浅草の路地裏に、行列ができるみそ汁専門店があるのをご存知でしょうか?
その名も「MISOJYU(ミソジュウ)」。
連日、着物姿の観光客や、若い女性、カップルなどがみそ汁を求めてやってきます。
▲MISOJYUのオープンは2018年。おしゃれな外観で入りやすい
書道家の武田双雲氏が発起人
いわゆる普通のみそ汁だけでなく、ポタージュやポトフをモチーフにした、変わり種のみそ汁も楽しめるのがMISOJYUの大きな魅力。
書道家の武田双雲氏が発起人となり結成された、オーガニックな食材・食事のスペシャリスト集団「TEAM地球」がプロデュースしており、お店をディレクションするのは、東京生まれの多才な写真家・フードディレクターのエドワードヘイムス氏です。
▲写真提供/MISOJYU
エドワードヘイムス氏は、18歳で渡米し、ミュージシャン、編集者を経て写真家へと転向。フランスの三ツ星レストランや料亭旅館などの取材をするうちに、料理の世界に興味を持ち、その後カリフォルニアで8年間シェフとして働く……という異色の経歴の持ち主です。
▲店内には武田双雲氏の書道が壁一面に!
そんなエドワード氏が、なぜ浅草でみそ汁専門店をオープンすることになったのでしょうか?
話を聞いてみるとそこには意外なドラマがありました。
15年ぶりに訪れた日本で運命の出会い
エドワード:まさか、日本でお店をするなんて考えてもいませんでした。仕事で15年ぶりにアメリカから日本に来たとき、たまたま飛行機の中でパンフレットを見たら、そこに書道家の武田双雲さんの作品が載ってて。彼のことは全く知らなかったんだけど、作品が面白いなと思って「個展をやりませんか?」と連絡したんです。
――お仕事で、個展のプロデュースなども手掛けていたんですよね。しかし、全く面識のない武田双雲さんに企画を持ちかけたとは、さすがの行動力です。
エドワード:それで、彼の個展をプロデュースすることになって親交が深まって……。そのうち、武田双雲さんが発起人のプロジェクトのTEAM地球で、メニューの開発などを手掛けるようになって。そういう出会いがなければ、そのままアメリカに帰ったんだけどね。
――様々な出会いと縁が重なって、日本でみそ汁専門店のディレクションを任されるようになったと。人生何があるかわかりません。そもそも、なぜみそ汁なのでしょうか?
エドワード:僕は東京生まれなんだけど、おふくろが新潟の人で、小さい頃からみそ文化で育ってきてるんです。今でも家で毎日みそ汁を飲んでいるくらい大好きなんだけど、みそ汁って栄養価が高いのに、脇役的な印象がある。だから、みそ汁をドーンとメインにしたお店にしたいなと思って。
あと、日本の発酵文化って素晴らしいし、地方にはすごくいい有機みそがたくさんあるから、そういうみそを応援したい気持ちもありました。
令和の時代にみそ汁の概念を変えたかった
▲「MISOJYUレギュラーセット」1,408円。定番の「いつもと違ういつもの豆腐のおみそ汁」に、おにぎり1個+煮卵ハーフ+お新香+サイド2品が付く。おにぎりの米にもこだわり、オーガニック米とフランスのソルトの塩むすびの上に、てん茶(※抹茶の原料)をまぶしている
エドワード:聞いた話だけど、みそ汁って500年くらい昔から、あんまり変わってないらしいのよ。和風出汁で、具も豆腐とわかめ、みたいに、だいたい決まってる。だけど時代も令和だし、そろそろ変えてもいいんじゃないの? って(笑)。
――確かに、MISOJYUではみそポタージュやみそポトフなど、みそ汁の概念を飛び越えた斬新なメニューが面白いです。
エドワード:今はコロナの影響で海外からの観光客はいないけど、浅草でやるからには外国の方にもみそ汁を食べてもらいたいし、ゆくゆくは世界に日本のみそ汁を広めたい。だから、世界のスープをみそ汁にアレンジすれば、初めての人も食べやすいかなと思って。お店では、メニューごとにフレーバーを変えて、牛スネのフォン(※フランス料理でソースのベースなどに使われる出汁の一種)や鶏ガラ、魚のあらなどを合わせ出汁にしてラーメンスープのように重ねてます。
――ポタージュやポトフのエッセンスを加えても、ちゃんと“みそ汁”として美味しいですし、旨み成分が凝縮されていて驚きました。
エドワード:それは、基本のみそと出汁にすごくこだわっているから。お店を始めるとき、日本全国各地のみそ蔵を何十件も探しまわって、島根県の山奥にある「やさかみそ」に出会ったのが始まりです。
――熟成させた酵母が生きている“生みそ”だそうですね。
エドワード:そのみそを、白みそ、赤みそと何種類かブレンドして合わせみそにしてる。もちろん出汁にもこだわっていて、北海道の昆布漁師さんから直接昆布を仕入れて、削り節も、削りたてのかつお節を築地から仕入れて毎朝お店でひいています。
――おススメのメニューは何でしょう?
