
遠くから、車がやってきた。
閑静な住宅街を変わった色の車が走っている。
マットな青いボディカラーのワゴンタイプの外国車。
30年ローンを抱えた公務員は絶対に選ばないカラーだ。
街で見かけたら「きっと芸能人が乗っているに違いない」と思うことだろう。
なんとも自己主張の強い車だ。

▲車が止まって窓が開いた。本当に芸能人が乗っていた
「キコキコ」という音とともに窓が開いた。
顔を出したのは近頃話題のバーベキュー芸人「たけだバーベキュー」氏である。
バーベキューをネタに活動する、世界で唯一のバーベキュー芸人である。
お笑いよりもバーベキューの仕事の方が多く、冬場は仕事が激減して困るらしい。

▲自己紹介もそこそこに、おもむろにコンロなどが詰まったハッチを開けて何かを取り出そうとしている
聞けば、たけだバーベキュー氏は最近『超・時短燻製』(ワニブックス)という本を出したばかり。
「今日は燻製の素晴らしさを教えるためにやってきました!」
……なにやら宣伝の匂いがする。
続いてたけだ氏は本を取り出してアピールを始めたが、その様子は撮り忘れてしまった。大変申し訳ない。

▲そして人の家に入っていく
手にしている銀色の球体。
これが燻製の道具のようだ。
人の家に燻製器を持って入って行く。
その様子は2017年度版のヨネスケさんのようでもある。
光り輝く銀色の物体が目を引く。隣の晩ごはんの小道具がシャモジから燻製器に進化を遂げる日も近いかもしれない。

「コンパクトスモーカーです」

なんと手渡した。
ヨネスケさんであったら商売道具の放棄に近い行為である。
ちなみにこのコンパクトスモーカーは実勢価格3,700円程度。
インターネット通販などで簡単に手に入れることができる。

コンパクトスモーカーの進呈式が終わった。
「これで燻製の楽しさを知ってください!」
4,000円弱のスモーカーをもったいぶって進呈する。
まだまだ駆け出しの芸人であるたけだバーベキュー氏にとって痛い金額であるが、それ以上に「燻製を広めたい」という強い気持ちを感じる。

「お、冷蔵庫、意外と大きいな」
たけだバーベキュー氏は間髪入れずに冷蔵庫を開ける。
家主の女性は小さな悲鳴をあげた。
だが、思ったより冷蔵庫の中はきれいだし、食材は充実している。
まるで来客を予想したかのような整頓ぶりである。
突然、平日の昼間に家にきた侵入者が、燻製器を置いて冷蔵庫を開ける。
万が一この記事が本の宣伝だとしたら、この後は燻製の作り方の指導が始まるに違いない。

「燻製に適した食材がたくさんありますね!」
そう、これは燻製の楽しさを読者の皆さんに知ってもらうための記事なのだ。
小芝居が終わったところで、燻製を始めよう!
楽しい燻製の始まりだ
燻製すれば、どんな食材でもおいしくなるという。
ただし。
水分が多い食材は適していない。
食材の表面に水分が多いと、煙がうまくつかずに見た目も悪くなってしまうからだ。では、どんな食材でもおいしくなるのか試してみよう。

「コンパクトスモーカーを使います」
コンパクトスモーカーとは、言ってしまえば大きなふたつき鍋。
その中に網がある。

「この網に食材を乗せます」
網に乗せた食材を、煙でいぶす。
それだけ。
あまりに簡単すぎやしないか。
これには説明が必要だろう。
たけだバーベキュー氏が今回提案してくれるのは、「時短燻製」という新ジャンルの燻製方法なのだ。

「そして燻製チップを入れます。これが燃えて煙が発生して食材に香りがつきます」
燻製とは本来時間がかかるものだ。
ソミュール液と呼ばれるスパイスなどを配合した調味液で下味をつけ、時間をかけて食材を乾燥させ、煙で数時間燻してようやく完成する。
私たちが普段口にしているベーコンなどはそうやって作られている。

▲使うチップの量はほんのひとつまみ
燻製はおいしいが、作るのが面倒くさい。
それが一般的なイメージだろう。
だが、今回たけだバーベキュー氏が教えてくれるのは「時短燻製」。
時短とうたうだけあって、時間はかからない。
ここで疑問が湧く。
燻製とは本来保存を目的としているが、この「時短燻製」は保存という目的を最初から放棄しているようにも思える。では、なんのための燻製なのか。

