はじめまして。ラーメン大好きライターの少年Bと申します。
さて、みなさまは栃木県佐野市のご当地ラーメン・佐野ラーメンをご存知でしょうか。2019年には佐野SAのストライキなど、メディアで数多く報道されたので、その名前くらいは聞いたことがあるかもしれません。
この佐野ラーメン、実は作り方にものすごい特徴があるんです。それは……
竹!!!!!
一般的にラーメンの麺を作る際は、製麺所・自家製問わずほぼ製麺機を使っています。しかし、佐野には今も昔ながらの製麺技法「青竹打ち」で麺を作っているお店がたくさんあるんです!
竹で作る中華麺、めちゃめちゃ気になりませんか。これはぜひ佐野に飛ばねば……! と思っていたところ、神奈川県横浜市にある「新横浜ラーメン博物館(以下、ラー博)」に、青竹打ちができる製麺体験コーナーがオープンした、との情報が入ってきました。
新横浜ラーメン博物館で青竹打ちについて学ぶ
というわけでラー博にやって来ました。
全国各地のラーメン店が集う、言わずと知れた有名スポット。昭和感満載の地下フロアも気になりますが、今回は製麺体験のできる1階へ。
館内には等身大のチャルメラおじさんがいたり……
ラーメンの具材をかたどった椅子も。細かいところまでラーメン一色!
さて、今回の舞台となる「青竹打ち 麺作り体験コーナー」は、入口から見て右奥、新館にあります。
この日はプレオープンということもあり、館長や広報の中野さんから麺作り体験コーナーの説明がありました。
青竹打ちは元々、中国から麺料理が日本に入ってきたときの製麺技法。明治や大正の時代は日本全国でこの技が使われていたそうで、「ラーメンの生みの親」と言われるお店、浅草の「来々軒」も青竹打ちで麺を作っていたそうです。
その特徴は、麺の生地に気泡が入り込むことで、やわらかく、のどごしのいい麺になること。
一方で、一度に作れる麺の量は、熟練の職人でも最大6kgほど。1玉100gとしても、わずか60食分です。最近の製麺機は一度に100kgの麺を作れるものもあるそうで、効率の差は歴然ですね。
しかし、この青竹打ちでしか作れない食感があるということで、佐野では今でも30軒を超えるお店がこの技法で麺を作っています(佐野ラーメンのお店のなかにも、製麺機を使っているお店もあります)。
このために用意された麺打ち台と竹。わざわざ佐野から持ってきたのかと思ったら、じつは新横浜産だそう。地産地消!
麺打ちの達人の技を盗め!
この日は「佐野ラーメン会」会長の谷津茂さん(もちろん右)が佐野からお越しになっていました。申し遅れました、左にいるのが筆者の少年Bでございます。読者のみなさま、どうぞよろしくお願いいたします。
この青竹打ち体験を実施するにあたって、ラー博のスタッフの方たちは半年以上、谷津さんの元に通って修行をしたんですって。
そんな青竹打ちの達人・谷津さんに麺の作り方を見せていただきました。
小麦粉に対する水の割合を表す加水率は、なんと46%。通常の中華麺が30~35%程度、多加水麺と言われる札幌ラーメンの麺でも40%程度なので、とんでもなく水分の多い「超多加水麺」ということになります。そう、佐野ラーメンは全国でもトップクラスに加水率が高い麺なのです。
加水率が高い麺は、やわらかくもちもちした食感で、伸びにくい特性がありますが、その反面、スープとの絡みは悪くなります。そこで、佐野ラーメンは手揉みをして、麺をちぢれさせることでスープと絡みやすくする工夫がなされています。
こちらは、小麦粉、水、かん水(混ぜることでしなやかさとコシを出し、発色をよくするアルカリ塩水溶液)を手で混ぜる「水回し」という作業。見た目以上に体力を使うこの作業を5~10分続けることで、小麦粉を「めん塊(かい)」にします。
出来上がっためん塊がこちら。
青竹に足をかけ、体重を乗せながら、めん塊を薄く伸ばしていきます。
伸ばしためん塊がくっつかないように、「打ち粉」と呼ばれる役目の小麦粉を振って、また折りたたんで……
再び青竹の出番。タンタンタン、タンタンタン、タンタンとリズムのよい音が響きます。
薄くなってきたら、ここでもめん塊がくっつかないように注意しながら開いて、
さらに細かく折りたたんで、青竹で伸ばしていきます。
最初と比べると、どんどん薄く、左右に広がったのがわかります。
こうして、30分ほどかけて、めん塊を厚さ約2mmの「めん帯」と呼ばれる状態にします。
通常ではこの特製の包丁で麺を切ることが多いのですが、作業には力が要るため子どもが触るのは危険です。そこで……
ラー博では安全のために、麺切り機を用意しています。取っ手を上げ下げするだけで同じ幅で切れるので、お子さまにも安心。
なお、この「青竹打ち麺作りコーナー」はご予約コース(3,000円/小麦粉でめん塊を作るところからスタート)、お試しコース(1,000円/めん塊が用意された状態からスタート)の2種類がありますが、どちらのコースでも青竹打ちと麺切りまで体験できます。
達人の作った麺がこちら。何層にも折りたたまれためん帯が1本1本の麺になるので、こんなに長~い麺ができるんです! すげぇぇぇぇぇ!
