出会いの森いちご園~食材のルーツを辿る旅 其の7(後編)~産地を巡る冒険【タベアルキスト】

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みなさん、こんにちは! メシ通レポーターのタベアルキストTokuharaです。
「料理」と「生産者」。両者を繋げる魅力ある「食材」。そのルーツを辿る旅。

 

第7回目の前半に続き、後編は「スカイベリー(登録品種名「栃木i27号」)」に焦点をあてるべく、「生産者」の方にお会いします。

舞台は、いちご市!

やってきたのは、栃木県央に位置する鹿沼市。

鹿沼市は昨年11月に「いちご市宣言」をし、「いちご いちえ」をキーワードに、いちごを使ったPR活動を本格化させています。

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東武新鹿沼駅から車で南西に5分ほど。山々と田園に囲まれた一帯に、今回の舞台「出会いの森いちご園」はあります。こちらはいわゆる「観光いちご園」で、毎年1月〜5月中旬頃まで、いちご狩りを楽しむことができます。

 

また、ビニールハウスの一角では、摘み立てのいちご等を購入することが可能。取材当日も、ファミリー層で大変賑わっておりました。 

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▲今回お話を聞かせて頂いた福田さん

 

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「観光いちご園」と言えど、こちらの農園で栽培されているものは多岐に渡ります。「スカイベリー」を始め、「とちおとめ」や「とちひめ」等のいちごはもちろん、「はと麦」や、かぬま産コシヒカリ100%のお米「さつきの舞」等も。 

 

ちなみに……。
この多品目栽培が「いちご作り」に多大な影響を与えていることを、訪問時点では知る由もありませんでした。

いちごについて

さて、実際に「スカイベリー」に会いに行く前に、いちごの品種について少し書いておきます。


こちらの「出会いの森いちご園」では、主に3種のいちごを栽培しています。

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▲とちおとめ


いまでは栃木を代表するいちごとして、日本全国はもちろんのこと、海外にも出荷されている品種です。誕生は、1996年。「女峰」の色や形の美しさはそのままに、粒はより大きく、果汁もたっぷり。

 

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▲とちひめ


「とちおとめ」とは打って変わって、ご存じない方も多いのではないでしょうか。流通量は極めて低く……と言いますか、ほぼ出荷されていません栃木県内の観光いちご園でのみ食すことができる、貴重ないちごです。大ぶりで果肉が非常に柔らかく、甘味が極めて強い品種です。

出荷されないのは、その実の柔らかさ故に、配送が困難だからとか……。栃木に足を運ぶ機会があれば、是非食してみてください!

 

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▲スカイベリー


今回の主役。2014年に登場し、高級いちごとして流通しています。スイーツ店の限定メニューや、催事イベント等でお目に掛かった方もおられるのではないかと思います。

 

秀逸なのは、潤沢な甘味と、ほのかな酸味のバランス。
また、果肉は非常に大ぶりで、25g以上のものが3分の2を占めます。「とちおとめ」の平均が15グラムほどだそうなので、その差は歴然ですね。この大きさ故のジューシーな食感に、心からうっとりさせられます。

 

いよいよ「スカイベリー」とのご対面

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福田さんの案内で、「スカイベリー」を栽培しているビニールハウスの一角に足を踏み入れました。

(注)こちらのスカイベリー専用ハウスは、一般には開放されておりません。

 

かがんで見ると……ありました!

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やはり大きい! 立派な赤い粒。
実際に持ってみると、他のいちごに比べて、圧倒的に重みの差が感じられます。

 

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実ごとの成長に差はありますが、きれいな赤味を帯びた「スカイベリー」が多数ぶら下がっておりました。


また、ビニールシート内には、ミツバチの巣箱も。

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いちご栽培では、ミツバチの雄しべから花粉を集める習性を利用し、雌しべに受粉させます。


そのため、ミツバチの働きが良くないとうまく受粉ができず、いちごの成長にバラつきが出てしまうことも……。

そのような場合には、よく育ったものに栄養がまわるよう、成長がいまいちな実は落としてしまうそうです。ミツバチの生育・管理も、いちご栽培には重要な要素の1つとなっています。

 

いちご作りにおける「こだわり」とは……

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30年以上の長きに渡って、いちご作りに関わってきた福田さん。「いちご作りにおける1番のこだわり」とは何かをお聞きしました。

 

答えは、ひとこと。ずばり「土作り」だと。

 

いまでは信じられないような話ですが……。
この「出会いの森いちご園」の土地は、いちご作りには不向きな土地だったそう。「初めの1年目はおいしかったが、翌年以降は甘味が急降下してしまった」と、福田さん。

 

なぜ、土は生まれ変わったのか?

