「そんなものが、売りものになるわけがない」と言われたアイス
「焼きナスを原料にした、不思議なアイスがあるんだよ」
そう教えられ、「メシ通のネタに困ってたからありがたい!」と、さっそく注文してみました。
早々に届き意気揚々と開封するも、食べる直前に後悔し始めた男の表情です。
灰色がかっていて、黒っぽい斑点。
一見黒ゴマのアイスのようですね。
キメが細やかでスプーンがすっと入ります。丁寧な作りを感じさせます。
これが焼きナスじゃなければ……。
焼きナスじゃ、なければ……。
おそるおそる……
……!?
うっんまぁ~……
焼きナスなのに、美味しいアイスだ~。
焦げの部分の香ばしさ、ナスのみずみずしい香りは完全に焼きナス。
そこからアイスクリームならではの豊かな甘みが広がり、後味も爽やか。
口当たりはまさに焼きナス。
そこからガラッと変わるのではなくスムーズに切り替わりながら、非常に丁寧な作りのアイスとしてブレなく着地。
まったく違和感がない。
焼きナス感は満載なのに、ちゃんとデザートになっています。
途中で気持ち悪くなることもまったくなく、最後のひと口まで美味し~くいただきました。
焼きナスのアイス、これは凄い……!
こうしてまんまと感動してしまった僕は、さっそく開発者にインタビューを申し込ませていただきました。
本気で地域活性化を目指して開発されたアイス
こちら、先ほど食べた焼きナスのアイスを作った「安芸グループふぁーむ」代表取締役の小松哲也さん。お話を聞かせていただきました!
「安芸グループふぁーむ」というのは、こちらの高知県の安芸市にあるアイス屋さんです。看板からして焼きナスのアイスを前面に押し出していますね。
──今回は取材にご協力いただきありがとうございます。さっそく「焼きナスのアイス」を作った、そもそものきっかけを教えてください!
小松社長:「地元安芸市の活性化」ですね。
──(悪ふざけじゃなかったんだ……!)そのあたり、詳しく聞いてもいいですか?
小松社長:まず25年ほど前に私達は、衰退を続ける農業や商店街の停滞に危機感を持っておりました。そこから安芸市内の商工会議所やJA他、全7団体の青年部が集まり、同市の将来を想う有志のなかから農業関係者を中心に、皆でなにか協力して始めようということになりました。
──まず、安芸市の未来を憂うメンバーが集まったわけですね。
小松社長:はい、そして安芸市において、資源を消費するだけの社会構造ではなく、効率的に利用しながら再生産を行う循環型の社会に可能性を感じておりました。その実現のためにも、まずは安芸市のナスを全国にPRし、資金づくり的な目的も兼ねて、まず施設を作るための会社を設立しました。
──ふむふむ、施設というのは?
小松社長:農業のテーマパークといったらいいでしょうか。ナスを主体とする加工品工場と、道の駅のような販売施設を中心とし、体験パン工房、アイスクリーム工房等を併設するイメージです。
──なるほど。その流れでナスを使った加工品、「焼きナスのアイス」が登場する訳ですね。
小松社長:そうなんです。「焼きナスのアイス」のような特産品を扱う施設の近隣には、収穫体験が可能な果樹園、レンタル菜園といった農業に関する施設を建設します。
それによって地域住民の利用と雇用の増加はもちろん、交流人口の増加や、ひいてはIターン・Uターンから人口減少への歯止めにも繋がるのではないかと考えておりました。しかしながらこれまでの25年間、そのアイスクリーム屋の運営だけで手一杯。まだまだ夢を叶えるまでには至っていません。
──「焼きナスのアイス」には、そんな大きな使命があったんですね。しかし、焼きナスをアイスにするなんて、最初聞いた時はかなりのチャレンジだとシビれました。試作前から勝算があったんですか?
小松社長:いえ、このアイスが出来たのは、実は偶然なんです。とあるミーティングの際、農家がたまたま持ち合わせていたナスを、焼きナスにしてミキサーにかけ業務用のバニラアイスに混ぜてみました。そこで「イ・ケ・ル・!」となったという。
──へえー! そんな何気ないところから!
本当に焼いたナスをアイスにしてるんです
▲もちろん「焼きナスのアイス」は安芸市で生産しているナスを使っている
──ちなみに「焼きナスのアイス」の作り方って教えてもらえますか? どうやって焼きナスをアイスにするのかが気になりすぎて……。
小松社長:はい、まず洗ってヘタを落としたナスを炭火焼きにします。いわゆる焼きナス作りと一緒ですね。それをフードプロセッサーで細かくしたら、さらに裏ごし機でペースト状に。温度を下げてフリーザーバッグに入れ、急速冷凍します。
──大量のナスを一気に炭火で焼き上げるんですね! 圧巻だ。
小松社長:そして、アイスクリーム製造時にペースト状になったナスを解凍し、専用のクリームベースに混合します。その後殺菌し、フリージング(硬さや舌触りに影響を与える特殊な凍結工程)。カップに充填したら梱包し、急速冷凍させて完成となります。
──なるほどー! あ! アイスの工程を聞いて思い出したのですが、安芸グループふぁーむの「ミルクのアイス」も、すっきりとしながらミルクのコクが立っていて美味しかったです。
▲安芸グループふぁーむの「ミルクのアイス」
──やはりアイス自体にも相当なこだわりが……?