達人の作った麺、とってもおいしそう!
それでは、わたしも青竹打ちに挑戦させていただくことにしましょう。
青竹打ちに挑戦! しかし……?
さっそく青竹にまたがり、事前に用意してあっためん塊を伸ばし……あれ?
谷津さん:足が開いているね。左足の太ももを竹にくっつけて、身体もちょっと内側に入れたほうがいいな。その体勢、一見楽そうだけど、逆に疲れるんじゃないかな。
達人からのアドバイスが飛びます。
谷津さん:こうやって、乗るっていうより挟む感じだね。ほれ、ジャンプ!
ラー博スタッフも、最初は1分も経たずに根を上げたという青竹打ち。もちろん、そう簡単にはいかないだろうと思っていましたが、運動不足の身体には、想像以上にハード!
優しい達人は、目の前でお手本を見せてくれましたが、それでもなかなかうまく身体が動きません。今回はほかの参加者も一緒に体験をするということで、わたしは5分ほどで終了。
それでも、かなり息が上がってしまいました。涼しい顔で30分もこの作業を続ける達人のすごさ、体験して初めてわかりました!
さて、達人に麺の出来を見てもらいましょう。この笑顔、もしかして合格……?
谷津さん:うーん、50点。いや、おまけで60点かなぁ。竹が前に進まずに、円を描いて進んでるでしょ。だから、麺の伸び方にちょっとムラがあるね。
ガーン! これは補習を受けに行かなくちゃダメかも……!
ちなみに、通常の営業では達人はいませんが、達人に指導を受けたスタッフが、丁寧にやさしく教えてくれます。正直、うまく打つのはむずかしいなぁと思いましたが、実際に自分で麺を作れるのはとってもおもしろいですよ。
達人に聞きたい! 青竹打ちのこんなこと!
せっかくの機会なので、谷津さんに青竹打ちについていろいろお聞きしてみました。
──なぜ、佐野では今も青竹打ちが残っているんですか?
谷津さん:歴史が古いし、地域に根付いているからかな。「佐野ラーメン」って名乗ってるお店、あんまり都内にないでしょう。世代交代してもおなじ作り方でやっているお店が多いんですよ。
あとは、家族でやってる小さいお店が多いから、高い製麺機を買えなかったってのもあるかもしれないね。
──谷津さんはどこで修行をされたんですか?
谷津さん:組合にね、教えてくれる講師がいるんです。「ライバルだから教えないよ」ってんじゃなくて、みんなで青竹打ちを守っていこう、みんなで残そうという気持ちがある。みんな麺に惚れてるからね(笑)。
──竹はいったいどれくらいもつんですか?
谷津さん:竹を取った時期にもよるけど、だいたい半年くらいかな。だんだん薄くヒビが入ってくるから、そうなったら変え時だね。知人の山から取ってきたり、業者から買ったりして。
──竹を変えると、伸ばす時の感覚も変わりますか?
