
焼き芋イベントの先駆け「品川やきいもテラス」の立ち上げに関わり、焼き芋アンバサダーとして活動する天谷窓大さん。
1日1本焼き芋を食べ続け、各地のお芋農家や焼き芋専門店を訪ねて回る、焼き芋マニアだ。

▲熱波を浴びせる天谷さん
焼き芋マニア以外にも、スーパー銭湯の熱波師、家から会社までの通勤前に遊びつくす「エクストリーム出社」の創始者という複数の顔を持つ天谷さん。
いまあらためてブームとなっている焼き芋の魅力と共に、天谷さんのこれまでの生きざまをインタビューでお伺いした。
もはや、焼き芋はパン代わり
ーどれぐらいの頻度で焼き芋食べるんでしょう
1日1本は食べてます。
部屋に焼き芋専用トースターがあるんで、毎日芋を放りこんで食べてます。
ー焼き芋専用トースターなんてあるんですか!?
焼き芋屋さんと家電メーカーが共同開発したトースターです。
芋入れてボタン押すだけで、2時間したらトロットロの焼き芋ができる。フライパンや魚グリル、オーブンで焼く方法もあるけど、やっぱり出来上がりが違います。
ー普通のトースターとなにが違うんですか
芋のでんぷんが糖分に変わりやすい温度が70~80度なんですけど、この温度をキープできる。オススメですよ、焼き芋専門トースター。
そのまま食べても美味しいけど、ブリュレにするのも好きですね。
焼き芋焼いて、舟形に切って、バター塗ってザラメをふる。で、バーナーで炙ります。
ザラメのパリパリ感と焼き芋のトロトロ感で、バゲットみたいな食感。すっごく美味しい。

▲焼き芋ブリュレ
ー美味そう!でも、バーナー持ってる家なかなかないですよ
うちにはバーナーありますね。
あ、カレーに焼き芋入れるのも美味しいですよ。
甘さとしょっぱさのハーモニーがいい感じ。高級カレーみたいな奥深さが出ます。チョコを隠し味に入れるじゃないですか、あんな感じ。

▲焼き芋カレー
ーなんにでも焼き芋入れちゃう
焼き芋のグラタンもいいです。焼き芋を舟形にカットして、ミートソースのせて、とろけるチーズのせて、オーブンで焼く。これが美味い。
ご飯系焼き芋の新境地です。
ーご飯系焼き芋ってジャンルがあるんだ
勝手に名付けました。おやつじゃなくて、ご飯として食べられる焼き芋。
ご飯系で言えば、舟形に切った焼き芋に、ガーリックバターとクリームチーズのせて食べるのも美味いです。もはや、焼き芋がパン代わり。毎日のパンと同じポジションです。
お手軽でアレンジも自由。焼き芋は毎日食べても飽きません。
ー意外とアレンジの幅広いですね
この冬は、焼き芋にビーフシチューに入れてみようかなって考えてます。
パンくり抜いてビーフシチュー入れるじゃないですか。あれみたいな感じ。
食べられるお皿としての焼き芋です。
ーもう、主食通り越して、皿になってる!
焼き芋にハマったきっかけは「エクストリーム出社」
ーもともと焼き芋が好きだったんですか?
好きでよく食べてたけど、わざわざお店行くってほどじゃありませんでした。
本格的にハマったのは、焼き芋屋さんを集めたフードフェス「品川焼きいもテラス」の立ち上げに関わってからですね。
ーなぜ、品川焼きいもテラスはじめたんでしょう
もともとは個人でやってた「エクストリーム出社」がきっかけですね。
エクストリーム出社は、家から会社に行くまでの通勤経路を使って、いかに通勤経路で遊ぶかというスポーツです。
これを始めた時、とにかく会社に行くのが憂鬱で、まっすぐ出社するのが嫌だった。考えつく限り、遠回りして、会社に行ってやろうと思って始めました。
スイカ割り、焼き肉屋での食事などなど、いろいろやって出社してました。