エドワード:「ごろごろ野菜と角煮のすんごいとん汁」です。豚の角煮がのったとん汁なんだけど、この角煮は、赤ワインソース、ハーブ、ドライフルーツ、八角などを合わせて4時間くらい煮込んだかなり手が込んだもので。角煮のフレーバーがみそ汁に流れ込むので、スープに旨みの層ができるんだよね。
▲「ごろごろ野菜と角煮のすんごいとん汁」968円
――有機野菜が大胆なカットで、まさに“ごろごろ”と入っているので、しっかり食べごたえもありました。「まるごとトマトとほろほろ牛スネの みそポトフ」はSNS映えしそうなビジュアルですね。
エドワード :牛スネと一緒に煮込んだトマトを丸ごとのせているので、みそ汁の上でトマトを割ると、トマトに染み込んだスネ肉のエキスがドヒャ〜ってみそ汁に流れでる。これは自分でもいいひらめきだったなって。
▲「まるごとトマトとほろほろ牛スネの みそポトフ」968円
▲「豆乳とホタテのとろーり みそポタージュ」968円
エドワード:「豆乳とホタテのとろーり みそポタージュ」はみそ汁の上に、トビコ(※トビウオの魚卵の塩漬け)と、生のホタテ、柚子みそを絡めたものをそのままポンっとのっけてアクセントにしてる。スープは豆乳と白みそと生クリームで、クラムチャウダー的に飲めるから海外の方でも抵抗なく楽しめるんだよね。
――コクがあってクリーミーでご馳走のようなみそ汁でした。これらの独創的なみそ汁たち、開発に時間がかかったのでは?
エドワード:それがかからないのよ。散歩してたらひらめくんだよね(笑)。海外生活が長いのと、写真家と並行して料理関係の仕事をずっとやっていて、いろんな国の人と知り合ったから、そういう体験から発想が浮かんでくるのかもしれないね。
――今後はどんなみそ汁を作りたいですか?
エドワード:僕はスパイスの研究も30年以上していて、実は新宿で「CHIKYU MASALA(チキュウマサラ)」というカレー屋さんも手掛けている。だからカレー味のみそ汁とかを作っても面白そう。最近注目しているのは、青パパイヤ。青パパイヤをキムチにしてみそ汁と合わせてもいいかもしれないね。
――ちなみに、自宅でみそ汁を美味しく作るテクニックはありますか?
エドワード:僕がよくやるのは、ピーナッツバターや練ごまを、みそと混ぜて、合わせみそにしてみそ汁に溶く方法。すごく美味しいからぜひ試してみてほしいね。
▲現在はWEBのみで販売中のMISOJYUのみそ。雪に包まれる寒い気候と澄んだ水を生かし、じっくりと熟成させた酵母が生きている“生みそ”を自宅で味わえる
――WEBではMISOJYUの有機生みそも販売していますね。
エドワード:そう、島根の有機生みそは本当に美味しいのでぜひ家庭でも味わってもらいたいですね。これからも日本の昔ながらのみそ蔵を応援したいし、日本の発酵文化、みそ文化に貢献したいと思ってます。
みそ汁は、ご飯の脇役ではなく主役にもなる。
そう提唱するMISOJYUからは今後も、度肝を抜く新発想のみそ汁が誕生しそうです。
興味が湧いたら、浅草に行った際にフラッと立ち寄ってみてください。みそ汁の常識が変わりますよ!
撮影:松沢雅彦
店舗情報
MISOJYU
住所:東京都台東区浅草1-7-5
営業時間:8:00~19:00(※営業時間は新型コロナウイルスの影響により随時変更あり。HPでご案内しております)
電話:03-5830-3101
定休日:なし
書いた人:松子
石川県出身の、都内在住のOL。アラフォー。チェーン店で酒を飲むことがライフワー ク。365日毎晩どこかの酒場に出没中。趣味は海外旅行で、いろんな国の料理を食べ ること。とにかく、コスパよく美味しい酒が飲みたい!