単純なようで、作ってみると奥が深いナポリタン。
若い時は、トマトケチャップのみの味付けでも十分美味いと思っていた。
しかし年齢を重ね、人生の味わいを深めていくことと並行して、ナポリタンにもプラスアルファの何かを求めようとするのは、決して筆者だけではないはず。
そこで今回は、家庭で作るナポリタンに“ひとつまみ(=粉末の調味料)”を加えるとどうなるか、ナポリタン“ひとつまみ”世界選手権と称して、個人としての検証結果をご報告する。
ナポリタンを作る読者の皆さまにとってのヒントになればと思う。
おうちで“ひとつまみ”世界選手権、レギュレーションを発表
まずは開始前に、ベースとなるナポリタンはどんなものかをお知らせしておきたい。
▲筆者はこう見えても食品衛生責任者を所持し、累計3,000食くらいナポリタンを提供したことがあるのだ
【材料】(1人分)
- スパゲッティ 200g
- 玉ねぎ 50g
- マッシュルーム(缶) 20g
- ベーコン 20g
- ピーマン 10g
- トマトケチャップ 100g
- 塩・こしょう 適量
- サラダ油 適量
- お酢 適量
具材は玉ねぎ、マッシュルーム、ベーコン、ピーマンといたってシンプル。
炒め油は“ひとつまみ”の風味を邪魔しないサラダ油とした。
今回は、2.2㎜の太麺スパゲッティを前の晩に茹でておく。一晩寝かすことで麺の中心まで水分が行き渡り、調理する際に味が浸透しやすくなるのだ。
茹で上がった麺は水で洗い、ぬめりを取り、水を切る。
水を切ったらサラダ油を全体にまぶし、
さらにお酢を少しまぶす。
これによって一晩寝かせても麺が傷まず、味を引き締める効果もある。
そして、冷蔵庫で一晩寝かす。
適度な大きさに切り揃えた具材たち。
トマトケチャップ。
塩・こしょうを加えて具材と麺を炒め、トマトケチャップで和える。
そして、ここに“ひとつまみ”を加える。
それでは、今大会のレギュレーションを記しておく。
レギュレーション-1.“ひとつまみ”はあくまで粉末調味料の比喩であり、今大会での使用は共通で2gとする。
レギュレーション-2.“ひとつまみ”する調味料はあくまで一種類のみの使用とし、他のトッピングなど別のものを追加することはできない。
エントリーしたのは、以下7カ国が誇る、計8種の“ひとつまみ”。
① インドネシア
② 韓国
③/④ 日本
⑤ グアテマラ
⑥ 中国
⑦ フランス
⑧ アメリカ
それでは、ナポリタン“ひとつまみ”世界選手権、これより開幕!
いよいよスタート! 実況&調理も筆者が担当
1.シナモン[インドネシア]
まずは、洋菓子などでは重用されるシナモン選手が登場。
あらゆる国々で生産されているスパイスだが、生産量世界一ということでインドネシア代表に。
シナモン、投入!
洋菓子に抜群のインパクトを与えるシナモンが、ナポリタンではどんなケミストリーを起こすのか。
▲見た目にはそんなに変化はないか……いや、若干褐色っぽい?
実食。
トマトケチャップの酸味の中で、シナモンの香りが広がってゆく! なかなか大人な味わいだ。
そもそも多くのトマトケチャップにはシナモンが使われているようなので、華やかな香りがさらに強化された感じ。これはなかなかの高ポイント!
2.粉唐辛子[韓国]
続いては、粉唐辛子選手。
キムチなどに用いられるこのアイテムは、まぎれもなく韓国代表だ。
粉唐辛子、投入!
トマトケチャップのオレンジに、粉唐辛子の赤が入り混じる。
▲色彩的には良い感じだ
実食。
辛い! これは辛い!
ナポリタンにはタバスコなどのペッパーソースがよく合うことは知られている。それらには酢が入っているので、辛さの中にあるマイルドな味わいがナポリタンの甘みと調和してくれるのだが、この粉唐辛子はダイレクトに辛みが襲ってくるのだ。
2gで相当辛い。筆者的には1gでちょうど良さそうだが、辛さのリミッターは人それぞれなので、これにハマる人もきっといるだろう。
恐ろしいが、これはこれでアリだ。
3.うま味調味料[日本]
さあ、我らが日本代表、うま味調味料選手!
