タイ・バンコクに「ロボットが給仕するレストランがある」、そんなうわさを聞きつけた。
日本のロボットレストランには行ったことがある。新宿歌舞伎町のそのお店は巨大ロボットたちがきらびやかでギラギラな舞台で踊り、演じ、美しいダンサーたちが華を添える、めくるめく夢空間だ。
タイのロボレスもさぞかしにぎやかなことだろう。
三輪タクシーのトゥクトゥクに乗りこみ、蒸せるような熱い風を体に浴びつつ、お店へと急ぐ。
1階にカーディーラーが入居しているオシャレなビルに着いた。オフィスビルのような落ち着いたムード。
到着したのは20時頃だがほぼ全てのテナントが閉店していて、妙に薄暗い。
店名は、春と書いて「hajime(はじめ)」と呼ぶ。
ロボットのしゃぶしゃぶ屋さんだ。
店頭にはお花を握ったサムライロボットが立っていた。人の心を理解してくれそうな優しげな笑みだ。
しゃぶしゃぶは2時間食べ放題のオーダー制。
ベーシックコースだと449バーツ。日本円に換算して1,700円ぐらい。
肉、シーフード、野菜とメニューの幅もそれなりに多い。日本のしゃぶしゃぶと違って、スープ自体に味がついている。魚ダシの和風テイスト、トムヤムクン風味、甘めの物など4種類のスープから2つ選べる。
しゃぶしゃぶの具材はオーダー表に記載。
ロボットではなく、人間のスタッフに手渡せば注文完了だ。
しばらくするとテーブル横のベルトコンベヤーががちゃがちゃと稼働音を鳴らし、カブトをかぶったサムライロボが、こちらにむかって動きだした。
両手に握ったトレイいっぱいに皿が積まれている。
「お皿、落とさず運べるかな……」なんて心配は杞憂(きゆう)に過ぎなかった。
すいーっとなめらかな水平移動をかまして、
キュッと角度を変え……
ゆっくりと丁寧な所作で置いていく。
出で立ちがサムライなので荒々しい給仕を期待していたが、意外と慎重派だ。
3段重ねでけっこうな高さだが危なげない。
出すもん出して、きっちり仕事をこなしたら、無言ですいーっと厨房に戻るサムライロボット。武士らしい無骨な接客ですがすがしい。
一皿の量がそこそこあるので、いきなり注文しすぎると残しかねない。
小分けに頼めば、ロボットの給仕姿を何度も拝めて、ちょうどいい。
味つきスープでしゃぶしゃぶする。
トムヤムクン風味のスープがちょうどいい酸味と辛さ。肉がはかどる。序盤に海老やイカを入れておけば海鮮のダシが出てるしね。
空き皿は重ねてトレイに置いておけば、ロボットサムライが持って行ってくれる。
どうやって空き皿を認識しているのか分からないがハイテクだ。片付けまでしてくれるとは普通に気が利く。
締めのフルーツはドラゴンフルーツ、スイカ、マンゴーと南国感あふれるラインアップ。
むさぼっていると、ダンスミュージックが小さく流れ出した。耳を澄ましてようやくうっすら聞こえる音量。
なにが始まるのかとキョロキョロしていると……
ロボットが踊り始めた。
両手をカシャカシャ動かして、腰をフリフリ踊っている。
先ほどまでの無骨な接客とは打って変わって、サービス精神満点のクールなダンスだ。
動く部位は可動域いっぱいまで動かし、精一杯踊るのだが、お客さんは見向きもしない。みんな目の前のしゃぶしゃぶに夢中だ。
消え入るような小さな音のダンスミュージックに合わせ、健気に踊るロボット。おもわず応援したくなる。
どうやらダンスミュージックの音量が小さかったのは操作ミスのようで、途中でドンと音が大きくなった。
そこでハッと顔をあげたお客さんたちがロボットダンスをちらっと見るも、目線はすぐしゃぶしゃぶに移ってしまう。
「私は食事を盛りあげるための脇役。お客さまが楽しく食事をしてくれれば、それで本望なのです」とでも言いたげに踊るロボット。その顔はうっすらと優しげな笑みを浮かべていた。
お店情報
春 hajime
住所:3/F, Monopoly Park, 59, 27 Rama 3 Rd, Yan Nawa, Bangkok 10120 タイ
営業時間:11:00~22:00
定休日:日曜日
Facebook:Hajime Robot Restaurant