定年退職によって時間とお金を自由に使えるようになった主人公が、心のうちに潜む自由で粗野な“野武士”とともに、好きなものを、好きなときに、好きなように食していくさまを描いたコミック『漫画版 野武士のグルメ』(原作:久住昌之/漫画:土山しげる)が、このほど「Netflix」のオリジナルドラマとして実写化される。
▲劇中では、玉山鉄二さん演じる心のなかの“野武士”が頻繁に顔をのぞかせる
そんなわけで、『メシ通』では、3月17日の全世界同時配信にあわせ、特別インタビューを敢行。
第1弾の今回は、主人公・香住武役を演じる竹中直人さんを迎え、ご本人の「食」へのこだわりから、行きつけのお店まで、ざっくばらんにうかがった。
無類の辛いモノ好きのハズが……
▲劇中のような“独り飯”は「さみしいからできない」と語る竹中さん
── 劇中では、自由気ままな“独り飯”を満喫しているシーンが頻繁に登場しますが、普段の竹中さんご自身も“独り飯”はよくされますか?
うーん。独りはさみしいから、僕自身は“野武士”のようにはなれないかな。映画なんかだとモノによっては「独りで見たいな」ってのもあったりしますけど、こと食事に関してはやっぱり「おいしい」っていうのを共有しあえる人と一緒に食べたほうが、断然楽しい。独りだとたくさんは食べられないけど、大勢いれば、いろんな種類を頼めますしね。
──「これだけは譲れない」といった、「食」へのこだわりなどはお持ちですか?
「譲れない」ってほどではないですけど、子どもの頃からカレーが大好きで、いまだにロケや舞台で地方に行くと、真っ先にカレー屋さんを見つけて、そこのカレーは食べますね。多摩美の学生だった頃から、かれこれ40年のつきあいになる八王子の「インドラ」ってお店には、山梨方面でロケがあったり、中央道を使う用事があるときには、いまでもフラッと寄ったりしますし、近場だと銀座の「ナイルレストラン」あたりにもよく行きます。何年か前に、同じくカレー好きの大倉孝二くんと映画で一緒になったときなんかは、毎日のように2人でカレーばかり食べてましたしね。
── となると、辛いものは全般的に大の得意ですか?
好きですねぇ。昔は青唐辛子の丸かじりとかもよくやっていたし、ペペロンチーノなんかを食べるときは「ニンニクと唐辛子をいっぱい入れてください」ってわざわざ頼んだりもしていたぐらい。ただ、年齢のせいか、最近はそれも胃に来ちゃってね(笑)。だから、カレーにしても、あんまり刺激的なものは、もう食べられない。まぁ、その反面、55、6歳ぐらいになって、ようやくお寿司ってものが「おいしい」って思えるようになったり……っていう、“新しい発見”もあるわけですけど。
── 味覚は年齢とともに変わると言いますからね
まぁでも、悔しいもんですよ。数年前までは飲むと「カラオケ行こうぜ!」って自分から言っていたのに、いまや全然そんな気もありゃしない(笑)。去年、下北沢の本多劇場で舞台をやっていたときも、公演終わりにお客さんたちと「新雪園」っていう中華料理店によく行きましたけど、結局、カラオケは一度も行きませんでしたしね。
47歳まではお酒が苦手だった!?
▲勤め人にはうらやましいかぎりな“昼ビール”。いかにもうまそう!
── ちなみに、若い頃はお酒もまったく飲まれなかったとか
そうなんですよ。47歳までは一滴も飲めなかった。いまは、さっきも挙げた「新雪園」に置いている人参酒っていうのをロックで飲むのが好きだったり、わりとなんでも飲むほうなんですけど、若い頃はそれこそ、(松田)優作さんやショーケン(萩原健一)さんに誘われたときでも、いったん飲んで、トイレで吐いて、普通の顔して戻ってくるとか、そんな感じ。打ち上げや飲みの席に顔を出しても、烏龍茶を水割りのフリして飲んで、最終的には耐えられなくなって、トイレに行くフリをしてそのまま帰っちゃうっていうのが常でしたね。
── 飲めるようになったのには秘訣(ひけつ)が?
