中国の家庭的な蒸し料理を提供する「蒸籠味坊」に蒸籠の使い方を教わったら驚きが満載だった

味坊集団の新店舗「蒸籠味坊(じょうりゅうあじぼう)」が代々木上原にオープン。「本場中国の家庭的な蒸し料理を味わえる」とのことでお店に伺い、蒸し料理の神髄を取材してきました。

エリア代々木上原(東京)

「味坊集団」と聞いて、つい反応してしまう中華料理ファンもいるのではないでしょうか。

本場中国東北地方の家庭料理が楽しめる神田の「味坊」をはじめ、羊料理に特化した御徒町の「羊香味坊」、北京地方の大衆酒場のおつまみに特化した御徒町の「老酒舗」など、コンセプトの異なる中華料理店を展開する新進気鋭の飲食企業。

そんな味坊集団が2022年8月、代々木上原に新店舗をオープンしたことをご存じでしょうか?

その名も「蒸籠味坊(じょうりゅうあじぼう)」。

炒め物のイメージが強い中華料理ですが、「中国の家庭でよく食べられている蒸し料理に特化した店舗」とのこと。

「これは絶対見逃せない!」ということで、味坊集団の大ファンであるライターのJUNERAYが早速お邪魔してきました!

▲今回取材に応じていただいた専務取締役の林強さん

お店は代々木上原駅改札口から直結した通路沿いにあります。雨の日も濡れずに食べに行けるのはうれしいですね。

入店するやいなや、おいしそうな香りと蒸気がお出迎え。高々と積まれた蒸籠(せいろ)と目が合い、期待におなかが鳴ります。

お店に入ってすぐのところには新鮮な食材たち! 実物を見て注文し、いただく直前にベストな状態に蒸し上げてくれるそう。食の体験として、こんなに心躍ることがあるでしょうか。

手書きの品目が加えられたメニューも、なんだか本場っぽくてワクワクしてしまいます。メインの蒸し料理のほか、味坊名物の羊肉料理に、丹念に仕込まれた自家製の漬物まで。

今回は「季節野菜の5種盛り合わせ(五谷丰登):税込900円」「豚バラと干し野菜蒸し(梅菜扣肉):税込1,200円」「魚姿の廣東蒸し(鼓油皇蒸鱼):税込3,800〜※魚の種類等で変動あり」の3品を注文。

特別に、厨房での調理の様子を見せていただきました。

すべての野菜を均一に蒸し上げる達人の工夫:季節野菜の5種盛り合わせ

早速厨房に足を踏み入れると、モクモクと立ち込める蒸気を肌で感じることができます。巨大な蒸し器は特注品で、何種類もの料理を一度においしく蒸し上げるために作られたものだそう。

蒸気に包まれる食材たちに目を奪われつつ、林さんにお話を伺ってみます。

JUNERAY:中華料理というと、炒め物や揚げ物のイメージが強いですが、蒸し料理は中国のどちらの地方で作られるものなのでしょう?

林さん:地域の限定なく中国のどこででも作られていますよ。いわゆる家庭料理ですね。

JUNERAY:これが家庭料理……。なんだか中国の人がうらやましくなってきました。まずは季節野菜の5種盛り合わせから順番に蒸し料理をおいしく仕上げるポイントを教えてください。

JUNERAY:季節野菜の5種盛り合わせは、1つの蒸籠にいろんなお野菜が入っていますよね。食材によって熱の入り方が変わってしまうんじゃないですか?

林さん:蒸籠に入れるお野菜は、すべて同じように熱が入るように、切り方や厚みを調整しています。

JUNERAY:えっ、すごい。人参とオクラが一緒に入ってますが、両方同時に蒸し上げられるんですね。

林さん:野菜は種類だけでなく、季節によっても熱の通り方が変わります。収穫時期がほんの1カ月変わるだけで蒸し時間を変えなければいけないんです。これは長年の経験がないとできない、プロの技だと思います。

JUNERAY:静かにものすごいことが行われている! 

