レトルトカレーの絶品アレンジレシピ
温めるだけで手軽に食べられる「レトルトカレー」。
最近は名店の味やご当地モノなどこだわり抜いた商品も多く、カレー愛好家を中心にひそかなブームとなっています。
一方、災害時などの非常食用に、手ごろな価格のレトルトカレーをストックしている人も多いのでは?
ただ、幸いにも食する機会なく、賞味期限が近づいてしまった……なんて、大量のレトルトカレーを持て余しているとの話もチラホラ耳にします。
そしてこちらは、カレー・スパイス料理研究家で、2019年5月に『あなたの知らないレトルトカレーのアレンジレシピ』(扶桑社)を上梓した一条もんこさん。

あなたの知らないレトルトカレーのアレンジレシピ (扶桑社ムック)
- 作者: 一条もんこ
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2019/05/16
- メディア: Kindle版
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今回は、イベントや取材などで大忙しの彼女に、「レトルトカレーの上手な活用術」をお聞きしてみることにしました。
レトルトカレーは趣味。「13年間、毎朝食べています」
──ここ数年、あらためてレトルトカレーがブームになっていると言われているようです。何かきっかけがあったのでしょうか?
一条もんこさん(以下・敬称略):ブームの理由はいろいろありますが、近年、各地で天災が多かったことがきっかけのひとつだと感じます。被災して、非常食として備蓄していたレトルトカレーを食べてみて「最近のレトルトカレーは美味しくなっている!」と知り、日常食に取り入れるようになった人も多かったようです。
──高級志向の商品なら納得ですが、非常食用のレトルトカレーは「昔ながらのリーズナブルなレトルトカレー」を備蓄している人も多いと思うのですが……。
もんこ:非常食用としていちばん使われているものは、やはり100円台のレトルトカレーです。ただ、パッケージは長年同じでも、スパイス感など、時代に合わせて味は常にリニューアルされているんですよ! 10年前のものと比べても、ものすごく改良されています。
──それなら味の変化に驚く人も多そうですね。そういえば、もんこさんはこれまで3,000種以上のレトルトカレーを食してきたとのウワサがあるのですが、本当ですか?
もんこ:3年くらい前で3,000種超だったので、今はどのくらいだろう……。単なる趣味として、ここ13年くらい毎朝違う種類のレトルトカレーを食べているんです。プラス、仕事でも食べるし、10種食べ比べとかをすることもあるので、だんだんカウントしきれなくなって、正確な数字はもうわからなくなってしまいました。
──え? 趣味!? しかも毎朝レトルトカレーを食べているんですか?
もんこ:はい(笑)。仕事であるカレーの研究とは切り離して、いちカレーマニアとしてレトルトカレーの研究をしているんです。その調査の一環で、朝ごはんに毎日違う種類を食べれば、年間で365種は必ず食べられるなって。食べ続けることで、味の違いや変化、多様化などもリアルに実感できるため、今でも毎朝ひたすら食べています。
レトルトカレーは「調味料」。目からうろこのかんたんアレンジ術
単純計算でもすでに4,000食は下らないほどのレトルトカレーを食べているであろうもんこさん。レトルトカレーを知り尽くした彼女が考案した「レトルトカレーアレンジ」とはどのようなものなのか?
続いて、レトルトカレーのアレンジについて聞いてみることに。
──レトルトカレーって、いわば「完成品」じゃないですか。それをアレンジするって、具材やコクをプラスするみたいな感じなんですか?
