※この記事の取材は新型コロナウイルス流行前の2020年頭に行いました。諸事情により2023年4月の公開となります。
横浜・桜木町と言えば、観覧車や赤レンガ倉庫といった「みなとみらい」のことを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。でも、そことは逆サイドにある巨大飲み屋街「野毛」が相当アツいんです。
初めまして、今野亜美です。生まれも育ちも横浜。お酒が大好きで、お酒にまつわるお仕事をメインにタレント活動をさせていただいています。
そんな私の推し酒場街は、今回のメインテーマでもある野毛。
600軒以上ものバラエティ豊かな酒場がひしめきあい、何度来ても新たな発見のある街。昼飲みするのも良し、ダイナミックなはしご酒をするのも良し、馴染みのマスターのお店でしっぽり飲むのも良し。虜にならざるを得ない、罪な酒場天国。その魅力に抗えるはずもなく……気がつけば野毛沼にズブズブと。
最近では度々メディアに取り上げられ、ライトに利用しやすいお店も増えて、ある種、観光地のような賑わいを見せているんです。
なんて偉そうに語ってしまいましたが、私もこの街に通うようになってまだ10年足らずの新参者。「野毛をよく知る先輩と野毛で飲みたい!」。そんな思いから決まった、贅沢極まりない今回の企画。
来てくださったのは、大人気バンド「クレイジーケンバンド」のギタリスト、小野瀬雅生さん。
生まれも育ちも横浜、現在も横浜を中心に活動していらっしゃる小野瀬さん。B級グルメや野球、怪獣など、その幅広い知識から音楽以外の領域でも精力的に活動されていらっしゃいます。
生粋のハマっ子が店主のアットホームな居酒屋
取材場所は私が行きつけのお店を選ばせていただきました。
それがコチラ。
「魂屋(そ~るや)」さん。
2020年3月にオープンから20年を迎えました。
ものすごいインパクトを放つ店構えから、野毛でも1、2を争う入店難易度が高めのお店かもしれません。
でも、勇気を出してぜひ扉をあけてみてください。
強烈なオーラを放つ外観とは裏腹に、店内に流れるのはほんわかとアットホームな空気感。
店主の佐藤さん。
生まれも育ちも、ここ横浜な生粋のハマっ子。
「ももいろクローバーZ」さんの大ファンで、お店にはそれにちなんだドリンクメニューもあるなど、店内のいたるところに佐藤さんの趣味が詰め込まれています。
店内はカウンター席と、奥にテーブル席が2つ。
行きつけだから、というのはもちろんですが、野毛で長く営業されているお店であり、横浜にルーツを持つ店主さんがいると言う理由でコチラのお店を選びました。
昔の野毛は子供にとって立ち入り禁止区域
まずは乾杯。
小野瀬:ハイボールください!
亜美:じゃあ私もそれで!
今野:1杯目はビールではないんですね。
小野瀬:昔はビールしか飲まなかったの。最初から最後までビール。で、昔はすっごいヘビースモーカーだったの。10年前に禁煙したんですけど、そのきっかけが、夢にタバコの神様が出てきて、「お前の一生分のタバコは終わりじゃ。もうお前の吸うタバコはない」って言われてね。その後ろにはビールの神様がいて、「ビールも終わりだよ。もう一生分飲んだよ。他の酒を飲んでね」って言うから、それ以来ビールを飲まなくなった。
亜美:なんですか。その、スピリチュアルなエピソードは。
ここで、おつまみを数種類注文。
まず、味噌キュウ(400円)が来ました。
お味噌を付けていただきます。パリッとした食感が心地よいです。
亜美:早速ですが、初めて野毛に来たときのことは覚えてますか?
