子育て中にスリランカカレーにハマり、お店を開くことになった店長に家庭との両立のコツを聞いてみた

月曜日のみの間借りカレー屋としてスタートした「月曜スリランカカレー」。2023年の4月、東京・久我山に実店舗をオープンしたとのことで、お話を伺ってきました。なんと、育児とカレー屋、二足のわらじを履かれているとか!?

 

これまで東京・高円寺で週1回だけ間借りカレー屋として営業していたお店が、この春、久我山で実店舗をオープンしたという情報を聞きつけました。

なんと店主の女性は子育て中にスリランカカレーにハマり、間借りカレー屋運営を経て実店舗を開くまでに至ったというではないですか……!

子育てをしながら、自分の好きなことも追求する。どうすればそんなパラレル(並行)な生き方ができるんでしょうか。子どもが2人いる私からしても、それってぜひとも知りたいところ。

……となれば、これは話を伺ってみるしかない! おいしいスリランカカレーも食べたいし!

 

久我山駅から徒歩5分。現地のスパイスと旬の食材を使った魅惑のスリランカカレー

 

京王井の頭線久我山駅から徒歩5分ほどの場所にある「げつようび」。お店を訪れると、店主の児島麻里子さんが笑顔で迎え入れてくれました。「あれ、前から知り合いでしたっけ?」と言いたくなるような親しみやすさで、一気にこちらの緊張がほどけます。

まずは早速、児島さんの作るスリランカカレーを実食することに。この日のメニューはこちら。

 

▲本日のスリランカプレート。カレーの種類は1~3種から選ぶことができて、価格は1種が1,200円で2種が1,400円、3種が1,500円。この日はチキンカレーと鰯(いわし)カレー、青マンゴーカレーがメイン。そこに副菜としてパリップ(豆カレー)と、ケールと夏みかん、ポルサンボル(ココナツふりかけ)、なすのモージュ、ハールマッソーウェンジャナ(小魚炒め煮)、ビーツのキラタ、さらにごはんが付きます。お好みで辛みペーストルヌミリスの追加も可能

 

スリランカカレーはこのように、ごはんと数種類のカレーの取り合わせが基本。食べ方は自由ですが、途中でカレーや副菜を混ぜ混ぜしながら味の七変化を楽しむのも醍醐味(だいごみ)です。

早速口にしてみると、辛さ自体はかなりマイルド。そのぶん鰯の力強さ、青マンゴーのフレッシュさ、ココナツのトロピカル感など素材の一つ一つが際立ち、スパイスと合わさって口の中でさまざまな味わいを奏でます。わぁぁ、夢中で食べてしまう……!!

 

 

――カレーというと刺激が強くて激辛なものもありますが、とっても優しい味わいなのに驚きました。

 

児島麻里子さん(以下、児島):スリランカカレーって油を多く使わないので、サラサラしていてヘルシー。日本人にも食べやすいと思います。鰹を使っているところなんかも日本と似てる。初めて食べる人でも親しみやすく感じられるんじゃないかな。

 

――使っている材料などを教えてください。

 

児島:特徴的な材料で言うと、まずは鰹です。豆カレーやポルサンボルに入ってます。
それから、ツナパハという混合スパイス。スリランカでは、家庭によっていろいろなツナパハの味があるんですよ。私は2023年の4月にスリランカに行った際にお気に入りのスパイス屋さんで買ってきたものを使っています。
ごはんはバスマティライスとジャポニカ米の混合。普通に炊飯器で一緒に炊くんですけど、私は塩と油をちょっと入れて。水加減とか浸水時間とかは全部目分量です(笑)。
あとは、今日のメニューだと鰯とか青マンゴーとか、旬の食材を使うようにしてますね。

 

▲青マンゴー、初めて見た。ツルンとしてかわいい

 

――児島さんの作るカレーのこだわりはなんでしょうか?

