沖縄のフツーの家庭のゴーヤチャンプルーが食べたい
確かミレニアム前後、連日終電帰りのクソ忙しい日々で疲弊していた頃、竹野内豊出演の某航空会社CMを見た影響で旅をした。
で、短い夏休みを利用して沖縄に飛んだ。
目的は沖縄生まれ、沖縄育ち、沖縄在住の人に沖縄を代表する家庭の味、ゴーヤチャンプルーの作り方を教えてもらうためだ。
宜野湾在住、石川千穂さんのゴーヤチャンプルーの作り方
取材に協力してくださったのは石川千穂さん。石川さんのご主人と僕が以前からの知り合いだったため、今回の企画に応じてもらえることになった。
石川さんは宮古島出身で大学進学を期に本島へ。
その後、宜野湾市生まれのご主人と結婚。現在は、ご主人の実家に近い市内のアパートで暮らしている。5歳と2歳、2人の男の子のお母さんでもある。
自宅のドアを開けて出迎えてくれた石川さん。柔らかな笑顔に、東京から背負ってきた面倒くさいアレコレが解けて消えていくような気持ちになる。
石川:どうぞどうぞ。でも、本当に私なんかでいいんですか?
だって、僕が知りたいのは観光客向け沖縄料理店のゴーヤチャンプルーじゃない、沖縄の普通の家庭で、お母さんが家族のために作り続けてきたレシピなのだから。
石川家のゴーヤチャンプルーの材料は以下の通り。4人家族だが、2人のお子さんがまだ小さいので、実質的に大人3人ぶんくらいにあたる。
【材料 3人分】
- ゴーヤ 1本
- 豚バラ薄切り肉 200g
- 卵 3個
- 島豆腐 400g
- 和風粉末だし 4g
- しょうゆ 適量
それではさっそく、調理のほう、お願いします!
本場のゴーヤチャンプルーの作り方
まずは洗ったゴーヤのヘタと先端部をカットして、
2つに割り、
種の部分をスプーンでこそぎ落とす。
こんな感じでOK。
種を抜いたゴーヤをスライス。厚さの目安は2mm程度に。
宮古島に住む石川さんのお母さんはもっと厚めに切っていたというのだけど、石川さんは薄めだ。
石川:このほうが、子どもたちが食べやすいんですよ。
あーもー、お母さんの心遣いさすがです。
お皿に移してゴーヤの準備は完了。
次に、豚バラ薄切り肉を何枚か重ねて、幅3〜4cmのひとくちサイズに切る。
ちなみに、石川家では特に豚バラ肉にこだわらず、そのときどきに家にある肉類・肉ものを使っているという。
石川:ポーク(スパム)とかコンビーフとか。ツナ缶を使うこともありますね。冷蔵庫の残りものを適当に入れて作ることも多いですよ。
そのラフな感じが家庭料理っぽい。
こちらもお皿に取り置いておこう。
次は、卵を割って……
かき混ぜる。黄身と白身がなんとなく混じり合うくらいの感じでOK。
以上で下準備は終了。
いよいよ炒めに入ります
熱したフライパンにサラダ油を引いてゴーヤを炒める。
ゴーヤの緑が鮮やかに変わる。
しんなりする程度に火が通ればいいので炒め過ぎには注意。
そして、豚バラ肉を投入。ゴーヤと一緒に炒める。
石川:肉全体に軽く火が通るくらいで大丈夫ですよ。
うん、いい感じ。
そして、島豆腐、投入。
ポイントは、包丁で切らずに手でつぶすようにちぎること。
豆腐の中央を両手の親指で押しながらつぶすと……
いい感じのサイズにばらけた島豆腐がフライパンに落ちる。
おおっ!
お見事!
