空腹を襲う圧倒的ボリューム&ほどよい辛さ!川崎で独自進化した「ニュータンタンメン」が全国に向け進撃中

日本で担々麺といえば、辛味の効いたひき肉とごまの風味が食欲をそそる、中華麺である。そんなみなさんご存じの担々麺とは違う「ニュータンタンメン」が、川崎市で親しまれているらしい。50年以上も川崎市民に愛され続ける「元祖ニュータンタンメン本舗 本店」で副店長に話を聞いてきた。

エリア川崎 (神奈川)

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君はニュータンタンメンを知っているか!?

 

担々麺というと中国を発祥とした、ひき肉と唐辛子が真っ赤なラー油に浮かぶ激辛麺料理。

元々は汁なし担々麺がルーツのようだが、陳建一氏の父・陳建民氏が日本人向けに汁あり担々麺を開発し、浸透したことはよく知られている。

しかしその流れとは別に、東京の南、神奈川県の川崎には、中国の担々麺をヒントに作られた、溶き卵を混ぜてマイルドに仕立てた「ニュータンタンメン」なるオリジナル麺料理が50年以上前から親しまれており、川崎市を中心に独自の広がりをみせている。

 

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そんなローカルフードも、最近になって神奈川県内に収まらず、都内・五反田に新店舗を構えるなど、神奈川県外にも勢力を伸ばしつつある。

これから全国に向けて展開を目指しているのか、そもそもニュータンタンメンってなんなんだ!? 

そんな疑問をぶつけるべく、京急線八丁畷駅近くにある「元祖ニュータンタンメン本舗」京町本店へ赴き、副店長を直撃してみた。

 

地グルメ「ニュータンタンメン」ができるまで

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▲小さい頃から「ニュータンタンメン」の味で育ってそのまま就職したという、Tシャツのアイ・ラブ・タンタンを地で行く渡辺俵太副店長

 

── 55年前の創業当時から川崎のこの場所で営業されていたのでしょうか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain創業者が川崎に住んでいまして、仕事も川崎で地元だったんですね。なので、お店を出すとなったら自然と川崎になったようです。

 

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▲リニューアルされ、ロードサイドでロゴがひときわ目立つ「元祖ニュータンタンメン本舗 京町本店」。昼夜のピークタイムの大混雑は当然ながら、それ以外も常にお客さんが絶えない

 

── なるほど。焼肉も一緒に食べられますよね。このスタイルも創業当時から?

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain川崎って焼肉店が多いんですよ。ここ京町にお店を出す時に、焼肉をやるならラーメンも一緒に出したらどうかと知人にすすめられたそうなんです。

 

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▲カウンター席もあるが、京町本店にはファミレスのようなテーブル席が充実

 

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▲それもそのはず、テーブル席の中央には写真左のような焼肉台が埋め込まれており、写真右のメニューにあるような焼き肉を焼かない時にはこうしてフタがされ、タンタンメンのみのお客さんにも対応できるようになっている

 

── すすめられたからにはラーメンに特徴があったからだと思うのですが、ラーメンは最初から「ニュータンタンメン」というメニューだったのでしょうか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain創業者の故・五十嵐源吉が中国で担々麺を経験したらしいんですよ。それを日本で始めようとしたのですが、本場のまんま調理しちゃうと日本人には辛すぎるんですよね。

 

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▲厨房の一角に置かれたニンニクとひき肉を……

 

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▲大きな中華鍋に溶き卵とスープを混ぜて炒めて……

 

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▲ゆでた麺の入った丼にかけて……

 

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▲フロアスタッフに渡され……

 

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▲お待ちどう! 唐辛子の適度な刺激とニンニクのガツン度が卵でまろやかにまとまった、タンタンメン中辛(780円)

 

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▲ツルツルとした太めのストレート麺。スープに絡みすぎず適度な辛みをのせて、スルスルと食べられる

 

── 今でこそエスニック料理のお店も増えましたし、本格的な香辛料も手に入るようになりましたが、当時の人にしたら「なんだこりゃ!? 食い物か?」って辛さですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plainはい。それで、当時の日本人に合うようにアレンジして「ニュータンタンメン」が生まれたんですね。

 

「ニュータンタンメン」、決め手は「溶き卵」

── 唐辛子やひき肉は担々麺で使われる食材ですが、溶き卵を混ぜるのが一番の特徴ですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain卵を混ぜることでまろやかさが出て、食べやすくしたんですよね。

