本店と変わらぬ旨さを250円で!?激安博多ラーメンの謎に迫る

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まだ、消費税が3%だったころ、地元・福岡のタウン情報誌に「500円未満の旨いラーメン」をテーマにコラムを連載していたことがある。

Wスープだの黒ラーメンだの、煮玉子だのとろとろチャーシューだのとラーメンがやたらと豪勢になって、福岡でも600円もするラーメンが話題になり始めた頃の話だ。

もちろん、そういう“ごちそうラーメン”に対するアンチテーゼのつもりの企画である。

しかし、今や消費税が5%になり、8%になり、小麦をはじめとする材料は高騰して、もはや福岡でもラーメン1杯600円が当たり前になってしまった。

 

そんな福岡で、今でも1杯250円という驚きの価格でラーメンを出す店がある。福岡市及び近郊に4店を構える「18(いっぱち)ラーメン」だ。

 

f:id:mesitsu_lb:20151019152129j:plain堂々と「ラーメン250円」を掲げる「18ラーメン博多駅南店」
※飯塚の上三緒店のみ、本店から遠方にあるため1杯280円。

福岡でも、ラーメンブロガーが「デフレラーメン」と呼ぶ激安ラーメンフランチャイズや食品会社が経営するチェーン店がいくつかある。それでもせいぜい1杯280円か290円といったところだ。

しかし、「18ラーメン」を直営する「一九(いっきゅう)ラーメン老司店」は、昭和40年創業の歴とした老舗ラーメン専門店。老舗ならではのオーソドックスで味わい深いラーメンを1杯450円で提供しており、普通に考えれば十分に安い。

店もお昼時に限らずいつもお客で賑わっている。それでも、直営の「18ラーメン」ではそれとほとんど変わらないラーメンを1杯250円で出しているのだ。

どうしてそんな激安価格で出せるのか?その謎を探るべく、まずは本店である「一九ラーメン老司店」に行ってみた。

 

f:id:mesitsu_lb:20151019152217j:plain市内でもけっこうな郊外にありながら、客足が途切れることのない「一九ラーメン老司店」

 

本店が守る博多の味

「一九ラーメン老司店」のラーメンは、豚のロース骨(背骨)とげんこつ(脛骨や大腿骨)だけを使った豚骨100%の白濁スープ。ストレートながらまろやかな豚骨の旨味を味わえるのが特徴で、脂がサラサラなので後口がさっぱりしている。ほんのり小麦が香る麺はなめらかな歯ごたえで、このスープに相性抜群だ。

そして、具はバラ肉のチャーシューに博多ネギのみ。これで1杯450円。余計なものを加えない、横綱相撲の一杯だ。

トッピングでは、ワンタンがナンバーワンの評判を博している。

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老司店のラーメン。スープは白濁しつつも、透明感を感じる。

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老司店のラーメン。

個人的に、このまろやかなスープには、麺の固さは「ふつう」をオススメしたい。

 

支店が受け継ぐ老舗の味

さて、「18ラーメン」という激安ラーメンの謎。

もしかして大きな声では言えないような秘密があったらまずいと思い、老司店のご主人・岩井さんに恐る恐るに訊いてみた。

 

──本店(一九ラーメン老司店)と「18」のラーメンはどう見てもどう食べても同じもののような気がするんですが、片や450円で片や250円。いったいどんなマジックを使ってるんですか?

「スープは支店では作らずに、本店で作ったスープを各店に運んでいるんです」

 

──具が少ないとか?

「まったく同じです」

 

──でもチャーシューが少ないとか?

「どっちも1枚です。麺は本店で仕入れている特注の麺と同じ小麦、かんすいを使って、大土居店に併設の製麺工場で自家製麺し、分量を5%だけ減らしたものを使っています。だから、麺のコストは若干落としてますが、ラーメンは本店とほぼ同じです」

 

──それで250円とか、あり得んでしょう?

「安いからと言って質を落としたら意味がないですから」

 

──じゃあ、どこでコストを落としてるんですか?

