こんにちは、酒場案内人の塩見なゆです。
皆さんは、2010年頃から店舗数を拡大した磯丸水産を利用したことがありますか?
いまでこそ一般的になりましたが、店舗内にいけすを設置し、新鮮な魚介類を浜焼き形式で提供する居酒屋は、当時かなり希少だったと記憶しています。
そんな異色ともいえる居酒屋は、なぜ急激に店舗数を伸ばすことができたのか? 立ち上げ当初を知るキーパーソンにインタビューを行い、魅力を再発見しようという本企画。
今回は磯丸水産について、深掘りしたいと思います。
磯丸水産の一号店は、物件の都合で急遽誕生した!?
磯丸水産は、SFPホールディングス株式会社が首都圏を中心に約100店舗(公式サイトより 2022年2月末時点 FC店舗を除く)を展開しています。
では一体、どのような変遷があって全国に店舗を展開するに至ったのでしょうか?
立ち上げ当初から現場で指揮をとり、新店舗マネジャーとして活躍してきた平野良二さんにお話を伺いました。
塩見なゆ(以下、塩見):平野さん、よろしくお願いいたします。磯丸水産のこと、いろいろと教えてください。
平野良二さん(以下、平野さん):こちらこそよろしくお願いします。
まず弊社は、1984年に吉祥寺で居酒屋鳥良という手羽先唐揚げの居酒屋を開店したことからはじまります。ただ、鳥良だけでは企業としての事業拡大に限界があり、第二の柱を模索していました。
塩見:いまでは磯丸水産の海鮮事業がメインですが、当初は鶏肉がメインだったんですね! 知りませんでした。
平野さん:2009年、吉祥寺にいい物件を押さえられたのですが、当初出店を予定していたブランドのコンセプトと物件周辺の雰囲気がどうしても合わなかったんですよ。
塩見:それはちょっとしたピンチですね。
平野さん:そこで調査を重ねた結果、予定とは全く違う海鮮系の業態でいくことになり、結果として、ピンチがチャンスとなりました。
塩見:それは思い切りましたね!
平野さん:それで生まれたのが、磯丸水産の第一号店というわけです。
塩見:確かに吉祥寺はいろんな居酒屋が似合う街ではあります。これだけの店舗数を展開できるほどニーズがあったわけですし、結果的に大成功といえるのではないでしょうか。ちなみに初期から浜焼きスタイルで営業していたんですか?
平野さん:吉祥寺の一号店から、「都心の海の家」をコンセプトに据えた店舗運営をしていました。各テーブルにガスコンロを設置して、お客様自身のペースで海鮮食材を焼いてもらうようにしていました。
店内に設置しているいけすも、初期の頃から続けている設備です。当時は、いけすがある店は高級店というイメージがありましたから、「いけすがあるのに安い!」と喜んでもらっていましたね。
塩見:店内をのぞいてすぐの場所にいけすがあると、お客さんは気になりますし、磯丸水産の代名詞といえるような設備になったと思います。
ちなみに、「都心の海の家」というコンセプトは、どのような狙いがあったのでしょうか?
平野さん:磯丸水産はどの店舗も駅前の便利な路面に出店していましたし、当時珍しかった漁港のような店構えや、漂う浜焼きの香りなどのインパクトがあることから、「都心の海の家」というコンセプトで居酒屋を作ることで、店舗そのものが広告塔になるという考えでした。
塩見:それは面白い考え方ですね!
磯丸水産が成長する過程で生じた壁
塩見:そんな背景があって、一号店誕生から6年後の2015年に100店舗を達成したんですね。それにしても、すごい出店ペース! 出店数が増え始めた頃はどんな雰囲気だったのでしょうか。
平野さん:私は二号店の開店から本格的に加わったのですが、初期の頃はまぐろのカブト焼きなど、かなり大胆なメニューがありました。
新店舗ができると、オープン日はビール1杯10円という破格のサービスをして、店先に長い行列ができたことも懐かしいです。立ち上げ直後の店舗は、みんなで応援に行く社風があり、社員総出で新店を支えていました。
塩見:そうそう、磯丸水産はお祭りのような空気感がありました。毎年10店舗ペースで増加していると思ったら、瞬く間に100店舗になったように思います。その時の苦労話をお聞かせください。
平野さん:一番は働くキャストに関する部分でしたね。鳥良や磯丸水産初期の頃は、既存店である程度キャストが育ったら、その人を新店の店長に配属するという仕組みができていましたが、店舗数拡大にそれが追いつかなくなったのです。
塩見:確かに6年で100店舗オープンするのは、従業員さんの確保だけでも大変そうです。なおかつ、高い調理能力や接客スキルも必要になりますよね。
平野さん:そこで、私を含めた3人が新店舗の立ち上げ専門チームを発足しました。オープン前の新店舗に入り、店長を含めたキャストの研修をするようになりました。
塩見:ですが磯丸水産の皆さんは、接客が明るく丁寧な印象があり、マニュアルっぽさはあまり感じません。なぜでしょうか?
