【中央線の名居酒屋】中野の名店で「ふぐのひれ酒」に酔いしれた【第二力酒蔵】

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シリーズ・中央線の名居酒屋 vol.1 「第二力酒蔵」(中野)

「中央線の酒場」のイメージといったら、なんだろう。

ガード沿いのお店で傾ける濃すぎるホッピーや、隣り合わせた酔客との間で突如始まる人生相談、だろうか。

かくいう自分も、そんなベタベタの中央線文化に憧れて、10年ほど高円寺に住んでいた。

といっても、野方(西武新宿線。JR高円寺駅から徒歩約20分。しかも中野区)や新高円寺(丸ノ内線。JR高円寺駅から徒歩約15分)だったのだが……。

▲行政区画上の高円寺北は、この赤く囲まれたエリア。高円寺北および高円寺南の枠内に住んでいれば、高円寺在住を堂々と名乗ることができる。野方はこの画面上に現れないほど、JR高円寺駅から遠い

 

▲高円寺南はこちら。新高円寺駅はギリギリラインだが、青梅街道より南に住んでいると、高円寺在住を名乗るのが少し心苦しくなってくる

 

このような立地条件でも堂々と中央線の住人を自称し、自分の街が最高だと信じてやまない人種が、中央線沿いには少なからずいる。

高円寺が最高の街と信じていた(今も)ので、阿佐ヶ谷や西荻で飲むと浮気をしたような気分になって、勝手に罪悪感のようなものを感じたりもしていた。

高円寺界隈に限らず、荻窪や吉祥寺など、他の駅の住人の間でも同じような感情を抱いている人がいるらしい。

そんな元中央線の住人ならではの粘着質なマインドと、中央線を離れた今だからこそ持てる冷静な目でもって、中央線の名店を味わい尽くしていきたい。

 

中野には「酔いどれロード」が待っている

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そんなわけで、第1回目は高円寺のお隣、中野にやってきた。

 

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中野といえばなんといってもサブカルの殿堂・ブロードウェイだ。

駅北口を出て、アーケード商店街の「サンモール」を北上するのがお決まりコースだが、

 

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中野で飲むなら、右向け右!

サンモールやブロードウェイと並行する通りに、飲み屋さんの名店がひしめき合っているのだ。サンモール入口の「れふ亭」で方向転換し、さらにケンタッキーのところで左折しよう。

そこには、めくるめく酔いどれロードが待っている。

さて突然だが、中央線の飲み屋さんに期待することといえば?

  • 安くてうまい
  • 昼から飲める

この条件は外せないだろう。

さらに、

  • 俺だけが知っているうまいものがある

これも加われば、文句なし。

本当に自分だけが知っているかはさておき、そう思わせてくれるようなひと皿。

そして、常連さんが必ず頼むようなひと皿があれば最強なのである。

 

中野の居酒屋さんの名店と言えばここ

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そのすべてを満たしてくれる本日の名店がこちら。

行き交う中央線を背景に建つ「第二力酒蔵(だいにちからしゅぞう)」だ。

なんと、お昼の2時から飲めてしまうのである。

 

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中央線沿いの飲み屋さんというと、いわゆるせんべろ系の安く飲めるお店のにぎやかな風景が浮かぶが、壁には1品1,000円を超える刺身や、ぬたなどの渋いメニューがずらり。

板前さんたちがキビキビと仕事に勤しむその姿、女性が 1人で入るにはちょっと緊張してしまうのだが、元中野区住民というささやかな武器を頼りに、入店!

 

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こちらのお店が誕生したのは、昭和37年のこと。

ほぼ同時期、新井薬師前に先に1号店が創業しており、こちらは2号店だったので「第二力酒蔵」と名付けられたのだという。

今でこそ高級な魚介類のメニューが並んでいるが、開店当時は焼鳥中心のごく庶民的なメニュー構成だったそうだ。

 

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同店で30年働く店長の黒田哲郎さんいわく、「開店当初は入口入ってすぐのこの部分だけで営業していて、そのうち隣が空いたんで、二度、三度と拡張していったんですよ」とのこと。

そんな歴史もあって、座る場所によって、お店はまったく違った姿を見せる。

 

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こちらは、入口からすぐのカウンター席。

ひとり飲みの常連さんが、1人、また1人と席を埋めていった。

 

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こちらは、お店の奥から入口側を眺めたところ。

 

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奥の席はいぶし銀なカウンター周辺と違って、明るい日本料理店といった風情だ。

 

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2階には大きな宴会用の座敷もある。

 

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ふと見上げると、店内のところどころに、昭和のにぎわいが描かれた絵が掛けられているのに気がついた。

 

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こちらのイラストは、大正生まれの挿絵画家で、同店の常連だったという風間完さんの手によるものだ。サラリーマン風の男性もいれば、女性の姿も。

大変なにぎわいがうかがえる。

本日は、この歴史ある名店で、ぜいたくにも昼からひとり飲みに挑む!