 

── それでも、辛さに耐性のない当時の方にとっては辛くて食べられないよ、みたいなクレームがあったんじゃないですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plainそういったご意見はほとんど聞いたことがなくて、韓国系の唐辛子を使ってるんですけど、そんなに辛くないので、肉と油で、かえって甘みとコクが際立つと思うんですよね。無料で普通からメチャ辛まで指定出来ますけど、メチャ辛でもそこまで辛くないですよ。

 

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▲麺メニュー左上にある辛さメーター

 

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▲真っ赤なメチャ辛もそこまで辛くなくおいしく食べられる

 

── あくまでおいしく食べられるレベルでってことですよね。当初、担々麺を出しているお店というのは他にあったんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plainといいますか、この界隈に飲食のお店自体がそもそもほとんどなかったんですよ。なので、ウチだけがやっている状態でしたね、しばらくは。

 

── 辛さも楽しみつつ、「ニュータンタンメン」ならではのおいしさを求めてお客さんが来られる、と。納得!

 

最強サイドメニュー「みそギョーザ」の秘密

── タンタンメン以外にも、サイドメニューの「みそギョーザ」も名物ですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plainみそダレも独自に開発しているんです。

 

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▲ロングセラーのみそギョーザは5コで420円

 

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▲中身はぎっしり、野菜が多くヘルシー。オリジナルの味噌だれがさっぱり食べやすく、あっという間に完食してしまった

 

── いつ頃からメニューにされているんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain創業して数年ですでにあったみたいなんですよ。

 

── 川崎にあるので、てっきり川崎餃子の流れを組むものかと思っていたのですが、あれもみそダレですよね?

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plainみそベースですが、川崎餃子とはまた違うんです。あっちはチョット茶色っぽくて、ごまドレッシング的な感じですね。「かわさき餃子舗の会」というのがありまして、そこで開発したみそを使うのが規定になっています。

 

── 地域おこしのような形で、近年になって結成されたんですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain餃子で川崎エリアを盛り上げようと、いろんなラーメン店などが入っていて、ウチも入ってたんですよ。で、規定のみそを酢とラー油で割ってお出ししてたんですけど、その川崎餃子とは別に、元々ウチのみそギョーザがあったわけじゃないですか。両方出してたんですけど、どうにもカブっちゃう(笑)。なので、残念ながら餃子舗の会からは抜けざるをえず……。

 

── 確かに、お客さん混乱しますよね(笑)。

 

脇役にはもったいないサイドメニュー

── 「ニュータンタンメン」の他にも特徴的なサイドメニューがありますよね。ホルモンのドテヤキとか、すっかり定番している焼肉丼のタンタンメンセットとか。

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plainどちらもウチの工場で作ったものをパウチしています。ドテヤキ自体は直営店ではこの京町本店だけなんですけど、どこのお店でも出したければ出せるんですよ。

 

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▲五反田店のタンタンメン中辛と焼肉丼のセット1,050円。付け合せはこの日はメンマだった

 

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▲少し辛味のきいた豚焼き肉と、みずみずしく甘味ある米がベストマッチ!

 

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▲余ったライスにタンタンメンをのせて食べるのも、「元祖ニュータンタンメン本舗」ならではの醍醐味(だいごみ)!

 

── ドテヤキ丼みたいな形で出していたり、オリジナルのチャーハンがある店舗など、お店によってメニューが違う部分ありますけど、各店舗の裁量に結構任せているところが大きいということでしょうか。

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plainそうですね。基本の味というのは工場で作っているので統一されていますが、それをお店ごとのスープで割る感じですね。

 

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▲夜な夜な地元客が集まってくる、環状2号線沿いの駒岡店

 

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▲駒岡店のメニュー。ところどころ独自メニューが目を引く

 

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▲駒岡店のフライドオニオンチャーハン920円。量が一般的な中華店の倍以上あるビッグサイズ!

