「アイドル」と「スナック」。
イメージでいえば、昼の世界と夜の世界。
まるで真逆に思えるかもしれない。
しかしアイドルが自らお店を持って「ママ」として切り盛りしているお店がある。
その名は「ヤングスナック-芹奈-」。
場所は渋谷道玄坂から曲がった先にある百軒店。
華やかな渋谷の表通りとは違った、独特の空気を放つ路地を抜けたビルの2階にスナックを構えたのが、ソロアイドルの川崎芹奈さん。
若干20歳、アイドルとしては普通だが、スナックのママとしてはかなり若い。
今回は自身もアイドルが好きすぎてアイドルイベント「ギュウ農フェス」も主催するまでにいたった電撃ネットワークのギュウゾウさんとお店を訪ねてみました。
予想以上にアイドルぽさ皆無の「ザ・スナック」な店内、アイドルのポスターなんかも一切なし。
ただ芹奈さんのソロデビューシングル「サイボーグ」がいつでも買えるのがこのお店らしいところ。
もともと芹奈さんがスナックを始めようと思ったきっかけは何だったの?
わたし5年前からアイドルをやっているんですけど、その時から「スナックやりたい!」って言ってたんですよ。最寄り駅から家まで歩く途中にスナックがある通りがあるんですけど、いつ通ってもすごい楽しそうな笑い声が聞こえてきて。そういう雰囲気いいなって前から思っていたんですよ。
それでスナックに実際入ったりしてたの?
それはないです。今20歳でお酒飲めるようになったばかりなんで。外に漏れてくる音だけで想像していました。両親もあんまり行ったことがないって言ってましたね。
実は父親は玉袋筋太郎とか?
あははは! 本当の父親はそうかもしれない(笑)。あと、最近気づいたんですけど、わたし昔から保健室がすごい好きで、幼稚園から高校くらいまで入り浸っていたんですよ。保健室でお弁当食べるくらい好きで。たぶんそういう存在なんですよね、憩いの部屋っていうか。
スナックは保健室! 新しい解釈だな~。でも分かるかも。駆け込み寺みたいな感じね。
そうそう。本当にめちゃめちゃいいイメージがあったんですよ。
さっきお店入ったときにきんぴらごぼう作っていたよね。すっごいいい匂い!
ふふふ。料理はいままでも作っていたんですけど、普通に若者が作るようなのしか作ってなくって。きんぴらごぼうは、わたしのおばあちゃんからこのお店を出すにあたって習ったんです。もともと料理の仕事をする人だったんで、すっごくおいしくって。
なるほど~。でも香りといい、調理の手さばきといい、いい感じですよ。
でも、毎回味が違うんですよ(笑)。おばあちゃんのが100点なら65点ですね。おばあちゃんのを持ってきて食べるとぜんぜん違うんですよ。だからまだまだだなって。
いっそおばあちゃんのを毎回持ってくるとか(笑)。セントラルキッチン方式で。
いや、そこは自分の味で! ぜひ食べてみてください!
ぼくは農業もやっているんで、この辺の味はうるさいですよ。(箸でつまんで)それではいただきます~。あっ、甘めですね。おいしい!
やったー! おばあちゃんが日本人は甘めが好きだからって、砂糖をけっこう入れる人で。今日は高得点が出ましたね(笑)。
スナックでママを知ってアイドルライブに来る人も
いま芹那さんはソロアイドルをやりながらスナックもやってるけど、アイドルとスナックの共通点ってある?
どちらも「いっぱいしゃべる」ってのはありますよね。アイドルだったらチェキ撮ったりして1分間しゃべったりするんですけど、その時は「来てよかったな」って思って帰ってもらいたいと思っています。スナックの時は、アイドルの時みたいに1分間全力で! というよりは、自分も出来るだけリラックスして、サービス精神旺盛すぎる感じではないようにしていますね。ずっとこのお店を続けていきたいから、自分が苦じゃない方法でってのは考えます。
気を張りすぎないようにしないと続かないよね。やっぱりお客さんはファンの人が来るの?
最初の方はファンの人が多かったんですけど、最近は「スナックが好きでアイドルも好き」ってお客さんが増えてきて。スナックらしくなってきたんじゃないかなって思います。ライブでもそういうお客さんが来てくれるようになって、ちょっとムードが変わってきました。なんか明るいっていうか、夜の雰囲気が漂ってきて(笑)。
スナックのお客さんがライブを見てくれるのはうれしいねー。
今やっと両方にいい効果が出てきたなってところですね。わたし、スナックをやる前から「スナック-芹奈-」っていうイベントをやっていて、80年代の歌を歌ったり、おしゃべりするイベントなんですけど、イベントを始めたころは最初はぜんぜんスナックぽくなくって。途中でわたしがカウンターに入ってドリンクを作るコーナーもあるんですけど、あんまりスナック感はなかったんですね。でも最近はスナックのお客さんがそっちにも来てくれて、ドリンクタイムが大盛況になって、最初の目標に近づきましたね。いい流れかなって思っています。
芹奈さんのファンはあんまりお酒は飲まないんですか?