「店の家賃が大きいですね。大家さんがとてもいい人で、場所代がほとんどかかってないんですよ」

 

「18ラーメン」4店はどれもパチンコ店の敷地内にあって、パチンコの客に気軽に食べられる食事を提供したいという大家さんと、安くて旨いラーメンを作りたいという岩井さんのメリットが一致して、家賃をタダ同然で提供してもらっているそうだ。

他に、各店の運営は若いアルバイトスタッフに任せている。

これは経費面以外にも、若者に責任をもって働く場を提供することにも繋がっている。岩井さんの願いは、「子どもが小銭を握って食べに来れるようなラーメン」を作ること。

さすがにパチンコ店に併設の店では子どもだけでは入りにくいかもしれないが、小銭で食べられるラーメンは実現している。

「数が出れば儲かるんじゃないかと思ってやってみたけど、全然ですね」と岩井さんは苦笑する。

f:id:mesitsu_lb:20151019152418j:plain老司店の厨房で、てきぱきと小気味よくラーメン作る岩井さん

 

では、「18ラーメン」で実地検証

f:id:mesitsu_lb:20151019152445j:plainパチンコ店の一角にある博多駅南店

経営者の岩井さんに話を伺ったところで、実際に「18」の店舗で確認してみよう。

博多駅南店はパチンコ店の敷地というより、完全にパチンコ店の建物の一角にある。入り口の食券販売機では、もちろん「ラーメン250円」を購入。

 

f:id:mesitsu_lb:20151019152522j:plainまずは食券を買って店内へ

店内に入ると「いらっしゃいませ!」と若いスタッフの元気な声。

 

「麺の固さは?」

「ふつう!」

 

時折パチンコ店側のドアが開くと、一瞬けたたましい音が響く。

まあ、たったの250円で旨いラーメンを食えるんだから、多少の騒音はしかたないか。

 

「お待たせしました!」

 

程なく湯気を上げたラーメンが運ばれてくる。

スープをたっぷり絡めた麺を、口いっぱいに頬張る。ほのかに香る小麦の風味に、ストレートに伝わって来る豚骨の旨味。臭みは一切なく、まろやかで優しい味わいだ。脂もサラサラなので、後口もさっぱり。

う〜ん、これでは本店の感想と同じではないか(当たり前か)。むしろ、250円という安さが頭にあると、本店より旨いんじゃないかとすら思えてしまう。

唯一違うのは、食べた後の何かもの足りない感。これが麺の量が5%少ないからなのか、つい「替え玉お願い!」と言ってしまう。もしかしたら、これで替え玉の売り上げが増えて、採算が合うようになってたりして(笑)。

 

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若いスタッフが元気良く働く博多駅南店。スープの入った羽釜が1日何度も本店から届けられる

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じゃーん!博多駅南店のラーメン登場!

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・・・見た目も味も、やっぱり本店とほとんど変わらなかった!

 

ふと顔を上げると、コの字型のカウンターで旨そうにラーメンを啜る顔にもいろんな表情がある。慌ただしく掻き込んでいるのは、負けが込んでしまって、食後に挽回を期する人か。逆に、チャーシューだ煮玉子だと贅沢なトッピングを楽しんでいるのは、がっぽり稼いだ人なのかもしれない。

表通りに面した入り口から入ってくる、端っからラーメンだけが目的の人もけっこう多い。もちろん、常にスープを炊き出している本店との新鮮さの違いとか、専門業者が作る麺と自家製麺との差、そして何より店主・岩井さんが自ら腕を振るう本店との差など、細かい違いはあるのだろう。

この差を取るか、200円という値段の差を取るかは人それぞれ。

 

しかし、「小銭を握って食べに来れるようなラーメン」を目指す岩井さんの「18ラーメン」のチャレンジには拍手を送りたい。

 

お店情報

18ラーメン

博多駅南店

住所:福岡福岡博多博多駅南6−8−1
電話:092−483−0853
営業時間:11:00〜24:00
定休日:不定

■大土居店

住所:福岡県春日市天神山3−21
電話:092−584−5119
営業時間:11:00〜22:00
定休日:不定

■須恵店

住所:福岡県糟屋郡須恵町須恵1098−1
電話:092−934−0410
営業時間:11:00〜21:00
定休日:火曜日

■上三緒店

住所:福岡県飯塚市上三緒628-52
電話:092−934−0410
営業時間:11:00〜20:00
定休日:火曜日

一九ラーメン老司店

住所:福岡福岡市南区老司1−33−13
電話:092−565−0193
営業時間:11:00〜21:00
定休日:不定

www.hotpepper.jp

 

書いた人:兵土 G. 剛

兵土 G. 剛

福岡のタウン情報誌の編集部に15年勤めた後、フリーライターに。食うの好き、飲むの好き、きれいな女の人好き。マメさなし、根性なしの偏屈じじぃ。

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