※当記事の取材は、2021年4月に実施しました。また、取材に際して感染対策を十分に配慮した上でおこなっています。
日本発のハンバーガーの中でも、トップ級に愛されているのが「テリヤキバーガー」。甘じょっぱいソースが織りなす絶妙な味わいで、筆者も一番好きなハンバーガーだ。それでいて300円台からと、比較的お手ごろなのもいい。
▲テリヤキバーガー(380円)(写真提供:モスフードサービス)
そのテリヤキバーガー、日本のチェーンではモスバーガーがはじめて生み出したメニュー。このモス流のテリヤキ味が店や国を超えて広まったとも言われ、いまやアジアを中心に世界的な支持を得ている。
今回は東京・大崎にある株式会社モスフードサービスの本社にお邪魔し、テリヤキバーガーの開発秘話から、世界でどう愛されているかまでご教授いただいた。
▲開発本部 開発サポート部 新規商品開発グループリーダー 兼 コーポレートブランド戦略部付 グループリーダーの寺本和男さん
テリヤキは女子高生が売って火が付いた!?
──僕、テリヤキバーガーが大好きなんですが、モスバーガーさんのメニューの中ではどれくらい売れているんですか?
寺本さん(以下、敬称略):全国平均の売り上げだと2位ですね(2021年4月現在)。ちなみに1位は「モスバーガー」、3位を争うのが「モスチーズバーガー」と「テリヤキチキンバーガー」です。
──そのテリヤキバーガーが生まれたきっかけって、何だったんですか?
寺本:1972年の創業当初から、日本人の味覚に合うモスオリジナルの和風ハンバーガーを作りたいという思いがあったんです。それが創業2年目の1973年に発売された「テリヤキバーガー」として形になりました。
▲1972年、東京都板橋区の成増にオープンしたモスバーガー1号店(写真提供:モスフードサービス)
▲1973年当初のテリヤキバーガー(写真提供:モスフードサービス)
──いま食べても、ほかのハンバーガーとは一線を画す甘みが特徴的ですよね。
寺本:ええ。じつはアメリカの「テリヤキハウス」という日系人の方がやっていたお店のハンバーガーがヒントになっているのですが、そちらは海外的な醤油ベースの甘さの強い味で。モスのテリヤキバーガーは当時も今も、ぜんぜん違った日本独自の甘みなんです。
──しかもテリヤキバーガーのテリヤキソースって、調理法の「照り焼き」の味ともまた違いますよね? 独特で絶妙なソースです。
寺本:そうなんです。「ブリの照り焼き」など、一般的な照り焼きの味付けでは味噌を使わないんですが、モスバーガーのテリヤキソースは、ハンバーガーとしての全体の調和を考え、味噌を入れてコクやまろやかさを出しているんです。
隠し味には酢や生姜も入れていますし、ハンバーガーのパティ(肉)も日本のハンバーグのようにビーフとポークの合挽きにして、日本人の味覚に合わせました。
──ハンバーガー自体が日本にあまりなかったころに、ふつうのケチャップ味とは違う日本オリジナルのハンバーガーなんて、よく作りましたね。
寺本:ちなみに発売当時はあまり売れなくて、よくお店に通っていた女子高生が「じゃあ私たちが学園祭で売ってあげるよ」と。そこで「何だこのおいしいハンバーガーは?」と話題になり、売れ始めるきっかけになったんです。
▲モスバーガー1号店の様子(写真提供:モスフードサービス)
──女神ですね! それにしても高校の学園祭で、ハンバーガーチェーンの商品を代理で売る高校生、たくましいな。
寺本:ちなみに、当時は成増店のいち店員だった櫻田厚会長は、お店で地元の学生さんたちに勉強を教えていました。
──店員が勉強を教えるハンバーガーチェーン、もはや不可思議な光景ですね。
寺本:それが、すごくアットホームなお店だったそうで。そこに来る女子高生にテリヤキバーガーを愛してもらったことが、結果的に学園祭でのエピソードにつながったと言われています。
「赤味噌と合挽き肉」から「合わせ味噌と牛肉100%」に
──ちなみにテリヤキバーガーって、昔といまで違うんですか?