▲エクストリーム出社の様子。早朝からカヌーを楽しむ
ーエクストリーム出社!めちゃくちゃ楽しそう!
その後、転職しまして。
個人の活動でやってた「エクストリーム出社」を、転職後の会社で、事業の一環として月1回やることになりました。
冬の起きるのが辛い朝、エクストリーム出社するなら何だろうって社内でアイデア出しして。安直なんだけど「焼き芋して出社ってどう?」と。
芋掘りして落ち葉で焼くツアーを検討したんですが、遅刻しないで出社できる距離の農家さんが見つからなくて。
で、逆に、「オフィス街に焼き芋屋さんを集めて、焼き芋食べて出社しよう」と。
早朝2~3時間だけの出店じゃ、せっかく集まっていただいた焼き芋屋さんも儲からないから、そのまま1日中売り続けてもらったらいいんじゃないか。
そんな案から「品川やきいもテラス」を開催することになりました。
ー焼き芋屋さんのツテはあったんですか?
ありません。焼き芋屋で検索して、片っ端から連絡しました。
100件以上電話して、興味持ってくれたお店に足を運ぶ。昔、軽トラで買ったカラカラぽそぽその焼き芋しか知らなかったけど、そこで食べた安納芋がトロットロにとろけてた。芋から溢れた蜜で、水風船みたいにパンパンに膨れてる。まるで、フルーツを食べてる感覚。
「焼き芋って、今こんなことになってるんだ!!」ってビックリしました。
ーそれは驚きますね!
サツマイモの品種って1種類しかないと思ってたぐらい、何も知らなかったんですよ。
実際は、紅はるかや安納芋、トロトロ系からほくほく系までいろんな品種があるし、焼き方も進化してる。
すっかり焼き芋熱が高まって。高輪に「食の文化ライブラリー」って食に特化した図書館があるんですけど、朝から晩まで一日中サツマイモの本読んで、勉強しました。
歴史や品種を調べるとめちゃくちゃ奥が深くて面白いんですよ。
アーティストのニューアルバム感覚で、芋の新品種を待ち望む
ー品種によって、そんなに味違うんですか?
品種によっても違いますし、同じ品種でも育てる場所や畑が違えば、味が変わります。根っこを食べるから土の環境で味が変わるんです。
焼き芋屋さんは、あちこちの芋を食べ比べて、ココだって惚れこんだ芋を特定の地域や農家から仕入れて焼いてます。
最近は、焼き芋屋さん自身が芋を育てて、自分の味を追及するケースも増えてますね。
ーなかでも衝撃受けた芋ってありますか
和歌山県の串本町だけで作ってる「なんたん蜜姫」は、とにかく蜜が凄い。
他の芋は水あめみたいなカラメル色の色づいた蜜ですが、なんたん蜜姫はガムシロップみたいに透明でさらさらした蜜。焼いた芋から出てるとはおもえない蜜。もはや、果汁ですよ。
蜜が凄い系だと、SAZANKAという焼き芋屋さんが宮崎で作っている「極蜜熟成やきいも」も衝撃的!
糖度が高くて、自分自身から出た蜜でひたひたになっちゃう。マンゴー食べてるような味わいなんです。甘酸っぱくて濃厚で、柔らかい。

▲なんたん蜜姫
ーうわ~、ソソる!!どうやってそういう芋を探してるんですか
農研機構っていう、サツマイモの新品種を作る国の研究機関があるんです。
そこが年2~3種類こういう新品種ができましたよってプレスリリースを出すんです。
好きなアーティストのニューアルバムを待つ感覚で、「次は、いつかな」なんて農研機構のサイトをチェックしてます。
ー芋のガチファンだ
希望する自治体や関係機関、農家さんたちの組織に向けて、農研機構から研究用に苗が配布され、試験的な生産が行われたあと、種苗業者さんらによって本格的な生産体制が組まれて、市場に流通するって流れ。
焼き芋屋さんのネットワークで「新品種、ここで育ててるよ」って教えてもらえるんで、大量生産前に農家さんを訪ねて、食べさせてもらってます。
紆余曲折を経て、みんな焼き芋に救われてる
ー焼き芋屋さんのネットワークがあるんですね
そうです。焼き芋屋さん達ってすごく仲良くて、独特のネットワークがあるんですよ。
競合同士でバチバチになるのが普通だと思うんですけど、焼き芋屋さんは情報交流がすごい盛ん。焼き方や品種まで共有してる。
品川やきいもテラスで知り合ったお店も多いんですけど、ゼロからイベントを作った仲間なんで、私も焼き芋屋さん同士も戦友みたいになりましたね。
第1回イベントの時は、小さなマルシェをやる感覚。楽しみつつのんびりやれたらいいね、1週間1,000人来たらスゴイね、なんて言ってたのに、フタを開けたら1週間で30,000人の来場。
「なんで、こんなに来るの!?焼き芋だよ?」って、みんなパニック状態でした。
ー予想の30倍の来場者は、対応しきれない!!
焼き芋って完成までにすごく時間かかるんです。最低でも2時間。
第1回イベントでは2時間待ち、3時間待ちがボコボコあって。反省会を開いてお芋屋さんにも相談して、対策を立てていただきました。夜通し焼いて会場へピストン輸送しようとか。イベント中も会場の荷物受け場にはお芋の詰まった段ボールが次々と届くので、もう目が回る忙しさでしたね。
考えながらイベントを作っていった仲間なので、絆が強い。新参の焼き芋屋さんにも優しいですし、技術やノウハウも惜しみなく共有する。みんな美味しい焼き芋をお客様に安定して届けたいという強い思いで連帯しているんです。

