飲食業界経験ゼロだった主婦が設立1年で累計2万人購入の大ヒット。鉱物みたいなスイーツ「こうぶつヲカシ」の斬新すぎるビジネス戦略

飲食業の経験のなかった主婦がアートと食をテーマに起業した「ハラペコラボ」。大ヒット商品となった、鉱物の形をイメージした琥珀糖のお菓子「こうぶつヲカシ」誕生秘話を代表の野尻さんに伺いました。

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▲色とりどりの「こうぶつヲカシ」。お菓子をのせている皿は本物ではなく、同社が作っている耐水性のシート(写真提供:野尻知美さん)

 

1年で累計2万人が購入、大ヒットお菓子「こうぶつヲカシ」

福岡市に、2019年11月に法人化された「メルティングポットハラペコラボ株式会社」(以下・ハラペコラボ)というスタートアップがある。

この会社の現在の看板商品は「こうぶつヲカシ」。

鉱物標本箱そっくりに作られた箱の中には、一区画にひとつずつ、手作りされた形や色の異なる鉱物さながらのお菓子が詰められており、ふたの裏面には、それぞれのイメージされた鉱物の名前、使われている色素の原料名が記載されている。

 

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▲これがこうぶつヲカシ。予備知識なしで見た人は、本物の鉱物と間違えるのではなかろうかと思える精巧さ(写真提供:野尻知美さん)

 

お菓子と知らないで箱を開けた人は、本物の鉱物標本と間違えてしまうくらいに精巧にできています。食べられるとわかってはいても、口に入れるまでは石のように硬いのではないかと不安になるほど。

実際には表面はパリッと、噛むとやわっと溶ける、ほど良い甘さのお菓子である。

 

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▲ひとつずつ手作業で成形。同じサイズ、同じ形に作るだけで大変だ(写真提供:野尻知美さん)

 

すごいのはこのお菓子、オンラインでの予約販売のみというのに販売を開始して1年ほどで累計2万人以上が購入しており、インスタグラム「ハラペコラボ®︎のこうぶつヲカシ®︎」のフォロワーは5万6000人(2021年10月現在)。

さらに2021年6月に発売した『きらきら鉱物菓子の作り方』(株式会社KADOKAWA)は、発売からわずか10日で増刷(その後、さらに3刷も!)が決まってもいる。

 

store.ponparemall.com

またオンラインで鉱物菓子の作り方を教える教室も開催するなど、話題のお菓子なのだ。

 

「飲食経験ゼロ」の主婦が立ち上げた会社が急成長

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▲真ん中が野尻さん。毎年、全員でお揃いのユニフォームを作り、士気を高めているそうだ(写真提供:野尻知美さん)

 

売上もすごいのだが、この会社の成り立ちも興味深い。

「メルティングポットハラペコラボ株式会社」を立ち上げたのは野尻知美さん。彼女は2009年に夫の転勤で福岡市に引っ越すまで飲食業の経験はなく、野尻さんを含め現在35人いるスタッフは全員が子育てを最優先にしている主婦ばかり。

お菓子の商品開発には必須と思われるパティシエも和菓子職人も、同社にはいない。

 

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福岡市の住宅街に誕生した実店舗。ランチ、お茶が楽しめるほか、お弁当の販売も。こうぶつヲカシの世界観を感じさせる店頭(写真提供:野尻知美さん)

 

さらに野尻さんは2020年4月から夫の転勤で大阪市に居住。

リモートで経営にあたっているのだが、その状況下にあってハラペコラボは前年比2倍、3倍のスピードで成長。2020年10月には初の実店舗を福岡市内にオープン、話題を集めている。

 

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▲クラシカルな什器と、緑をあしらった店内。お店が提供するメニューにもこうぶつヲカシがあしらわれたものが多い(写真提供:野尻知美さん)

 

停滞感のある時代にあって、全員が子育てを優先しながらもこの成長である。

どうしたら、そんな会社が、そんなビジネスが可能になるのだろうか。

 