寺本:じつは約7回リニューアルしています。創業当初はもっとガツンと甘くてコクのある味でした。
──パンチのある甘さ、一度体感してみたいなあ。とくに大きなリニューアルはいつですか?
寺本:1997年ですね。パティの味をしっかり出そうと、合挽き肉から牛肉だけのパティに切り替えたんです。テリヤキソースも、合挽き肉に合わせたコク甘な味噌が強いものから、牛肉に合わせて味噌を減らしたり醤油を増やしたり、バランスを整えました。
──牛肉100%に合わせて、味のつくりも引っくるめた大改革ですね。
寺本:1997年以降は、いまのテリヤキバーガーに比較的近いと思います。ただ、お客さまからは年々「甘すぎる」とのご意見をいただいているので、4、5年に1回、パティとかバンズ(パン)を変更する際に合わせ、テリヤキソースを変えています。
──あの甘さが好きなんだけどなあ。
寺本:甘さの出し方も少しずつ変えますね。味噌も創業当初は赤味噌だけでしたが、いまは赤と白の合わせ味噌。赤味噌の強さに加えて、白味噌で甘さとまろやかさを出します。
──もはや和食の献立に入っていても、違和感のない味ですよね。
バンズをテイクアウト仕様にリニューアル
──最近はどんなリニューアルがありましたか?
寺本:これはテリヤキバーガーに限らずですが、2019年にバンズを大きくリニューアルしました。
もともとモスバーガーはイートインよりテイクアウトのほうが売上比率は大きかったんですが、軽減税率の導入もあったことから、テイクアウト需要が増えることを見据えて、しっとりとした食感が長持ちするようにしました。平均重量も約3%増えています。
▲2021年4月現在のテリヤキバーガー(写真提供:モスフードサービス)
──奇しくも、コロナ禍の中では大活躍していますね。ちなみに、幻のフレーバー、“梅味”が企画されていたと聞きますが……?
寺本:ええ、テリヤキバーガーは本当にいまのものがベストなのか、日々試行錯誤していまして。梅味も考案されましたが、発売までは至りませんでした。あとは世界最強クラスの唐辛子を使った激辛Ver.を販売しましたが、現在は終了しています。
▲モスバーガー史上最も辛かった、「激辛テリヤキチキンバーガー」※2021年4月現在は販売終了(写真提供:モスフードサービス)
──とんでもない振れ幅で試行錯誤していますね。どちらも食べたかったです。
寺本:ええ。ちなみにアレンジものの最近のヒット作は「クリームチーズテリヤキ」です。男性ウケがいいテリヤキバーガーと対照的に、クリームチーズの酸味にカマンベールパウダーのコクを加えたやさしい味わいが女性から評判の、期間限定商品です。
テリヤキチキンバーガーは「焼き鳥」をイメージ
▲テリヤキチキンバーガー(380円)(写真提供:モスフードサービス)
──テリヤキシリーズでもう一つ鉄板の「テリヤキチキンバーガー」。ふつうのテリヤキバーガーと、肉以外に変えている部分はありますか?
寺本:1984年に登場したテリヤキチキンバーガーは、もともと“焼き鳥”をイメージして開発しました。店舗でチキンにタレを付けて、直火で網焼きしますから、ソースもそれに合わせた味付けにしています。
──直火で網焼き!? いわば、焼き鳥をパンに挟んでいるのか。
寺本:はい。そのためにテリヤキチキンバーガー専用のソースには、味噌が入っていません。
世界では「テリヤキチキンバーガー」が大好評のワケ
▲取材に同席いただいた、国際マーケティング部 国際企画グループ チーフリーダーの呉賢花さん(左)と、同じく国際マーケティング部 国際企画グループ リーダーの河本哲也さん(右)
──ところで、テリヤキバーガーは日本だけのものと思っていたら、世界で愛されているんですね。
呉:ええ。とくにテリヤキチキンバーガーは好評で、いろんな国の売上ランキングで2~3位に入ります。モスバーガーの全商品で見ても、世界各国で一番まんべんなく売れているメニューです。
▲2021年2月の売上ランキング(画像提供:モスフードサービス)
──お、チキンのほうが上なんですね。
寺本:アジアを中心に海外展開していることもあり、宗教的な問題で牛や豚を食べられない方が多くいらっしゃいますから。
──チキンバージョンを作っていてよかったですね……!