白砂糖や食塩とは異なる形状の結晶が、どこかフェチ心をくすぐる。
いろいろ賛否ある調味料ではあるが、現在ではサトウキビなどの糖蜜を発酵させて作っており、安全性も高まっている。技術の日本が生み出した賜物だ。
うま味調味料、投入!
筆者も普段家庭ではこの"白い粉"を使用することはないので、なんかドキドキする。
▲色彩的には何の変化もない
実食。
ああ、うま味調味料だけに、うま味がすごい(全然シャレにはなっていない)。
美味いんだけど、どこかズルい。
外食先でいただいたナポリタンの味がする。あの店とこの店は、きっとコレ使っているな……。
4.魚粉[日本]
お次も日本代表、魚粉選手の登場!
魚粉の中でも、もっともポピュラーなイリコ(煮干し)だ。
古くから日本料理の出汁の素材として使われてきたこのアイテムは、日本式洋食のナポリタンとどんな相乗効果を生み出すのか?
魚粉、投入!
煮干しらーめんで有名な青森では、「ニボリタン」としてメニューに出している店もあるのだとか。これは期待できます!
▲魚粉を混ぜたことで、全体的に黒みがかったナポリタンとなった
実食。
こ、これは!
魚粉の香りがいっぱいに広がるが、それだけではない。
トマトケチャップが本来持つうま味と、魚粉のうま味が合わさってフォークが進んでいくではないか!
それにどういうわけか、スモークされたベーコンとの相性がとても良いのだ。いいぞニッポン!
魚粉好きの人は、追加でさらに後がけしても良いと感じた。
5.ナツメグ[グアテマラ]
肉料理でよく使われるナツメグ選手。
シナモン同様、こちらも世界一の生産量※を誇る中米・グアテマラ代表とした。
※メース・カルダモンを含む生産量
スイーツ寄りなスパイスのシナモンが合うのであれば、おかず寄りなスパイスのナツメグも合うに違いない。
ナツメグ、投入!
毎度同じような画像で飽きてはいませんでしょうか?
▲前出のシナモンに比べると粗挽きなので粒感がみられる
実食。
ナツメグの香りだ。ただ、意外なことにシナモンほどフィットしない。
香りが強すぎるのに加え、何かが足りないのだ。
そう、ハンバーグで馴染みがあるスパイスなだけに、ひき肉が欲しいのだ。ウインナーか、やはりハンバーグか……。
何かをトッピングするとすごく昇華できそうな予感はする。
と、そこで、近所の肉屋で買っておいたメンチカツが乱入!
ナツメグの強さが中和され、丁度良くなった。メンチカツ+ナポリタン、そんでもってナツメグ。いいなぁ。すごくいい!
すごくいいのだが、前述のレギュレーション-2に抵触(トッピング追加)してしまった……。
※ナツメグを5g以上摂取すると中毒症状を引き起こす危険性があります。過剰摂取には気を付けましょう。
6.中華スープの素[中国]
さあ、アジア勢の強豪、中国からは中華スープの素選手が登場。
これ一杯で本格中華が自由自在な万能調味料、優勝候補か?
中華スープの素、投入!
中華料理並みに強い火力で調理されるナポリタンには合いそう!
▲見た目の変化はないが、中華だけに心なしか炒めがしっかり決まった気がする
実食。
前出のうま味調味料よりも肉や野菜のエキスが含まれている分、こちらの方がまろやかで食べやすい。
また、食べていて中華感がある。トマトケチャップは本来中華料理でもよく使われるから、相性の良さは折り紙付き。
そして、さらなる中華感を求めてしまい……
ああっと! 胡麻油を追加してしまった!
トマトケチャップのナポリタンに中華感が倍増でこれは美味い!
……だがこれも、レギュレーション-2に抵触(トッピング追加)だ。
ちなみに、辛味を求めるなら辣油がさらにオススメ。
7.コンソメ[フランス]
いよいよ終盤に差し掛かってきました! 満を持して登場したのは、フランス代表・コンソメ選手だ。
日本には粉末のコンソメスープの素が存在するが、コンソメの元祖はフランスなので、フランス代表とする。
そもそも、スパゲッティ・ナポリタンは日本のホテルから生まれたと言われ、西洋料理のアレンジである。日本のうま味調味料や中華スープの素があってコンソメがなければ話にならないだろう。
コンソメ、投入!
