昭和の空気と味を今に伝えるお店
熱々の鉄板でいただくイタリアンスパゲティや、たっぷりのあんこをのせた小倉トースト。名古屋には喫茶から生まれたメニューがたくさんある。
そんな名古屋の喫茶文化を語る上で絶対にハズせないお店がある。
昭和22年創業の「コンパル」だ。
写真は大須の商店街にある大須本店だが、名古屋駅や栄の地下街など市内に9店舗ある。
大須本店の店内は、昭和そのもの。概してレトロな喫茶店は、何となく入りにくい雰囲気を醸し出しているものだが、ここはそうした空気は皆無。商店街での買い物ついでに立ち寄る若いお客さんも多い。
看板メニューは、スパゲティでもカレーでもない。一部店舗ではご飯ものを用意しているが、ココは置いていない。由緒正しい、正統派の(?)喫茶店なのである。それゆえに、サンドイッチが名物なのだ。
私自身、「コンパル」のサンドイッチには忘れられない思い出がある。小学校入学前くらいの頃だったと思う。母親が名鉄劇場や御園座、中日劇場などの観劇帰りに必ず「コンパル」のサンドイッチをお土産に買ってきてくれたのだ。
それが定番の「ミックスサンド」(610円)だった。
幼い私は、ぎっしりと詰まったコールスローサラダを床やテーブルにボトボトとこぼしながら夢中で頬張った。
そして「こんなうまいものが世の中にあったのか!」と、感激したことを鮮明に覚えている。今思えば、それが食に興味を抱くきっかけだったのかもしれない。
サンドしてあるのは、たっぷりのコールスローサラダとスライスしたキュウリ、トマト、ハム、玉子サラダ。ふわふわのパンとこれらが口の中で一体となる。
シンプルながらも実にうまい!
「サンドイッチは、米軍基地で働いていたコックさんが昭和35年にレシピを作ったそうで、玉子サラダを名古屋で初めて出したのがウチだと聞いています。当時は他店で玉子サンドといえば、玉子焼きだったんですね」と、店長の山口篤さん。
味の決め手となるマヨネーズやドレッシングは、それぞれが主張せず、具材の味が引き立つようにと自家製を使用。さらに、パンは耳の部分をカットすることを前提に、やや大きめのサイズのものを特別に作ってもらっている。
半世紀以上経った今でも人々に愛され続けているのは、そんな細部にいたるまでのこだわりがあるからだろう。
名物! エビフライサンド
東京からお客さんが訪れると、私はよく「コンパル」に案内する。とくに名古屋へ何度か来たことのある人は、すでに名古屋めしもひと通り食べているので、名古屋の喫茶文化に触れていただこうと思ってのことだ。
東京から訪れたお客さんが大絶賛するのは、この「エビフライサンド」(930円)。
名古屋めしでもあるエビフライ3本とふわふわの玉子、シャキシャキのキャベツを豪快にサンドした、食べ応えあるひと品だ。
「味付けはポークカツサンドに使うソースと、タルタルソースのダブルソース。これらも独自のレシピで自社工場にて製造しています。また、トーストパンを使うことで、エビフライをより香ばしく食べられます」(山口さん)
この「エビフライサンド」にハマった、ある編集者は名古屋へ来るたびに「コンパル」に立ち寄って、テイクアウトする。そして、帰りの新幹線で食べるのが楽しみなのだという。
サンドイッチはすべてテイクアウト可能なので、こんな楽しみ方もアリだと思う。
サンドイッチ以外では「ホットドッグ」(360円)もオススメ。
ご覧の通り、中身の8割はキャベツ(笑)でボリューム満点。キャベツには塩・コショウでやや濃いめの味付けがしてあり、10割キャベツでも十分にうまい。小腹が空いたときにぴったりのひと品だ。
ドリップ方法にもこだわりが
「コンパル」の魅力はサンドイッチだけにあらず。ぜひ味わっていただきたいのが喫茶店の本分であるコーヒーだ。
サンドイッチやホットドッグと合わせて楽しみたい「コーヒー」(400円)は、名古屋人好みの深煎り。
「コンパル」の創業当時、今のようにコーヒーをストレートで飲む習慣はなく、ミルクと砂糖を入れるのが当たり前だった。コーヒー豆はそれを前提に焙煎してあるのだ。
ミルクにもこだわり、乳脂肪分の高いものを使用している。これが深煎りでコクのあるコーヒーとよく合うのだ。もちろん、何も入れずに飲んでもうまいのだが。
「コンパル」のコーヒーの最大の特徴は入れ方。ネル(綿)ドリップでポットに落としたコーヒーを温めて、再びドリップする独自の手法で入れるのだ。
自宅でコーヒーを入れるとき、これをまねてみたことがある。しかし、雑味が出てしまい、決しておいしいとはいえなかった。
「二度ドリップするので、この手法を“かえし”と呼んでいます。豆は“かえし”で丁度良い塩梅になるように焙煎してもらっています。コーヒーはウチの顔でもありますから、各店で限られたスタッフしか入れることを許されていません」(山口さん)
これからの季節に恋しくなるのが冷た~い「アイスコーヒー」(400円)。
「コンパル」で注文すると、デミカップに入ったホットコーヒーと氷が入っ たグラス、ミルクが運ばれてくる。ホットコーヒーに自分で砂糖を入れて、グラスに注いでアイスコーヒーにするのが「コンパル」のスタイルなのだ。
「アイスコーヒーはドリップする際に湯量を減らして、ホットコーヒーよりもさらに濃く抽出しています。氷の入ったグラスに注ぐのは、瞬時に冷却することで味と香りが変わらないためです。アイスコーヒーもウチの名物です」(山口さん)
グラスに注ぐ際、ためらっているとカップからコーヒーがこぼれてしまう。覚悟を決めて一気に注ぐのがコツなのだ。
そんなことから、私は「コンパル」のアイスコーヒーをこぼさずに作ることと、もう一つ、「コンパル」のサンドイッチをこぼさずに食べることを「名古屋人検定・実技テスト」と勝手に決めている。もちろん、生粋の名古屋人である私は朝メシ前、と言いたいところだが、時々失敗するというのはナイショの話(笑)。
皆様もお試しアレ。
お店情報
コンパル 大須本店
住所:愛知県名古屋市中区大須3-20-19
電話番号:052-241-3883
営業時間:8:00~21:00(LO 20:45)
定休日:無休
ウェブサイト:http://www.konparu.co.jp/
※記事初出時、表記に誤りがあったため修正しました。ご指摘いただきありがとうございました(2019/1/7)
書いた人:永谷正樹
名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。