【中央線の名居酒屋】居心地が良すぎて、つい飲みすぎてしまうお店【阿佐ヶ谷・和田屋】

居酒屋って、敷居の低さが魅力というか、どれだけ落ち着けるかが、自分とその店の相性を表しているようなところがある。居心地良すぎて飲み過ぎちゃう店に出合えたら、大人としての幸せ一個見つけたな、的な。東京・南阿佐ヶ谷の「大衆割烹 和田屋」は、きっと多くの人がほっとした場所なんだと思う。

エリア南阿佐ヶ谷(東京)

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シリーズ・中央線の名居酒屋 vol.3 「和田屋」(阿佐ヶ谷)

飲み屋さんが並ぶ街並みの美しさを比べたら、きっと阿佐ヶ谷が中央線イチではないだろうか。

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特に、北口の商店街「スターロード」のノスタルジックな風景の美しさは、高円寺びいきであっても認めざるを得ない。

夕暮れ時に歩き出したら、太陽を追って、どこまでも歩いていきたくなってしまうし、夜は看板の灯りに誘われて、次から次へとはしご酒をしたくなってしまう。

 

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この街では「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」という、お祭りの参加店舗であれば何軒まわっても1杯無料というチケット制の街歩きイベントが行われたりもしている。

確かに、街を眺めてフラリと歩いているだけで、お酒が飲みたくなってきてしまうのだ。

どちらかというと男性に評判の高円寺に対し、ほどよい静けさのためなのか女性に好評の阿佐ヶ谷なのだが、はしご酒したくなる度の高さでは、むしろ阿佐ヶ谷に軍配が上がるかもしれない。

 

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そんなわけで、今夜も1軒。

今回は、スターロードの横丁で赤ちょうちんに引かれ、「和田屋」を訪れた。

もしかしたら、阿佐ヶ谷に来たことのない人も、この名前は耳にしたことがあるかもしれない。

麻布十番にあった、大正9年に創業したと言われる「和田屋」から発祥したお店が、都内にいくつかあり、このお店もそのひとつなのだ。

 

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夕暮れ時、なわのれんをくぐって、ガラガラと戸を開ける。

 

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開店したばかりの17時すぎ、渋めのつまみや日本酒の文字が踊る。

メニューは、ひとつずつ丁寧に手書きされている。

 

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頭上を見上げると、柔らかな灯りの数々が。

 

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この、人柄が透けて見えるような実直な文字と赤丸による強調に思わず引き付けられる。

 

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カウンターには、大皿に入った料理がズラリ。

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain最近、こういうお店は珍しくなったよね。

 

と、店主の高橋敏則さん。

さっそくビールを注文しつつ、このお店の歴史をお聞きしてみた。

 

ご夫婦と息子さんによる家族経営

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▲ビール中(580円)

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain昭和40年に麻布十番の「和田屋」本家にいて、昭和42年に新しく社長の奥さんの名前で「名物焼鳥なか」っていうお店が開店したから、今度は12年間そこにいて、昭和54年の9月に独立して、こっちに来たんです。

 

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「和田屋」本体から独立したお店と、「名物焼鳥なか」から独立したお店がそれぞれあり、いわゆるのれん会のようなグループを形成しているというわけだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain同じグループだから、たまに手伝いに来てよってお願いすることもありましたよ。

 

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▲外で十数年の修行を経て戻ってきた息子さん。今では2人で厨房に立つ

 

f:id:Meshi2_IB:20171230192248p:plainそのお店は、ミッドタウンより交差点寄りの路地に入ったところですね。ペットショップがあるあたりなんです。

 

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阿佐ヶ谷「和田屋」は、ご夫婦と息子さんによる家族経営だ。

街全体で見ると若手の経営者の飲み屋さんが多いように見えるが、こうした家族経営の素敵なお店もいくつかある。

 

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ところで、入店時に表のメニューで気になった文字が……

 

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く・さ・や!

くさやはにおいがすごい、でもうまい、という断片的な情報しか知らず、今まで一度も口にしたこともなければ、見たこともなかった。

下手すると想像上の食べ物なのかな? と思うほどになじみがない。

ちょうど開店直後のお客さんが少ない時間なので、今がチャンスかもしれない。

しかも、500円といううれしい価格!

