
「コリアンダー」の上手な使い方
毎回1つのスパイスを取り上げ、スパイス料理研究家で東京大学大学院生の印度カリー子さんに、スパイスの特徴やおすすめのとびきりレシピを教えていただく連載企画『印度カリー子のスパイス沼へようこそ』。
第1弾では、スパイスカレーのメイン的存在ともいえる「クミン」についてレクチャーいただきました。

2回目となる今回は、クミンに次いでスパイスカレーに欠かせないスパイス「コリアンダー」を深堀りしていきたいと思います。
さてさて、どんなカレーやアレンジレシピが飛び出すのか。
それではさっそく、カリー子さんによるスパイスレッスンを始めましょう。まずはコリアンダーの豆知識からどうぞ。
コリアンダーは古代エジプトでも使われていた

カリー子さんによれば、「ロックバンドにたとえると、ギターの役割」のコリアンダー。
柑橘類を思わせるさわやかな香りが特徴のスパイスで、スパイスカレーではさまざまな風味のまとめ役としても活躍してくれます。
そんなコリアンダーは、エスニック料理でよく使われる「パクチー」の種子をパウダー状にしたもの。世界最古のスパイスのひとつともいわれています。
──コリアンダーは、紀元前の医学書にも載っていたと聞いたんですけど、どんな効能があるんですか?
カリー子:古代エジプトでも使われていた形跡が残っているそうですね。コリアンダーには、消化を促し、腸の働きを整えて、体内の老廃物を排出するデトックス効果があるといわれています。抗菌作用で食材の細菌の繁殖を抑えられるほか、香りによってリラックス効果も期待できます。
──このさわやかな香り、たしかにリラックスできますよね。それにしても、パクチーとは香りが全然違いますね。
カリー子:パクチーはカメムシ臭がしますよね。それは、パクチーの香気成分であるデカナールなどが、カメムシと同じ化学物質だからです。一方、パクチーの種子であるコリアンダーは、αピネンなど松の香りと同じ化学構造を持っているので、さわやかな香りなんです。

──種と葉で香りがそんなに違うんですね。柑橘類と同じ系統の香りなら、いろいろな食材に合いそうです。
カリー子:トマト系の料理や、さっぱりした味付けのものとの相性がすごくいいですよ。ちなみにコリアンダーは英語、パクチーはタイ語でどちらも同じ意味ですが、日本だと一般的にコリアンダーは種子を指し、パクチーだと葉を指す名称になっています。
──コリアンダーは、クミンのようにホールとパウダーを使い分けたりはしないのでしょうか?
カリー子:スパイスカレーでは、コリアンダーは基本的にはパウダーしか使いません。カレー以外だと、サラダなどに使われることも多く、香りのほか、食感を楽しむために入れていることが多いですね。
──なるほど。それでは、コリアンダーの風味が映えるスパイスカレー&アレンジレシピを教えてください!

カリー子:今回は、ヘルシーな「パラクマッシュルームカレー」と、コリアンダーの風味を楽しめるアレンジメニュー2品をご紹介しますね。
「ほうれん草ととろけるマッシュルームのパラクマッシュルームカレー」

【パラクマッシュルームカレー 材料(2人前)】
- マッシュルーム 1パック
- ほうれん草 1束
- 玉ねぎ 1/2個
- にんにく (みじん切り) 1片ぶん
- しょうが (みじん切り) 1片ぶん
- サラダ油 大さじ2
- 塩 小さじ1
- コリアンダー 小さじ2
- ターメリック 小さじ1/2
- チリペッパー 小さじ1/4~ お好みで
──野菜だけのヘルシーカレーなんですね。
カリー子:「パラク」とはほうれん草のことです。今回はマッシュルームを合わせましたが、エノキやしいたけで代用もできます。また、マッシュルームをチキンやエビ、カッテージチーズなどに変えても美味しいですよ。

▲フライパンにサラダ油をひき、中~強火でにんにく、しょうがを軽く炒める
──今回も、にんにくやしょうがはチューブで代用してもOKですか?
カリー子:もちろんOKです。ただ、やっぱり生だと香りが全然違いますよ。一度でも風味の違いを実感したら、手間ひまかけても生のものを使いたい! って、チューブには戻れなくなると思います。

▲にんにくとしょうがが軽く炒まったら、弱火にし、みじん切りにした玉ねぎを投入。中火~強火で飴色になるまで炒める
──「かんたん」を謳うレシピでも、「玉ねぎを飴色になるまで……」って聞いた瞬間、かんたんとは思えなくなるんですけど……けっこう、手間ですよね?
カリー子:玉ねぎが飴色になるまでの手間や時間は、この2つの方法で省けますよ。
- 細かく均等のサイズに刻む
- 刻んだ玉ねぎを電子レンジでチンする
大きいと中まで火が通りにくく、サイズがまちまちだと均一に火が通らず、時間がかかってしまいます。それに、内部に火が通る前にまわりが焦げたり、火の通りがムラになったりして、味と舌触りが悪くなる原因にもなるんです。