小松社長:そうですね。「アイスクリームの体が保てるのであれば、可能な限り添加物を排除し糖度も控える。そして香りを重視した商品に仕上げる」という信念のもと、手を抜かずバランスを崩さぬよう作っております。
──「焼きナスのアイス」を完成させるまでに苦労した点はありますか?
小松社長:はい、焼きナスペーストのレシピを完成させるまで、試作品の山の処分に社内のメンバーはもちろんのこと、家族まで巻き込んでしまい大変でした。当時は資金難でもありましたが、充実していて今では良い想い出です。
──前例が無くて大変だったでしょうね……。他の個性派アイスで苦労したり、挫折したものってありますか?
小松社長:「碁石茶(ごいしちゃ)のアイス」ですね。高知県の名物である、黒くて四角い形をした「碁石茶」を使いました。茶葉を使用する限りは、売りである乳酸菌をすべて殺菌する必要があります。それでもカラダには良いものではあるのですが、「それだとなんだかな……」と思って廃盤にしています。
──廃盤……もう食べられないんですね。
小松社長:あと「ゆずのアイス」。レアチーズケーキのような風味と食感の絶品でしたが、半月程度で酸による明らかな劣化が始まるので、同じく取りやめ。「焼きトウモロコシのアイス」は風味を出すためのコストと壮大な手間から、開発自体を断念しました。
──どれも興味深いし、一度食べてみたかった……! 焼きトウモロコシといえば、焼きナス以外にも「焼きいものアイス」があり、気になりました。
小松社長:実はそれらをまとめて「焼き焼き三兄弟」として出す計画だったんです……。
──(やっぱ少し変な人だ……)
小松社長:基本、どんな食品でも、アイスに加工することは可能です。なので、引き続きウチならではの美味しいアイス作りにチャレンジしていきたいですね。
──素晴らしいです! 今後考えている新商品があれば教えてください。
小松社長:二番煎じ的ではありますが、「焼きナスの生ソフト」の発売を予定しています。
──くぅー! より焼きナスの風味が味わえそう!
小松社長:アイス同様焼きナス風味で、若干甘さは控えめ。仕事や旅行など、車での移動の合間に味わってもらえると嬉しいですね。道の駅、飲食店などで気軽に買えるように準備を進めております。この夏の終わりくらいから出せるかもしれません。
──たしかにソフトクリームは、パーキングエリアとか観光スポットで食べたくなりますね。「焼きナスのアイス」の体験者の輪がさらに広がりそうです。
ひと口だけでも食べてもらえば、絶対に笑顔になってもらえる
──ちなみに「焼きナスのアイス」を提案したとき、まわりの反応はいかがでしたか?
小松社長:「そんなものが、売りものになるわけがない」といった、諦めを促す雰囲気でした(笑)。
──えっ、なかなか厳しい……。え、えっと、個人的な感想で恐縮ですが、お世辞抜きで美味しかったですし、一生忘れないインパクトのあるアイスだと思います!
小松社長:ありがとうございます。正直、「焼きナスのアイス」は、召し上がる前にほとんどの方が斜めに身構えてしまうんですよね。
──……(たしかに……)。
▲焼きナスアイスを前に身構える男
小松社長:ただ、ひと口だけでも食べてもらえば、必ずと言っていいほど、その意外性のあるおいしさからか弾けるような笑顔を頂戴します。その笑顔こそ、ふぁーむの宝物ですね。
──……(たしかに……!)。
▲弾ける笑顔
小松社長:また、このアイスへの反響ということで言えば、数々の賞をいただきました。「ご当地アイスグランプリ」にて2012年と2016年に「最高金賞」、「にっぽんの宝物」JAPAN大会のグランプリも受賞しております。
そしてこの9月5日、シンガポールのシャングリラホテルで開催された「にっぽんの宝物」世界大会に出展し、Most Enterprise Awardを受賞しました。最後のエントリーに関わらず審査員も完食。「シンガポールで売ったら、みんな買うものだと思います」という高評価をいただいたんですよ。
──アイスとしての実力は折り紙つきですね。最後まで丁寧に答えていただきありがとうございました! 最後に「焼きナスのアイス」を通じて皆様に伝えたいメッセージがありましたら。
小松社長:先ほど「にっぽんの宝物」JAPAN大会グランプリの話をさせていただきましたが、そこで商品のみならず、小規模ながらも四半世紀に渡る、さまざまな産業の融合に対しての取り組みや、地域との繋がりを評価いただきました。これを機に、自分の中でずっとくすぶり続けていた創立当初の想いに立ち返ることができたと思っています。
──まさに地域活性化のためのアイス!
小松社長:引き続き安芸という地域に、行政に、商工関連に、何かしら刺激を与えることが出来ればと考えております。ぜひ、皆さんも安芸のナスを使った「焼きナスのアイス」にチャレンジしてみてください。
──奇跡のアイスから広がる可能性! これからも応援させていただきます!!
焼きなすアイスの安芸グループふぁーむ
書いた人:ディスク百合おん
ナードコアという特別なテクノを得意とするミュージシャン。コンビニで手に入る食品を合わせて新しい料理を作りあげる「コンビニかけ合わせグルメ」を紹介する人として様々な媒体に取り上げられ、同名の初書籍が2017年11月2日(木)に発売。山本さほ「岡崎に捧ぐ」に登場する杉ちゃんのモデルという棚ぼた知名度も獲得している。
- Twitter:@discyurion