
30数年生きてきて、仕事、恋愛、お金などのもろもろに惑わされる日々はまだ終わりそうになし!
孔子は「三十にして立ち 四十にして惑わず〜」と語ったそうですが、30半ばにして全然立ててないヨ……!
そんな某日、お世話になっている女性社長さんから「北乃」というお店を紹介してもらいました。とにかくおかあさん、と呼ばれるオーナーの人柄がやさしくてあたたかくて癒やされるのだと。
癒やしを求めて「北乃」へ行く
最寄りとなる地下鉄御堂筋線・中津は、梅田の次の駅。地下鉄を使わずとも梅田から歩いて来られる距離で、なおかつ静かなのがうれしいところです。

「上方割烹」などと書いてあるので「ハードルの高いお店なのでは……!?」と一瞬戸惑いますが、ためらわずに扉を開けるべし。
カウンターを中心に、奥には10名ほど入れる個室もあります。

……ん?

!!!!

!!!!!!
自ら「なでてー!」と寄ってくる、めちゃくちゃ人懐っこいわんこがいました。
出合えたらぜひなでまくってあげてください。尻尾ぶんぶん振って喜びます。

▲ジロウくん。ただただかわいくて、この時点ですでに癒やされてます
「北乃」は、調理場に立つ「おかあさん」と、ホールを担当する「マスター」のおふたりが取り仕切っています。

▲おかあさんからはやさしさがあふれ出てる
マスターは写真NGなのですが、おかあさん曰く「指名手配中やからね(笑)」。そんなふたりの軽妙なやりとりも楽しいのです。
「北乃」の夜メニューはたったひとつ。
おまかせ 2,000円
以上です。
これは30年前、おかあさんがお店を仕切るようになってから一貫したスタイルで、席に座ると自動的に一皿一皿出てくるシステムです。
「キライな物やったら食べなくてもいいし」とマスター。
もう全然、ハードル高くありません。
おまかせを食べながらいろいろ聞いてみよう
まずは小鉢が登場。

▲大根なます、たけのこの木の芽和え

ああー……おいしい。
料理はすべておかあさんが手がけたもの。出来合いのものはありません。
そもそもこちらのお店はどうスタートしたんですか?
マスター:50年ほど前、この辺りでおかあさんが喫茶店やってたの。それも80人ぐらい入る喫茶店。当時そんなお店ないやん、だからぼろもうけしたん。それで新地(北新地。大阪随一の歓楽街)でもやってみようかとキレイなお姉さんを雇ってクラブを始めたらさ、また当たっちゃったわけよこれが。
その後、お店が狭いからってんで新地本通りっていうメインストリートに移転して。そこでもやっぱり当たったんだけど、お酒の飲みすぎでおかあさんが糖尿病になっちゃってさ。新地のクラブを閉めて、このお店を本格的にやりだしたわけ。
当時は、新地の常連さんもたくさんいらっしゃったんでしょうね。
マスター:そうそう。カウンターなんかいつもいっぱいで。
おかあさん:昔はな。でも今はもうそんなもうけんでもええねん。お金持って逝かれへんからね。でも何もやらへんかったら、それはそれでしんどいから。
マスター:ボケるしね!
おふたりのやり取りはとても軽妙で、かつやさしい。聞いているこちらまでふんわりくるまれるような、そんな居心地の良さがあります。
と、2品目が登場。

▲鯛(タイ)のお造り
ぷりっぷりでこれまたおいしい……。
お造りはその日の仕入れによって変わってきます。
おかあさん:それはそうと、お姉さん今時分までずっと働いてるんやろ?
はい、そうですね。今が18時頃ですから……普段はもっと遅くまで働いてますね。
おかあさん:ほんまあ、結構おそまでやってんねんなあ。大変や。たくさん食べてな。体には気をつけなあかんで。
おかあさん、私、なんだか泣いてしまいそうです……! こんなに心配されることって一人暮らしの身ではほとんどありませんもの。
3品目は焼き物。