──なるほど~なのですが、みじん切りを細かく均等にっていう時点でリタイアしそうです……。
カリー子:それならば、みじん切り機のような調理器具を使うと便利です。細かく均等なみじん切りがかんたんにできますよ。あとは、スライサーで薄くスライスして、炒めるときにヘラでこするように潰しながら炒めてもいいと思います。
──文明の利器を上手に利用すればいいんですね。 億劫に思っていた気持ちが吹き飛びました。

▲玉ねぎが飴色になったら、スパイス、塩、半分にカットしたマッシュルームを入れる。弱火で混ぜ合わせる

▲コリアンダーを加えます
カリー子:スパイスの香りが加わると、一気にインド料理の雰囲気が出てきますよ。

▲こちらはターメリック
カリー子:ターメリックは深みを出すのが得意で、野菜のカレーなどでも美味しく仕上げてくれます。ただ、加えすぎると野菜の香りを消してしまうので、入れすぎ注意です。
──ターメリックにはどんな効能があるんですか?
カリー子:ターメリックは、免疫力を高めてくれるほか、抗菌作用も強いといわれています。なので、積極的に取り入れたいスパイスです。

▲チリペッパーはお好みの量で辛さを調整
カリー子:小さじ4分の1でもけっこう辛みが出るので、少しずつ足しながら様子を見てくださいね。

カリー子:あとは蓋をして、マッシュルームからほどよく水分が出るまで待ちます。
──水や牛乳など、水分はまったく使わないのでしょうか?
カリー子:マッシュルームから出る水分だけで十分なんです。水は一滴も足しません。

▲待っているあいだに、ほうれん草をカット
──ほうれん草もみじん切りにするんですね。
カリー子:本場ではほうれん草をペースト状にして使いますが、かんたんにパラクカレーを楽しめるように、今回はみじん切りにしてみました。ミキサーを使うと洗い物も増えますしね。
──ペーストを準備するよりかんたんで助かります!

▲そのころフライパンでは、マッシュルームから適度に水分が出てこんな感じに
カリー子:いい具合になってきました。時間を置き過ぎると水分が飛んでしまうので、そろそろほうれん草を入れましょう。

▲みじん切りにしたほうれん草を加えて中火で炒める

カリー子:スパイスとほうれん草の合わさったパラクカレーらしい香りが立ってきました。あとはほうれん草がしんなりするまで炒めたら完成です。

▲パラクマッシュルームカレー、完成
──マッシュルームの存在感がすごい。
カリー子:マッシュルームは大きめにカットするとお肉のような食感を味わえます。これでヘルシーだけどボリューミーなパラクカレーになるんです。
──水分もマッシュルームから出ているからか、味もすごく濃厚です。野菜とスパイスだけとは思えません。

▲「ん~♡」とご満悦のカリー子さん
カリー子:味がしっかりしているから、野菜だけでももの足りなさは感じないでしょう? マッシュルームのつるんとした舌触りもいいですね。マッシュルームはたくさん入れて、とろける食感を存分に楽しんでほしいです。それでは次に、アレンジメニューをご紹介します。
おつまみにも最適な「にんじんとくるみのコリアンダーラペ」

【コリアンダーラペ 材料(2人前)】
- にんじん 1本
- 塩 小さじ1/2
- 砂糖 大さじ1
- オリーブオイル 大さじ1
- 酢 大さじ1
- くるみ 30g
- コリアンダー or コリアンダーホール 小さじ1/2
──コリアンダーホールを使ってもいいんですね。
カリー子:コリアンダーのパウダーをホールに変えて、食感の楽しみをプラスするのもおすすめです。その場合は、弱火にしたフライパンで乾煎りして、荒刻みしてから使ってくださいね。

▲にんじんを細く切り、塩を振って全体に絡めたら10分ほどおく
カリー子:塩を振りかけてにんじんの水分を出します。おいているあいだにソースを準備してしまいましょう。

▲砂糖、オリーブオイル、酢、コリアンダーを混ぜ合わせます
カリー子:もし生のくるみやコリアンダーホールを使うときは、このタイミングでローストしてください。手順は前回の記事で解説した「クミンの乾煎り」と同じです。生のくるみとコリアンダーホールを一緒にローストしてしまえば時短にもなりますよ。

