手頃でどこかジャンキーだけど、ちょっとした隠し味一つで美味しさが変わる、奥深き料理「ナポリタン」。
例えば、醤油やマヨネーズが意外な相乗効果をもたらすことは知られつつあるが、ナポリタンとの相性面で未開拓の調味料は、まだまだあるはず。
今回は、100円ショップで手に入る液体調味料で、ナポリタンを超手軽に美味しくする実験の様子を、レポートしていく。
100円ショップでナポリタンに合いそうな液体調味料を集めてみた
皆さんにお聞きしたいです。
— 田中 健介【日本ナポリタン学会会長】 (@aletta1500gt) 2020年10月9日
100均で一番調味料が充実しているのは次のうちどちらだと思いますか?
今回、主要100円ショップの中で調味料が充実しているところはどこか、筆者のTwitterにてアンケートを取った。
その結果、「ローソンストア100」に6割近くの票をいただいた。確かに生鮮食品や弁当・惣菜類があるなど、100円ショップの中でもっとも食品に強いイメージがある。
早速近所の「ローソンストア100」へと足を運び、ナポリタンとの相性が良いであろう液体調味料を集めてみた。
上記画像を見てもらった限りでは、「エッ、これも液体調味料なの?」というツッコミもいただきそうだが、追って説明していく。
▲筆者自らナポリタンを作ってレポートする
まずは液体調味料を使用する前に、ベースとなるナポリタンの作り方を記しておく。
材料(1人分)
- スパゲッティ 200g
- 玉ねぎ 50g
- マッシュルーム(缶) 20g
- ベーコン 20g
- ピーマン 10g
- トマトケチャップ 100g
- 塩・こしょう 適量
- サラダ油 適量
- お酢 適量
具材は玉ねぎ、マッシュルーム、ベーコン、ピーマンといたってシンプル。
炒め油は、液体調味料の風味を邪魔しないサラダ油とした。
2.2㎜の太麺スパゲッティをあらかじめ茹でておき、茹で上がった麺は水で洗い、ぬめりを取る。水を切った後、サラダ油と少々のお酢を全体にまぶし、冷蔵庫で一晩寝かす。
▲適度な大きさに切り揃えた具材たち
▲ナポリタンには絶対に欠かせないトマトケチャップ
サラダ油を熱したフライパンにスパゲッティを投入、塩・こしょうを加えて具材と麺を炒め、トマトケチャップで和える。
そして、ここに先ほど調達してきた液体調味料を加えていく。
では、数種類試した液体調味料の中から、特に美味しかった5つをご紹介しよう!
トマトケチャップとの相乗効果が生まれる調味料はコレだ!
まずナポリタンに合う液体調味料を選ぶにあたって、調味料とナポリタンの相乗効果を追求すべく、(ちょっと苦手な分野だが)化学的に考えてみた。
そもそも、ナポリタンの美味しさの本質はどこにあるのか。
まず、ナポリタンと言えばトマトケチャップだろう。トマトにはうま味成分の「グルタミン酸」が多く含まれ、たくさんのトマトをぎゅっと濃縮したトマトケチャップには、さらに多くのグルタミン酸が含まれている。
この豊富なグルタミン酸が、具材のベーコンなどの肉に多く含まれる「イノシン酸」、マッシュルームにも含まれている「グアニル酸」と合わさることで、うま味の相乗効果をもたらしているというのだ。
(参考:カゴメトマトケチャップ 「トマトケチャップのおいしい話!」)
ということであれば、調味料を使ってイノシン酸やグアニル酸を増やすことで、さらに美味しいナポリタンに仕上がるではないかと考えた。
1.三洋通商 マッシュルーム缶(汁)
まずはキノコ類に含まれるグアニル酸をナポリタンに投入しようと考えた時に思いついたのが、ベースのナポリタンの具材としても使った「マッシュルーム缶」の“汁”である。
これまでは固形部分だけを使用して汁は捨てていたが、この汁にこそマッシュルームのうま味が溶け出しているのではないかと考えた。
予想外に汁が黄色くて驚いたが、ここにうま味が隠されていると信じる。全体量は184g、マッシュルーム自体の固形量が100gと記載されているので、84gの汁が取れたことになる。
84gの約半分量、42gをナポリタンの仕上げに回しかけてみる。
マッシュルームの汁が加えられたナポリタン。やや黄色いか。気のせいか?
