「鶯谷」という街でお店をやるということ【ビストロ酒場の店員さんに話を聞く】

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ディープタウン・鶯谷のビストロの店員さんから見た鶯谷

山手線沿線の駅では随一とも言われるディープスポット・鶯谷。

みなさんは、この街のことをどこまでご存じですか? 

何しろ山手線内の駅でもっとも乗降者数が少なく(およそ新宿駅の1/30)、駅前にラブホテルが建ち並んでいるかと思えば、その並びに由緒正しき神社があったり、少し歩くと文豪ゆかりの地も現れる……ひとことで言えば「ちょっと不思議な雰囲気の街」ではないでしょうか。

 

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南口の改札を出るとすぐに広がるこの景色。何軒ものホテルがひしめき合いつつ、元キャバレーだったイベントホール(アイドルグループが出演したことも!)があったりと、そのカオスさも鶯谷の魅力です。

 

この陸橋を渡ると小さな飲み屋街があるのですが、そのなかに鶯谷のイメージからはちょっぴり外れたビストロを見つけました。

「なんで、あえてここにこのお店を……!?

その佇まいが妙に気になってしまったので、今回ついに意を決して入ってみることにしました。

 

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そのお店がこちら、「ビストロ酒場5感」です。

場所は鶯谷南口から徒歩1分ほどで、陸橋を降りてすぐの所にあります。お隣さんは、昼間から満員御礼の老舗の立ち飲み焼き鳥屋さん。そことはまったくイメージの異なる店構えですが、到着した1530分には同じようにすでに何人か先客がいる雰囲気。

早い時間から盛況のようです。

 

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扉を開けると「いらっしゃいませ~!」と明るい声が。

出迎えてくれたのは、料理長・太田智弘さん。カウンター席には、すでに飲みをスタートさせたお客さんが数名座っていました。一階はカウンターのみですが、2階は10人ほど座れる座敷もあるようです。

 

私もとりあえず、ジャスミンハイを注文し、料理メニューをチェック……

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……!?

え、全体的に値段がかなり安くない……

驚いてつい、思ったことをそのまま口にしてしまった私。

料理長・太田智弘さん(以下、太田):そうかもしれませんね~。けっこう、意識的に安くしているんですよ。


気を悪くした様子もなく、気さくに返答してくれる太田さん。思い切ってここで「なぜ、鶯谷にこんなお店を出したのか?」という疑問をぶつけてみることにしました。

 

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太田:正直なところ、僕もよくわかってないんですよ。


予想外の衝撃的な答え! え、わかってないってどういうこと!?


太田:うちのお店、系列店が7店舗あるんです。で、5年くらい前にオーナーからカレーの専門店を出そうって話が出て、その時にいい物件を見つけたってことでここに「五感キッチン」というカレー店をオープンしたんです。でも、カレーしかないお店だとどうしても経営が立ち行かなくて……。2015年の8月にビストロとして再オープンさせたんですよ。僕はそこからの店員です。


なんと……。ちなみに、オーナーさんは鶯谷がどんな街か、というリサーチはされていたのでしょうか。


太田:さぁ……。もしかしたら何も知らなくて、単にアクセスの良い場所に空きができたってだけで決めたのかも。実際、僕もここに来るまで鶯谷については何も知りませんでしたね。「なんで鶯谷に作ったんだろ……」って正直思いましたから。まあ、ホテルの街だなぁって漠然としたイメージはありましたけど。

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ジャスミンハイのお供に、自家製ピクルス108円)をいただきました。激安!

しっかり漬かった酸味強めのピクルスはお酒にぴったりです。
これをショリショリつまみながら、続けて「ここに来てから鶯谷のイメージは変わりましたか?」と、質問を投げかけてみました。


太田:変わりましたね! 実は有名な飲食店も多いし、老舗もいっぱいあって、面白い街だと思います。まあ、オープンして最初の頃は試行錯誤でしたけどね。この街に受け入れてもらうお店にするにはどうしたらいいかって。

 

それは……具体的にはいったいどんなことをされたんでしょう?