落ちこんで「俺なんか、もうダメだ」って感じになったときに、とにかく飲んでみることですかね(笑)。一緒につきあってくれる人がいい人かそうでないかによっても大きく左右されるとは思いますけど、僕の場合は、もともと仲がよかったスカパラの谷中(敦)くんや大森(はじめ)くんが、そういときにつきあってくれたおかげで、徐々に酔う楽しさにも気づけるようになれた。もちろん、体質の変化もあるとは思いますけどね。
── 今回の『野武士のグルメ』では、“昼ビール”をはじめ、おいしそうにお酒を飲まれている姿も印象的でした
なんと言っても、このドラマの醍醐味(だいごみ)は、料理やお酒を口にする瞬間の「おいしそう!」にあると思うんで、そこが視聴者のみなさんにちゃんと伝わるかは、自分でもドキドキしてますよ。自分なりに「おいしく」見えるようにはやったつもりですけど、こればっかりは見る人の価値観によっても、受け取り方はさまざまですからね。
行きつけのお店は直感で見つける
▲主人公の妻役は鈴木保奈美さん。夫婦水入らずのエピソードも
── 一方、本作は実在するお店でロケが行われていることも話題のひとつ。しかも、どのお店も庶民的なのがいいですよね
そうですね。一度だけイタリアンっていうのがありましたけど、そのほかは基本的にモツ煮込みとか焼き鳥とか、定食屋さんとか、素朴なお店ばかり。僕自身も「会員制」みたいな高級感のあるところは落ちつかないタイプだから、そこはすごく共感できましたね。御徒町にあるお店で撮影をしたときなんかは、お店自体が昭和の建物がまだたくさん残っている裏通りにあったから、まわりを散策したりするのもすごく楽しかったですし。
── 散歩がてらにフラッとお店に入られることもよくあります?
長年つきあっているお店は、たいていがそうですね。情報誌とかを見たりするのがどうも苦手で、普段お店を選ぶときも、近くを散歩しながら直感的に「ここ、いいな」と思ったところに入ることのほうが圧倒的に多いんです。40年通ってる「インドラ」にしても、学生の頃に偶然見つけて入ったのが、そもそもの始まりですしね。
── その場所の雰囲気が料理をいっそうおいしくする、ということもありますもんね。そして、まさにそういった楽しみを描いているのが『野武士のグルメ』でもあるわけで
撮影では、わりと遠いところにあるお店に行くことが多かったので、プライベートでも気軽にフラッと……というわけにはなかなかいかないですけど、作品を通じていろんな場所に行けたのは、すごく楽しい経験でしたね。もし「シーズン2」が実現したら、今度は仕事にかこつけて「インドラ」にも行きたいと思っています(笑)。
自分のタイミングでいつでも気軽に楽しめるのが、「Netflix」をはじめとしたストリーミング配信の魅力。
『メシ通』読者のみなさんも“野武士”のように、好きなものを、好きなときに、好きなように『野武士のグルメ』をご賞味あれ。
【竹中直人】
1956年3月20日、神奈川県生まれ。83年に『ザ・テレビ演芸』(EX)でデビュー。俳優や映画監督、ミュージシャンなど幅広く活躍。91年の『無能の人』で映画監督デビュー。同作ではヴェネツィア国際映画祭 国際批評家連盟賞を受賞し、2013年の『R-18文学賞vol.1 自縄自縛の私』まで7作を監督している。1996年のNHK大河ドラマ『秀吉』では豊臣秀吉を熱演。日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を『シコふんじゃった。』『EAST MEETS WEST』『Shall we ダンス?』の3作品で受賞するなど、受賞歴も多数。
【作品情報】
ドラマ『野武士のグルメ』2017年3月17日、Netflixにて全世界同時配信。
インタビュー撮影:石川真魚