「うまいからに決まってるでしょ」
ご存じのように燻製の香りは、食材をおいしくする力を持っているのだ。
たけだ氏はこう言う。
「甘、辛、酸っぱいなどの基本の味覚に、燻味を追加したいんです」
そう、たけだ氏は「調味料としての燻製」=「時短燻製」を提案しているのだ。
たしかに燻製の風味が簡単に楽しめたらこれ以上に愉快なことはない。
そして、「時短燻製」ならそれができる。
所要時間はわずか5分。
「魔法だ」「これは煙の魔法だ」とスタッフがざわつき始めた。
家主の女性はモジモジしている。
「時短燻製」、さっそくやってみようではないか。
王道のベーコン・チーズなどを燻製する

▲ベーコンとチーズは燻製の王道中の王道
元から味がしっかりついているこの2つの食材はスモークに適している。
定番中の定番、言うなれば燻製界のエース。
のちの200勝投手である。

▲チーズとベーコンを丁寧に並べて火をつける。スモークチップを忘れずに
最初に鍋を強火で熱して、スモークチップから煙が出てきたら中火にする。
火をつけてから煙が出るまでわずか30秒ほど。
そう、火をつけたらあっという間に燻製がスタートするのだ。

チップから煙が出て、燻製ぽくなってきた。
火を弱めてふたをしよう。

はい、ふたをした。

5分後に完成した。
あっという間に完成である。
5分後にふたを開けたたけだバーベキュー氏の表情は余裕に満ちていた。
なぜなら「時短燻製」が失敗することはほとんどないからだ。
完成品がこちら。

▲あめ色の宝石のようである。ワインを持ってきてくれ

▲ベーコンにはスモーキーな味わいがプラスされた
燻製卵にも挑戦しよう

燻製卵も簡単にできる。
燻製直後は食材からでた水分が卵の表面についている、いわゆる「汗をかいている」状態になる。
これはキッチンペーパーなどで拭き取れば問題ない。
これ以上燻製すると水分は飛ぶが、白身が硬くなりすぎてしまう。

そしてあっという間に完成。
美しい!
塩をつけても、つけなくてもおいしい。
牛タンもスモークしよう。
肉は軽く塩を振ってしばらく放置。
水分が出るので、それをキッチンペーパーで拭いてからスモークするといい。
あっという間に、しっとりとしたスモークタンの出来上がりである。

▲塩をかけたことで下味がつく

▲ふたを開けると煙が立ち上がる。これがまた楽しい

▲はい、完成。塩胡椒とレモンでいただこう
簡単すぎる。
手順を再確認しよう。

▲「①チップを入れる、②食材を網に乗せて火にかける、③煙が出たらふたをする」。以上である
一風変わった食材を燻製する
だが、ここまで登場した食材は燻製界ではおなじみのものばかり。
次に、あまり見慣れない食材も燻製してみよう。

▲カマンベールチーズをホールで行ってみよう
カマンベールチーズもおいしくなりそうだ。
アルミホイルをチーズの形に合わせて成形しよう。
その上にチーズを乗せて燻製する。
こうすればチーズが溶けても大丈夫。
さらに、燻製前にチーズの上に切れ目を入れておく。こうすることで、燻製と同時に食材に熱が入ると、チーズフォンデュのような仕上がりになるという。

▲わずか5分で、中はトロトロ。絶品燻製カマンベールの完成である
おいしそうな燻製がどんどん出来上がる。
あとでまとめて食べるので、もうしばらくお付き合いください。
続いて、シラスに挑戦しよう。
シラスは冷蔵庫でラップにかけずに置いておくと、いい具合に水分が抜けて上手に燻製できる。

▲アルミホイルの上に薄く敷き詰める。できる限り煙に触れる面を多くするのだ
火をつける。
煙が出てきたところでふたをする。
このシラス、間違いなくうまくなる気がする。
数回燻製をしただけなのに、だんだん感覚がつかめるようになる。
「時短燻製」は難しくないのだ。

▲このシラスはほんの少し長めに火を通した
茶色く香ばしく仕上がったシラスたち。
まるでタタミイワシのような見た目になったのは、水分が上手に抜け、美しい茶色に色づいているからだ。
これ以上、火を通したら焦げついていたかもしれない。
このさじ加減が楽しいのだ。

「燻製は難しくありません」
最後にとっておきの食材を燻します!
たけだバーベキュー氏の最大の特徴……それは飽くなき探究心と、失敗を恐れないハート。
燻製の専門家たちが絶対にトライしないであろう食材も、「時短燻製」するとうまくなるというのだ。
どんな食材にチャレンジするのか。