▲にんじんの水分をしっかり絞ります
──にんじんエキスがすごい!
カリー子:ラペがべちょべちょにならないように、しっかり絞ってくださいね。絞り汁は栄養満点なので、捨てずにジュースとして飲んでしまいましょう。ちなみににんじんはビタミンCを酸化させてしまうアスコルビナーゼという酵素が入っているので、野菜ジュースに入っているのは逆効果だな〜ってひそかに思っています(笑)。

▲あとは全部入れて……

▲絡めたら完成
──混ぜているあいだにもコリアンダーのさわやかな香りがふんわりと。にんじんの甘みと相性もよさそうです。

▲にんじんとくるみのコリアンダーラペ
カリー子:コリアンダーが入るだけで、香りが華やかになりますよね。ホールならプチプチとした食感も楽しめます。長くおいてしまうとくるみがしっとりしてしまうので、作りたてを食べて、くるみの食感も楽しんでくださいね!
「大人の黒酢ナポリタン with コリアンダー」

【黒酢ナポリタン 材料(2人前)】
- 乾麺のパスタ 200g
- 粗挽きソーセージ 4~6本
- ピーマン 2個
- 玉ねぎ 1/2個
- トマトケチャップ 大さじ6
- 黒酢 大さじ2
- しょう油 大さじ1
- バター 10g
- 塩 少々
- コリアンダー 小さじ1/2~お好みで
- 油 フライパンの素材など必要に応じて
──コリアンダーは昔懐かしのナポリタンにも合うんですね。
カリー子:コリアンダーはトマトソースと相性がいいので、ケチャップを使うものにはよく合うんですよ。今回は、粉チーズの代わりにコリアンダーを使い、黒酢もプラスして、大人の味に仕上げていきます。

▲フライパンにバターを溶かし、玉ねぎ、ピーマン、ソーセージの順に加えて、軽く焦げ目がつくまで炒める。コンロが2口ある場合は、隣のコンロに水を張ったフライパンを用意し、沸騰したら塩を入れてパスタを茹でておく

──パスタもフライパンで茹でてしまうんですね。
カリー子:2人前くらいならフライパンでも問題なく茹であがるんですよ。深い鍋だと水が沸騰するまでに時間がかかるし、洗うのも大変なので、私はいつもフライパンで茹でちゃいます。
──同時進行できるのは時短になりますね。コンロが1口の時はどうすればいいでしょうか?
カリー子:具材をパスタと混ぜ合わせる直前の段階まで仕上げてから、パスタを茹でてください。具材をボウルやお皿によけて、フライパンを軽く洗ってパスタを茹でれば、洗い物も削減できますよ!

▲具材が炒まったら、ケチャップ、黒酢、しょう油を入れて混ぜ合わせ、茹であがったパスタを絡める
──一般的なナポリタンと、作り方に違いなどはありますか?
カリー子:コリアンダーの風味に合わせて、ちょっぴり大人の味に仕上げるために黒酢を入れたくらいで、作り方自体は一般的なナポリタンと同じです。

カリー子:炒めているあいだに、パスタもいい感じに茹であがってきました。

──フライパンで茹でると、パスタを移すのもラクそうですね。
カリー子:重たい鍋を持ち上げて、ザルでお湯を切って、という手間が一切かかりません。水道代も節約できるし、メリットしかありませんね。

▲ナポリタンをお皿に移し、コリアンダーを振りかける

▲ナポリタン with コリアンダー 、完成

カリー子:今回は黒酢で大人の味に仕上げていますが、惣菜や冷凍食品のナポリタンにコリアンダーを振りかけても風味が増して美味しくなるので、ぜひ試してみてください。
コリアンダーは万能スパイスだった

──食欲をそそるさわやかな香りのコリアンダー。なにやらカリー子さん、他にもお気に入りの食べ方があるそうで?
カリー子:はい。私はよく、ポテトチップスにコリアンダーを振りかけて食べています。美味しすぎて止まらなくなりますよ~。あとは、いつものサラダやカマンベールチーズに振りかけたり、コーンスープにひとつまみ入れたりもしています。
・・・
カレーからふりかけまで、幅広く使えるコリアンダー。
パクチーの香りが苦手な人でも、コリアンダーであれば抵抗なく使えると思います。外食でしか味わえないと思っていたパラクカレーが、自宅でかんたんに作れるというのもうれしいですね。
チキンやチーズなど具材を変えて、さまざまなアレンジを楽しんでみたいと思います。
さて、スパイスの基礎から応用レシピまで学べるカリー子さんのスパイスレッスン。
次回はカレーらしい色味の「ターメリック」を深堀りしていきます。
お楽しみに!
書いた人:千葉こころ

自由とビールとMr.Childrenをこよなく愛するフリーライター。旺盛な食欲と好奇心を武器に、人生を楽しむことに全力を注いで滑走中。


