昼は活版印刷所、夜は立ち飲み屋さん。「リズムアンドベタープレス」は誰でも入れる自由な印刷所だった【別視点ガイド】

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墨田区千歳。

都営新宿線森下駅近くの落ち着いた雰囲気の住宅街に、ドアをめいっぱい開いた開放的なお店があった。

 

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店頭の黒板には不思議なキャッチコピーが描かれている。

「活版印刷と立ち呑みの店」と。

 

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▲活版印刷機をバックにインタビューをおこなった

 

そう、ここ「Rhythm and Betterpress(リズムアンドベタープレス)」は、昼は活版印刷所なのだが、17時から立ち飲み屋さんに早変わりする。

世にも奇妙な兼業スタイルだ。

 

印刷屋さんで工場長をしていた宍戸さんが、同僚の佐藤さんを誘い2018年2月オープン。

 

「まだオープンして4カ月ですけど、地元の方もふらっと寄ってくれます。毎日飲みに来てくれるお客さんもいますよ」

 

珍しい営業形態ながらすっかり森下の町になじんでいる様子。リクエストがあれば、立ち飲みタイムにも機械を動かして見せることもあるそうだ。

 

なぜ、印刷所で立ち飲み屋さんという不思議なお店が生まれたのだろうか。お話しをうかがった。

 

自由でラフ、誰でも入ってこれる印刷所っていいな

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▲もともとは同じ印刷屋さんで働いていた宍戸さん(左)と佐藤さん(右)

 

── お2人は同じ印刷屋さんで働いてたんですよね?

 

宍戸:そうですね、10年間勤めていました。活版印刷とか箔(はく)押し印刷とか特殊印刷を2人で任されていたんです。作業場が工場からちょっと離れた場所だったんで、好きな音楽のこととか釣りのこととか終始2人でベラベラしゃべってました。

 

── どうしてまた、この変わった営業形態の印刷所を始めたんでしょうか?

 

宍戸:印刷を知ってもらいたい、印刷に触れてもらいたいって気持ちからですね。印刷工場って閉鎖的で、関係者以外は立入禁止なムードですし、きつい汚い臭いといういわゆる3Kのイメージがあります。 

だけど、雑誌で欧米の印刷所を見たら、自由でラフなムードなんですよ。窓が大きくって外からも機械が見える。自作のポストカード売ったり、地元の人とのかかわりがあって。そういうのいいなって始めました。

 

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── だからこんなに開放的なんですね。

 

宍戸:内装はほとんど業者さん任せだったんですけど、窓を大きくってポイントだけはこだわりました。気軽に入ってもらうのが目的だから、1階の物件が必須条件でしたね。

 

── それにしても、印刷工場から立ち飲みってジャンプがスゴイですよね。

 

宍戸:印刷工場の前は飲食でバイトしてたんですよ、カフェとかカレー屋さんとか。地元の友達が印刷会社で働いていて「ボーナスたくさんもらってる」って聞いて。「いいな、ボーナスたくさんもらいたいな」って、印刷会社に転職したんです。

 

── ボーナスはもらいたいです。

 

佐藤:そういうわけで、印刷は私、立ち飲みの仕込みは宍戸さんという役割分担でやっています。

 

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▲オムカレーライス抜き 600円、コダマサワー バイス 400円

 

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▲とろとろのオムレツにひき肉たっぷりのカレーがかかってる。立ち飲み屋さんのレベルじゃないぐらい本区的なカレー。うまい!

 

かすれも味になる。活版印刷の堅苦しくなさがいい

── 印刷好きの方も立ち飲みにいらっしゃる?

 

宍戸:デザイナーだったり実家が印刷屋さんだったりで、俺らより断然詳しい印刷マニアもの方もいますね。印刷話で盛り上がって付き合いますけど、俺らあんまり詳しくないんでついてけません(笑)。ちょっとよく分からないですけど「活版印刷機眺めながら飲むとはかどる」って言いますね。

 

── 印刷はどういう注文が多いんですか?

 

佐藤:ポストカード、ポスター、基本的になんでも刷れますけど、いまは名刺が多いですね。立ち飲みに来るお客さんが「印刷頼みたいんだけど」ってパターンもありますよ。

 

── 立ち飲み屋さんが印刷業のプロモーションにもなってるわけですか。

 

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▲ドイツ・ハイデルベルグ社製の活版印刷機。川口の印刷屋さんから安く譲ってもらった

 

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▲樹脂製の版

 

 

活版印刷とは文字やイラストを彫った板にインキを付けて、紙に印刷する技術。デコボコとした仕上がりになるのが特徴だ。

 

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▲活版印刷機で刷った名刺やポストカード

 

── かすれが良い味ですね。

 

宍戸:かすれが良いって言われるけど、印刷屋的には「いいのこんなで」って不安になっちゃうポイントなんですよね。刷ってる側としては、やっぱり同じクオリティーで刷れたり、インクの位置がピシッと決まると気持ちいいし、そこが難しいところでもあるので。 

でも、その活版印刷の堅苦しくなさが、このお店をやるうえでちょうどいいなと。誰にでも印刷に興味持って欲しいので、ちょっと教えれば出来ちゃう気軽さがいいですね。

 

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── 今後の展望はありますか?

 

宍戸:印刷で稼いで、立ち飲み屋さんはゆるくしたいですね。ま、ちょっと飲みましょうやって感じが理想。このお店やる前は接客苦手だろうなって思ってましたけど、お客さんと話すのが面白いし、お客さんのこと好きなんで、ないがしろにしたくありません。どれだけ印刷の仕事入っても、立ち飲み屋さんは続けますよ、絶対。

 

お店情報

リズムアンドベタープレス

住所:東京都墨田区千歳3丁目4-8 直井ビル
電話番号:03-6666-9190
営業時間:活版印刷 9:00~16:00/立ち飲み 17:00~22:00(LO 21:30)
定休日:日曜日・祝日
ウェブサイト:https://randbpress.com/

 

書いた人:松澤茂信

松澤茂信

観光会社「別視点」の代表。「東京別視点ガイド」を書いてます。

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