▲パ、パウンドケーキ?
燻製本の撮影中に。
差し入れのお菓子を気まぐれに燻製したというたけだ氏。
仕上がった茶色いパウンドケーキを口にに入れた瞬間、そのうまさに飛び上がった。
洋酒を使っていることなどが奇跡的に化学反応を起こして、ウイスキーのアテにもなる最高のつまみに変身を遂げたのだ。

▲いい色だ
洋酒の香りに煙の風味がプラスされ、さらに熱が入ることでいい具合に生地の水分が抜け、味わいがぎゅっと濃縮された。
このスモーキーな味わいは、ウイスキーと抜群の相性を発揮することだろう。
そして最後にこちらを燻製しよう。
そう、某有名インスタントカップ焼きそばである。

▲カップ焼きそば大好き芸人です
カップ焼きそばを燻製する。
その突拍子もないアイデアを聞いただけで、人はワクワクする。
荒唐無稽だと人は笑うだろうか。
だが、たけだはやるつもりだ。
なぜ彼はカップ焼きそばを燻製しようと思ったのか。
理由は明快だ。
「僕、カップ焼きそばが大好きなんですよ!」

燻製前に味見と言いながらパクパク食べている。
「うん、おいしい!」
普通に食べてもおいしいけれど、燻製したらもっとおいしくなるに違いないという自信が彼にはあった。
彼は煙の魔法使い。
かやくを入れ、お湯を入れ3分後に湯切りしたら、ソースを混ぜる。
通常のカップ焼きそばと同じ手順を踏まえる。

それを先ほどと同じようにアルミホイルで作った容器に入れる。
これを燻製する。
5分後、煙の魔術師がふたを開けると見事にカップ焼きそばの燻製が出来上がっていた。

「カップ焼きそばの燻製」の完成である。
見た目はそんなに変わらないが味はどうか。
さあ、実食だ!

いただきます!
出来上がった燻製は計8品。
どれもおいしそうなものばかり。

▲煙の魔法にかけられた8つの宝石
まずは牛タンから。

うん。おいしい!
スモーキーフレーバーが乗った牛タンは、ちょうどいい火の入り具合で、みずみずしさもある。
かみ締めると、肉汁とスモークに香りが口いっぱいに広がる。
レモンとの相性もいい。

これ食べたい。
家主の女性はずっと気になっていたというカマンベールに手を伸ばした。

いやん、おいしい!
ひと口食べた瞬間、家主の女性は顔をほころばせた。
トロッとしたチーズの口当たりと、豊かな燻製の風味が、手を取り合って踊っているかのようだ。
これはおいしい。
「人が来た時にこれを出したら喜ばれそう」と模範解答のような感想も聞かせてくれた。
たけだ氏もうれしそうだ。

そしてパウンドケーキに。

うまー!
スモークの香りが鼻から抜けて、同時に適度に乾いた生地が口の中の水分を惜しみなく奪っていく。
これは酒が飲みたくなるサイコーのつまみだ。

最後はこいつだ。

▲ズルズル
そして家主の女性もひと口。
こちらが今日のハイライトである。

結構な量を取った。
彼女の反応を待ち構えるたけだ氏。

その味に感動して言葉も出ない彼女に対して、たけだ氏は喜びを押し殺した表情。
このインスタントカップ焼きそば最大の特徴は、やはりスパイスの効いたオリジナルのソースだろう。
そのピリッとした甘辛のソースに燻製のフレーバーが乗ることで、さらに奥深く、そして、エスニック料理屋で締めに出てくる「Yaki-Soba」(1,200yen)のような、格調高い味わいになるのだ。
どこかの国の王様が食べていたとしても不思議ではない。
これは「カップ焼きそば」という名の宮廷料理なのだ。
燻製はどんな料理でもおいしくなる。
たとえカップ焼きそばでも。
私たちは声を大にして言いたい。
燻製は楽しい。
そして、「時短燻製」ならばわずか5分でできてしまう。
煙の魔法をあなたもぜひ体験して欲しい。

撮影が終わっても「うまいうまい」と燻製を頬張り続けたたけだ氏であった。
晩酌が俄然楽しくなる 超・時短燻製121 (ワニブックスPLUS新書)
- 作者: たけだバーベキュー
- 出版社/メーカー: ワニブックス
- 発売日: 2017/11/08
- メディア: 新書
※この記事は2017年12月の情報です。