実食する。
マッシュルームの汁を吸いこんで、麺自体のうま味が増している。やはりトマトケチャップとの相乗効果が生まれているようだ。
他の調味料と異なるのは、塩分過多にならないこと。塩分を追加せずに、味を強化できるのだ。
筆者はここまで多くのナポリタンを作っては食べてきたが、なぜ今までマッシュルームの汁に着目しなかったのだろうか。そう思わせるほど、フォークが進んだのであった。
ちなみにエリンギ缶というのもあったので、同じように汁だけを加えてみたが、これも美味しかった。具がマッシュルームでエリンギの汁というのがちょっともったいなかったのだが……。
※エリンギはあとで別料理に使って美味しくいただきました
2.バリューライン とんこつ醤油鍋つゆ
グルタミン酸とグアニル酸の相乗効果は確認できた。次は主に動物性の食材に含まれている、イノシン酸との相乗効果だ。
そこで動物性の出汁が詰まった、ストレートな鍋つゆに着目した。
まず1つ目はバリューラインの「とんこつ醤油鍋つゆ」。ローソングループのオリジナルブランド・バリューライン(VL)が永谷園と共同開発したもの。2人前のコンパクトサイズが100円で買えるなんて。なんだか楽しくなってきたぞ。
とんこつ醤油のつゆをおたまで1杯、ナポリタンの仕上げに回しかける。
「とんこつ醤油鍋つゆ」が加わったナポリタン。
実食する。
とんこつスープとナポリタンなんて、絶対合わないと思ったでしょう? なかなかどうして、グルタミン酸とイノシン酸の相乗効果はしっかり出ているのだ。とても味わい深い。
乳化されたスープとトマトケチャップが絶妙に絡み合い、全体的にまとまりが増しているようにも感じる。
筆者はさほど気にはならなかったが、ややとんこつスープ特有の癖を感じるので、気にする人は投入量を減らしても良いかもしれない。
3.バリューライン 鶏塩鍋つゆ
同じくバリューラインの「鶏塩鍋つゆ」。鶏ガラスープを隠し味にしたナポリタンを提供するお店は意外と数多いから、間違いないだろう。
こちらは透き通ったスープである。これもおたまで1杯、ナポリタンの仕上げに回しかける。
「鶏塩鍋つゆ」が加わったナポリタン。視覚的には何の変化もない。
だいぶお腹がいっぱいになっているが、実食。
うん、鶏ガラは間違いない! 「とんこつ醤油鍋つゆ」に比べると癖もなく、見事に全体の味が引き締まっている。鶏ガラにはイノシン酸だけでなくグルタミン酸も多いので、トマトケチャップのグルタミン酸ともうまく調和しているようだ。
他にもまだある、ナポリタンにぴったりな液体調味料!
4.エスビー食品 きざみバジル
チューブ調味料の登場である。液体というよりもペーストの部類になるかもしれないが、筆者は液体とみなし、使わせていただく。
エスビー食品はワサビ、カラシなどの香辛料以外でもチューブ調味料が充実していて、「きざみパクチー」や「きざみレモン」なども存在する。今回はナポリタンとの相性という点で、この「きざみバジル」を試してみたい。
ナポリタンの仕上げに、「きざみバジル」を大さじ1杯混ぜる。どうでしょう、液体ですよね!?
「きざみバジル」を加えたナポリタンは、バジルの葉がところどころに散りばめられ、視覚的にも食欲をそそられる。
実食。
トマトケチャップの甘さとバジルのさわやかな香りが相まって、本来のナポリタンから数段グレードアップしている。
カフェなんかでこれが出てきたら普通に「おおっ!」ってなるだろうな。バジルの香りはそれだけオシャレな気分にさせてくれる。
ちなみに、ナポリタンの元祖とされる横浜の「ホテルニューグランド」のナポリタンは、トマトソースベースにバジルが加えられているので、そう考えると100円調味料一つで由緒正しきナポリタンに近づくことができたと言える。
5.マービン チリソース
最後は、ピリ辛なナポリタンを求める方のために「マービン チリソース」をオススメする。
元タイ王室宮廷料理人、タイ王国きっての一流著名コック「シェフ・ケン」監修のチリソース風調味料なのだとか。そんなスゴいものが100円ショップで買えるなんて! 楽しいなあ。
こちらも仕上げに大さじ1杯混ぜる。これは間違いなく液体だ!
「マービン チリソース」が加わったナポリタン。やや赤みが増したか?
実食する。
大さじ1杯のみだが、なかなかの辛さだ。
ナポリタンにタバスコはお馴染みであるが、タバスコの原材料は食酢・赤唐辛子・食塩のみである。この「マービン チリソース」の原材料には、唐辛子だけでなくトマトやにんにくなどが加えられているので、タバスコ同様、あるいはそれ以上にトマトケチャップのナポリタンと相性が良いと感じた。
トマトのうま味、いわゆるグルタミン酸がさらに高められ、にんにくのパンチが加わる。それらの原材料のおかげで、辛さの中にマイルドな味わいを感じられる。
本来ならば鶏のから揚げやフライドポテトをディップすると美味しいエスニックな調味料なのだが、ナポリタンでも十分にそのポテンシャルを発揮していた。
おわりに
もうだいぶフライパンを振り疲れ、何皿ものナポリタンを食べてお腹いっぱいではあるが、楽しく取り組むことができた。
今回改めて伝えたいのは、美味しいナポリタンを作る鍵は、うま味成分の相乗効果にあるということだ。
そして100円ショップの液体調味料は、安価な原料を使っているから安いわけでは決してない。普通のスーパーで1リットルいくらで買うようなものを、100円で買えるようにコンパクトなサイズにしているからだ。
そしてその種類は和洋折衷、実に幅広く、今回のような実験にもってこいである。これは筆者にとっても再発見となった。
最後に、「粉末調味料」でも同様の実験を行ってみたので、気になる人はこちらの記事もどうぞ。
書いた人:田中健介
横浜発祥と言われるスパゲッティナポリタンを愛し、2009年より「日本ナポリタン学会」会長として、横浜を中心にナポリタンの面白さを発信する。著書に「麺食力-めんくいりょく-」(2010年、ビズ・アップロード)、連載に「はま太郎」(星羊社)の「ナポリタンボウ」(2017年〜)など。