「マルちゃん 赤いきつねうどん」と「マルちゃん 緑のたぬき天そば」(以下、赤いきつねと緑のたぬき)。マルちゃん(東洋水産)の看板商品にして、宿命のライバルながらも、どっちが人気なのか? は永遠の謎だった。
しかし2018~19年にかけて、東洋水産がついに赤と緑の人気投票を実施。
……その結果、赤いきつねは29066票、緑のたぬきが24797票で、赤いきつねの勝利に終わった。緑のたぬき派の筆者としては、敗北感を味わったものである。
▲赤いきつね、ライバルの緑のたぬきを下す
だがそもそも、日本を代表するこの両カップめんはどのように生まれ、どのような道を歩んできたのか。それを知れば、赤いきつねの強さと緑のたぬきの敗因がわかるのでは? そのくわしいところを、東洋水産本社で聞いてきた。
▲本社前の看板も、見ての通り赤いきつね推し?(裏にはひっそり緑のたぬきが描かれている)
そこで教えてもらったのは、思いもよらない“うどん国ニッポン”の姿だったのである。
「熱いきつね」になるはずだった
▲今回話を聞いた、東洋水産のみなさん。(左から順に)東洋水産株式会社CSR広報部 斎藤和巳さん、東洋水産株式会社加工食品部 岩野路夫さん、東洋水産株式会社CSR広報部 山城佑芽さん、東洋水産株式会社CSR広報部 織田直弥さん
──赤いきつねと緑のたぬきは、いつどのように生まれたんですか?
岩野さん(以下敬称略):まず1975年、赤いきつねの前身で業界初のカップ入り即席きつねうどんとなった「カップきつねうどん」が発売されました。そのあと競合他社さんからもいろいろなカップうどんが発売されていく中で、「ブランドを刷新しよう」と1978年に赤いきつねが生まれたのです。
▲赤いきつねの前身、カップきつねうどんはなぜか「西日本は縦型、東日本は丼型」に分かれていた(画像提供:東洋水産)
▲発売初期当時の赤いきつね(画像提供:東洋水産)
──当時、赤いパッケージはインパクト大だったと聞きます。
岩野:商品名も、当初は「熱いきつねうどん」の予定でした。しかしパッケージ候補として出た赤と白が基調のデザインが好評で、それと同時にネーミングも「赤いきつね」になったようです。「赤」と「きつね」のマッチングは、稲荷神社の鳥居が赤色であったりとイメージ的にもぴったりだと思います。
▲開発途中の「熱いきつね」のパッケージ。赤いきつねに似たデザインのものもあった(画像提供:東洋水産)
──その後、緑のたぬきが生まれた理由はなんですか?
岩野:こちらについては、まず1963年に業界初の和風袋麺「たぬきそば」が出ました。それが1970年に「マルちゃん 天ぷらそば」として再発売。そして1975年、「カップ天ぷらそば」として発売されたものが前身となります。
▲1963年発売、「マルちゃんのたぬきそば」(画像提供:東洋水産)
──赤いきつね前身の12年前からあったんですか! しかもこの袋麺のそばが、業界初の和風袋麺だったんですね。
▲1970年に「マルちゃん 天ぷらそば」としてリニューアル
岩野:そう、即席麺としてのルーツは緑のほうが古いんです。とはいえ、1978年に発売した赤いきつねが非常にヒットしましたので、それに合わせて1980年にカップ天ぷらそばも「緑のたぬき」として出しました。緑なのは、赤と補色関係にあるからです。
▲発売当初の緑のたぬき。当時は待ち時間が4分だった(画像提供:東洋水産)
緑のたぬきの売り上げ、12月に赤いきつねに並ぶ
──現在のそれぞれの売り上げについても教えてください。緑のたぬきは「年越しそば」としての需要もありますし、売り上げ的には強そうなイメージですが……
岩野:ふだんは赤いきつねのほうが売れるんですが、12月は緑のたぬきも同じぐらい売れます。
──12月でやっと同じぐらいなんですか!? 私、赤いきつねも好きですが、どっちかというと緑のたぬきファンなので……ちょっとショックです(笑)
一同:(笑)
──12月はさすがに緑のたぬきのほうが売れるかと思ったんですが……
斎藤さん(以下敬称略):それでも12月21~31日は、やはり緑のたぬきのほうが売れます。ただ、その時期は赤いきつねもかなり売れていますけどね。
「うどん国・日本」で“緑のたぬきは大健闘”
──赤いきつねと緑のたぬきの売り上げはどれだけ違いますか?
斎藤:赤:緑で、6:4の差までは開かない……といったところでしょうか。実は緑のたぬき、大きな視点で見ると健闘しているんですよ。
──えっ?
斎藤:そもそも日本は、うどんのほうがそばより食べられているんです。
──えっ! そうなんですか!? 関東の人間なので、そばのほうが食べられているのかと思っていました。
斎藤:家庭では圧倒的に「うどん」のほうが食べられています。
▲食品需給研究センター「食品製造業の生産動向」より
香川県民は「緑のたぬき」のほうが好き
──逆に、緑のたぬきが勝ったデータはありますか?
岩野:「赤いきつねVS緑のたぬき」人気投票 の際に食べ比べキャンペーンで全国を回ったんですが、実は西日本(大阪・広島・福岡)でぜんぶ緑が勝ったんです。
──すごく意外ですね……! 西日本はうどん文化ですから。
斎藤:うどんの聖地、香川県も緑が勝ちました。
──えええ~! すごい!