そうなんです。だから日替わりのおかずにごはんセットをつけて、定食みたいにして食べに来る人が多いですね。
ぼくの奥さんも居酒屋さんやってるんだけど、お酒を飲まないけど晩御飯のために来るって人はけっこういるんですよね。居心地がよくて、人に会いに来るっていう。またアイドル物販とは違う楽しみで来てくれているのはいいですね。スナックといえば、だけどママにお酒ごちそうしたりは出来るんですか?
大丈夫ですよ。20歳になって飲み始めたんですけど、めちゃめちゃ飲めるみたいで(笑)。ただ遠慮してる人も多くて。
気分的にアイドルにお酒をごちそうするとか「いいのかな?」ってのはあるよね、オタクの心境として(笑)。
でも常連さんで「酔わないな」ってわかってきた人はごちそうしてくれますね(笑)。やっぱり同じテンションで話した方がいいから、ぜんぜん飲ませてくださいって感じです(笑)
アイドルと乾杯できるのはうれしいよね! ぜひ皆飲ませてほしい(笑)。きんぴらの話は出たけど、飲み物もこだわりってある?
そうですね~、ハイボールとかグラスの口のところにレモンを塗ってから絞って入れたりしてますね。ひと口目にレモンを感じさせたくて。
お~、ひと工夫してますね。
作るからには絶対おいしくしたいなというのはありますね。レモンサワーも本物のレモンで。
こういうお店だとね、青汁サワーってすごく出ますよ。
そうなんですか! メモっておきます! いいかも。わたしも飲みたいもん(笑)。
この歳になるとお酒飲むんだけど、健康にも気をつけたくなるんだよね。ヒットしたら赤いモヒカンの人がいってたなって思い出して!(笑)
*その後、ヤングスナック-芹奈-では青汁サワーがメニューに!
30代〜40代くらいの「ヤングおじさん層」に来てほしい
── スナックのママをやってみて大変に感じたことってあります?
毎日、買い出ししてからお店に来るんですけど、わたしいつもギター背負ってくるんですよ。だから背中にギター、両手にビニール袋引っ掛けて来るのが結構重くて(笑)。ビニール袋を毎日手首に食い込ませてお店に来ています。
両手首にリストバンドしておくと、食い込んでも痛くないですよ(笑)。ギターはお店で弾いたりするんですか?
お店が開くまでの時間に練習したり、あと路上ライブをやったりするんですよ。
そうなんですね。あとアイドルって、ライブや練習がある日もあればない日もあったりで不定期じゃない。そういう意味ではずいぶん生活リズムはきっちりしたんじゃないですか。
そうですね。わたしは火曜日から土曜日までがスナックの仕事で、だいたい午前中のうちに起きて、お店が終わって帰って寝てって感じです。そこは睡眠時間はとれてると思うんですけど、土日でアイドルとしてイベントをやってるんでそこが早起きしなきゃいけないのでつらいですね(笑)。
そういえばお店の名前の「ヤングスナック」ってなぜ「ヤング」なの?
わたしが若いからって思われがちなんですけど、普通のスナックが60代〜70代のお客さんが多いと思うんですけど、わたしは40歳くらいのサラリーマンの方がすごく好きなんですよ。だから基本的に30代〜40代くらいのヤングおじさん層に来てほしいっていう。わたしのパパ世代ですね。そういう意味でのヤングです。それより若くても上でもいいんですけど(笑)。
「ヤングスナック」、いいですよね、どこかB級感あって(笑)。「芹奈」って名前が高級感あるんで、バランスいいんじゃない。お店のロゴの字は誰が書いたんですか?