遊びのホームパーティーがケータリング業への糸口に

野尻さんの実家は工務店。

家の中には作業場があり、職人さんがいてモノ作りが日常という環境の中で育つ。多摩美術大学では建築デザインを学んだ。

その後、設計事務所へ就職。だがこの職場は修行のようなもので、あまり待遇が良くなかった。それにそもそも、建築の業界に馴染めないという気持ちがあり退社。その後は不動産会社、製薬関連の外資系企業などで会社員をしていたという。

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:このまま、モノ作りから離れて暮らしていくのかと思っていたところで、デザイン系の仕事に進んだ友人と話をする機会がありました。仕事となると好きなことばかりができるわけじゃないんだよと聞いて、それなら仕事という形ではなく、自分の好きなものを自由に作り、好きに発信してみようと「はらぺこ会」というイベントを始めることにしました。

 

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▲多摩川の河原で開かれた、ある時のはらぺこ会。食べ物だけでなく音楽も楽しめるイベントだった(写真提供:野尻知美さん)

 

これは毎月一度開かれる、凝ったホームパーティーのような集まり。

毎回異なるコンセプトを考え、それに合わせて場所を手配、アーティスティックな食事や音楽、花などをコーディネートしてその世界を楽しむというもので、かかった費用は人数割で精算。

 

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▲回を追うごとに参加者が増え、凝った内容に。この時の経験や人間関係などが今の野尻さんの力になっている(写真提供:野尻知美さん)

 

遊びだから逆にルーティンには陥らず、次はもっと満足度を高めるようにと工夫を凝らし、完成度をあげることに集中していたと野尻さん。

最初は友人たちと始めたが、徐々にそれ以外の人も集まり始め、最終的には30~40人が集まるように。毎回、その記録をブログに残すようにもした。

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:はらぺこ会を始めた頃には結婚が決まっており、夫の実家に挨拶に行った時に義兄となる人にはらぺこ会の話をしました。そこで写真を撮って毎回記録、外に発信し続けたらいいよとアドバイスされました。
1年くらい続けたら、なにか結果が出てくるよとも。義兄はすでにその言葉を覚えていないようですが、実際、始めて1年くらいすると、商売にはならないものの、個人的にケータリングを依頼されるようになりました。

 

福岡へ引っ越し、経理と飲食を勉強

はらぺこ会を始めて2年後、野尻さんは夫の転勤で誰一人知人のいない福岡市に引っ越すことに。

普通だったら、せっかく依頼が入り始めた東京でのケータリング業に未練を感じそうなところだが、野尻さんは福岡という街の可能性に期待していた。

 

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▲野尻さんが手掛けるケータリングは見て美しく、食べて美味しい。食べ物というより、アート作品という評価も(写真提供:野尻知美さん)

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:前職で福岡を訪れる機会があり、リサーチしてみたんです。一般的なケータリングはあるものの、もともといい食材が入手しやすい街なので、あまり食材に手を入れないという風潮があるようで、見た目、演出にこだわるようなケータリングは存在していませんでした。一方でオープンな考えの人が多く、新しいものを面白がるマインドもあり、この街でならチャンスがあると思いました。

 

アートと食をテーマにした起業を視野に入れ、野尻さんが福岡で最初に取り組んだのは地元の職業訓練校での経理の勉強だった。

いいものを作っても売れなかったら、利益が出なかったらビジネスとしては成立しない。そこでお金の流れや数字の意味がわかるようにと半年間簿記を学び、数字を見る目を養ったのである。

続いては飲食の現場を経験しようとスペイン料理店に勤務。ここでは2年ほど働いた。

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:修行先の仕事は過酷でした。10時間休みなくぶっ続けで仕事をしたりとか、誰かが休むと店が成り立たなくなってしまうような状況を見て、子育てしながらの飲食業を続けるのは無理だなと思いました。
私が妊娠した時に、ほどなくして一緒に働いていた女性も妊娠したのですが、その彼女とは「(子どもができたら)この世界にはもう戻れないね」と言い合ったものです。

 