もんこ:もちろんそういったアレンジもありますが、『あなたの知らないレトルトカレーのアレンジレシピ』では、レトルトカレーを調味料として使う感覚で考案したアレンジメニューをたくさん紹介しています。
──レトルトカレーが調味料……もはやカレーの領域を超えていますね。
もんこ:親子丼とか、カルボナーラとか、鍋物とか、いろいろ作れるんですよ。しかも、包丁やフライパンを使わないものや、家にある食材や調味料でできるものなど、「手軽に食べられる」レトルトカレーの利点を損なわないレシピばかりです。
──そのまま食べられるものだけに、手間やコストをかけずにアレンジが楽しめるのはありがたいです。
もんこ:レトルトカレーをそのまま出すのは心苦しいという主婦の方からの問い合わせをきっかけに、「アレンジってどこまで行けるんだろう?」って、趣味の探求心でレシピを考え始めました。
ただ、罪悪感を払拭できても、レトルトの手軽さを失っては意味がないと思ったので、「かんたん」で「より美味しくなる」ことを意識したんです。
──ではさっそく、もんこさんイチオシのレトルトカレーアレンジメニューを教えてください。
バターチキン風カレー
<材料>
- レトルトカレー 1袋
- トマトケチャップ 大さじ1
- はちみつ 大さじ1
- コーヒーフレッシュ 2個(8g)
- ご飯 or パン 適量
<作り方>
- フライパンにレトルトカレー、トマトケチャップ、はちみつを入れて混ぜ合わせ、沸騰させて1分ほど加熱
- お皿に盛ったらコーヒーフレッシュを回しかける
もんこ:はちみつは砂糖で代用してもOKです。バターを使わず、「ビーフレトルトカレー」でもチキンカレーの味を楽しめます。材料欄には入れていませんが、見映えを良くしたい時は最後にパセリをお好みで適量かけると綺麗ですよ。
麻婆風カレー
<材料>
- レトルトカレー 1袋
- ひと口大にカットした豆腐 150g
- しょうゆ 小さじ1
- ごま油 小さじ1
- ラー油 少々
- ご飯 適量
<作り方>
- フライパンにご飯以外のすべての材料を入れて混ぜ合わせ、沸騰させて1分ほど加熱
もんこ:最近注目されている「中華カレー」がワンステップで再現できます。お好みで最後に小ねぎを散らしても美味しいですよ。
サンマのとろける卵とじカレー
<材料>
- レトルトカレー 1袋
- サンマ缶(味付き) 70g(1缶)
- 卵(溶いたもの) 1個
- ご飯 適量
<作り方>
- フライパンにカレーとサンマを汁ごとあわせて熱し、沸騰させて1分ほど加熱
- 溶き卵を流し入れ、半熟になったら火を止めてご飯にのせる
もんこ:甘辛く煮込まれたサンマ缶を使うことで、和風カレーのような懐かしい味になります。イワシ缶もおすすめです。お好みで最後に三つ葉などをトッピングすると見映えも綺麗です。
カレーカルボナーラ
<材料>
- レトルトカレー 1袋
- スパゲッティ 80g
- チューブにんにく 小さじ1
- 牛乳 50ml
- 粉チーズ 大さじ3
- コーヒーフレッシュ 2個(8g)
- 卵黄 1個
<作り方>
- フライパンにカレー、にんにく、牛乳を入れ煮詰める
- 粉チーズとコーヒーフレッシュを加えてさらに沸騰するまで過熱し、茹でたスパゲッティに絡めて器に盛り付け、卵黄をのせる
もんこ:生クリームを使わなくても、コーヒーフレッシュでかんたんにカルボナーラソースが再現できるんです。お好みで最後に粉チーズや粗挽き黒コショウをふりかけてくださいね。
トマトカレーうどん
<材料>
- レトルトカレー 1袋
- うどん 200g
- トマト缶(水煮) 100g
- めんつゆ(3倍濃縮) 50ml
- 水 300ml
<作り方>
1:深めのフライパンにすべての材料を入れて混ぜ合わせ、沸騰させてから5分ほど加熱
もんこ:トマトの酸味が加わることで、さっぱりとしていながら旨みと深みのあるカレーうどんになります。スープ自体の美味しさをぜひ堪能してください。写真ではレモンスライスとセロリをちぎったものを最後にお好みでのせています。
クリーミー味噌キムチカレーラーメン
<材料>
- レトルトカレー 1袋
- 味噌味のインスタントラーメン 1袋
- 水 300ml
- 牛乳 200ml
- キムチ 50g
<作り方>
- 深めのフライパンに水、牛乳、ラーメン付属のスープの素、キムチを入れ、沸騰したら麺を加えて2分煮る
- カレーを加え、沸騰後さらに2分加熱
もんこ:完成された味同士を融合したからこその美味しさを楽しめるアレンジです。お好みで最後に粉チーズをまぶすと、まろやかさがアップしますよ。長ネギを散らしても美味しいです。持て余した保存食の消費にもおすすめです。
メキシカンカレー
<材料>
- レトルトカレー 1袋
- ひよこ豆(水煮) 60g
- トマトケチャップ 大さじ1
- タバスコ 小さじ1
<作り方>
- フライパンにすべての材料を入れて混ぜ合わせ、沸騰させてから2分ほど加熱
もんこ:ひよこ豆の代わりに枝豆や金時豆を使っても美味しく仕上がります。最後に赤玉ねぎやパセリを散らすと彩りもアップしますよ。お好みでトルティーヤ・チップスで食べると気分も盛り上がります。
ビリヤニ風炊き込みご飯
<材料>
- レトルトカレー 1袋
- 鶏手羽もと 4本
- 米 2合
- チューブにんにく 小さじ1
- 水 400ml
- 塩 小さじ1
- ナンプラーorしょうゆ 大さじ1
- カレーパウダー 大さじ2
- クミンパウダー 大さじ1
<作り方>
- 炊飯器にすべての材料を入れてよく混ぜ合わせ、通常の炊飯機能で炊く
もんこ:より本格的な味を求める、こだわりやさん向けのアレンジメニューです。お皿に盛った後、お好みでパクチーや赤玉ねぎなどを散らしたり、ライムスライスを添えたりすると、見た目もより本格的になりますよ。
どんなレトルトカレーでもいいの?