土壌がどのくらい肥料分を保持できるかを示す「保肥力」。それを示す値が著しく低い状態から、この土地でのいちご作りはスタートしました。

 

安定しておいしい「いちごを作れる土地」になるまで、試行錯誤の連続。そして、この状況を救ったのは、「いちご以外を栽培していたこと」でした。

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冒頭にお伝えしましたが、このいちご園では、「はと麦」や「コシヒカリ」など、いちご以外の品種を栽培しています。


ちなみに……。

あまり知られていませんが、ここ鹿沼市の「はと麦」の生産量は、全国でもトップクラス。この園でも相当量の「はと麦」が栽培されています。

 

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その栽培過程で得た土や麦のふすま(ふすまには、鉄分・カルシウム・マグネシウム等の栄養素が豊富だそう)を、いちごを作る土に移植したり、散布したりすること約4年! 長い月日を掛けて、地道に土地を肥やしていったそう。

 

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また、このいちご園のすぐ近くには川が流れていることも幸いしました。

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その水の恩恵を受けつつ、いちご以外の品種から得られた自然の産物に、福田さんを始めとした生産者の方々の労力が結集……。


いまでは「保肥力」が非常に高い良質な土になり、安定してクオリティの高いいちごを提供することが出来るようになったとのことです。

 

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福田さんは言います。

「いい苗を作り、葉が茂る。葉が茂るということは、根も立派に張っており、栄養分を吸う力が自ずと強くなる。その根底にあるのは、やっぱり『土』なんです」

 

生産者の思いや信念、労力が凝縮された赤い結晶

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「観光いちご園で、一度まずい体験をしたら、そのお客さんはもう二度と来ない」

 

いちごそのものに対する深い愛情と、お客さんに対する最大限のおもてなし精神。熱を帯びた福田さんの言葉に、返す言葉はなく、ただただうなずくばかり。

 

いまでは、栃木県外からも多数のお客さんが来られる「出会いの森 いちご園」。多くの方々を笑顔にさせるいちごは、こんなにも熱い想いを持った方々によって作られているのかと思うと、一粒一粒ありがたく、そしてしっかり味わっていただかなければと。

 

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取材後、お土産に購入した「スカイベリー」。


改めていただいてみると、果肉は厚く、みずみずしくジューシー。一口頬張れば、口の中にたちまち芳醇な甘味が広がります。そして、ヘタに向かって食べ進めると、徐々にしみ出てくるほど良い酸味……。

 

嗚呼、うまい……!

 

艶のある赤味。そして、甘味と酸味の絶妙なバランスは、長きに渡って土作りからこだわる生産者の方々の、愛情のたまもの。

この大粒な赤い宝石がますます多くの笑顔を作り、また、海を渡って外国の方の目や舌までとりこにして欲しいなと、栃木で生まれた私も心の底から願っています。

 

お店情報

出会いの森いちご園

住所:栃木県鹿沼市酒野谷929-1
電話番号:0289-60-0175
営業時間:10:00~16:00
定休日:無休(来園の際は、念のため事前にお問い合わせください)
ウェブサイト:http://www.kanuma.or.jp/ichigo/

※この記事は2017年2月の情報です。
※金額はすべて税込みです。

 

書いた人:Yamato Tokuhara

Yamato Tokuhara

特に、和食をリスペクトするタベアルキスト。幼少期より魚に囲まれ育った影響か、魚介料理には人一倍うるさい。ノンジャンルで年間350軒以上を食べ歩きながら、言葉の壁を超える“食”の素晴らしさを、海の向こうまで伝えることが、いまの生きがい。

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