こういうのが無性に食べたい……そう、この「肉玉ライス」とか

肉玉ライス

そうそう、こういうのが無性に食べたいんだ。

シンプルで、ボリュームがあって、味が濃くて、炭水化物がメイン。

ハラヘリな胃袋をガッツリ満たしてくれる、こういうのが。

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こういうのは、だいたい自炊。お店で置いてないから。

だからこそ「こういうのが食べたい」のだ。

 

しかし、世の中捨てたもんじゃない。わざわざ「こういうの」を出してくれるありがたいお店がある。

それがこれ。

肉玉ライス

「こういうの」の名は「肉玉ライス」。まさに「ハラヘリ時に食べたいこういうの」にふさわしいルックスである。

 

肉玉ライスで有名な広島の老舗「ポパイ」

こういうの……じゃない「肉玉ライス」を求めてやって来たのが広島県西南部の町・市。

かつて海軍の基地があり、いまも海上自衛隊の基地があって、造船業が盛んだ。

 

JR線の広(ひろ)駅から徒歩数分のところに、「肉玉ライス」が食べられるお店がある。

ポパイの外観

お店の名前は「ポパイ」。

 

ポパイは、昭和40年代に創業し50年以上続く老舗だ。

 

ポパイの女将

▲今は、女将さんが一人で切り盛りしている

 

ポパイのテイクアウト商品

▲ポパイでは、おにぎりや揚げ物のテイクアウトもやっている

 

ポパイのテイクアウト商品

▲訪問時は午後2時をまわっていたので、ほとんど売り切れていた

 

ポパイの店内

▲4人がけテーブル席が2卓、2人がけテーブル席が2卓のこぢんまりとした店内

 

ポパイの店内の注意書き

▲ポパイの店員は女将さん一人なので、基本的にセルフサービスだ

 

ポパイのメニュー

▲いろいろメニューがあるが、どれもことごとく安い!

 

肉玉ライスはある学生の要望で生まれた

「全国放送に取り上げられて以来、恥ずかしいので顔写真はローカルメディア限定ですよ(笑)」というポパイの女将さん。

さっそく目当ての肉玉ライスについて聞いてみた。

肉玉ライス

──こちらのポパイはいつから営業を?

 

女将さん:昭和40年代に創業しました。当時のポパイは今と違って、母がパンや豚まんなどを売っているお店だったんです。そしてポパイの隣の敷地で、私の父がうどんや焼きそばなどを出す「ほりした」というお店をしていました。お店の前の通りは、広駅と2つの高校を結ぶ通学路だったんです。ですから、両親それぞれのお店も、学生さんがメインのお客さんでした。その後、父のお店が母のお店「ポパイ」に統合されて、現在のようにポパイで肉玉ライスを提供するようになりました。

 

──肉玉ライスはどんな料理でしょう?

 

女将さん:丼にライスをよそい、ふりかけをかけ、上から目玉焼き、焼いた豚モモ肉を乗せます。最後に上から濃厚ソース・ダシ醤油・塩コショウのいずれかをかけて、一番上にマヨネーズを絞ったものです。マヨネーズはなしにもできますよ。量は並(550円)・大(600円)・特大(650円)とあります。あと、テイクアウト用の惣菜のミンチカツやコロッケなどの「トッピング」をしたバリエーションもありますよ。

 

──肉玉ライスはどういった経緯で生まれたのでしょうか?

 

女将さん:ある日、父のお店でふりかけごはんを食べていた学生さんが、物足りないので焼きそばの具材に使っている目玉焼きや豚肉をごはんに乗せて欲しいと言ったんです。父が、その学生さんの言う通りに、ふりかけごはんの上に目玉焼きと焼いた豚肉を乗せ、上からソースをかけて出したところ、その学生さんが大満足しましてね。すぐに「肉玉ライス」として正式メニューにしました。すると、学生さんのあいだで口コミで広がり、看板メニューになったんです。うどんや焼きそばよりも評判になりました。昭和50年代のことと聞いています。肉玉ライスという名前は、学生さんが勝手に呼んだ名前だそうです。

 

ポパイの外観

▲かつて隣にあったお父さんのお店は現在なく、ポパイに統合された

 

──その当時と現在で、肉玉ライスの味は変わっていたりするんでしょうか。

 