妊娠を機に飲食からケータリング業へ

だが、修行先の店主の妻がそこに救いの手を差し伸べた。

花屋を経営していた彼女が、地元の主婦たちがよく集まる施設のキッチンを使って不定期営業のビュッフェレストランをしないかと誘ってくれたのだ。

単発のカルチャースクールのように使われていた施設で、料理教室などがあればキッチンを使うが、使われていない時も多く、それをもっと活用したいということだった。

そのおかげで通常営業のレストランより働く時間は短く、子育て中でも自分の裁量で仕事量がコントロールできるようになり、当初3カ月の予定だった契約を更新、半年ほど経営をした。

 

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▲当時ケータリングで野尻さんらが提供していた食事の様子(写真提供:野尻知美さん)

 

その後、そこで知り合った女性がカフェとヨガ教室を併設した施設を経営しており、そこで週に2回、ランチ営業をしないかという声がかかった。

その頃にはあちこちからケータリングを頼まれるようにもなっていた。週2回のランチ営業なのに、毎回メニューを変え、試作、仕入れと駆け回る野尻さんの仕事が評価されないわけはない。結局、この店の雇われ店長として1年ほど切り盛り。そうこうしているうちに2人目の子どもを妊娠した。

それを機に、野尻さんは独立することを決意する。

好きにやって良いと言われても、人のお金で店舗を運営するにはいろいろと制約もあり、すべてを自由にできるわけではない。そう考えた彼女は、出産から1年後には資金を借りて小さなアパートで個人事業主としてスタートする。2017年3月のことである。

 

こうぶつヲカシはかき氷ビュッフェから誕生

面白いことに、それまでも口コミベースで仕事は来ていたものの、自分でリスクを背負って店を構えたらどんどん仕事が来るようになったと野尻さん。

主にケータリングだったが、ケータリング一本だけでは事業は安定しない。毎回、ボリュームが違い、収入にばらつきが出るうえに、食材も無駄になる。

なんとか平準化できないかと考えていたところに、週に3回、社食のような形で定期的なデリバリーを頼めないかという依頼が舞い込む。

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:実は福岡でもはらぺこ会のようなイベントを1年ほど続けていました。そのイベントに参加した人が、入社した会社で私のケータリングを自分の入社歓迎会に頼んでくれたことが縁になり、ぜひ社食も……という話に繋がったんです。

 

 

仕事、妊娠、出産に子育てと忙しい合間にもはらぺこ会を続けてきたことは驚きだが、そこで育んできた人間関係が次々に仕事に繋がっていったのである。

 

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▲花のかき氷(1,100円)。食べるのが惜しくなるような美しさ(写真提供:野尻知美さん)

 

さらにはらぺこ会はこうぶつヲカシの誕生にも関与している。

ある時の会でかき氷ビュッフェを開催した時、かき氷のトッピングとして琥珀糖を使ったのだが、それがこうぶつヲカシ製造のヒントになったのだ。

 

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▲琥珀糖自体はそれほど変わったお菓子ではないが、それをアーティスティックに突き詰めていったところにハラペコラボの新しさがある(写真提供:野尻知美さん)

 

琥珀糖とは砂糖と寒天、水から作られる江戸時代からあるといわれる和菓子のこと。

こうぶつヲカシは、これを鉱物状に成形したり、組み合わせたりして作られている。最近は、簡単に作れるのにインスタ映えすると琥珀糖を作る人も増えており、「琥珀糖」で検索すると多数の画像が出てくる。

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:琥珀糖には出来たては他のものとくっつきやすいという特性があるのです。であれば、逆にその特性を利用して変わった形のものを作れないかと考え、そこで思いついたのが「鉱物」。
ちょうどアクセサリーメーカーから宝石に見立てたお菓子を作れないかと打診されていたこともあり、思いつきで試作してみたらかわいいモノができたので、これはいける! と思いました。

 

安定した雇用のために売れる商品の開発が必要だった

2017年にハラペコラボを立ち上げて以来、野尻さんは安定した雇用を可能にする仕事を模索していた。

都合のいい時だけ雇うようなやり方を良しとしなかったからだ。

社食を始めるようになってケータリング事業は安定はしてきたが、それだけでは足りない。

 