手でちぎることで、豆腐が適度な大きさにばらけて、断面がでこぼこするぶん調味料がよく回って味も染みやすくなる。
手間も時間も節約できるうえに味もいい。正しい主婦のスタイル。
豆腐を全体になじませるように軽く炒めたところで
具材全体にかかるように粉末だしを入れ
だしの素がそれぞれの具材に満遍なくいきわたるように炒める。
豆腐からしみ出た水分が、気持ち蒸発してきたところで、しょうゆで味付け。量はお好みで。
卵を投入。フライパンの内周から円を描くようなイメージで。
具材を混ぜながら、卵がなんとなく固まってきた頃合いで……
ふたをして火を止める。
石川:こうすると、卵がふんわりと仕上がるんですよ。
なるほど。直火で加熱し過ぎると卵が固くなる。だから、あえて火を消して余熱で固めるわけですね。
ふたをしてから30秒程度そのままに。
ふたを開けて卵の状態を確認。
加熱が足りないようであれば、再度加熱して調整する。
おお。
具材が満遍なく混じり合い、卵が絶妙にが絡んでいる。
おいしそう!
石川:できました!
石川家のゴーヤチャンプルーの味
お皿に盛り付けた石川家のゴーヤチャンプルー。
プロの料理人が作ったものとは違う、素朴であたたかなお母さんの手料理感に思わずお腹がグーっと鳴る。
いただきまーす。
うむむ、これはおいしい。
ゴーヤのほのかな苦味。豚バラ肉の甘み。内地の豆腐とは違う島豆腐独特の濃厚な味わい。だしとしょうゆの風味がほどよく染みた具材をふんわりと仕上がった卵が包み込んでいる。
これこれ、これですよ。
そこではたと気が付いた。
ゴーヤチャンプルーの要諦は、ゴーヤと島豆腐にある。
沖縄のお母さんは◯◯◯◯を見ておいしいゴーヤを選ぶ
石川さんが作ってくれたゴーヤチャンプルーには、僕がそれまで食べてきたものとは決定的に違う点があった。
それは、思いのほかゴーヤが苦くないこと。むしろ、甘みさえ感じること。
東京で食べてきたゴーヤチャンプルーはたいがい口に入れた時にパンチのある苦味が襲ってきた。それはそれでいい。
でも、個人的にはシナモンティーにおけるシナモンのように、ほのかな苦味が肉や卵の甘みを際立たせるアクセントとして働いているくらいのほうが好き。
石川さん、おいしいゴーヤを選ぶコツってあるんですか?
石川:そうですね……。
石川:私はゴーヤの表面のつぶつぶを見て買っていますね。つぶつぶの大きいもののほうが苦味が軽くておいしいから。
そうなんですね! それは知らなかった!!
「島豆腐」を使ったほうが圧倒的にうまい
もう1つのポイントは島豆腐。
ご存じの方もいると思うが、内地の豆腐と島豆腐は製法からして違う。
前者が「煮取り法」(水に漬けた大豆をひいて出た汁を煮た後にこす)で作る一方、後者は「生絞り法」(水に漬けた大豆をひいて出た汁をこしてから煮る)で作る。
そのため、島豆腐は固めで大豆の味が濃厚。塩味もやや強めだ。
沖縄はもちろん、九州のスーパーなどでも比較的簡単に入手できるが、内地のスーパーではなかなか目にすることはないだろう。
島豆腐は沖縄食材を取り扱っているお店や、沖縄県物産公社が全国14店舗を運営するわしたショップやその通販サイトで購入できる。
もちろん内地の豆腐で代用も可能だ。その際は絹ごし豆腐ではなく木綿豆腐を使うこと。また豆腐はできれば事前に水抜きをして、固めにしておきたい。
水抜きは、豆腐をクッキングペーパーでくるんでお皿にのせ、1分ほどレンジで加熱すると水分が出ていい感じになる。
だけど、おいしいゴーヤチャンプルーを作りたい読者は、ぜひとも島豆腐を使ってみることをおすすめします。
石川さん、ありがとうございました!
書いた人:渡邊浩行
編集者、ライター。アキバ系ストリートマガジン編集長を経て独立。日本中のヤバい人やモノ、面白い現象を取材するため東へ西へ。メシ通で知ったトリの胸肉スープを毎日飲んでるおかげで、私は今日も元気です。でも、やっぱりママンの唐揚げが世界一だと思ってる。