小野瀬:僕ら横浜市民にとって、野毛というと動物園のこと。野毛山動物園というのがあるのよ。そこが初めてかなぁ……。
亜美:私も小さい頃よく行きました。
小野瀬:あと、日の出町駅の近くあった「不二家」という洋食屋さん(2012年閉店)。小さい頃、野毛で行ったのは、その2つくらい。そこから先の路地に、良い子は入っちゃいけない、みたいな。野毛は本当に怖い街だったからね。立ち入り禁止区域。
亜美:黄金町は怖かったと聞いたことがありますけど、野毛もそうだったんですか?
小野瀬:うん。ここが地獄の一丁目という感じで。
亜美:えー!
小野瀬:こんなに雰囲気が明るくなかったのよ。お店はいっぱいあるから賑やかではあるんだけど、昔は暗かったからねぇ。あんまり深い話は記事にできないので、「怖い話もいっぱい聞きました」とだけ書いておいてください。
亜美:そうさせていただきます。
小野瀬:ただ、今でも綿々とアンタッチャブルなところが残っているからこそ、ここら辺は面白いんだなと思うの。
5時間じっくり煮込んだ名物メニューのモツ煮
ここで「モツ煮」(550円)がやってきました。
魂屋には同じ値段で「激辛もつ煮」「カレーもつ煮」「ニンニクMAXもつ煮」、650円で「チーズもつ煮」と色々な種類のモツ煮があるのですが、いただいたのはシンプルなモツ煮。
5時間しっかりと煮込んで作られた、という手間暇かけた一品。
ほどよく食感を残しつつ、柔らかく煮込まれたモツがゴロゴロと豪快に入っています。
食べ応えがあってお酒との相性も抜群です。
一品一品写真を取る小野瀬さん。日々更新されるブログ「世界の涯で天丼を食らうの逆襲」には思わずよだれの出てしまうような食べ歩きの記録が綴られています。
「女の人に取ってもらうなんて、そんなことをやってはいけないのよ」とモツ煮をよそってくださる小野瀬さん。ジェントルマンすぎる。
小野瀬雅生が愛する野毛の中華屋さん
亜美:幾つぐらいから、頻繁に野毛に行くようになったんですか?
小野瀬:10代後半ぐらいかな。野毛に近いスタジオでバイトしてたから。
亜美:若い時から野毛に通っていたんですね。今も営業しているお店で、よく行っていたのはどこですか?
小野瀬:どれも中華屋さんですけど、「萬里(ばんり)」や「三陽(さんよう)」、あと野毛のお店と呼ぶかどうかは微妙なんだけど日の出町に近い「第一亭(だいいちてい)」。
小野瀬:今でこそ第一亭は21時に閉まっちゃうけど、昔は夜中までやっていたんだ。多分、野毛で回数的に一番行っているのは第一亭かな。
当時から、メニューはあまり変わっていなくて、餃子、ホルモン炒め、青菜炒めをよく頼んでた。飲むものは変わったけどね。前は生ビール、瓶ビールってやってたのが、最近はレモンサワー、ウーロンハイ。
亜美:神様からのお告げがあったんですもんね。
小野瀬:第一亭は、お代わりしてると濃くなってくるんだよね。だんだんとサービスが入ってくる。
亜美:ありがたいけど……。
小野瀬:そう、ありがたいけど、濃くなってきたな……って。そんな僕の顔を見て、第一亭のお母さんがニヤッと笑ってね。
亜美:じゃあ、第一亭が一番思い出深いお店なんですね。
小野瀬:古さではね。あとは、桜木町駅から地下をくぐったところにある、「桜木町ぴおシティ」(オフィス・ショッピング街・飲食店街を合わせた複合施設)の中にあるお店は手当たり次第入ったな。最近は前より行かなくなっちゃったけど。
亜美:桜木町ぴおシティで飲むと、そこだけで完結しますか?
小野瀬:いや、地上に出て、野毛で本格的に飲む。その逆もあるし、野毛じゃなく日の出町に流れることもあるし。昔は必ず4〜5軒行ってたな。道ですれ違った人に「本当に野毛にいるんだ!」って言われたりして。
亜美:小野瀬さんがいらっしゃったら、それはビックリですよ。巡るお店のパターンはありますか?
