「味噌チャーハン」で常連客から愛される町中華の名店。その味が素人には簡単にまねできない理由

東京都武蔵野市にある町中華の名店、丸善さん。餃子や油そばもファンから支持されていますが、近所にある亜細亜大学の学生さんから特に愛されている名物メニューがこの味噌チャーハンなのです。

エリア東小金井 (東京)

想像していた味とまったく違う「味噌チャーハン」

まいど、ライターの下関マグロです。

さて、今回は東京都武蔵野市にある町中華、丸善さんの味噌チャーハンをご紹介しようと思います。

 

まずは、味噌チャーハンの写真を見てください。

見た目だけだと普通のチャーハンのように見えますが、これが味噌チャーハンなんです。たぶん「味噌」という言葉で、なんとなく味が想像できるかもしれませんね。

僕も食べる前は「たぶんこんな味だろう」と想像していたのですが、実際に食べてみると、考えていたのとはまったく違う味だったので、えらく驚きました。

一口目をいただくと、あれ、味噌はどこ? という印象。最初はちょっとね、味噌の味を探しちゃうわけですよ。ところが、食べ進めていくうちに徐々に味噌のコクと香ばしさが口の中いっぱいに広がってくるんです。この風味がクセになるというか、想像以上のおいしさなんです。

 

この味噌チャーハンを一度食べたら、やっぱり自分でも作ってみたくなるんですね。筆者も自宅でチャーハンを作るときに、台所にある味噌を試しにちょっと入れてみたわけです。

だけどね、どうしても丸善さんのような「あの味」にはならないんです。不思議でしょ。

というわけで今回は、素人には簡単にまねできない味噌チャーハンの秘密に迫りたいと思います。

 

「油そば」と「味噌チャーハン」が定番メニューの名店

味噌チャーハンを提供している町中華の名店、丸善さんにやってきました。

黄色い軒先テントに赤文字で「油そば」「味噌チャーハン」の文字が見えます。

お店の場所は、JR中央線の武蔵境駅と東小金井駅の中間ぐらいです。

 

迎えてくれたのは、こちらの方々です。

右から78歳の文雄(ふみお)さんと81歳の敏子(としこ)さんご夫婦。そして孫で29歳の優志(まさし)さん。この3人でお店を切り盛りしていらっしゃいます(※年齢は2023年12月現在)。

 

ちなみに丸善さん、町中華マニアの間では、味噌チャーハンの他に油そばも有名なメニューなんです。

▲油そば・中(650円)

 

油そばの中サイズが麺1玉分(茹でる前で150g)。これで650円。大サイズだと麺が1.5玉分で750円、特大サイズだと麺2玉分で900円になります。

近所に亜細亜大学があって、そこの学生さんであれば必ず一度は訪れるとも言われるお店でもあり、若い人向けに量の多いメニューも用意されています。筆者も学生だったら、2玉ぐらいはぺろりといけちゃいそうです。いまは年齢のせいで1玉分で十分ですけどね。

 

実は丸善さんの近くに「油そば発祥のお店」があるんです。そのお店の裏側にあるので、油そばファンの間で丸善さんは「裏油」と呼ばれています。

たぶん、「裏油」と呼ばれてマニアたちに愛されている理由は、発祥のお店とはまた違った味わいがあるからなのです。筆者も、発祥とされるお店の油そばも好きですし、丸善さんの油そばも大好き。だからこそ筆者はこの界隈(かいわい)に足しげく通っているとも言えます。

 

文雄さん:もともと油そばを出すつもりはなかったんだけど、学生たちがあまりにも油そばを出してくれと言うんで、開発したんだよね。発祥のお店のほうはタレをラードでやっているんだけど、俺は脂っこいのが苦手だから。ラードも使うんだけど、サラダ油やごま油なんかを入れてみたんだよね。

 

現在、丸善さんの油そばを担当しているのは孫の優志さんです。

おじいちゃんの文雄さんが孫の優志さんの調理を優しいまなざしで見つめていますね。

 

あっという間に油そば、一丁上がり。

 

はい、よく混ぜていただきましょう。

 

▲味噌チャーハン・油そばセット(1,000円)

 

なるほど、たしかにこちらの油そばはあまり重たくなく、さっぱりめな味わい。これが常連の学生さんから愛される定番メニューになったんだそうです。麺の舌ざわりが軽くて飽きのこない味なので、いくらでも食べられそうです。

ちなみに大人2人でこのセットを注文するのはNGですが、お子さんと一緒ならOKだそうですよ。

 

丸善さんは餃子も絶品

味噌チャーハンと油そばの評判に隠れてそれほど語られることはないのですが、餃子も絶品なんです。

もちろん知っている人は知っているので、わざわざ丸善さんの餃子を食べに遠くから来るお客さんもいるのだとか。

▲餃子(500円)

 

丸善さんの餃子がおいしいのは、自家製の皮を使っているからなんですね。

 

文雄さん:一度、業者さんの皮を使ってみたんだけど、やっぱり自分で作ったほうがおいしいんで、ずっと自家製の皮の餃子を出しているんだよ。

 

というわけで、その餃子を作るところを見せていただきました。

粉と水を合わせて、よくこねていきます。

 

あっという間に皮ができていきます。

すでに作られている餡(あん)を包んでいきます。

 

とても慣れた手つきですね。

こうして、餃子はあらかじめ作っておきます。

 

注文が入ると、フライパンで焼いていきます。

 

丸善さんの餃子の特徴は、もちっとした皮にザクザクとしたキャベツの食感です。

 