 

児島:スリランカで覚えた味を、日本人の味覚に合うようにアレンジしているところかな。たぶん自分が日本人だから、いくら頑張って現地の味に寄せようとしても、どうしたって日本人の好きな味になっちゃうんだと思います。

 

――バナナの葉の上にのっているのもスリランカカレーらしくてテンションが上がります!

 

児島:コスト的には少し悩んだところではあるんですけど、やっぱりあるとうれしいですよね(笑)。

 

スリランカカレーにハマる……からのわずか1年でお店オープン!?

さて、ここからはお店にまつわるお話を伺います。若いときは演劇やベビーシッターの仕事をしていて、カレーにもスリランカにも特別深い思い入れはなかったという児島さん。それが一体なぜ、スリランカカレー屋を開くことに……!?

 

 

児島:きっかけは、2017年に日本人向けのツアーでスリランカに旅行したこと。アーユルヴェーダが目的だったんですけど、現地でスリランカカレーを食べたところ、野菜が多くて全部カレー味なのに、それぞれ味が違うことに驚いて。食べたら体調もなぜだかスッキリしたんです。これってなんなんだろうなって思って、帰国してからもいろいろとカレーを食べ歩くようになり、自分でも作るようになり……。そうするともう1回スリランカに行きたいなとなって、スリランカにいる知り合いに仲介してもらい、現地の有名ホテルのシェフや一般家庭のお母さんから作り方を教えてもらいました。

 

――そうして高円寺に間借りのお店をオープンされたのが2018年。スリランカに旅行に行ってからたった1年間で、ものすごい変化があったんですね……!

 

児島:オープンというか……1回2回やれば自分の気が済むだろうって思って、最初はシェアカフェでやってみたんです。でもやってみると、やっぱりお客さんの言葉を聞くのが楽しい。それで、週1回ぐらいなら家族も大丈夫かなということで、間借り&月曜日のみ営業する「月曜スリランカカレー」を始めたんです。最終的には、高円寺での月曜日以外にも、久我山や下北沢、江戸川橋、表参道でも間借りで出していました。

 

――間借りで4年半営業され、2023年4月に実店舗をオープン。それはどのようなきっかけや心境の変化があったのでしょうか?

 

児島:子育てが少し落ち着いたことがあります。子どもが2人いるんですが、間借りを始めた時点では上の子が中学生、下の子が小学生だったのが今では高3と高1になりました。あと、久我山にすごく好きなお菓子屋さんがあって、何回か通ってお店の方と話してみたら、私と同い年で子どもの年も同じ。そこで仕込みからずっと1人で頑張って営業しているのを見ていたら、「あ、この人いいな。私にもできるかな。私もやってみたいな」と思っちゃって……。そうした出会いにも影響されて、2022年の年末あたりに「1年ぐらいかけてゆっくり物件を探してみようかな」と思い始めたんです。

 

――ん? 2022年の年末ぐらいにそう思い始めて、2023年4月にオープン……?

 

 

児島:物件を探したいってことを周りに話したらすぐ不動産屋さんを薦められて、行ったらすぐに「ここが空いてるよ」と。自分でもびっくりするくらい、トントン拍子に決まりました。

 

子育てとカレー屋、両立できたのは”信用”があったから

――こうして見ると、非常にスムーズにお店をスケールアップされていったように見えますが、お子さんを育てながらの大変さはなかったのでしょうか?

 

 

児島:子どもが思春期の大事な時期に自分のことばかりしていましたから……。ちょいちょいスリランカに行ってたときなんかは、夫に子どもを見てもらっていました。

 

――児島さんのように、家事・育児を分担しながら共働きしている人も多いですよね。お互いのスケジュールはどのように共有していますか?