小野瀬:最近、昔からの友達が野毛にお店を出しているのよ。だから、1、2軒飲んで、そこに行っておしまい、みたいな感じかな。だいたい知り合いがいるお店に行くことが多いかも。前は新規開拓もチャレンジしてたんだけどね。
今は野毛で飲んでも、帰るのは早くなったかな。なくなったお店も多いしね。
亜美:生き残りが大変なんですね……。
1998年が野毛の転換期だった
最後にやってきたのが魂屋の看板メニュー「ナチョナチョ」(700円)。
熱々の鉄板の上に盛られた千切りキャベツとたっぷりかけられたマヨネーズ。なかなかボリュームのある一品。
キャベツをそっと持ち上げると、中にはコーンフレークが。とろけるチーズとオリジナルのソースがかかっています。
ナチョスやタコスに味わいは近いけれど、コーンフレークのカリカリ食感がアクセントになっていて、唯一無二の存在感。魂屋に来たらぜひ頼んで欲しいオリジナルメニューです。
「美味しい!」とモグモグ召し上がりながら何杯目かのハイボールをお代わりした小野瀬さん。
小野瀬:不思議だけどお店って一つひとつ「気」が全然違って、ゆったりできるお店もあるし、せわしないお店もあるし。でも野毛自体はゆったりとしているんだよね。さっさと飲んで次に行ってもいいし、長っ尻で飲んでいてもいいし、自由なのよ。それは昔から変わらなくて、そこがいいところだよね。
亜美:ありのままでいられるというか、ホッとする感じがありますよね。
小野瀬:超常連にならなくていい、みたいなところもあるよね。準常連くらいでも、「どうもごぶさたです」って言ってもらえる。
亜美:家みたいな温かさがありますよね。最近は新しいお店や、若い人向けのお店も増えて、野毛の雰囲気もだいぶ変わったと思うんですけれど、そういう街の変化はどう思いますか?
小野瀬:昔のおっかない野毛よりもいいと思うよ。僕自身、若い頃に若者向けのお店があったらそっちに行ってたと思うし。
野毛は寂れて終わっちゃうのかなって時期もあったんです。1989年にみなとみらいが新設されて、そっちに人が行くようになって、このままダメになっちゃうのかなって。
ところが野毛もワーッと盛り返して賑やかになった。観光地だろうとなんだろうと賑やかな方がいいよね。
亜美:いつ頃から、盛り返したなという実感があったんですか?
小野瀬:1998年に横浜ベイスターズが優勝した後だろうな。あの時に横浜の雰囲気がすごく変わった。同じ年に神奈川大学が箱根駅伝で優勝、横浜高校の野球部が甲子園で優勝、そして横浜ベイスターズが優勝だからね。横浜が一気に活気付いて、暗かった野毛までパーっと光が当たったのよ。そしたらいろんなものの芽が出た。
亜美:駅伝や野球がきっかけだったりするんですね。
小野瀬:意外とそんなものだったりするかもね。1998年にメジャーデビューしたゆずなんてスターも出た。
亜美:今では「友達と野毛に行く」なんていうのも普通になってますもんね。私の周りにも行きたがる女の子が結構います。私自身、野毛にはポップなイメージしかなかったから、全く違う時代があったことは衝撃でした。
小野瀬:流行り廃れも激しくてシビアな街になっているかもだけど、この風通しの良い野毛は好きだね。
横浜を代表する飲屋街として老若男女問わず、多くの人が集う野毛。
当たり前にその姿があるのではなく、そこに至るまでの歴史を知り、さらにこの街が愛おしくなる取材でした。
少し怪しくてディープ。でも、温かくて何度でも帰りたくなる街。
一度知ったら病みつきになってしまうこの魅力。ぜひ、この野毛沼に足を踏み入れてみませんか?
撮影:西邑泰和
店舗情報
魂屋(そ~るや)