが起きて、現在は第三の波が終わりつつある時期。実際に商品化されているのはレタスやルッコラのような葉菜類、香草類(ハーブ)などですね。今後はイチゴなどの商品化が急がれています。

 

通常の露地栽培と工場栽培の大きな違いは生産方式だ。

露地ものは太陽光と土で野菜を育てる。

一方で、植物工場では太陽の代わりにLEDなどの人工光を使い、土の代わりに水耕栽培で植物を育てる。

正味の話、露地ものと工場栽培の野菜は何が違うのだろう? 

植物工場で作られた野菜には、露地ものとは違う特徴があるのだろうか?

 

f:id:Meshi2_IB:20170803143403j:plain種子さえ農薬処理されていなければ、基本的に無農薬で生産できますし、洗う必要もありません。計画的に生産できるためロスが少なく、天候による価格変動もない。生産者、場所(肥料分)などがすべてがわかっているぶん、安全に食べられる点も大きなメリットですね。それに、光の波長や培養液(肥料)の組み合わせを変えることで、野菜の味や歯応え、栄養価、サイズや形を制御することもできます。

 

え、味や栄養価まで変えることができるんですか!

 

f:id:Meshi2_IB:20170803143403j:plain例えば、ビタミン系の栄養素は光源の波長で変化しますから、光を制御することで露地ものと比べてビタミンAやCを多く含んだレタスを作ったり、養液にカリウムを含めないことで低カリウムのレタスを作ることもできます。じん臓病の方の病院食向けに出荷されていますよ。あとは野菜特有の青臭さや苦味を抑え、甘みを増すことで、野菜が嫌いなお子さん向けの野菜を作ったりもできます。

 

光の波長や照射時間と培養液の成分を組み替えることで、野菜をカスタマイズ、デザインできるわけだ。

植物工場ってすごい。

 

f:id:Meshi2_IB:20170803143403j:plainただ、製造コストの面で露地ものにはかないません。お日様はタダですが、植物工場には電力が必要ですから。とはいえ、価格に見合う高機能で高付加価値な野菜を栽培できるようになれば、植物工場産の野菜のニーズは高まるでしょう。

 

なるほど。がぜん、興味が出てきました!

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植物工場産野菜を食べに銀座に行く

森さんにお話をうかがった後に銀座に向かう。お目当ては伊東屋。東京のビジネスマンなら大抵の方はご存じの文房具専門店だ。

「なぜ野菜を食べに文房具店に? 」 

そう思う読者もいるかもしれない。理由は簡単。

伊東屋ビルには植物工場があり、そこで作った野菜を併設のレストランで食べることができるからだ。

2015年、伊東屋ではビルのリニューアルを行った。その際に2つのテーマを設定したのだという。

1つは「働くをサポートする」。

もう1つは「買う場所から過ごす場所へ」だ。

 

「お客様に、おいしくて体にいいものを食べていただくことで、体の中から『働くをサポート』したかった。そのために、まずはサラダメインのレストランを作りたかったんです。最初は仕入れることも考えたのですが、露地ものだと季節によって値段も出来ばえも変わります。いい野菜を毎日安定供給することを考えると、植物工場がベストなんです。それに、文房具店ではなく伊東屋に来て、建物丸ごとで楽しんでいただきたかったことがあります」(伊東屋広報:市原美子さん)

 

なるほど、働くお客さんに健康とアミューズメントを提供したいという考えが、植物工場ユニットの設置に結実したわけだ。加えて、社長である伊藤明氏がアメリカに留学していた頃にディズニーワールドで見た、植物工場をモデルにしたアトラクションに強烈な印象を覚えたこともあるのだという。

 

まずはエレベーターで11階へ。すると……ありました! 

「FARM」と呼ばれる植物工場ユニット。

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近未来を感じさせるインターフェース。

ステンレス製の窓枠にウッディーな床、そして、ホワイトの壁の組み合わせがレトロスペーシーでカッコいい。

このスペースは伊東屋本店ビル内でも1、2を争うフォトジェニックなスポット。

写メを撮るお客さんは多く、ファッション雑誌の撮影に使われることもあるのだとか!

 

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ちなみに植物工場ユニット前面ののぞき窓には、建て替え前の伊東屋ビルで実際に使われていた窓枠をリサイクルしている。

 

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同じフロアには、戦前の伊東屋ビルに飾られていたエンブレムの実物や、1904年の創業当時の店舗を再現した1/17スケールの精巧なミニチュアも展示。

 

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創業から現在、そして未来へ。

伊東屋の歩みがワンフロアで感じられるようなしつらえになっているのだ。

 

銀座生まれの野菜たちにご対面

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「FARM」で現在栽培されているのはフリルレタス、ルッコラ、ケール、ミントなど。一番多いのがフリルレタスなのだそう。

 

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1日あたりの収量はレタスに換算すると330株ほどで、併設のレストランで提供する分は完全にまかなえるようにあらかじめ設計されている。

店舗併設型植物栽培ユニットを持つ飲食店では、収量が実際の消費量より少ないところが多いなか、伊東屋の「FARM」は完全型の “ビル産ビル消” モデルの第1号なのだそう。


植物工場産野菜で作ったサラダのお味はいかに?