太田:それはもう、ズバリ値下げですよね。当初は、もう少し高めの価格設定だったんですよ。でも、それじゃ全くお客さんが入らなくて……。思いきって最初に設定した価格から全品100円~200円くらい値下げしました。というのも、鶯谷のお客さんって、何軒もはしごしたりする人が多いんですよ。だから、料理も激安のツマミや一品料理が喜ばれる。鶯谷の価格帯は、センベロがベースなんです。

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こちらが低価格になった一品料理・チリコンカン324円)。

枝豆が目に鮮やかでキレイですよね。食感も普通のチリコンカンと少し変わっていて、オリジナリティ満点。確かに普通のビストロなら500円クラスかも。


さて、ここに来てちょっと気になりだしたのが客層について。まだ日が落ちていないのですが、すでに50代くらいの男性2人組と、上品なご婦人がぐいぐいお酒入れてますね……(笑)

 

太田:昼間はランチメニュー目当てに近所の専門学校生がやって来るんですけど、夕方くらいからは今みたいな感じで、常連さんが順繰りに来てくれるんです。それが閉店間際まで続きます。年齢層はだいぶ高めですね。40代後半から60代くらいかな。男性が多いです。


もしや、お仕事帰りのサラリーマンがメイン客層ですか? いや、でも鶯谷って会社があるイメージが全然ないですね。あと、サラリーマンだとこんな時間からは飲まないですよね……


太田なぜか、サラリーマンの方はうちのお店を全スルーしていきます。ほんと、これが見事なまでに! メインの客層は鶯谷在住の地元の方々なんですよ。もうみなさん、毎晩のように来てくださるんですよね。一回、別のお店に行ってまた帰ってくる人も多いです。一晩に何回も顔を出すみたいな。


ちょっと意外でした! 地元民に愛されているタイプのお店だったとは!


太田:うちの全系列店で実施していることなのですが、「お客さんと会話をして、次の来店につなげる」という接客姿勢が功を奏してます。鶯谷って、実はあまり店員さんとお客さんが深いコミュニケーションをとるお店がなくて、ここはちょっと珍しいお店みたいなんですよ。つまり、うちにやって来るお客さんは、みんな寂しがり。一見さんも、ほとんど再訪してくれるようになっているので、本当にお客さんはほとんど常連さんですね。

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チリコンカンをバクバク食べていると、隣に座っていたご婦人が、「私も今日はそれ頼んだのよ~。間違えてチンコンカンって頼んじゃったんだけど~」と、陽気に話しかけてきてくれました。なんと週に4回は来る超常連だそう。

「ビストロ5感」の魅力を尋ねてみたところ「気を使わなくていいところ」という答えが返ってきました。


鶯谷在住というこのご婦人、お酒が大好きで昔は六本木や銀座を飲み歩いていたそう。しかし、最近は1万円も2万円も払って見えを張って飲むより、地元で激安なうえに一人でもリラックスして入りやすいこのお店がすっかりお気に入りになってしまったのだとか。「あと、この子がいるからっていうのも大きいわね~」と、太田さんを指してニッコリ。


太田さんも「まいったな~」と言いながらうれしそうでした。なるほど、確かに愛されている!

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〆に最適のゴロゴロ野菜カレー540円)も食べました。

前身のカレー専門店で出していた黒カレーをベースにした、牛筋たっぷりの濃厚味でお腹いっぱい大満足!


そして最後に、太田さんに「鶯谷で、このお店をどうしていきたいのか」聞いてみました。


太田:「鶯谷に5感あり」と言われるようになりたいですね。鶯谷の有名店といえば? と聞かれたら名前がすぐ挙がるような。老舗店ばかりで、新しいお店の入れ替わりも激しい街ですが、そこに新参として食い込んでいきたいです。そして、このお店の名前でこの街にお客さんを呼んで、もっともっと鶯谷が盛り上がればいいなぁと思います。

 

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太田さんから見た鶯谷とは、「高級店からセンベロまで、老舗が強い」飲食の街。

その中で、着実に常連客を増やして鶯谷の街に根付き始めた「ビストロ酒場5感」。ぜひ目標通り「鶯谷に5感あり」と言わしめるお店になって欲しいです!

 

お店情報

ビストロ酒場5感

住所:東京都台東区根岸1-3-20
電話番号:03-5808-0237
営業時間:11:30~23:45(LO 23:30)
定休日:無休

※この記事は2017年1月の情報です。
※金額はすべて税込みです。

 

書いた人:西たまお

西たまお

大学在学中より映像ディレクターを志したものの2年で挫折。その後は映像制作会社で宣伝を務めた後に、広告代理店に社内ライターとして勤務。2016年より独立し、フリーとなった。主にWEBサイトで健康や食に関するさまざまな記事を執筆中。ちなみに現在は、プロフィール写真から30キロくらい太っている。

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