寺本:普通のテリヤキバーガーも、中国広東地域では3位と好評です(2021年2月時点)。ちなみにタイでは、ビーフとポーク2種類のパティが選べますよ。
▲タイのモスバーガーのメニュー。テリヤキバーガー(下段・右から2つ目)にビーフとポークがある(画像提供:モスフードサービス)
──それは日本にも導入してほしいな。
呉:ちなみに海外ではテリヤキチキンのライスバーガーも売れています。同データで中国広東地域では2位の売り上げです。
(写真提供:モスフードサービス)
──それもいいですね、なぜ日本じゃ見かけないんですか?
寺本:日本でも過去に販売していたのですが、メニューはある程度整理する必要があるので。
──ちなみにモスバーガーさん以外のお店も含めて、海外でテリヤキバーガーはどんな存在ですか?
呉:アジアではかなりの国で定番化していて、あの大手さんはじめ他店でも販売されていますね。中国では甘くてしょっぱい味が好まれるので定着していますし、韓国では「プルコギバーガー」という、テリヤキインスパイア系のハンバーガーが定番です。
──思った以上に普及しているんですね、やるなテリヤキバーガー。
寺本:あとは、オーストラリアとか、シンガポールでもすごく売れています。
──海外でも「テリヤキ」で通じるんですか?
河本:ええ、“TERIYAKI”として浸透しています。他店には「SAMURAIバーガー」や「SHOGUNバーガー」って名前で出しているところもあります。
──SHOGUNバーガー、食べるときに恐縮しそうですね。
河本:モスはずっと「テリヤキバーガー」で通していますね。
──ちなみに、国ごとで変えているものはありますか?
寺本:オーストラリアのテリヤキバーガーはボリュームが違って、サイズは日本の倍くらいです。肉もやっぱり肉々しさを求めますので、食感も全然違います。
──ちなみに、日本人向けに作ったテリヤキバーガーが世界でもウケたのはなぜだと思いますか?
寺本:一概に言えませんが、いま出店しているエリアでは、「日本の食べ物は安心で品質がいい」との印象を持っていただいているようです。
呉:香港やシンガポール、台湾など、和風の味付けが支持されている国もあります。
──日本人にとっても馴染みのある国が並びますね。
呉:ええ。海外のモスバーガーに来てくれるお客さまは、日本に留学や観光の経験があって、そこで食べたモスバーガーの記憶がある人も多いので、そういう方も支えてくれているのかなと。
世界のテリヤキバーガーの代表になりたい
▲2021年4月現在のテリヤキバーガー(写真提供:モスフードサービス)
──モスバーガーさんにとって、代表作ともいえるテリヤキバーガー、改めてどんな存在ですか。
寺本:モスと言えばテリヤキバーガーですから。もうすぐ50周年を迎えますが、ずっとうちのトップバッターなので、やっぱり絶対になくしちゃいけない存在です。
──80年代くらいまでは圧倒的な売上だったようですし、いまも2番手ですからね。
寺本:いまはいろんなお店がテリヤキバーガーを出していて、競争は激しい。コロナ禍以降は本当に食べ方が変わってきています。もともと日本のモスバーガーはテイクアウト比率が高いのですが、2020年からはもっと増えていますね。
──大テイクアウト時代がはじまっているわけですね。
寺本:モスバーガーの商品は出来立てをおいしく食べていただくのに力を注いでいたのですが、いまはテイクアウトでの品質をより重視しています。
──もしかしたら、50周年の2022年には新しいテリヤキバーガーが出るかもしれない?
寺本:それは言えません(笑)。
──日本発のハンバーガーで、世界に一番浸透しているのがテリヤキバーガーだと思いますが、今後海外に向けてどう広げていきたいですか?
寺本:海外は食文化の違いがすごく大きいので、まだまだ壁があります。私たちも情報発信していくことでテリヤキバーガーそのものをもっと広めたいし、「世界のテリヤキバーガーの代表がモス」みたいになってくれたらうれしいです。
──世界中どこでもテリヤキバーガーを食べられる日を、大いに期待します!
(写真提供:モスフードサービス)