女将さん:基本的には変わっていません。肉玉ライスが誕生してソース・醤油・塩コショウの3つの味を用意しましたが、それも変わっていませんよ。ただ、醤油味に使っているダシ醤油だけは変わっています。もともと私の祖母が使っていたダシ醤油を肉玉ライスの醤油味に使っていたんですが、ちょっと高級なものだったんですよ。うちは学生さんがメインのお客さんなので、あまり高くできません。そこで、祖母のダシ醤油に近い味の醤油をいろいろ探してみたところ、近い味のダシ醤油を見つけたので、それ以降は同じものを使っています。

 

──肉玉ライスの味の秘訣を教えてください。

 

女将さん:味の秘訣はないようなものですね(笑)。一般的に手に入るもので、誰でもできる作り方ですし。ただ、さきほどのダシ醤油は祖母が使っていたのに近いものにこだわったので、醤油味に関しては祖母の味に近いダシ醤油が秘訣といえるかもしれません。あとソース味に使っているソースは創業時からずっと広島県北部の会社「センナリ」のソース。ここのソースにこだわっているのもポイントかもしれないですね。

 

──お米にこだわりなどはあります?

 

女将さん:お客さんからは、ごはんがおいしいといわれますね。ごはんは、お米が不作だったとき以外は、ずっと「あきたこまち」です。そうじゃないと、うちのおにぎりに合わなかったので。おにぎり以外も全部そうしていますね。

 

魅力はズバリ「出来上がりの早さ」

 

──学生以外にはどんなお客さんが?

 

女将さん:学生時代に通ってくれていて、卒業されてからも来られるお客さんもいます。仕事で近くに来たときに、懐かしくなって寄ってくれるかたも多いです。家族連れで来られる卒業生のかたもいますよ。あと、数年前にメディアに取り上げられてからは、観光で来られたかたが、わざわざ当店に足を運んでくれることが多くなりました。性別問わず、幅広い世代のお客さんが増えたと感じています。

 

ポパイの早割メニュー

▲高校生限定で、朝食タイムサービスも実施。やっぱりめちゃ安!

 

──肉玉ライスはポパイ以外でも食べられるんでしょうか?

 

女将さん:先程のとおり、肉玉ライスはシンプルな食材とシンプルな作り方です。ご家庭で作られるかたもおられますよ。あと、ポパイの肉玉ライスに影響を受けて、近くの高校にある学生食堂にも肉玉ライスが登場していると聞きました。それに、学生時代にポパイに通っていた人が、大人になって居酒屋などの飲食店を始めて、メニューに肉玉ライスを出しているお店があるとも聞いています。ほかにも、一部の外食チェーンでは、限定メニューとして出しているという話も聞きました。

 

──女将さんが思う、肉玉ライスの魅力は?

 

女将さん:できあがるのが早いこと。注文を受けたらサッとつくって、サッと出せますよ。カップラーメンより早いっていつも言っています(笑)。あと食べ盛りの学生さんでも満足できるボリュームですね。もちろん、小食のかたは「少なめ」にすることもできますよ。あとは、誰でもできる作り方、どこでも手に入る材料なのもポイントかもしれません。学生さんにとっては、素朴で庶民的なもののほうがおいしいんだと思います。そしてなにより、肉玉ライスは学生さんが「こういうものが食べたい」と言ったものを、そのとおりにつくったもの。だから、学生さんが好きなんでしょうね。

 

いよいよ実食! ポパイの肉玉ライス

いよいよ、話題の肉玉ライスを注文する。

味は、ソース・醤油・塩コショウの3種類があるので迷っていると「メディアが取り上げるときは、ビジュアルで分かりやすいソース味が多い」と女将さん。

なるほど。まずはソース味を食べてみよう。注文したのは、ソース味の並(550円)。

肉玉ライス

早っ!

アッという間に出来上がり!!

「カップラーメンより早い」と話していたが、実際の調理時間は2分弱。

予想以上の早さに驚く。

 

肉玉ライス

▲近くで見ると、並なのに大盛以上のボリュームを感じる

 

肉玉ライス

▲肉の山の上に茶色いソース

 

▲その上に一直線にかけられたマヨネーズが印象的だ

 

肉玉ライス

▲肉の山の端から、わずかに目玉焼きの存在が確認できる

 

ふりかけ「旅行の友」が地味にいい仕事をしている

しかし、この山盛りの肉玉ライス、どうやって食べよう。ソースやマヨネーズがかかっているが、混ぜ込むことは難しい。

まずは、肉を少しずつ食べていって、肉の山を崩していくことにした。

 

肉玉ライスの肉

▲カリカリに焼かれた豚肉。この食感がいい。そして、ソースの甘い味と豚肉の塩っぱさの相性もピッタリ

 