デザイナーの人なんですけど、「こういう感じにしてください」って伝えて、細かくデザインしてもらって。この辺りのお店は、こういう白に黒みたいなシンプルな看板が多いんですよ。そういう百軒店の雰囲気も意識してみました。
このあたりの百軒店の雰囲気もいいですよね。渋谷のど真ん中なんだけど、表の通りとはちょっと違った泥臭さとおしゃれさがあって。目の前は神社だし。
商店街の方ともつながりができて、すごい面白いんですよ! 百軒店商店街って。すごいおいしいお店がいっぱいあって、商店街のつきあいみたいなのも新たに増えていって楽しいです。
O-EASTやWEST、ASIAといった人気ライブハウスもすぐ近くだもんね。
そうなんです。最近はライブの後にお店にきてくれる人が増えてきて、ギュウギュウで皆座ってもらったりして。
打ち上げ場所にいい距離だもんね。アイドルだけじゃ出来ない、いろんな人脈が生まれるのがスナックならではだね。お酒の場の力は素晴らしい!
目標は全国に「ヤングスナック○○」チェーン化!?
この先、芹奈さん的にはスナックが繁盛してもアイドルは並列して続けていくつもりなの?
そうですね。ママが本業になるのもわたし的には違うんですよ。もともと思っていたのが「40歳でスナックを出す」だったんです。1回、20代で売れてからその時の当時の話をファンの人と話したいスナックだったんですね。だから、このままスナックばっかりが繁盛していって、ライブ活動がちゃんとできなくなるのも違うかなって。
なるほどね。今はちゃんとアイドルもスナックも並列でやりたい。
わたし、タレントとかもやりたいんですよ。人として売れたい、みたいなのがあるんで。それがアイドルでもいいし、タレントでも何であってもいい。
人気者になりたい。
そうですね、普通に人として『ヒルナンデス』とか出られるようになるのが目標なので(笑)。そのためのアイドルで、そのための音楽とスナックでもあれば。
『ヒルナンデス』に出て、夜スナックだと寝れなくなっちゃうんじゃない?
でもいま番組は見られているので、その時間は出られるということだと思います(笑)。
では今後スナックのママとしての目標は?
とりあえず長く続けたいですね。安定させたいというのはあります。余裕がないなかでやっていると、いろいろ考えちゃうじゃないですか。今日の売上はあと何人くらいで達成かなとか(笑)。そういうのを考えないでいいくらい毎日繁盛できればいいな。でも、あんまり繁盛しすぎて居酒屋さんみたいにワイワイしちゃうとイメージ違うんで、ほどよく入ってちゃんとスナックが継続できたらなって。
「スナックらしさ」ってのは大事にしていきたいよね。じゃあ、でっかい夢としては?
そうですねえ、系列店を作りたいっていうのはありますね! 大阪とかにヤングスナックやりたい人がいたら「ヤングスナック○○」って名前つけて出したいです(笑)。
フランチャイズ化だ。アイドルでいえばAKB48みたいな(笑)。
このお店が繁盛しても、ここを大きくしたいとは思わないんです。ひとりじゃ足りなくなっちゃうから。それにわたし、友達少ないんですけど、アイドルでお店を出したいって人結構いるんですよ。特にソロアイドルってしっかりしている人が多くて、自分で自分のなりたい像を持っていて、それを組み立ててライブをしている人が多いから、お店もそこは同じだと思うんです。
それにアイドルの資質として「人が好き」ってのはあると思うんですよ。人が嫌いだと出来ない仕事じゃないですか。握手会とかできないもの。
そうですよね。
人と人が出会って会話して喜んでもらえるのが好きなはずだから、アイドルがスナックってぜんぜんできるんじゃないのかな。AKB48が名古屋、大阪、福岡と作ったみたいにヤングスナックも全国に広まってほしいですね。そしていずれ世界に(笑)。
取材終了後、ギュウゾウさん曰く、
兼業っていうのは、ぼくらの時代だと「芸事が乱れる」とか言ってあまり歓迎されなかったけど、今は自分のやりたい音楽をやるために本業を持つ、てことも珍しくないよね。専業にしてしまうと、いろんな戦略に埋もれてしまったりして、好きなことをやりづらくなる部分も出てくるし。芹奈さんみたいにスナックをやって、アイドルやって、路上でライブなんかもやったりっていうのは、いろんな可能性を増やすことですよね。スナックをやってることで取材に来てもらえて、それがタレント業につながることもあるし、その逆もあるわけで。好きなことをいっぱいやってほしいですね!
と励ましの声をいただきました。
これからのアイドルの形の最先端、かもしれない「ヤングスナック-芹奈-」、アイドルファンもスナックファンもぜひ一度飲みに行ってみてください!
お店情報
ヤングスナック-芹奈-
住所:東京都渋谷区道玄坂2-19-11-2F
電話番号:03-6416-0383
営業時間:17:00~23:00(LO)
火曜日~土曜日は芹奈ママ、月曜は一日ママ、日曜日定休
※この記事は2017年10月の情報です。
※金額はすべて税込みです。