東京都の郊外、狛江市。
小田急線の和泉多摩川駅に、長年地元の人々から愛されている「焼肉食道園」という焼肉店があります。存在感がありながらも街の景色に溶け込んでいる空気感は、チェーン店にはまねできない個人店ならでは。
和泉多摩川駅から徒歩約3分という立地です。
実はこのお店、今年から「29(にく)の日」に始めた企画がとんでもないビジュアル&クオリティーだと評判になっています。
もともとは地元の人でにぎわうお店ですが、今や29の日は遠方からもはるばる訪れる人が珍しくないほど。果てはその人たちが食道園の肉にほれ込み、29の日以外も足繁く通い詰めるほどになったのだとか。そのくらいのクオリティーです。
29の日とは……
2月9日の「にく」、
5月29日の「おにく」、
8月29日の「やきにく」、
そして11月29日の「いいにく」という、年に4度開催されるイベント。ひとり2,900円でタン、ハラミ、カイノミ、シンシンなど4種類の部位の厚切り計200gを提供するというものです。
厚切り肉がどーん
まずはビジュアル。
ど、どーんのインパクト!(写真は2人前です。以下同)
29の日を考案したのは、食道園の三代目、大木昌さん。
大木さん:もともと「29」に思い入れがあるんです。僕の誕生日は2月9日。肉の日に生まれたお肉屋さんの息子ってベタで昔は恥ずかしかったんですが……。ずっと音楽をやっていて、お店を継ごうと決めたのが29歳、しかもその年は2009年の丑年でした。これだけ29がらみだと、これはもう焼肉店をやれって天が言っているのだろうと。そんなわけで、かねてから29にちなんだイベントをやりたいと思っていて、今年からいよいよ始めたんです。
▲大木さん(右から2番目)とスタッフのみなさん。ホスピタリティーもお店の魅力です
自身の外食時も焼肉店しか行かないというほど焼肉好きな大木さんが29の日のために選んだのは、厚切りの上質な肉盛り合わせ。しかも最近は品不足で仕入れが難しい、タンやハラミも含まれています。
大木さん:メニューは薄切りの肉が多いので、年に4度のイベント時にはインパクト大の厚切りがいいかなと思いました。赤字覚悟のライアップですが、29の日はそのくらい頑張って見た目だけでなく味も満足・納得していただける肉を提供したいと考えています。ただ、毎日これを出していたら間違いなくこのお店つぶれます(笑)。
▲29の日はこんな風に店舗でも案内されています
A5ランクの肉を真空包装して鮮度を保つ
29の日に提供している「厚切り極上肉の盛り合わせ」は4種類。
それぞれ大木さんに解説していただきましょう。
大木さん:タンは黒毛和牛のタン元で、タン1本およそ1.5kgのうち300g程度しか取れない部分を使用しています。この厚みのタンを大盤振る舞いするのは、タン不足の今はかなり大変です。ハラミ(※ヒレになることもあります)も厚切りにできるのは特上の部分だけに限られていて、そこをまさに“かき集めて”います。東京の焼肉店の多くはタンとハラミの仕入れに苦労しているので、この2種類はまじでめちゃくちゃ貴重です!