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▲から揚げや生ハムなどが無造作に置かれているだけなのに絵になる、それがサラダロードシートのすごいところ(写真提供:野尻知美さん)

 

野尻さんはこうぶつヲカシ以外にも、アイデア商品を生み出している。

ケータリングの際に手間だった食器の用意を省き、かつテーブルを華やかに見せる方法はないか。そこで、敷くだけで食器代わりになり、しかもパーティ映えもする耐水紙の「サラダロードシート」といった商品を販売してはいた。

だが、まだ爆発的に売れるというほどのものではなかった。

 

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▲プロの職人でなくても、ひたすら作り続けることでここまでのモノが作れるようになる(写真提供:野尻知美さん)

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:クッキーで石を作ってみましたが、かわいくなくてダメ。他にはアイシングクッキーも試してみましたが、時間もコストもかかる。チョコレートは技術的に無理。そんな中で琥珀糖に出会ったのです。
これならパティシエ、和菓子職人がいなくても作れるし、コストや手間もさほどではないのに、クオリティを追求できる商品だと感じました。展開のしやすさもあるし、アーティスティック。まだ世の中にない。だったら、箱も含め、世界観をきちんと作り込んでいこうと決めました。

 

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▲受け取った人の驚き、喜びを意識、細部に至るまで気を配ったパッケージ(写真提供:野尻知美さん)

 

これがこうぶつヲカシの箱である。箱だけでなく、包装紙や添えるメッセージカード、その他細部にもこだわり、受け取った人の感動を意識した。

商品というより、アート作品である。

 

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▲安全性と美しさを考え、自然由来の天然色素で色付けしている(写真提供:野尻知美さん)

 

作る手間はそれほどではないと書いたが、天然色素を使うとなると均等なクオリティで作るのが途端に難しくなる。

それに気温によって固まり方が違うため、四季を通じて同じように作るわけにもいかない。

手作りでカットしているため、その技術レベルの向上も求められた。今でもスタッフは今月より来月、さらに……とより良いものを目指しているという。

 

働きやすい仕組みが急成長を支える

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▲鉱物標本箱を模したパッケージ。鉱物好きも満足しそう(写真提供:野尻知美さん)

 

こうして作り上げたこうぶつヲカシが一躍有名になったのは、2018年のホワイトデーに向けてネットで購入者を募った時。

美しさに加え、これまでになかった「鉱物を謳ったお菓子」という意外性が受けたのだろう、なんと、達成率2131%という信じられないほどの数字となり、一気に世間に知られるようになった。

その後も情報発信は基本的にSNSを使っている。こまめに毎日インスタグラムを更新しているが、買ってくださいという言葉はひと言もなく、語るのは世界観、ストーリーというやり方だった。そしてフォロワーを増やし続け、今でも着実に売れ続けているのは冒頭に述べた通り。

2年ほどの間に3児を育てつつ、会社のある福岡と離れて暮らしながらこれだけの大躍進を実現するのは大変だと思うが、それを可能にしているのはハラペコラボ独自の働き方である。

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:3人目を産んだ時に、自分自身も含めて「●●さんがいないと困る」というのは止めようと思いました。その人のメインの持ち場は大切にするものの、誰が休んでも回る仕組み、無理をしないで働き続けられるシステムにしようと思ったのです。その結果が現在の35人というスタッフ数です。

 

 

売上から計算すると10人がフルタイムで働ければ回るのだが、それをあえて社員、パートなど働き方の違う35人にすることで一人あたりのプレッシャーを軽減するようにしているという。

こうしておけば誰かがその日の朝、急に体調を崩しても仕事に支障をきたすことはない。逆に「急に人手が足りなくなったので誰か手伝って」も可能である。

 

任される仕事、負荷がかかる仕事だから楽しい

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▲全員がフードクリエイターとして誇りを持って仕事をしている(写真提供:野尻知美さん)

 