ここはひとつ頼んでみよう。

 

「くさや」初体験

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f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain最近、くさややってるとこ見ないね。このあたりじゃうちくらいしかないんじゃないかな。昔は、酒飲みならくさやとほやだけは一回経験しとけって言ったもんですよ。

 

おかみさん:においがすごいのよね。うふふ。

 

くさやの話をしているとは思えない、ほほえましいムードだ。

そんな会話をしながら、ご主人がくさやをロースターに仕込んでくれた。

 

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▲味噌で上品に仕上げた牛煮こみ(500円)。それぞれの具材の食感が際立っている

 

くさやを待つ間、看板メニューの煮込みをいただくことに。

店内には、田中眞紀子さんや加山雄三さんなどさまざまな著名人の写真が、家族写真のように飾られている。 

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plainこのなかで一番人気あるのは、阿佐ヶ谷姉妹。若い人は眞紀子さんのこと、この人誰ですかって聞くもんね。そんな時代ですよ。

 

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時代を感じるが、きれいに手入れされていて、なんとも居心地のよい店内だ。

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plainここはもともと宝石屋さんだったんですよ。それを増築して使ってる。手入れいいでしょ? 椅子替えたくらいで、あとはほとんど替えてないからね。

 

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── のれん分けのお店って、やっぱりおやじの味を守っていくものなんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain何年かすれば、もう自分の味になっちゃうよね。本家からほとんど味変わってないのは、煮込みくらいだろうねえ。

 

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f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain仲間のお店もたまに冠婚葬祭で臨時休業するときに寄ったりするけど、同じ煮物作っても、個人差あるからね。煮込みやってるのは、「和田屋」のなかでも少ないかもしれない。

 

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▲くさや(500円)

 

そんな話をしていると、プン、と強いにおいが突然鼻を突いた

聞かなくても、あ、これがくさやなんだ! と一瞬でわかった。

 

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アンモニア系のにおいなのだが、魚由来なのがはっきりわかるにおいで、意外となじみのあるくささという感じがする。

おそらく、パクチーみたいに人を選ぶ独特のにおいではなく、誰もがなにかしらでなじんでいるにおいを凝縮したという感じ。

意外にも、まったく違和感がなかった!

 

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見た目はもうちょっとドロッと溶けかかったような感じを想像していたのだが、意外にもエッジが立った感じで、しっかりかみ応えのある干物、という印象だ。

鮭とばみたいに、しみじみかんで、ゆっくり楽しんだ。

 

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▲ご主人が新潟ご出身ということで、カウンターに並ぶ日本酒は新潟のものが多い

 

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▲八海山(600円)とともに

 

どれだけ臭いのだろう……とおののいていたのだが、口に入れると、においよりもむしろうま味のほうが際立つ。

アジの干物を10倍に濃縮した、というようなイメージが近いかもしれない。

とかく異次元のモノ扱いをされがちだが、こうして食べてみると、むしろ「絶対ムリ!」という人のほうが少数派なんじゃないかと思えてくる。

 

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▲おかみさん、常連さんが飲んでは置いてゆくという一句を手に

 

おかみさんくさや、けっこう出ますよ。頼むのはご年配の方が多いですね。「他じゃあんまり食べられないのよ」って。うちのくさやは新島のなんだけど、火山が爆発したとき、新島の人たちはくさやのたれだけは混ぜに行ったんだって。

 

── 秘伝のタレみたいに守ってるんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain女房よりくさやが大事だって言うよ(笑)。

 

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ところで、「和田屋」が開店した頃、阿佐ヶ谷の街はどんな様子だったのだろう。

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain今みたいに居酒屋さんはたくさんはなかったね。随分増えたよ。

 

── 個人商店が減っていく街って多いですけど、阿佐ヶ谷の飲み屋さんは増えたんですね!