林さん:火加減も調整しながら5分ほど蒸し器で熱を加えていきます。日によって変わりますが、ベストな状態まで蒸し上げれば、季節野菜の5種盛り合わせの完成です。

▲火加減の調整はなんと足踏み式

トロトロの豚バラ肉を高火力で蒸し上げる:豚バラと干し野菜蒸し

林さん:続いては、豚バラと干し野菜蒸しを調理していきますね。

林さん:長時間煮込んだ豚バラ肉を使用した名物料理になります。

皮付きの豚バラ肉を使っているのがこだわりで、コラーゲンもたっぷりです。中華風の五香粉やスパイスが効いた角煮のような味付けで、日本人の方にも好評をいただいています。

JUNERAY:これ絶対にうまいやつですね……。

林さん:スープでじっくり煮込んでから蒸し上げることで、しっかりした肉感を残しつつ、脂がとろけるように仕上げています。

JUNERAY:一品一品こだわりがすごい……。

林さん:豚バラ肉の下には、自家製の干し野菜の漬物をたっぷり敷きます。濃厚な豚バラ肉のうま味をリセットしてくれるような少し酸味のある味わいになっています。

JUNERAY:自家製の干し野菜の漬物! どんなお野菜を使っているんですか?

林さん:小松菜を使用しています。小松菜を時間をかけて干して乾燥させたものを漬物にして、酸味とうま味が味わえるようにしてます。

林さん:豚バラ肉の脂がとろけるように一気に蒸し上げていきます。

林さん:最後に豚バラ肉を煮込んでいたスープを加熱して、水溶き片栗粉でとろみをつけたソースをかければ豚バラと干し野菜蒸しの完成です。

JUNERAY:光沢がすごい……。どんな味わいなのか楽しみです。

白身魚をフワッフワに蒸し上げて香味油で仕上げる:魚姿の廣東蒸し

林さん:最後に、魚姿の廣東蒸しを調理していきます。今日は石垣島のスジアラ(別名:アカジンミーバイ)を使用していきます。

※お魚の種類や値段は、季節や重さによって異なるそうです。

JUNERAY:立派なお魚ですね。蒸し料理にするお魚はどのようなものがおすすめですか?

林さん:うちではよくケツギョ(鱖魚、桂魚)というスズキ目の淡水魚をよく使用します。脂がのっている白身魚が蒸し料理とは相性がいいと思いますよ。

JUNERAY:そういえば、蒸す際に使用している蒸籠って料理ごとに使い分けていますよね。手前の竹を割ったような器は初めてみました。こちらも中華料理の道具なのでしょうか?

林さん:こちらは実は、蒸籠味坊のオリジナルなんです。当店では中華蒸籠以外にも、食材に合ったさまざまな道具を使い分けています。

▲見せていただいた蒸し器たち。厚さや竹の皮の有無によって熱の通りが変わり、大きさは食材によって使い分けているそう

林さん:内臓やエラ、うろこなどを取り除いたスジアラは、竹の器にのせて蒸し上げていきます。

JUNERAY:お魚を蒸し上げる時にポイントはありますか?

林さん:強火で一気に蒸し上げることが重要です。魚にうま味と栄養を含んだ蒸し汁は捨てずに、タレと合わせて魚と一緒食べることもポイントです。

林さん:スジアラが蒸し上がったら、香味野菜の千切りをのせ、高温に熱したラードをかけます。

林さん:すかさず中国から取り寄せているしょうゆをかければ、魚姿の廣東蒸しの完成です。

JUNERAY:香味野菜がラードで熱せられて、軽快な音と香ばしいネギの香りがたまりません。作り方は非常にシンプルなんですね。

林さん:食材の良さを活かした料理になっています。高温で一気に蒸し上げて、熱々のラードで香味野菜とともに仕上げれば、うま味と香ばしさを足し合わせることができます。

ラードが熱いうちにしょうゆをかけることで、両者が混ざり合ったタレになるんです。

JUNERAY:どんな味になるのか楽しみです! 蒸し料理の作り方はシンプルですが、熟練の技や見極めがおいしさの鍵を握っているんですね。非常に興味深かったです。今日はありがとうございました!

林さん:こちらこそありがとうございました! 楽しんで味わってみてください。

食材のうま味を最大限に楽しむ蒸し料理の魅力

味坊集団では自然派ワインも豊富に揃っていて、ワイン好きたちにも好評のお店です。

お酒の選択肢も多いだけに、蒸し料理に何を合わせるか悩んでいたところ、「最初はやっぱり瓶ビールよ!」とおすすめされたので、キンキンに冷えたビールをお供にいただいていきます。

まずは、季節野菜の5種盛り合わせから。

ブロッコリーにオクラ、トウモロコシ、人参、かぼちゃ、カブにキクラゲ……あれ、よく見たら5種類以上ないか!?

お野菜の内容は季節によるとのことですが、うれしいサプライズでした。自家農園で栽培した野菜を使用しているんだとか。

それにしてもこれだけの種類の野菜にいっぺんに熱を通すの、職人芸すぎる……。

漬物がたっぷり入った特製ダレでいただくのですが、深みのある酸味と発酵された漬物のうま味が効いていておいしい! 