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12階のレストラン、「CAFE Stylo」に移動。お待ちかねの、植物工場で作られた銀座産野菜の試食だ。

 

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ちなみに、店名の「Stylo」とは、フランス語で「ペン」を意味する。

高い天井、そして西側に大きく開かれた窓から自然光が入る、開放感に満ちた居心地のいいスペースだ。

 

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サラダのテイクアウトもやっているんですね。

 

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カウンターにはクラフトビールのサーバーも。

 

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試食するのは、広報担当の市原さんオススメのファームサラダ(1,728円、数量限定)。通常のレストランのサラダで3人分くらいだろうか。

なかなかのボリュームだ。

「野菜でお腹いっぱいになってもらいたい」という考えに基づいた、伊東屋の標準サイズなのだという。

フリルレタス、ケール、ルッコラは植物工場で栽培されたものをその日の朝に収穫した採れたてだ。産地からの距離はおよそ30mだから、鮮度の落ちようがない。

オリジナルのシェフズドレッシングはビネガーとオリーブオイルがベースのシンプルなフレンチテイスト。

 

なるほど、これなら野菜そのものの味わいを最大限楽しめる。

 

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小皿に取り分けて……。

 

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いただきます! 

 

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うーん、実にフレッシュ。

 

シャキシャキとした歯応えが爽快で嫌なエグ味もない。

いい意味でクセがなく、これが本来の野菜そのものの味なのだろう。

サラダを食べながら、伊東屋の栽培ユニットを設計、施工した大成建設のシニアコンサルタントである山中宏夫さんが、面白いお話を聞かせてくれた。

ちなみに、大成建設は植物工場建設の分野におけるリーディングカンパニー。

プラントの建設から野菜の生産までをワンストップで行う高いノウハウを持つ企業なのだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20170804092220j:plain山中宏夫さん:野菜とドレッシングをあえて提供するスタイルは、野菜にとってはシビアなんです。塩分によって野菜の水分が出てしまい、すぐにシナっとしてしまいますから。そこをフォローするにはシャキシャキ感が残るようにしっかり気味に野菜を育てなければならないんです。その点は、栽培ユニットのセッティングを変えて、あえて提供してもシャキシャキ感が残るように対応しているんですよ。

 

野菜ゆえに避けられない変化、作用の部分を栽培ユニットの調整でよりおいしく食べられるようにカスタマイズする。これは植物工場産野菜ならでは。

今、筆者はデザインされた野菜を食べている。そしてそのことに感動している。

ところで、栄養についてはどうなんだろう?

 

f:id:Meshi2_IB:20170804092220j:plain野菜に含まれる栄養素の基準となる成分表のようなものがあるんですが、露地野菜の場合は、土作りが難しく季節変動も大きいため、それに合致するだけの栄養素が含まれていない場合もあるんです。一方で、植物工場で栽培した野菜には、成分表に含まれる栄養素がほぼパーフェクトに入っています。それは間違いありません。

 

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「土と太陽で育ててこそ栄養満点の野菜が育つ」という漠然としたイメージを持っていたのだが、どうやらただの思い込みだったみたいだ。

工場での生産であれば栽培環境をほぼ完全に制御できるから、野菜の味や栄養素に密接に関係する要素を調節することで、露地ものよりも品質や機能面で勝る野菜を栽培することができるわけだ。

 

いわば、太陽の光と土の恵みのオイシイところを組み合わせて、野菜本来が持つ性質のいい部分引き出すのが植物工場という装置。

植物工場、やっぱりすごい!

 

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完食。ごちそうさまでした!

 

植物工場産野菜は美味。そして、今後期待ができる仕組み

今回の取材を通して思った。

植物工場は大きなポテンシャルを持っている

植物生産の各要素を最適化することで、高品質、高機能な野菜を安定生産することができる。

さらに、味わいや色や形、成長の速度などをニーズに合わせることも可能。

加えて、従来型の農業が持つ「農地での重労働」という制約から離れることで、障がい者の雇用や空きビル、空き工場の再利用といった、食料生産とは別の社会問題を解決させる切り札になるかもしれない。

コストの問題も、照明ユニットの省エネ技術や高機能野菜の開発技術の進歩で改善の方向に向かうはずだ。

植物工場は「今後さらに期待できる野菜生産の場」だということ。なんだかワクワクしてくる。

 

最先端の食の未来を銀座で体感しよう

この記事を読んで関心を持ってくださった読者の皆さん、ぜひ一度、「CAFE Stylo」に銀座生まれの植物工場産野菜を食べに行ってみてください。

夜10時までオープンしているので、仕事帰りに気になる女子と一緒に銀座の工場産野菜をつまみつつ食の未来、ついでに二人の未来について語り合ってみるなんてのはいかがでしょうか?

厳選素材を使った肉料理や卵料理も用意されてますよ。

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▲テリヤキチキン(2,376円):国産大山鶏のもも肉をオーブンでじっくり焼き上げた、ジューシーな仕上がり

 

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▲プルドポーク(2,592円):アメリカで定番の豚肉料理。国産の豚肩肉をこだわりの自家製BBQソースで

 

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▲エッグスベネディクト(2,160円):厚切りのハムと、有機JAS認証取得の黒富士農場にて平飼いで育てられた鶏のリアルオーガニック卵との組み合わせ

 

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なお、1階のドリンクバーでは「FARM」で採れた野菜を販売しているので、時間のない方はこちらをぜひ。

 

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お店情報

CAFE Stylo
住所:東京都中央区銀座2-7-15 G.Itoya 12階
電話番号:03-3567-1108
営業時間:10:00~22:00(LO 21:00)
定休日:無休

www.hotpepper.jp

※この記事は2017年8月の情報です。
※金額はすべて税込です。

 

書いた人:渡邊浩行

渡邊浩行

編集者、ライター。アキバ系ストリートマガジン編集長を経て独立。日本中のヤバい人やモノ、面白い現象を取材するため東へ西へ。メシ通で知ったトリの胸肉スープを毎日飲んでるおかげで、私は今日も元気です。でも、やっぱりママンの唐揚げが世界一だと思ってる。

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