 

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同店の目玉は、新鮮な魚介類だ。

昼からのひとり飲みにはぜいたくすぎるメニューも多いが、優しい常連さんと、親切なお店のお姉さんが写真を撮らせてくださったので、以下ご紹介。 

 

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大人の親指幅ほどもある分厚いかつおの刺身(1,250円)や

 

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貝刺身盛合せ(2,060円)

 

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大迫力のほっき貝刺身(1,130円)などが並ぶ。

 

うーん、うまそう! 

だけど、さっきの条件「安くてうまい」はどこ行った? と思われるかもしれないが、安心していただきたい。

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ここで現れるのが、常連さんにおなじみの「豆腐煮」(470円)だ。

メニュー表では、かぼちゃ煮や里芋煮などの文字に埋もれてつい見過ごしてしまいそうになるが、影の実力者ともいえる逸品なのだという。

 

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絹ごし豆腐を丁寧に水切りし、豆腐を魚のだしや醤油で甘辛く煮込んだこのひと皿、外側は木綿豆腐のようにしっかりとした食べ応えなのに、中はとろけるようにふるふるなのがたまらない!

しかも、たっぷり一丁サイズだ。

 

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これは日本酒でいくしかないでしょう! と思いメニューを見ていたら、「ふぐのひれ酒」(1,090円)の名を発見した。

以前、田舎の親戚から、かにの甲羅にかにみそを混ぜて甲羅酒を飲まされて不思議にうまかった記憶があるが、これもそういう風流な飲み方なのでは? と思うと見過ごすことができず、えいやっと頼んでみた。

 

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1杯 1,000円超なんて手が出ない! と思うかもしれないが、実は飲兵衛にとってはむしろお得とも言える酒なのだ。

その理由は後述するとして、まずは「ふぐのひれ酒」がいかなるものなのかをこの舌で確かめてみよう。

 

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オーダーし、酒が温まるのをしばし待つ。

ところが、高まる期待を抑えきれず、調子にのっていろいろ注文してしまった。

 

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冬はあんこうの季節、ということで、あん肝(1,080円)。

 

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同じく旬ということで、ぶりの刺身(2,400円)もいってしまおう。

 

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こうなったら、プレミアムビール 琥珀の時(510円)も追加!

せんべろ気分で乗り込んだはずが、図らずも豪華な酒盛りになってしまった。

ちなみにビールはアサヒ生中が510円、キリン大瓶が670円と頼みやすい中央線価格でありがたい。

 

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ぶりは醤油がいらないほどの濃厚なうま味だ。

醤油もつけてみたがもったいなくて、ほとんどつけずに平らげてしまった。

 

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ハ〜〜、まだ14時半かあ、最高だな……と、思わず締めくくりそうになってしまったが、まださっきの「ふぐのひれ酒」と、あん肝がある!

 

「ふぐのひれ酒」にとろけてみる

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これが、「ふぐのひれ酒」だ。

思った以上に、名前そのままの姿である。

すると、店主の黒田さんより「火、つけますか?」と謎のフレーズが。

どういうことなのかよくわからず、「とりあえず、お願いします!」と頼んでみた。

 

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わわっ!

 

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なんと!

酒に浸ったふぐひれに火がついた!

 

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ふたをして、フィニッシュ。

「わ〜、なんですかこれ!!」と興奮気味に尋ねると、「昔の芸者遊びみたいなものですね」とサラリ。

この点火によって酒がうまくなるというよりも、その風情を楽しむもののようだ。

 

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「このひれは、食べていいものなんですか?」と尋ねると、「いや、あんまり食べるものでは……」と黒田さん。

そう言われると余計に食べてみたくなるが、初心者なのでおとなしくセオリー通りに飲んでみることにした。

 

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ひれは取り出して、

 

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皿を兼ねたふたの上に置く。

 

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お酒はふぐひれの色味がほんのり移って、黄金色に。

こうして皿に置いたふぐひれがうまそうで、ますます食べてみたい誘惑に駆られる。

 

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では、いざ「ふぐのひれ酒」をひと口……

 

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う、うまいっ!