▲やっと目玉焼きが見えてきた

 

肉玉ライスの玉子

▲半熟の黄身をつぶしてトロトロになった、絶妙な焼き加減の目玉焼き

 

肉玉ライスのごはん

▲そして、目玉焼きの下からついにごはんが

 

ごはんの上には、ふりかけ。広島県の企業・田中食品が製造販売する、西日本ではおなじみの「旅行の友」だ。

 

肉玉ライス

▲ここでいよいよ、ごはん・目玉焼き・豚肉・ソース・マヨネーズをまとめて口に放り込む

 

魚風味のふりかけ、豚肉、甘めのソースのそれぞれの風味がよく合う。そこからマヨネーズが味をまろやかにしていく。

なるほど、ふりかけの「旅行の友」は魚介風味なので相性がいいのだろう。邪魔をしすぎず、主張しすぎない、地味ながら不可欠な存在。おそらく、別の味のふりかけではダメな気がする。

 

豚肉はモモ肉を使用し、しっかりと焼いてあるので、しつこすぎない。さらに、カリカリの食感と香ばしさがアクセントになっている。

また、玉子の白身がソースの味の濃さを抑え、黄身のまろやかさが味に深みを与えている印象だ。

 

肉玉ライス

▲量が丼の縁より少なくなってきたところで、ついにすべての食材を混ぜ合わせ、一気にかきこんだ

 

これが並か! と思うほどけっこうなボリューム感だったが、食べるのに夢中になってしまい、いつの間にか完食。

肉玉ライスにはそういう魔力があるのかも。

 

豚肉の風味を引き立てる醤油味

「地元のお客さんのあいだでは、醤油はソースとならぶファンの多さ」と女将さん。ならば、試してみるしかないだろう。

 

肉玉ライス(醤油)

▲まだいけそうだったので、つづいて醤油味の肉玉ライス(並550円)も食べてみた

 

肉玉ライス(醤油)

▲たしかに、ハッキリとソースがかかっているとわかったソース味に比べると、醤油味は見た目では醤油がかかっているのか認識しづらい。しかし、ほのかに醤油の香りがするのがわかる

 

肉玉ライス(醤油)

▲醤油味の肉玉ライスをいただく。まずは豚肉から

 

豚肉の味わいと醤油が、とてもよく合う。

なんだか懐かしい、落ち着く味わいな気がする。

 

肉玉ライス(醤油)

▲ごはんや目玉焼きとの相性もいい

 

豚肉の風味がより味わえるのは醤油味かなと思った。

もちろん、ソース味よりあっさりとしている。

 

最後にサッパリと塩コショウ味を

お腹もかなりいっぱいになったが、ここまで来たらがんばって塩コショウ味(並550円)もいきたいところ。

肉玉ライス(塩コショウ)

▲塩コショウも醤油味と同じく、見た目では塩コショウだとわかりにくい

 

肉玉ライス(塩コショウ)

▲しかし、よく目をこらしてみると、塩コショウがかかっているのがわかる

 

肉玉ライス(塩コショウ)

▲塩コショウ味を食べてみると、ソースや醤油に比べると格段にサッパリとした印象。そして、コショウの風味が食欲をかき立てる

 

塩コショウは粉末なので、しっかり混ぜて食べた方がおすすめだ。とはいえ、この山盛りなので、端から少しずつ混ぜていくのがいいだろう。

そして、3杯のどんぶりを注文したのでかなりしんどかったが、無事に塩コショウも完食。

 

ちなみに、店内には一味唐辛子・七味唐辛子も置いてあって、好みでふりかけられる。

 

自宅でも作れる「ポパイ直伝・肉玉ライス」

肉玉ライスは誰でも作れるのも魅力だというポパイの女将さん。

そこで、肉玉ライスの作り方を伝授してもらった。

 

ポパイでは業務用の鉄板で作るが、家庭で作る場合はフライパンで構わない。

なお、お店では鉄板の上で、目玉焼きと豚肉を焼くのを同時進行でおこなう。家庭でする場合、それは難しいので、家庭を想定したレシピを紹介する。

 

▼肉玉ライスで必要な食材は、以下のとおり。

鶏卵 1個
豚モモ肉 適量
白米 適量
ふりかけ(旅行の友、または似た風味のもの) 適量
濃厚ソース・ダシ醤油・塩コショウ(いずれか1種) 適量
マヨネーズ(お好みで) 適量
サラダ油 適量

 

それでは、肉玉ライスの調理手順をご紹介。

肉玉ライスの調理(豚肉を焼く)