現在、スタッフ35人のうち9人が社員だが、そのうち7人が「短時間正社員」というあまり耳慣れない不思議な雇用形態をとっているのも同じ意図から。

これは週に4回、週35時間など、働く人が自分で働く時間を決めて働くというもので、社会保険等は世の中一般の社員同様。

働く時間が自由になれば、これまで働けなかった人も働けるし、働いてもらえるというわけだ。

と聞くと気になるのはお給料だが、単位時間当たりの給料は福岡では一般的な額ですと野尻さん。

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:これからの課題は売上を今の10倍、30倍と増やし、各人の収入をさらに増やすこと。パート勤務の方の時給を2,000円にできたら面白いですよね。

 

 

各人がプレッシャーを感じず、いつでも休みたい時に休めるとしたら仕事が手抜きになるのではないかと懸念する人もいるのではないかと思う。

だが、それは逆だ。ハラペコラボの繁忙期はクリスマスやバレンタインなどギフトニーズが高まる時期だが、その時期になると年末に重なって忙しい時期でも人手が足りないだろうからと自発的に出てくる人が増えるのだという。

 

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▲毎月商品が変わっていくため、前回と同じものを機械的に作るということができない。それを面倒と考えるのではなく、楽しい、チャレンジしようと思う人たちが集まっている(写真提供:野尻知美さん)

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:向上心を持って働いてほしいと思っているので、仕事は任せるようにしています。しかも、私たちの仕事は定番のように見えるこうぶつヲカシですら、毎月作業が異なり、ケータリングでは毎回違うオーダーが来ます。
ルーティンな仕事、同じことの繰り返しはなく、その場で常に創意工夫が必要で、ベストなものを求められます。

 

 

スタッフはそうしたニーズに応じながら仕事をしているので、常に新しいものにチャレンジし続けているようなものだと言う。そのうちに、知らず知らず技術の腕が上がり、そうした負荷が楽しいとすら思う人が残っていく。

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:ある意味、部活のような感じかもしれません。どうせやるなら勝ちたい、上手になりたい……そんな思いを持ちながら働いているので、忙しいのも楽しい。家族も楽しんで働いているのを知っているからでしょう、今日は仕事に行ってくれば? と言ってくれるそうです。

 

ハラペコラボ流問題解決術

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▲賞味期限が短く、注文が集中しがちなこうぶつヲカシのニーズをどう平準化していくかが今後の課題(写真提供:野尻知美さん)

 

順風満帆に見えるが、野尻さんはすでに次の課題をなんとかしなくてはと考えている。

こうぶつヲカシは出来立てが美味しく、賞味期限も1カ月ほどと短いため、作り溜めすることができない。つまり、ギフトシーズンでもない限り人手が余ってしまうのだ。

 

実はその解決策はほぼ見えつつあるそうなのだが、最後にその方法をご紹介しようと思う。それは、「いろいろな人と話をする」ということだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20210926145131p:plain野尻さん:アイデアが欲しい時は、職業や生活、性別、年齢、暮らしている場所、その他さまざまな属性の人に同じ質問を投げかけるんです。すると不思議なことに、まったく背景の違う人たちから同じフレーズや言葉が出てくることがあります。それがヒントになります。
幸いなことに私は前職で不動産や建築、製薬会社と飲食以外の仕事をしていましたし、はらぺこ会ではそれ以上に異業種の人たち、今だと生産者やママ友たちとも出会いました。ピンチの時にはニーズが出てくるもので、それをどう見つけていくか。ピンチはアイデア次第でチャンスに変えられますし、アイデアは多様な人たちとの会話に種があるものです。

 

こうぶつヲカシが今後、どのような形になるか。

まだ、しばらく先のことになるだろうが、きっと、え、それですか! という解決法になるのではないかと思う。野尻さんたちのこれからに期待したい。

 

harapecolab.com


書いた人:中川寛子

“真山知幸”

住まいと街の解説者。30数年不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他、まちをテーマにした取材記事が多い。主な著書に『この街に住んではいけない』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』『東京格差 浮かぶ街、沈む街』(ちくま新書)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

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