 

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▲焦げ茶色の粒状の揚げ玉ねぎを混ぜて炒めた一品。見た目はナルトが入った懐かしいチャーハンながら、パラッとハードに香ばしく炒められている

 

── スープはそれぞれの店舗で炊いてるんですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain各店舗で鶏ガラから炊いてます。なので、お店ごとの個性が出ますね。

 

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▲京町本店のスープ。スープは鶏ガラを炊いてるだけと渡辺副店長は謙遜されるが、味の深みやお店ごとの違いはスープで出る気がする

 

ローカルフードから全国展開へ

── いつ頃からフランチャイズ展開はされていたんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain平成28年の11月に、前の社長(二代目)が会長になって、今の社長の代(三代目)になってからです。

 

── それまでは京町本店のみだったんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plainいえ、7店舗ありました。初代と前社長(二代目)の代、のれん分けの時代からやっているお店と、最近FCとして展開しているお店があります。今の会長の代(二代目)の時は地盤固めをして、新社長(三代目)になった時に全国に出店していこうということになったんですね。その一環として、東京の都心部にもオープンしています。

 

── 五反田店に先日うかがってきました。最近できたんですよね。

 

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▲真新しい五反田店の外観

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain五反田の店長はここ京町本店の元副店長(今の店長兼部長の弟)が独立して始めたんですよ。

 

── 以前、店舗名にイソゲンと付いていたお店がありましたが、あれが以前ののれん分けですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain元々、創業者の故・五十嵐源吉から五十(イソ)と源(ゲン)を取って株式会社イソゲンとしていたんですけど、「源」の方を訓読みした「みなもと」に社名を変えたんですよ。

 

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▲丼の底には、五十源(イソゲン)を模した印が

 

満を持して酒場業界にも進出!

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain実は4月から新しい業態も始めまして、ニュータンタンメングループと称して、これまでの中華中心の店舗以外に、「ニュータンタン酒場」という居酒屋さんでタンタンメンも食べられるというお店を展開していくことになりました。

 

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▲新業態となる「ニュータンタン酒場」のチラシ。もちろんタンタンメンもオーダー可能

 

── 元々アルコールやツマミ類は充実してますよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plain従来の店舗でもメニューにはありますけど、より飲みに特化して、〆にタンタンメンが食べられるスタイルで、まずは川崎駅の東口にオープンします。

 

── これまでの支店と変わったところでは、川崎フロンターレのホームグラウンドにある等々力陸上競技場店には、まぜタン(まぜそば風タンタンメン)がありますよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plainまぜタンは、今の社長になった時に工場長も変わったんですけど、そのタイミングで新商品が出来ないかということで開発したんですよ。

 

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▲五反田店メニュー。まぜタンは等々力の他、京町本店や五反田など一部の店舗でもまれに扱いがある

 

── 現社長の代でも、全国FC展開を目指しつつ地域密着ということも同時に考えられているんですね!

 

f:id:Meshi2_IB:20180521191456p:plainそうなんです。既存店でも直営店共通で季節ごとの新メニューを開発していこうとなってます。各店長が1つずつ新メニューを持ち寄って、その中から選ばれたものを直営全店で売り出そうと。

 

── それは季節ごとに行くキッカケになりますね。今後の展開がますます楽しみです。期待してます!

 

 

正直、全国展開して味を落とし、元々の地元店も劣化し、最悪は消滅するというケースもこれまで目にしてきた。

しかし、「元祖ニュータンタンメン本舗」は55年という長きに渡り、工場を設けつつ各店舗の特色も出しつつ、地域住民に愛され続けてきた歴史を持っている。

このノウハウを持ってすれば、単に扇を広げるだけでなく、川崎発祥の独自の味を、より多くの人に味わってもらうことが可能な気がする。

近くにできたら、ぜひ味わってもらいたいし、それをキッカケに本店他、川崎を中心とした古くから親しまれる店舗で食べ比べてみると、きっと新たな発見があるはずだ。

 

お店情報

元祖ニュータンタンメン本舗 京町本店

住所:神奈川川崎川崎区京町1-18-7
電話番号:044-366-2180
営業時間:11:30~24:00(LO 23:30)
定休日:無休

www.hotpepper.jp

 

書いた人:刈部山本(かりべ やまもと)

刈部山本

スペシャルティ珈琲&自家製ケーキ店を営む傍ら、ラーメン・酒場・町中華・喫茶で大衆食を貪りつつ、産業遺産・近代建築・郊外を彷徨い、路地裏系B級グルメのブログ デウスエクスマキな食卓 やミニコミ誌 背脂番付 セアブラキング、ザ・閉店 などにまとめる。メディアには、オークラ出版ムック『酒場人』コラム「ギャンブルイーターが行く!」執筆、『マツコの知らない世界』(TBS系列)「板橋チャーハンの世界」出演など。2018年5月には初の単著となる『東京「裏町メシ屋」探訪記』(光文社)を出版。

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