突然ですが、東京都稲城市をご存じでしょうか?
多摩ニュータウンの東側にあり、新宿駅から京王線で30分前後。ベッドタウンとして宅地が増えながらも自然が残り、特産の梨はみずみずしくて甘いと有名です。
その稲城市の南端、小田急線栗平駅から徒歩約15分、小田急線新百合ヶ丘駅からバス約10分の場所に、約70棟の集合住宅が建つ「平尾団地」があります。
▲1970年代に建てられた平尾団地。広大な敷地は緑に囲まれている
この団地の商店街に、仕出しのオムライス弁当が「製薬会社向けおもてなし弁当人気ランキング」で西東京エリア1位に輝き、そのオムライスを食べるために地元はもちろん、遠くからもお客さんがはるばる足を運ぶ洋食店があるんです。
お店の名前は、「走る!洋食屋さん♪ いなぎsatoyamaキッチン」。なぜ走る? なぜ稲城? そのあたりについてうかがいながら、お料理をいただいてきました。
本格的な洋食がおいしい、知る人ぞ知る名店
▲商店街の広場のいっかくにたたずみ、アットホームな雰囲気のお店。無料駐車場あり
「走る!洋食屋さん♪ いなぎsatoyamaキッチン」はご家族で経営しており、ご主人は浅野純一さん。
世田谷区で生まれ、1歳のときに平尾団地1号棟に転居。こちらの団地で幼少期と学生時代を過ごしました。
▲「牛すね肉は骨髄から出るうま味が最高ですよね」とビーフシチューを仕込み中の浅野さん
調理師専門学校を卒業後、東京や神奈川のホテルやフレンチレストランで修行。
ホテルでは朝食にオムレツを80〜100個焼き、結婚式のフルコース料理300〜400人分を4人体制で作るなど、毎日休みなしで働いたそうです。
そのオムレツから進化したのが、こちらのオムライス。
▲超とろとろオムライス 700円。自家製ソースを4種類から選べ、2種類選んでハーフ&ハーフ 750円にもできる
卵は生クリームを加え、空気を入れるようにかき混ぜながら焼き上げています。外がふわっふわ、中がとろっとろで、一口食べただけでもう来てよかったと思います。
チキンライスの上に卵を乗せるときに継ぎ目を下にしているため、そこから卵がチキンライスに浸透するのもおいしさの秘密。まろやかさがより加わったところにソースがからんで、深い味わいです。
移動販売車で走り始め、シチューやスープを提供
28歳のとき、独立を考えていた浅野さんに舞い込んできたのが、料理を作って合格すれば、移動販売車を半年無料で貸し出すというチャレンジ企画。
お客さんと接しながら料理を提供したいという気持ちも芽生えていたため、挑戦すると、見事合格。神奈川や東京を走りまわりながら洋食の移動販売を行い、イベントなどにも出店。業績は順調に伸びていったそうです。
そのチャレンジの際に作り、企画会社の社長が大絶賛したというのが、ビーフシチュー。
▲国産とろとろビーフシチュー 900円。ぐつぐつと土鍋で提供され、最後の一滴まであつあつ
国産の希少な「乙女牛」のすね肉をこんがりと焼き、野菜を合わせて煮込むことから始めて完成するまで約2週間。お肉はやわらかくてとろとろ、うま味が口の中いっぱいに広がるとともに、野菜の甘みもじんわり感じます。
▲平尾団地商店街の入口。お店のお客さんは家族連れからお年寄りまで幅広い
そして36歳のとき、移動販売車が盗まれ、閉店を余儀なくされてしまいます。
困り果てた浅野さんに手を差し伸べたのは、稲城の人々でした。
平尾団地の空き店舗を紹介してもらい、テイクアウト店として再出発。お店のメニュー看板を作ったり宣伝したり、応援してくれたそうです。
▲浅野さんは和食の修行経験もあり、近隣のお客さんの使い勝手のために和食メニューもそろえている
もともと、生まれ育った街に恩返しがしたい、稲城を盛り上げたいという思いを強くもっていた浅野さん。
駅前などの繁華街でお店を開くより、そうでない場所でお客さんを呼べるようになったほうが料理人としてやりがいもあると、42歳のとき、イートインもできるお店に改装しました。
稲城の里山で育ったおいしい野菜を料理に
▲「稲城の野菜のおいしさを広めたい」と浅野さん。めずらしい野菜を食べられることもある
稲城市は北側に多摩川が流れ、川が運んだ養分をたくさん含んだ土壌が広がる地域です。
無農薬や低農薬にこだわって農業を営む人も多く、作物にストレスを与えずのびのびと育つ環境を整えるなど、手間暇かけた野菜作りを行っています。
そのため、おいしさがひと味もふた味も違う作物ができあがり、たとえば、ほうれん草や小松菜などの葉ものは肉厚で、土に砂糖を入れているのかと思うほど甘いのだそうです。
▲いなぎ里山スペシャルタコライス 950円。ソースを3種類から選べる。手作りスープ付き
そこで、浅野さんは農家やJAから直接届く稲城の新鮮野菜をふんだんに使用。
特産の梨を使ったフルコース料理や季節の野菜を使ったプリンのほか、どっさり野菜におおわれてライスがまったく見えないタコライスも名物です。
シャキシャキとした野菜はどれも風味豊か。喉の奥にぴりっとくるスパイシーなひき肉と相性もよく、一見ボリュームがあるものの、最後まで食べる手が止まりません。
新しいことに次々と取り組んで走り続ける毎日
浅野さんは料理コンテストにも応募し、稲城の野菜で作ったお総菜を盛り込んだ「いなぎ里山御膳」が南多摩地区で2年連続金賞と市民特別賞を受賞。
また、「稲城市商店コンクール」で商工会長賞を獲得するなど、稲城を盛り上げようとする取り組みは次々と評価されています。
その功績もあって、現在は稲城市イメージキャラクター「稲城なしのすけ」が描かれた稲城市公認の移動販売車を所有。近所の保育園の行事から地元のお祭り、都内のフリーマーケット、テレビ局のイベントまで多方面で出店しています。
▲お弁当や出店でオムライスを食べた人がその味を忘れられず来店することも多い
最近は「稲城おやじの会」として稲城市長も巻きこみ、稲城産の小麦を使ったもちもち生地にほうれん草を練り込んだ稲城名物「みどりのカレーパン」を広めようと奮闘中。
というわけで、「走る!洋食屋さん♪」は、稲城への地元愛を胸に今日も走り続けているのです。
実際に、オムライス弁当の配達や移動販売車の出店で走りまわっていることも多いので、お店がオープンしているかどうか、twitter(@inagisatoyama)でご確認のうえ、ぜひおでかけください!
お店情報
走る!洋食屋さん♪ いなぎsatoyamaキッチン
住所:東京都稲城市平尾3-1-1 平尾住宅36-104
電話番号:042-331-3318
営業時間:11:30〜16:00、17:00〜21:00、土曜日・日曜日は11:30〜21:00(ランチメニューは17:00まで)
定休日:水曜日
ウェブサイト:http://soup-shisyou.jimdo.com/
※この記事は2017年12月の情報です。
※金額はすべて税込みです。