▲賀茂なすの田楽
ふっくら焼き上がったなすは、味がぎゅっと凝縮していてじつにうまい。お味噌の加減もちょうどよくて、お酒のアテにぴったりです。
お店に来られる方ってどういう人が多いんですか?
マスター:男性がほとんどだね。だいたいみんな1人客で、ゆっくり食べながら飲むって感じかな。単身で家であまり料理しない人とか単身赴任の人にとっては、うちのお店は考えなくても料理がどんどん出てくるから重宝してるみたいよ。
それはたしかにそうですよね。あと私もさっきからかなり癒やされてますし、おかあさんとしゃべりたいって人も多いんじゃ?
マスター:そりゃ多いよ。なんせ元新地のクラブのママだから。お客さんあしらいはたけてるよ。
おかあさん:いやいや、新地でもお客さんは私のこと”おかん、おかん”言うて、ママなんて言うてくれる人おらへんかったわ(笑)。
そして、4品目。

▲アボカドとチャンジャのマヨネーズ焼き
ビールとともにいただいていたので多少お腹に余裕がなくなってきましたが、そんな私にマスターが「コレ、熱いうちに早く食べて!」と迫ります。

……え、おいしっ!!
マスター:おいしいでしょ〜! これはうちの名物。アボカドのへこんでるところにチャンジャを入れてその上にマヨネーズをかけて、あとは焼くだけ。簡単だからアナタも家でやったらいいよ。
やわらかなアボカドの実がピリ辛チャンジャをまろやかに包みます。さらにマヨネーズが酸味とこってり感をプラスして、これひとつで大満足できる味わいに。
子どもから大人まで好きそうだし、これまたお酒に合います。
男心をつかむ方法ってあるんですか、先生!?
まだまだ終わりません、続いて5品目!

▲天ぷら
お腹にはわりとキテます。
サックリ揚がった天ぷらは塩でいただきます。

エビがしっかり太く大きくて驚きました。これが2本に、青じそ、玉ねぎなどが盛り合わせに。おいしいので箸は進むものの、お腹はもはやいっぱいです。
驚きの内容とボリュームに、「ふらーっと来た人はみんな”大丈夫なんですか?”って心配すんねん(笑)」とおかあさん。このおおらかさが、多くの人をとりこにしているに違いありません。
新地時代は男の人がほっとかなかったでしょうね! 今も男性客がほとんどとのことですし……。ぜひとも男心をつかむ秘訣(ひけつ)を教えて欲しいんですけど!!
私のゲスい質問に、おかあさんは少し考えてからこう答えてくれました。
おかあさん:そんな秘訣なんかナイわぁ。男の人でもお客さんでもケンカはするしね(笑)。しつこぉされることあるやんか、そんな時はきっぱりと「うるさいから帰れ!」言うたんねん。お姉さんもな、つなぎ止める方法なんてそんな便利なもんはあれへんから、下手な小細工なんてしないほうがいい。男の人相手でも言いたいことは言う、それが大事。

▲「それにな、男の人はそりゃ若い子の方が好きやで」。くぅ! きっぱり先生ここに現る……!
そして最後、6皿目がこちら。

▲メヌケ鯛の味噌漬け焼き
しっかり歯応えのある身と、香ばしい味噌の風味が最高。しみじみおいしいなぁ。
多少苦しくなりつつも完食! ほんと、大満足の内容でした。
これで物足りない人のために、ご飯とお味噌汁も用意しているのだとか。どこまでもサービス精神あふれるおかあさんです。
新地時代もさぞお客さんから好かれていたのでしょうね。
おかあさん:よぉ来てくれるお客さんはたくさんいたね。ただ、女の子を触ったりする人もいてたから、そんな人には「よそ行って」ってちゃんと言うてやんねん。「そんな触りたいんやったら、私の触るか? 私のやったら触ってもええよ!」って。そしたらお客さんも「ああ、おかんは怖い」って(笑)。
お客さんはもちろん、スタッフも周りの人も大切にするからこそ人徳がある。そんなおかあさんは、やはり今でも新地のママたちとつながりがあるそうで「うちにお客さんとしてみんなでブワーッと来て、飲みたい放題やってる(笑)」とのこと。
おかあさんの飾らない人柄やあたたかさは、一長一短では作れないもの。たとえキツイ言葉だったとしても、それが嫌味なく聞こえてしまうのがすごいところです。
何かを手に入れるための便利なパスポートなんてものはなくて、小さな幸せを抱きしめながら、足元を見て歩んでいくことが大切なのだろうなぁ……と改めて思ったのでした。
最近癒やしが足りない方、ぜひやさしいおかあさんとマスターに会いに行ってみてください!!

お店情報
北乃
住所:大阪府大阪市北区豊崎4-2−11
電話番号:06-6374-0380
営業時間:11:00〜13:00、17:00〜22:00
定休日:土曜日・日曜日・祝日