谷津さん:そうだね、最初は竹が水分を含んでいるから重いんだよ。だんだん使っていくうちに水分が抜けて枯れてくる。今日触った竹も褐色になっているでしょう。これくらいがちょうどいいね。
──ラー博で青竹打ちを勉強したら、家でもできるようになりますか?
谷津さん:うーん、家では難しいね。この台には、竹を挟む溝があるでしょう。これが大事なんだよ。家でやるとしたら……リフォームが必要だね(笑)。
竹の太さも、この溝に合わせて選ぶんだよ。太すぎても、細すぎてもダメ。
──竹を切る位置にも秘密があるとか?
谷津さん:秘密ってほどじゃないけど、溝に入れる部分は節の上で切らなきゃいけないんだ。節のところがいちばん強いから、力がかかる部分に節がくるように。
谷津さんに青竹を持っていただきました。右手を添えている節は生地に節の跡がつかないよう、やすりで削って平らにしています。
谷津さん:麺を作りたくなったら、ぜひまたラー博に遊びに来てください。
麺にこだわる青竹打ちの技法。竹にも秘密がたくさん隠されているんですね。
青竹打ちの麺を食べてみよう!
ご予約コースではその場でラーメンの試食もできます。スープもここだけでしか味わえない、オリジナルの佐野ラーメンです。
青竹打ちの麺、いったいどんな味わいなんでしょうか。
スルスルスル……
うまい! 思わずこんな笑顔になってしまいました。
麺はところどころで厚かったり、薄かったり。いい意味で、ムラのある歯ごたえが楽しめます。
食感もワンタンの皮のような、つるっとした仕上がり。いわゆる「ラーメンの麺」とはちょっとちがった感覚が楽しめます。
なるほど、非効率なやり方ながら、いまでも伝統として残っている技法の実力を味わうことができました。
ご予約コース、お試しコースともに、作った麺は持ち帰ることができます(お試しコースには、お持ち帰りスープ2食付で1,800円のプランも)。
さて、ラー博には自分の好みのラーメンを作ることができる「マイラーメンセット」(500円)があります。
鶏ガラ・和風・とんこつ・鶏白湯の4種類のスープ、しょうゆ・しお・味噌の3つのタレ、2種類の油に5種類の麺を組み合わせて、自分の好みのラーメンが作れるセットです。
味噌ラーメンと青竹打ち麺の相性は?
今回わたしがラーメンセットで選んだ組み合わせは、鶏白湯スープに味噌ダレ、オーソドックスな中細麺。せっかくなので、この「中細麺」と持ち帰った「青竹打ちの麺」を、同じスープとタレで食べ比べてみます。
まずは鶏白湯のスープに味噌ダレを組み合わせ、オーソドックスな中細麺で食べてみました。
中細麺を茹でます。グツグツ。
オーソドックスな中細麺で作った鶏白湯味噌ラーメンです。
「いったいどんな感じになるのかな?」と思いましたが、合せてみると、まろやかでコクのある味わいに。おいしい!
続いて、青竹打ちの麺を茹でると、ちょっとびっくり。食品添加物の入っていない小麦粉と水だけの麺なので、一気に鍋の中のお湯が白くなりました。茹で終わったあとはお湯が黄色に。すごい、ラーメン屋さんで見る光景だ……!
麺以外はまったくおなじ鶏白湯味噌ラーメンです。麺を変えただけで、どことなく違って見えませんか。
佐野ラーメンとはまったく違うスープですが、これはこれでアリです! 青竹打ちの麺の食感が特徴的なので、好みは分かれるかもしれませんが、スープをしっかり持ち上げてくれるためすごく一体感を感じました。
皆さんもラー博で青竹打ちの麺を作って、ぜひいろんなスープと組み合わせてみてはいかがでしょうか。
最後にもう一度、達人のきれいなフォームをどうぞ。
施設情報
新横浜ラーメン博物館
住所:神奈川県横浜市港北区新横浜2-14-21
電話:045-471-0503
営業時間:11:00~22:00(月〜金)、11:00~22:30(土)、10:30~22:00(日・祝)
※いずれもラーメン店のラストオーダーは閉館時間の30分前まで
定休日:年末年始
※「青竹打ち 麺作り体験」の開催日時などの詳細については、以下Webサイトをご確認ください