正直、生臭いのでは? とビビりながら注文したのだが、魚の臭みはまったくなく、香ばしい香りとうま味だけがじんわりと酒に染み出している。

塩分のようなものもあまり感じさせず、ただただ、うま味だけがピュアに引き出されているような感じだ。

 

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その感動がさめやらぬうちに、ひれ酒と一緒に楽しもうと大切にとっておいたあん肝をパクリ。

すると、想像もしないほどの爽やかなぽん酢の風味に、思わずわっと声を出してしまった。

クリームチーズを何倍も濃厚にし、海の深いうま味をギュッと閉じ込めたようなあん肝だ。そこにこの爽やかなぽん酢が加わって、思わずハッとさせられたのである。

 

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聞けば、このぽん酢は自家製だとか。

どうりで酸味も香りもフレッシュなわけだ。

豆腐煮の煮汁とともに、飲み干したくなるのをグッとこらえた。

 

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この組み合わせ、偉大すぎます。

 

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そして、「ふぐのひれ酒」のお楽しみはこれだけでは終わらない。

むしろここからが本番ともいえるのだ。

なんと、ひれ酒はホッピーの「ナカ」と同じように、お代わりが可能なのである! 

1杯目は1,090円だが、2杯目以降は同じひれを使い、日本酒だけを足してもらうのだという。

思わず「ナカください」と言ってしまいそうになるが、このお代わりのことを「継ぎ酒(つぎしゅ)」というのだそう。

 

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ではさっそく、

「継ぎ酒、お願いしま〜す!」

 

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ひれをまた元に戻して、さっきのように、マッチで火をつけてもらう。

 

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今度は、注がれる酒のほうにポッと火がついた!

 

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あとはなみなみと注いで、

 

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さっきのように、ふたをして少し待つ。

 

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こちらが、2杯目だ。

1杯目よりもかすかにひれがプルッとしてきたような感じもするが、同じく魚の臭みはなく、いっそううま味が増したように感じられる。

 

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このようにして、2杯、3杯と楽しむのが「ふぐのひれ酒」の飲み方なのだそう。

継ぎ酒は370円なので、2杯飲むと合計で1,460円(1杯あたり730円)、3杯飲むと1,830円(1杯あたり610円)と、どんどんリーズナブルになっていく

酒飲みにはたまらないシステムなのだ。

 

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酔いが回って自制心のタガが外れ、思わずひれの端を少しかじってしまった。

さぞうまいのだろうと思ってモグモグとかみ締めたのだが、意外と味をあまり感じない。

なのに、ひれ酒には不思議とうま味と香ばしい香りが移る……。

うーむ、なんとも不思議なこの酒に、もはや片足をとられてしまったようだ。

 

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こうして、リーズナブルなビールや「ふぐのひれ酒」でとことん飲みに徹するもよし、豆腐煮と1杯の酒をサッと引っ掛けるのも乙。

懐に余裕があれば、ふぐちりや貝の刺身盛りなどの海の幸をとことんリッチに楽しむこともできる。

 

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第二力酒蔵」では、こうしてお客さんが思い思いの楽しみ方で過ごし、昭和の時代から肩を寄せ合ってきたのだろう。

 

お店情報

第二力酒蔵

住所:東京都中野区中野5-32-15 第二神谷ビル1F・2F
電話番号:03-3385-6471
営業時間:14:00〜23:30
定休日:日曜日(祝日は営業)

www.hotpepper.jp

 

書いた人:増山かおり

増山かおり

1984年、青森県七戸町生まれ。東京都江東区で育ち、百貨店勤務を経てフリーライターに。『散歩の達人』(交通新聞社)にて『町中華探検隊がゆく!』連載中。『LDK』(晋遊舎)『ヴィレッジヴァンガードマガジン』などで執筆。著書に『JR中央線あるある』(TOブックス)、『高円寺エトアール物語~天狗ガールズ』(HOT WIRE GROOP)。

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