──使用するレトルトカレーは何でもいいんですか?
もんこ:「100円台のレトルトカレー」であれば、お好きなものを使用していただいて大丈夫です。というのも、手ごろな価格のレトルトカレーほど、万人ウケするシンプルな味に仕上げられているから。200円以上のレトルトカレーはコンセプトがある「こだわりの一品」なので、アレンジにはあまり向かないと感じます。
──100円台でもメーカーなどで味が全然違いますよね。使うものによって仕上がりが変わったりしないのでしょうか?
もんこ:スタンダードな「欧風カレー」であれば、メーカーや辛さが違っても、アレンジ後の味に大差はありません。わずかな違いや好みなどで物足りなさを感じたときは、塩を加えて調整すると、味がまとまりやすくなりますよ。
──なんだか味の想像がつかないメニューもあるのですが……。
もんこ:バランスよく仕上がっているレトルトカレーに、旨みを引き立てる物をプラスしているので、より美味しくなるだけなんですよ。本の中にはびっくりするような食材アレンジもたくさん載っていますが、まずは怖がらずにトライしてほしいと思います。意外な発見があったり、自分流の味が見つかったりと、さまざまなアレンジライフを楽しめると思います。
レトルトカレーを美味しくする裏ワザ
レトルトカレーの可能性を無限に引き出してくれそうな驚きのアレンジ術を紹介していただくうちに、「レトルトカレーをそのまま食べるときでも、美味しくする秘訣などがあるのでは?」との素朴な疑問が湧いてきました。
そこで、レトルトカレーをレトルトカレーのままで食すときのコツについても質問。
──レトルトカレーをそのまま食べるとき、レトルト感やパウチ臭を消せるような、即席でできるアレンジなんかあったりしますか?
もんこ:「梅干し」を加えると、酸味がレトルト特有の味やニオイなどを中和してくれると思います。チューブタイプの練り梅を小さじ1くらい、もしくは種を取り除いた梅干しをスプーンで潰しながら、少しずつ混ぜて食べるのがポイントです。
──いちばんおいしく食べられる温め方を教えてください。
もんこ:パッケージにかかれた方法と時間の通りに温めることです。例えば湯せんだと、水から入れてしばらく放置している人も多いですが、沸騰後に入れて既定の時間内に取り出すのが、いちばんおいしく食べるコツなんです。「3~5分」と幅があってアバウトなように感じますが、これは鍋のサイズや火力の違いに対応するためで、実は計算し尽くされた時間なんですよ。
──電子レンジだと、時間どおりに温めても周囲が焦げたようになるのですが……。
もんこ:電子レンジのクセなどにもよるので一概には言えませんが、水分が分離して、端だけ蒸発してしまったことが原因かと思います。規定時間の半分くらいで一度取り出して、混ぜてから再加熱すると、焦げ付きや加熱ムラを防げてより美味しくなりますよ。
──ネットなどを中心に「温める前に50回振ると美味しくなる」という裏ワザがあるのですが、これは本当ですか?
もんこ:分離をなくして油も均一に馴染ませるという意味で、温め途中に混ぜたり、事前に混ぜるたりするのは効果はあると思います。振るのは10回くらいで十分ですけどね(笑)。ただ、事前に混ぜ合わせても温め中に沈んできてしまうので、面倒でも加熱の途中で混ぜたほうが美味しくなります。
──最近のレトルトカレーは種類が豊富で値段の幅も広いですが、どんな違いがあるのでしょうか?
もんこ:大まかな分類としては、100円台は万人ウケするスタンダードなカレー、200円~400円台はこだわりポイントがあるカレー、500円以上になるとご当地カレーや高級食材を使ったカレーといった感じです。黒毛和牛を使用した2,000円の超高級レトルトカレーもあるんですよ。
──2,000円! レトルトカレーとなると、500円台でも買うのに勇気がいります……。
もんこ:マニアでもない限り、自分のために500円以上するレトルトカレーなんてなかなか買わないですよね。なので私は、高級志向やご当地系のレトルトカレーを、お邪魔するときの手土産とか、ちょっとしたプレゼントなんかにしています。
カレーはたいていの人が食べられるし、非常食にしてもらうこともできるので、どんな相手にあげてもよろこばれますよ。
──自分じゃなかなか手が出せないものだけに、いただくとうれしいかもしれませんね。ちなみに、自分用として買う場合のレトルトカレーの上手な選び方なんかもありますか?