▲西日本各県のほか、仙台(宮城)でも緑のたぬきが勝利。このマップにはないものの、急きょ行われた香川でも緑のたぬきが殊勲の勝利を挙げた(画像提供:東洋水産)
斎藤:私は香川県で5年の勤務経験があるんですが、うどん店だらけでそば店なんてほぼありません。そこで、緑が勝っちゃったんです。
──健闘どまりではなく、勝つのがすごい……!
斎藤:おそらく……香川の方はふだんそばを食べる機会が少ないため、緑のたぬきを食べて思わず「おいしい」と感じて、票を入れてくれたと思うんですよね。
──緑のたぬきには、まだまだのびしろがあるんですね。
岩野:緑のポテンシャルを再確認できました。
──いまは赤いきつねの天下ですが、今後緑が逆転する可能性も……?
斎藤:可能性はゼロではないです。
進化する、赤と緑
──赤いきつねの“おあげ”が「大きくなっている」と聞きますが、ホントですか?
岩野:ホントです。大きくなって形が正方形から長方形になり、厚みも増しています。
▲口にいっぱいに頬張れば、なんとも言えないホロ甘さが広がる
斎藤:このおあげの味は東(北海道向け・東日本向け)と西(関西向け・西日本向け)の2種類で分けています。
──やはり関ヶ原(※ 関東と関西の味の境目は、岐阜県の関ヶ原あたりにあると俗に言われている)で分けるんですか?
斎藤:だいたい関ヶ原あたりですね。西日本向けは甘みが強くて、しょうゆ感が少し抑えられています。逆に東日本向けは甘みを抑えることで、しょうゆ感が少し立っています。
──ちなみに赤いきつねのフワフワしたたまごって謎の存在ですが、いつから入っているんですか?
岩野:発売当初からあります。ちょっと甘くて箸休めになるので、「もっと多く欲しい」とのお声もいただきますね。
──緑のたぬきの天ぷらと一緒に入っている緑色のものはなんですか?
岩野:アオサの入った揚げ玉ですね。小エビ天と赤い揚げ玉もトッピングしていて、カリッとした仕上がりを目指しました。ちょっとフワッとしている天ぷらの衣と対照的になっています。
──だから食感を楽しめるんですね。
究極の選択、東洋水産のみなさんは「赤と緑、どっちが好き?」
──ここでズバリお聞きしますが……社員のみなさんが好きなのは、「赤と緑どっちですか」?
山城さん(以下敬称略):私は緑の方が好きです。実は小さいころに、父がおみやげでよく緑のたぬきを買ってきてくれたんですよ。その印象が強いので断然、緑のたぬきが好きです。
▲緑のたぬきを買ってきてくれた父の思い出を語る山城さん
──ちょっといい話ですね。緑のたぬき軍の僕としては、援軍になりました(笑)
岩野:私は休日のお昼に食べるなら赤いきつね、飲んだあとに食べるなら緑のたぬきです。
──強いて言うとどっち派……ですか?
岩野:むずかしいですけれどもね……強いて言うなら赤かな? ま、どっちも好きです(笑)
織田さん(以下敬称略):私も、強いて言うなら赤が好きかもしれません。出身は関東で、そばのほうが好きですが、赤いきつねのおあげが好きなんです。「おあげを食べるタイミング」はいつも悩みますね(笑)
──ちなみに私はおあげを先に食べます。
織田:そこはあえてちょっと待ってから食べると、おあげの甘みがどんどん出てきて、いつもとは違う味を楽しめますよ。
斎藤:私は赤いきつねの関西向けが好きです。
──なぜ関西向けを?
斎藤:“つゆ”が好きなんです。ふだん関西向けは東京では買えないので、食べるのは緑のたぬきが多いですが、社内販売のときはケース買いしてしまいます。
▲赤いきつねの、各地域向けごとの味の違い
──社員さんでありながらそこまでして買いたいとは……相当お好きですね。
斎藤:しょうゆが前面に出る関東向けにくらべ、関西向けはかつお節以外の雑節のダシ感がすごく出ていて、好きですね。もともと関西で長く勤務していたので、うどんのつゆは関西風が好きです。
──今回の4名の社員さんの中では、3対1で、赤いきつねの勝利になりましたね。
山城:負けました。
岩野:2対2にしておきますか?(笑)
切っても切り離せない、兄弟
──最後に。東洋水産にとって、赤いきつねと緑のたぬきはどんな存在ですか?
斎藤:宝物です。マルちゃんブランドの代名詞で、みなさんが思い描く商品といったら赤いきつねと緑のたぬきですから。
──しかも「黒い豚カレーうどん」や「おそば屋さんの鴨だしそば」など、派生商品にも発展しましたもんね。
岩野:赤いきつねと緑のたぬきがあったからこそ、ここまで広げられましたから。
斎藤:赤と緑は2つでワンセット。もう切っても切り離せない兄弟ですね。来年は緑のたぬきの40周年なので、今度は緑のたぬきが主役となる可能性があります。
──緑のたぬきファンとして、うれしいです。
そしてこの5月13日。人気投票で赤いきつねが勝った結果を受けて、赤いきつねのうどんに緑のたぬきの天ぷらをのせた、「赤いたぬき天うどん」が期間限定で発売された。
今回は赤いきつねが主役に躍り出たが、緑のたぬき40周年となる2020年には、今回脇役に甘んじた緑が、赤とは違った形でスターダムに上がることを、ひとりの緑のたぬきファンとして期待したい。
赤いきつねと緑のたぬきは、切っても切れない兄弟だから。