▲品川やきいもテラスの一場面
ー焼き芋に救われた経験ってありますか?
仕事がしんどい時期、サツマイモの多幸感に救われました。
1口食べて光が射すような、暖かさと甘さ。お日様を食べてるような多幸感です。
落ち込むことがあっても、サツマイモ焼いて食べようって思えるようになった。焼き芋があることで踏みとどまれる。
ー生活のなかのセーフティネットですね
どれとして同じ焼き芋もなければ、同じ焼き芋屋さんもない。
たぶんですけど、新卒でいきなり焼き芋屋さんになる人って、いないと思うんですよね。
高校の教頭先生を定年退職してから始めた人もいれば、旅館の支配人から色々あって焼き芋屋さんになったり。みんな紆余曲折を経て、焼き芋屋さんやってるんで。
みんな、焼き芋に出会って「これだ!」って思って、焼き芋に救われた経験がある人たちなんですよね。
ーいろんな生き方が肯定されますね
僕もプログラマーとして、いわば「ないもの」を作る仕事してました。システムとか目に見えないものだし、きちんと動くのが当たり前。作ったシステムがどれだけの人を喜ばしてるのか分からない。
その点、焼き芋は分かりやすい。「すごいうまい!」って目の前の人が喜んでくれて、食べてハッピーになってくれる。手ごたえがあって、いい仕事です。ようやく仕事した実感がもてました。
それまでは誰が喜んでるのか分からなくて、なにをしてても、なんだか自称って感じちゃってた。焼き芋に関わって「自分は焼き芋アンバサダーだ」って、はじめて胸張って言えるようになりました。
人も芋も、ほとんど同じ温度でととのう「サウナ焼き芋」
ーご自身で焼き芋屋さんをやりたいとは思いませんか?
実は、焼き芋屋さんとしても活動を始めようとしてます。
私、スーパー銭湯でサウナの熱波師としても活動してるんですが、熱波の技術を焼き芋に活かそうと思っていて。名付けて「サウナ焼き芋」です。
ーサウナ焼き芋!?
ロウリュって知ってますか?
サウナでは、サウナストーンにアロマ水をかけて、温かい蒸気を出すんですね。その蒸気をサウナのお客さんに送るのが熱波師。
石を焼くところは、焼き芋もサウナも同じです。

▲熱波師としての天谷さん
ー確かに原理は同じだ
焼き芋が甘くなる温度とサウナの設定温度って、ほとんど同じなんです。人も芋も同じ温度でととのう。
サウナ焼き芋は、サウナストーンに食用のアロマオイルをかけて、サツマイモを蒸し焼きにします。果物のフレーバーがついた焼き芋が出来上がります。
テストで作ったオレンジフレーバーの芋を販売したら、一瞬で売り切れた。トロトロに甘いんだけど、鼻に抜ける香りがオレンジで爽やかなんです。
ー焼き芋との出会いはエクストリーム出社がきっかけで、熱波師としての経験も活きている。天谷さんの人生のすべてが焼き芋に集約していってますね。
そうかもしれません。これまでバラバラでやってたことが、一気に繋がってる。
20代のころなんかはひたすら暗中模索で片っ端からいろんなことに手を出してて。周りからは「アイツは何をやりたいんだ」とか「フラフラ芯がない」とかさんざんバカにされていましたけど、こうしたことの一つ一つが30代になって一気につながって、きちんと生計を立てられるようになりました。
自分で興味を持って、考えて手を動かしたことって、ちゃんと自分の財産になっていくんだなぁって、この年になって実感しています。ほんと、なんでもやってみるもんですね!
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普段なかなか市場に出回らないレア芋も含めた4種類を食べくらべ。
書いた人:松澤茂信

珍スポットマニア。日本全国1,000ヵ所以上のちょっと変わった観光地や飲食店を巡り歩いています。
- Twitter:松澤茂信
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