林さんいわく、蒸籠の調理温度は100度を超えないため、食材の味わいを壊さずに提供できるんだとか。確かに野菜の味がはっきりしていて、いくらでも食べ続けられるんじゃないかと思いました。

ホックホクであま〜いかぼちゃ。特製ダレと食べることでより甘さが引き出されて幸せです。蒸し料理は食材のおいしさを最大限に引き出す調理法なんだな〜としみじみ。

野菜をおかずにごはんを食べて、こんなに幸せなことがあるなんて……。新境地を開拓した気分です。

続いては、豚バラと干し野菜蒸し。やわらかく煮込まれすぎて、重力に負けている豚バラ肉……。絶対にうまいやつだ。

皮付きの豚バラ肉は、プルプル&グニグニとした独特の食感がクセになりそうです。中華ならではの味付けで、八角などのスパイスが食欲をブーストさせてくれます。

豚バラ肉の下の干し野菜は、蒸籠味坊のスタッフさんが丹精込めて仕込んだ自家製の漬物。高菜に似た食感で、発酵によるうま味と適度な酸味のバランスが絶妙です。

脂の多い豚バラと漬物の組み合わせは最強と言えるでしょう。この一皿でごはん3杯いけそうです。

そしてお待ちかね、魚姿の廣東蒸し!

透き通ったラードが映えるタレ、フワッフワに蒸し上げられた白身魚と香り豊かな香味野菜にテンションが上がります。

箸を入れてみると……この身のほぐれ具合ですよ! すごくないですか。

ラードと白身魚の上品なうま味が溶け合い、シンプルな味付けが食べ飽きさせません。スジアラはこの日初めていただきましたが、皮に味がしっかりとのった、クセのない魚でした。

中華蒸籠で熱を通された蒸し料理は、どれも食材のうま味が引き出されつつ、くどさのない味わいが魅力だなと感じました。油っぽくて味の濃い中華料理のイメージが完全に覆る体験で、全メニュー食べてみたい……! とすっかり虜になってしまいました。

プロ直伝! 家庭で中華蒸籠を清潔に取り扱うには?

さて、「自宅でも蒸し料理をやりたいから蒸籠でも買って帰ろうかしら」と思っているJUNERAYなわけですが、「蒸籠は管理が大変」「蒸籠はカビやすい」といった声がありますよね。

せっかくなので、蒸籠味坊の料理人さんに中華蒸籠の管理方法についても伺ってみました。一般的な竹製や木製の中華蒸籠は2点に気をつけるといいんだとか。

①洗う際に洗剤は厳禁

蒸籠に洗剤の香りがつき、調理する際に食材に匂いが移ってしまうため、水洗い推奨とのこと。また、蒸籠はデリケートなので、食洗機にかけると壊れてしまうことも。スポンジ等を使って丁寧に手洗いすることが大切なんだとか。

②洗ったらしっかり乾燥させる

蒸籠で最も多いトラブルはカビが生えてしまうこと。水洗いしたら乾いたタオル等で拭いて、風通しのいい場所でよく乾燥させてから保管するのが重要とのこと。

2点を守ることで長期間蒸籠を衛生的に使うことができるそうです。また、蒸籠は蒸し上げる過程で高温の蒸気にさらされるため、頻繁に使うことが一番のカビ予防になるそうです。適切な管理をしつつ、蒸籠を頻繁に使うことが重要とのことでした!

まとめ

今回は蒸籠味坊の料理を味わいつつ、蒸し料理について取材させていただきました。各料理の調理工程を見ていて感じたのは、蒸籠を扱うレベルの高さと食材へのこだわりでした。

熱気が漂う厨房の中には、細かい温度調節や蒸し具合を確認しながら、最高の状態で料理を提供しようとする職人さんがいました。シンプル故に奥が深い蒸し料理。こだわりの詰まった、本場中国の家庭の味をぜひ一度は味わってみてください。

お店情報

蒸籠味坊

住所:東京渋谷区西原3丁目8番5号 2階 A205号 アコルデ代々木
電話番号:03-5761-6430
営業時間: 11:00~15:00 (料理L.O. 14:00)/17:00~23:00 (料理L.O. 22:00)
定休日:なし
※営業状況は変更になる場合がありますので、店舗にご確認ください。

www.hotpepper.jp


書いた人:JUNERAY

日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、クラフトビアアソシエーション認定ビアテイスターの元花屋。たまにバーテンダー。記事を書いたり、ドリンク開発をしたりします。

トップに戻る