パリパリッ、ザクッ、モチモチ。餡にたっぷりとキャベツが使われているので、かみしめるとジューシーなスープが内側からじゅわっと飛び出してきます。いやぁ、ここの餃子は本当においしいんで、ぜひ皆さんにも食べていただきたいですね。

 

廃業する予定だった

丸善さんの創業は1969(昭和44)年。2023年はまもなく創業55周年ということで、くじ引きをしてTシャツなどが当たるイベントを行ったそうです。

それがこのTシャツですね。店頭にのれん代わりに下げてあります。

3人にそっくりな顔のイラストを使ったものです。実はこの丸善さん、2022年にお店を閉める予定だったんだとか。

 

文雄さん:もう年だしね、そろそろお店をやめて隠居しようかと思っていたんだけど、孫が継ぎたいって言いだしたんで、急きょ閉店するのをやめたの。

 

というわけで現在は孫の優志さんが、丸善さんの味を受け継ぐべく、修業中というわけなんです。

 

いよいよ「味噌チャーハン」のおいしさの秘密に迫ります

お店を開店してから10年くらいたったところで、油そばを開発した文雄さん。お客さんから評判のメニューとなりますが、その後、20年くらいたったある日、「味噌チャーハンを作ってみよう」と思いついたそうです。

 

文雄さん:きっかけは、焼きおにぎり。たまたま女房と焼きおにぎりに味噌をつけて食べていたんだけど、これだけご飯に味噌が合うんだから、チャーハンに入れてもうまいんじゃないかなって思ったの。だけどね、これ、開発するのが大変だったんだから。だって、味噌をそのままチャーハンに入れてもうまくいかないのよ。

 

なるほどなるほど、実は僕も味噌チャーハンを自宅で試してみたんですが、どうしてもうまくいきませんでした。

それでは、味噌チャーハンを作っているところを見せていただきましょう!

まず、卵を割って溶きます。菜箸でカチャカチャとかき混ぜています。

 

中華鍋に火を入れ、油をひいたら、溶き卵を投入します。

 

ここで手際よくご飯を入れます。

 

ご飯をよく炒めたら、具材も投入。

 

はい、ここで、登場するのが自家製の味噌ダレです。

 

文雄さん:ベースになる味噌は仙台味噌。そこにサラダ油、ごま油、いりごま、醤油、酒、にんにく、生姜、人参、一味唐辛子が入るわけ。全部で10種類。それぞれの分量は……そりゃ企業秘密だよ(笑)。

 

味噌チャーハン1人前で、これくらいの味噌ダレを加えます。

そんなに多くありませんね。そして、再びざっと炒めたら、出来上がりです。

 

▲味噌チャーハン(800円)

 

はい、これが味噌チャーハンです。

味のポイントはおそらく、複雑に調合された味噌ダレにありそうです。味噌だけではなく、いろいろなものを合わせたタレなんですね。でも、味の秘訣(ひけつ)はそれだけではなさそうだと思っていたときに優志さんがこう言いました。

 

優志さん:自分も小さい頃からウチの料理を食べていて。ラーメンは専門店さんなんかもあるから、ウチよりもおいしいところはあるんですけど、チャーハンだけはウチよりもいいなと思えるお店に出会ったことがないと感じていたんです。

 

あー、そういえば、初めて丸善さんの味噌チャーハンを食べたとき、敏子さんが「ウチは味噌チャーハンだけじゃなく、普通のチャーハンもおいしいのよ」とおっしゃっていたことを思い出しました。

ひょっとしたらそもそも、普通のチャーハンの作り方に秘密があるのかも。

ちなみに丸善さんでは、普通のチャーハンと味噌チャーハンの注文の割合は1:9で圧倒的に味噌チャーハンが多いそう。ただ、文雄さんはこう言います。

 

文雄さん:そういえば、俺が修業時代に働いていたお店でチャーハンの注文があったときに、あの人に作ってほしいって、俺を指名してくるお客さんがたくさんいたわけよ。他にも何人か調理人がいて、道具も材料も一緒なんだけど、なぜか俺にチャーハンを作ってほしいって指名があった。いまだに他の調理人とどこがどう違うのか、よくわかんないんだけどね。

 

というわけで、文雄さんに普通のチャーハンも作ってもらいました。

▲チャーハン(750円)

 

おお、こちらもめちゃくちゃおいしいじゃないですか。シンプルで定番の風味でありながら、しっとりとしたご飯が口の中でぱらりとほどけて、まさに絶妙な炒め具合です。

きっと文雄さんが作る普通のチャーハンの味が最高だから、味噌チャーハンも格別なうまさになるのでしょう。

おそらく中華鍋で炒めるときの微妙な火の通り方だとか、職人の熟練技みたいなものが、このチャーハンの味の中に生きているのでしょう。なんだかわかったような、わからないような結論ですみません。

とはいえ、自分なりの味噌ダレを作って、味噌チャーハン作りに再びチャレンジしてみたいですね。

それでもきっと、素人には出せない味なんでしょう。ともあれ、皆さんにはぜひ丸善さんに足を運んで、一度この絶品味噌チャーハンを味わってみてほしいです。

 

撮影:平山訓生

 

お店情報

丸善

住所:東京都武蔵野市境5-17-12 
電話番号:0422-52-1341
営業時間:11:00~16:00
定休日:日曜日、祝日

www.hotpepper.jp

書いた人:下関マグロ

下関マグロ

1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)、『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、に『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)など著書多数。

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