美味いはずだ、きっと美味いはずだ。
▲コンソメを入れたところでも、特に見た目の変化はなし
実食。
……ナポリタンにコンソメが合うことは改めて分かった。
だが、2gはちょっと塩辛いか。
牛乳か何かでのばしたら美味いのかもしれないが、別アイテム追加はこれ以上できない……。
表彰台有力候補だっただけに、ちょっと残念。
8.脱脂粉乳[アメリカ]
そしてトリを務めるのは、戦後間もない食糧難の頃に、食糧援助のひとつとして多くの人々の命を救った、アメリカ代表・脱脂粉乳選手。
その味を知る人にとってはあまり良い印象はないようだが、現代においては製パンや製菓用として粉末で製造され、品質的にも衛生的にも当時に比べはるかに向上している。
脱脂粉乳、投入!
見た目は粉チーズをかけているシーンと変わらない。
▲ややクリーミーな色合いに
実食。
こ、これは素晴らしい!
ミルキーな香りが口いっぱいに広がり、ケチャップの酸味と脱脂粉乳の甘みががっちりスクラムを組んだ味わいとなっているではないか!
脱脂粉乳のその名の通り、油分がカットされている分、しつこくない仕上がりに。
「ナポリタンは乳製品との相性が良い」というセオリーが、脱脂粉乳でも証明された!
波乱のレース展開、以上で全選手の競技が終了致しました!
結果発表! 混戦を制したのは……?
いろんな“ひとつまみ”で試したナポリタン。いよいよ筆者の独断と偏見による結果発表!
3位:魚粉[日本]
まずは我らが“ネオ・ジャパネスク”、魚粉選手が堂々3位表彰台!
魚粉がラーメン、つけ麺と高相性なのはご存知の通りだが、スパゲッティという「洋麺」でも相性の良さを証明した。
魚粉好きな人ならば、出来上がった後にふりかけのようにかけていただくのも良し。今回はイリコ(煮干し)粉だったが、かつおぶし粉などでも面白いかと。
準優勝:シナモン[インドネシア]
2位表彰台は、“褐色の貴公子”シナモン選手!
2gルールとしては香りが強かったが、ナポリタンとの相性は良いと思う。1gくらいでちょうど良いかも。炒め油をシナモンと相性の良いバターにするとさらに引き立つでしょう。
具材などもシナモンに合うものをチョイスすると面白いかも。
優勝:脱脂粉乳[アメリカ]
そして“パワード・バイ・ミルク”、脱脂粉乳選手が見事優勝!
より美味しく仕上げるためのポイントとしては、そのままだとダマになり舌触りもザラつくので、水で溶いてから投入するのがオススメ。
炒めていくうちに水分が飛んできた頃合いが、ベストの食べごろだ。
以上はあくまで個人の感想ではあるが、この3選手以外にも粉唐辛子は辛みが大好きな人にオススメしたい。
うま味調味料、中華スープの素、コンソメは、ガツンとしたうま味が欲しい方には良いと思うが、普通のナポリタンでも十分に味があるので、塩分過多にご注意を。
・・・
今回ナポリタンに合う“ひとつまみ”を追求したことで、ステイホーム期間の鬱憤がほんのちょっぴりだが晴れ、楽しい時間を過ごすことができた。
粉末調味料は、内に眠る素材の良さを引き出す面白い存在である。
今回取り上げたほかにもナポリタンに合う“ひとつまみ”はまだまだあるので、いろいろ試して自分好みのナポリタンを是非見つけていただきたい。
(そして、この企画が好評であったならば、次は液体調味料で続編ができたらなと思う)
書いた人:田中健介
横浜発祥と言われるスパゲッティナポリタンを愛し、2009年より「日本ナポリタン学会」会長として、横浜を中心にナポリタンの面白さを発信する。著書に「麺食力-めんくいりょく-」(2010年、ビズ・アップロード)、連載に「はま太郎」(星羊社)の「ナポリタンボウ」(2017年〜)など。