 

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f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain特に一番街のほうは、昭和40年頃、日本でも有名な飲み屋街だったの。今みたいに24時間営業のお店ってなかったから、ほかのお店が閉まると、阿佐ヶ谷にタクシーで来たりしたみたいよ。お相撲さんも来てたって。


── 終電じゃ飲み足りない人が、押し寄せてきてたんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plainでも、昔はぼったくりや怖い人がいる危ない通りって言われて、だんだん寂れていった時代があったの。もう50年近く前の話だから、今はもうすっかり落ち着いてるけどね。死んだ六本木の社長が言ってた。一番街、昔はすごかったぞ、俺たちもよく行ったよって。でも、店出すのは難しいぞって言われて、今の場所にお店を出したんです。

 

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▲2階席があり、大人数の宴会もできる

 

── そういう経緯があったんですね。ところで、阿佐ヶ谷はよくお芝居関係者が飲んでるって聞くんですけど、今もそうなんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain本当ですよ。奥に芝居小屋があるんだよね。うちは映画や劇団関係のお客さんが多いですね。よく打ち上げで30人の予約が入ったりとか。昨日もそうだったし、毎週来てくれてますよ。

 

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お店のさらなる魅力を知るべく、隣のお客さんにも、話しかけてみた。

 

── お疲れさまです〜(乾杯)。いつもこのくらいの時間にいらっしゃるんですか?

常連さん:そうです、早番担当。

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と言いながら、常連さんがマイすだちを取り出した!

 

常連さん:実家徳島なんで、すだちの果汁持ち込んでるの。置いていくとママに怒られるからね。すだちとか、あまり興味ないですか?

 

なんとも自由だ……!

ありがたくも、ボトルキープの焼酎をごちそういただいてしまった。

 

常連さん:僕は通い始めて13年になるかな。居酒屋ジプシーだったときがあるんですよ。いろんなお店をまわってたんだけど、入ってすぐの席に座ってたら「空いたから、こっち来なよ」って大将が言ってくれて。

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain継続は力なりだね。

 

常連さんと話すご主人の表情は、ますます柔らかだ。

 

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f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain気が楽だよね。「なに頼もうか」って考えなくてもいいようなお店があると。

 

常連さん:ほんと。ただいまーって感じだもんね。

 

常連さん:あんまり居心地よくて、つい飲みすぎちゃうんだよね。

 

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「若い時と違って飲めなくなっちゃった」と言いつつ週2で通うという常連さんも加わり、吉田類さんの『酒場放浪記』の話や、東北の実家でご飯を食べていたらアオダイショウが落ちてきた話、多摩川の水がキレイになった話などで盛り上がった。

 

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ちょっと席を外している間に、「横綱」のお客さんも合流してカンパイ!

 

常連さん:あれ、帰っちゃうの?

 

── 今度、母を連れて参ります〜!

 

f:id:Meshi2_IB:20171230185926p:plain酔っぱらってカメラ忘れないようにね!

 

もし中央線で1人暮らしを始めて、このお店があったら、泣いてしまうよ……。

この春上京を考えている方がいたら、「『和田屋』があるから」という1点を頼りに阿佐ヶ谷に引っ越してきても、間違いないはずだ。

 

こういうお店が近所にある生活って、どんな感じなんだろう。

この街に住む人を、ちょっとうらやましく思う夜なのだった。

 

お店情報

和田屋
住所:東京都杉並区阿佐谷北2-12-22
電話番号:03-3336-2580
営業時間:17:00~翌1:00(LO 24:30)
定休日:日曜日・祝日

www.hotpepper.jp

 

中央線の名店シリーズ 過去記事はこちら

第1回:「第二力酒造」(中野)

www.hotpepper.jp

第2回:「一徳」(高円寺)

www.hotpepper.jp

 

書いた人:増山かおり

増山かおり

1984年、青森県七戸町生まれ。東京都江東区で育ち、百貨店勤務を経てフリーライターに。『散歩の達人』(交通新聞社)にて『町中華探検隊がゆく!』連載中。『LDK』(晋遊舎)『ヴィレッジヴァンガードマガジン』などで執筆。著書に『JR中央線あるある』(TOブックス)、『高円寺エトアール物語~天狗ガールズ』(HOT WIRE GROOP)。

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