▲まず、サラダ油をひいたフライパン(写真は鉄板だが家庭用フライパン可)の上に豚モモ肉を並べる

 

肉玉ライスの調理(豚肉を焼く)

▲豚モモ肉は、表面に茶色い焦げ目が付いてカリカリになるくらい、コンガリと焼く

 

肉玉ライスの調理(豚肉を焼くときの鉄板)

▲ポパイでは、早く焼きあげるために鉄板を豚肉の上に置く

 

この鉄板は特注品で、創業時から使われている。家庭にはそんな鉄板なんてもちろんないだろうから、そのぶん時間をかけてしっかりめに焼こう。

豚モモ肉が焼けたら、別の皿に置いておく。

 

肉玉ライスの調理(目玉焼きを焼く)

▲つづいて、目玉焼きを焼いていく

 

このあいだにごはんを手早く用意する。

丼に、お好きな量のごはんをよそう。

 

肉玉ライスの調理(ごはんを準備)

▲ごはんを丼によそったら、ごはんの上からふりかけ「旅行の友」を好きな量かける

 

以前は中国・四国・近畿地方などでしか販売されていなかった「旅行の友」も、現在では全国のいろいろな地域でも購入できるし、インターネットでの購入も可能だ。

 

もし、「旅行の友」が手に入らないときは、魚風味のふりかけで代用しよう。

 

目玉焼き、豚肉、ソース、最後にとどめのマヨ

そして、ふたたび目玉焼きへ。

肉玉ライスの調理(目玉焼きを焼く)

▲目玉焼きの黄味が半熟になったら、黄味をつぶしてトロトロにする

 

肉玉ライスの調理(目玉焼きをごはんに乗せる)

▲そして、そのトロトロの目玉焼きを、ごはんの上に乗せる

 

肉玉ライスの調理(豚肉を乗せる)

▲次に目玉焼きの上へ、あらかじめ焼いていた豚モモ肉を盛る

 

肉玉ライスの調理(ソースなどをかける)

▲さらに、上からソース・ダシ醤油・塩コショウのうち、好みのものを好きな量だけかける(写真はソース味)

 

ソースは、お好み焼き用やカツ・フライ用など粘りのある「濃厚ソース」と呼ばれる類のものを使う。
「センナリソース」を使えば、よりポパイの味に近いものにできる。

 

醤油は、ダシ入り醤油を使おう。

塩コショウは、一般的なものでOK。

 

肉玉ライスの調理(マヨネーズをかける)

▲最後に、お好みでとどめのマヨネーズを好きなだけ

 

マヨネーズは、一般的なものでOKだ。星形のしぼり口で、真ん中に一直線にかけるのがポパイ流。

 

肉玉ライスの調理(完成)

完成。

 

ポパイでは「カップラーメンより早い」2分弱でできあがった。
家庭で作るときは、もう少し時間はかかるだろうが、手早くかんたんに作れるのは間違いないだろう。

 

手の込んだこだわりの料理もいいかもしれない。

高級食材をつかった豪華な料理もいいだろう。

しかし、身近なものを使ってちゃちゃっと手早くつくり、ガッツリと食べるのもたまには悪くない。

正直なところ、できたてホカホカで食べる肉玉ライスは、かなりおいしい。

肉玉ライスのおいしさのポイントは、魚風味のふりかけ(旅行の友)、目玉焼きの絶妙にトロトロな焼き加減、豚モモ肉のコンガリ香ばしい焼き加減、そのすべてのコンビネーションだと感じた。やっぱりハラヘリ時はこういうのが食べたい。

 

本物の「肉玉ライス」が食べたくなったら

「本物」が食べたくなったら、ぜひ市の「ポパイ」に足を運んで欲しい。

JR線の広(ひろ)駅から十分徒歩圏内だ。

ポパイの外観

 

お店情報

ポパイ

住所:広島市広駅前1丁目8-22
電話番号:0823-71-2905
営業時間:7:00〜17:00
定休日:土・日曜日、祝日

www.hotpepper.jp

 

書いた人:アサノヨウスケ

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岡山県出身、広島県在住のライター。昭和50年代生まれ。好奇心旺盛で、フラッと出かけて地域の文化を探るのが好き。特に名物・銘菓・名産などに興味があって、裏側のストーリーをいろいろ調べたい。ほかにも地名由来を探ったり、古い町並を散策したり、神社に参ったり、食べ歩きをしたり、写真を撮ったりしている。 Web:きびナビ X:@asnyskJP Instagram:yosukay

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