平野さん:「どうしたら一人でも多くのお客様に笑顔になってもらえるか」というテーマを持って研修をしているからでしょうか。店長などが集まる場では、定期的に「磯丸水産ってこういう居酒屋だよね。その上で新しいことも挑戦しよう!」という話し合いをしています。
塩見:決まったマニュアルに沿うのではなく、キャストの方に自分で考えてもらうからこそ、マニュアル通りではない接客が短期間で習得できると。
ちなみに店舗数が多い中で、コロナ禍という状況は相当厳しかったのではないですか?
平野さん:コロナ禍では、食事需要を強化する方針に変更しました。
だからこそ、いち早く海鮮丼や定食などの個人でのランチ利用、配達需要への対応ができました。夜も食事メニューを充実させて、食堂のようにご利用いただこうという方針でのり切ってきました。
塩見:外食需要が回復しインバウンド利用も期待できるいま、大都市への展開も落ち着きひとまわり骨太になった磯丸水産の今後が楽しみです。
平野さん:2024年は、SFPホールディングス株式会社と「鳥良」が創業40周年。「磯丸水産」は15周年になります。原点回帰で楽しみながらいろいろ企画していきたいです。
磯丸水産の初期メンバーの平野さんにおすすめを聞いてみた
塩見:ここからは、磯丸水産を支えたロングセラーを紹介していきたいんですが、初期の頃からずっと売れ筋というメニューはありますか?
平野さん:蟹味噌甲羅焼(593円)ですね! 初期の頃から磯丸水産のNo.1メニューです。少しずつブラッシュアップを繰り返しながら、いまも大変多くのお客様にご注文いただいています。ちなみに、秘伝の味なのでレシピは秘密です。
塩見:私も磯丸水産では必ず注文していますが、やはり蟹味噌甲羅焼ですか。
ではコンロにのせて、グツグツしてきたら軽く混ぜていただきます。磯丸水産の蟹味噌は、甘みとコクがしっかりと感じられることが特徴だと思います。蟹味噌が苦手な方でも食べやすくアレンジされていますよね。蟹味噌の濃厚さでお酒が進む味わいです!
平野さん:ありがとうございます。一度に4個食べるお客様もいらっしゃいますね。ほかにも浜焼きは創業時からありますし、鉄火巻きも初期の頃から続くメニューです。まぐろがはみ出しているのでびっくり鉄火なんて呼んでいました。
塩見:せっかくなので、蟹甲羅味噌焼以外にも磯丸水産のおすすめのメニューを教えてください!
平野さん:おすすめは富士2種盛(989円)と浜焼きセット(2,419円)です! ご用意するのでぜひ食べてみてください。
塩見:では、まずは富士2種盛から。きれいで大きな赤身ですね。豪快な盛り付けでテンションがあがります。
赤身の方は、ねっとりとしていて、かなりまぐろの風味が濃いですね。このクオリティはすごいです!
逆にびんちょうまぐろの方はさっぱりとして食べやすいのがいいですね。
平野さん:ありがとうございます! 浜焼きセットは、帆立、ホンビノス貝が各2個に、赤海老2尾にイカ浜焼き1杯です。
塩見:何度焼いても浜焼きは楽しいです。殻が開くのを待つこの時間も、磯の香りでビールが進みます。
塩見:まずはイカが焼き上がったので、食べてみます。
イカ1杯って相当なボリュームがあるように思えたんですが、身が柔らかくてペロッと食べられます。耳と胴体で全く食感が異なるので、最後まで食感を楽しめました。
塩見:続いて、ホンビノス貝と帆立をいただきます。
ホンビノス貝は大ぶりで、エキスがあふれ出てきます! このサイズが全国どこでも安定して食べられるなんてものすごいことです。店舗のいけすのおかげで鮮度は抜群なので、磯くささなどは全くないです。
そして、帆立は肝が全体に溶けていて、濃厚な味わいになっています。醤油を入れてもいいですが、海水の塩分がついているので、そのまま海水焼きにするのがおすすめと伺いました。
海水焼きにして食べてみると、肝の濃厚なうま味と海水の塩分、帆立から出るエキスが相まってたまりません。しっかりと塩味があるので、最初は醤油なしのパターンで楽しんでみてほしいです。
平野さん:おいしそうに食べて楽しんでいただけてよかったです!
塩見:こちらこそ、ありがとうございました!
磯丸水産初期メンバーの平野さんに聞いた、磯丸水産成功の秘密
磯丸水産は吉祥寺の物件に合わせて急遽オープンしましたが、それが大成功を収め、現在に至った経緯が明らかになりました。磯丸水産の立ち上げ当初から情熱あるメンバーがかかわり続けており、彼らのパワフルな努力が店舗数の増加にもつながっているのだと思います。
磯丸水産は食事だけの利用も大歓迎であり、夜でも定食をつまみにおいしいお酒を楽しむことができることは知りませんでした。約100店舗ある磯丸水産の動きが居酒屋業界に与える影響は小さくなく、今後も目が離せません。
お店情報
磯丸水産 吉祥寺北口店
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-2-8 真栄ビル 1F
電話番号:0422-23-7651
営業時間:11:00~翌4:00
定休日:なし
書いた人:塩見なゆ
酒場案内人(飲食・酒類専門ライター)。東京都杉並区・荻窪生まれ。 得意分野は街と酒。 新宿ゴールデン街に通ったお酒好きの両親を持つ。両親が飲んでいた瓶ビールに憧れて成長する。趣味からはじまった酒場めぐりは、次第に仕事になっていく。