もんこ:普段に食べるなら、200円~400円台のレトルトカレーがベストかと思います。どれがいいかは好みによりますが、棚の真ん中あたり、目線の高さくらいにあるものは王道なので、初めて買う人に向いていますね。
棚の上の方はマニアックな商品が多いので、冒険したい人はそのあたりから選んでみてください。あと、文字や写真でこだわりをアピールしているものが多いので、パッケージも見わけのポイントになりますよ。
「周囲には絶対ムリと言われたけど……」30歳で人生リスタート
仕事もプライベートもカレー一色というもんこさん。
カレーへの情熱とこだわりはとどまるところを知らず、2018年の4月にはもんこさん監修のレトルトカレー「あしたのカレー」を世に送り出しました。
いったいどんなカレーなのか、気になりますよね。そこで最後に、「あしたのカレー」やもんこさんご自身のカレーへの想いを聞いてみました。
──「あしたのカレー」はどんなレトルトカレーなのでしょうか?
もんこ:「あしたのカレー」は、「毎日食べたい」をテーマに、一晩寝かせた2日目のカレーの味を再現しています。レトルトカレー市場でも多国籍のカレーが注目を集めていますが、やっぱり「お母さんが家で作ってくれたカレー」って、日本人には特別な味だと思うんです。
そんな懐かしの味は、元祖レトルトカレーの味でもあります。日本のカレーの原点ともいえる味と、レトルトカレーの文化、その両方を守りたいとの思いから、10年ほどの期間をかけて構想を練りました。大きくカットした具材をたっぷり使い、ミルキーな味わいの中にほんのりとスパイスが香る「21世紀のおふくろの味」に仕上がっています。
▲「あしたのカレー」(432円)。レトルトカレーとは思えない大きな具材で食べ応えも十分
──2日目のあの味をレトルトでいつでも食べられるって、いいですね。もんこさんは小さいときからカレーがお好きだったんですか?
もんこ:カレーももちろん好きでしたが、料理をすること自体が子どものころから大好きでした。カレーに限らずいろいろなメニューを作っていたので、その経験が、レトルトカレーの監修にも、アレンジメニューの考案にも活きているんだと感じます。
──幼少期から長年やってきた料理の知識と経験があったからこそのレシピだったんですね。
もんこ:運動も勉強も苦手で、料理がすべてでしたからね(笑)。ただ、若いときはそれに気づけなくて、料理やカレーとはまったく関係のない仕事に就いていたんです。でも、どうしても料理から離れられなくて、結局、仕事の合間をぬって有名な料理研究家の先生のアシスタントをするようになりました。
7〜8年ほどそばで学ばせていただき、30歳のときにようやく料理の世界に入る決意ができたので、それまでのキャリアをすべて投げ捨てて、修行のためにレストランへ転職したんです。
──ずいぶん思い切った行動でしたね。
もんこ:まわりはみんな結婚して幸せになっていくなか、30歳でキャリアも収入も振出しに戻るっていうのはけっこう大変でしたけど、「人生をやり直すなら30歳の今しかない」と思って。
──そこからは大好きなカレーの道に。
もんこ:せっかくだから大好きなカレーの料理研究家を目指したいと思い、フレンチカレーの有名店からインド料理店まで、調理場で学べるところばかり6つの店舗を渡り歩いて、10年かけて修業を重ねました。その間、大手企業の様子も知っておきたいとの思いから、仕事のあとや休みの日にカレーの大手チェーン店でアルバイトをしていた時期もあるんですよ。
──すごい徹底ぶりですね。
もんこ:それなりの経験や実績を積んではじめて「先生」として仕事ができるし、胸を張って「料理研究家」と言える気がしていたので。まわりからは、30歳からのスタートでカレーの料理研究家だなんて「絶対ムリ」って言われていました。例えば結婚するとか、誰かに頼る道もあったかもしれませんが、その選択肢は自分らしくないと思ったし、なによりやってみないとわからない。
──料理への情熱があったからこそ、ですね。
もんこ:もし本当にムリだったら、違うやり方で再出発すればいいと思って、とにかく突き進みました。ようやくプロとしてやっていけるようになったのは、ここ2〜3年ほど。まだまだカレーについて知らないことがたくさんあるので、これからもカレーの可能性と進化を追い求めていきたいと思います。
幼少期からの料理経験、働きながらのアシスタント生活、そして、人生をかけた転職と10年に渡る修行、趣味の毎朝の研究。
これらが相まって生み出されたもんこさん流のレトルトカレーアレンジ術は、まさに確かな経験と知識に裏付けされたものでした。
一度試してみれば、これまで備蓄食や手抜き料理の代表的存在だったレトルトカレーのイメージが一変するかもしれませんよ。
書いた人:千葉こころ
自由とビールとMr.Childrenをこよなく愛するフリーライター。旺盛な食欲と好奇心を武器に、人生を楽しむことに全力を注いで滑走中。