 

児島:今は家族のグループチャットですね。夫は芸能関係で仕事が不規則なので、昼だけ食べるときとかは教えてもらっています。地方公演のときとかは1カ月家を空けることもあるので、逆に私がいないときはパパと3人の生活を新鮮な感じで楽しんでくれて。夫も料理したり家のことをやったりが苦にならないので、私も安心してこの仕事を続けてこられたというのはありますね。
(注:夫は俳優・脚本家のマギー氏)

 

 

――子育てと並行して自分のやりたいことも実行できたポイントはどこだと思いますか?

 

児島:子どもを信用しているというのは大きいかも。うちはお姉ちゃんがいろいろ自分でやってみたがるタイプだったので、彼女の言うままに自分たちのことは自分たちでやってもらっていたところがあります。それを夫がちょっとサポートするという感じ。日々の仕込みがあったりもしますが、「この時間空くから、一緒にごはん食べようよ」と娘を誘ったり、お店が終わった後は片付けをしながら電話をしたり。お店をオープンしてようやくペースがつかめてきたので、しばらくはこの形で営業できればと。もしかしたら今後、営業日が増えることもあるかもしれませんね。

 

 

――読者の中には、お店を出すことに興味があっても、普段は会社で働いていたり子どもがいたりで動ける時間に制限があるという人も多いんじゃないかな、と。そういう方にとって、最初は間借りからというのは入りやすいですか?

 

児島:それはそうですね。やっぱりいくら頭で考えても実際にやってみないと分からないので、間借りで始めて手応えを感じてみるのは良いと思います。

 

――今後、こんなことがしたい、などありますか?

 

 

児島:いろんな方とのコラボも楽しみ。先日はすし職人の子と、おすしとスパイスでコラボしました。スリランカカレーって酸っぱいものも多いので、実はおすしとも合うんです。他にも、今度はコース料理のコラボを予定しています。そうやってどんどんつながりが広がっていくといいなぁ。自由にやりすぎると怒られるかな、なんて思ったりもしますが、そもそもスリランカという国やスリランカカレー自体がとっても懐が広いものですから。まぁいいか、って。

 

 

パラレルな生き方が生み出す奥行きのある人生

さまざまなスパイスやカレーと副菜の組み合わせで、無限大の味わいが広がるスリランカカレー。その懐の広さというのは児島さんにも通じるものがあるなぁと、取材を終えて感じました。夫婦でともに働いて家庭を回していくためには、家族間でのマニュアルや決まり事みたいなものが必要なのではないかと思っていましたが、児島家にそうした小難しいものはまるでなし。大切なのは、子どもを信用して、パートナーにも任せること。家族内にそうした自由な空気感があったからこそ、児島さんは安心して自分の好きなことを追求してこられたのだそう。

 

▲かわいい壁紙と思ったら……「下地がかわいかったので壁紙は張らず、そのままにしています」。なんと下地! そういうところ、すてきだな~

 

というわけで、私も子どもたちを信用して明日からちょっくらスリランカ行ってくるわ! ……って、いきなりはハードルが高いので。まずは「げつようび」でスリランカカレーを食べて、1人の時間を楽しむところから始めてみるのはどうでしょう。料理好きな人は、児島さんのように間借りからお店に挑戦してみるというのもいいかもしれない。子どもがいるからこそ楽しめるパラレルな生き方というのは、大変なところもあるけれど、きっと人生にスパイスのような深みを与えてくれるに違いありません。

 

お店情報

げつようび(旧店名 月曜スリランカカレー)

住所:東京都杉並区久我山2-13-6
電話番号:090-8288-1662
営業時間/定休日:インスタグラムをご参照ください
インスタグラム:https://www.instagram.com/getuyou_surilanka/

書いた人:鷺ノ宮やよい

鷺ノ宮やよい

三重県出身。旅行代理店、編集プロダクションを経て2009年よりフリーライターとして活動中。学生時代に池波正太郎の小説やエッセイを読んで、食べ物の魅力を文章で伝えることに惹かれる。これまで雑誌やウェブサイトなどで携わったグルメ関係の記事は100本以上。三度の飯より食べることが好き。激辛ジャンキー。慢性眼精疲労。

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