カイノミ、シンシンはよほどの肉好きじゃないと、普段はあまり食べない肉ですよね。
大木さん:そうかもしれません。カイノミはあばらの部分で、赤身がすごくおいしくて食感はハラミと食感が似ています。かむとじゅわっと肉汁が口の中に広がる感じですね。シンシンはももの中で1、2を争うやわらかさが特徴。とくにうちはメス牛しか仕入れないので、なおさらやわらかさが際立っています。ハラミやカイノミはワイルドな食感ですが、シンシンはキメ細かでしっとりしたヒレに近いような感じです。
肉ソムリエの資格を持つ大木さんは、自ら東京・芝浦の食肉市場に出向いて肉を仕入れています。選ぶのは流通量が少ないA5ランクの牝のみ。29の日で提供するメニューだけでなく、食道園で提供されている肉はすべてA5ランクの牝なのです。並カルビや並ロースの原価率はここに書くのがはばかられるほどで(泣)、それでも肉の妥協はしたくないというのが大木さんの信条です。
とはいえ、いくら高級な質のいい肉を入手しても、それをおいしいままに提供できなければせっかくの肉の魅力も半減です。たとえば肉を冷凍してしまうと、解凍時にドリップが出て肉の質が下がってしまいます。そこで食道園では、ブロックに切った肉を真空包装して冷蔵庫で保存。いわゆる「ウェットエイジング」の状態で、長く鮮度を維持できるうえ、肉も柔らかくなります。
その日使う分だけ切って、切り終えたらまたすぐに残った肉を真空包装。肉は長く空気に触れると酸化して色も黒ずんでしまうので、空気に触れる時間を1秒でも短くするために、なるべく早く真空包装するのだそう。高級肉にいたっては、オーダーが入ってからカットするという徹底ぶりです。
そもそもグランドメニューが最強だ
グランドメニューも、なにを頼んでもおいしいです。そこで今回は筆者の独断でいくつかピックアップしてご紹介します。
食道園の魅力は、なんといっても赤身の肉のおいしさ。A5ランクの牝にこだわり、カットにこだわり……大木さんの肉への熱い思いが赤身の肉に込められています。そんな赤身を味わえるおすすめメニューのひとつがこれ。
▲鬼ポンロース(1,480円)
使っている肉はトモサンカク。ももの中でいちばんサシが入っているので、とろけるような味わいが特徴の鬼ポンロースです。
食感が楽しい鬼おろしと、肉の脂との絡みが絶妙なぽん酢だれ、すべてのバランスが整った逸品。
▲ロース(1,100円)
食道園の肉のクオリティーの高さはこの一品、ロースでわかるはず。
Don’t think, feel!
▲ザブトン(2,700円)
その日にしかない希少部位おすすめニューもあり、この日は肩の肉を薄切りにした大判の肉、ザブトンです。
ロースよりやや厚みのあるカットなのは、肉の柔らかさを感じて欲しいからだそう。さしはばっちり入っていますがくどさは皆無。
大木さん:さしがこれだけ入りながら赤身のうまさもあるという、僕的には究極の部位だと思っています。
そして、筆者がほれてほれてほれまくっているのがこれ!
▲カクテキ(480円)
このカクテキの汁のコクときたらもう……!
なにを入れたらこんな奥深い辛さとコクが生まれるのかは企業秘密ですが、いいです知らなくて。聞いたところで同じ味が作れるわけないですから。
筆者は汁と卵でチャーハンを作るのがお気に入りでしたが、大木さんからさらにおすすめの食べ方を教えてもらいました。
大木さん:卵かけごはんにカクテキの汁を加え、ごま油をたらり。お好みでしょうゆを加えれば、何杯でも食べられそうなうまさです。
さっくやってみると……
いや、まじうまい。
泣けるほどうまいです。
カクテキは持ち帰りできるので(しっかり包んでくれるので電車内でにおったりする心配はありません)、ぜひぜひ買って帰ることをおすすめします。個人的には人生で食べたカクテキの中でベスト1です。
野菜は味付けに使うものも含めてほぼすべて国産、肉以外の食材にも妥協はありません。こういう丁寧な仕事が、三代にわたって地元で愛され続ける理由なのかもしれませんね。
ちなみに店内はボックスシート状になっていて、ほかのテーブルが気になりません。
焼き方のお手本を教えてもらった
では「29の日の肉」を焼いてみます。タンは大木さんにお手本を見せていただきました。
大木さん:どんな肉でも両サイドの火力の強いバーナーの上に置かず、真ん中で焼くようにしてください。
厚切りのタンはこんがり焼いていきます。
大木さん:タンの焼き加減は表面のカリカリ感と横の断面を見て判断します。表面がカリカリでも中にはあまり火が通ってないので、じっくりと焼くのがコツです。触ったときに柔らかいとまだ焼きが十分ではありません。しまってきてぷりぷり感なくなったらOKです。
焼きあがったタンの断面の美しさよ!
タンでも肉厚!
また、ハラミはじっくり、カイノミは焼き過ぎないよう注意。シンシンはかつてはユッケでも出していたほどなのでレアがおすすめだとのこと。
何度見てもほれぼれ。
次回の「29の日」は11月29日。
早めに予約しないとあっという間に満席になってしまうのでご注意を。
初めての方にはむしろ通常営業日をおすすめしたいのですが、こちらも予約したほうが確実です。なんたって開店と同時に地元の人々が徒歩で食べに来ますからね。
こういうお店がある和泉多摩川の皆さんがうらやましい!
お店情報
焼肉食道園
住所:東京都狛江市猪方3-23-3
電話:03-3480-1077
営業時間:17:00~23:00(LO 22:00)
定休日:無休
ウェブサイト:http://syokudo-en.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/syokudo_en/