牛乳のミディアムレア!福島の「べこの乳」はなぜあんなにも濃厚なのか聞いてきた【別視点ガイド】

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福島の温泉宿に来ています。
どうもこんにちは、別視点ガイドの松澤です。

 

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さきほどから必死で吸い込んでいるのは「ソフトクリーミィヨーグルト」。飲むヨーグルトだ。
メーカーは会中央乳業。福島県内いたるところで目にするので手に取ってみたら、これがまあとにかく濃厚なこと! 濃厚でうまい。

あまりに濃厚すぎて、ストローで吸うのが難しいと評判だ。
実際、なかなか吸い込めない。だが、いざ吸い込むとめちゃくちゃうまい。だから、頑張って吸い込んじゃう。
スマホアプリのガチャに課金するのと似たような心境で、ストローを吸う。

 

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パッケージに描かれてる女の子がかわいい。

 

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中身はどうなっているのとパックを開けてみたら、四角く固まっていた。そりゃなかなか吸えないわけだ。飲む前によく振ろう。

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皿に出してみたらストローで豆腐を吸っている人みたくなった。

 

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牛乳「べこの乳」も、これがまた濃厚でうまいんだ。
「べこの乳」は福島県内だと1リットル260円くらい。都内では成城石井などで買えるけど350円ぐらいする。

「べこの乳」も濃厚なのに「もうひとしぼり」はさらに濃厚に濃厚を重ねたような濃厚さ。
舌ざわりがそもそも違う。トロリとしている。
ろ過膜(RO膜)に牛乳を通して圧力をかけると水分だけが出ていく。それを何度も繰り返し、「べこの乳」を濃くしたものが「もうひとしぼり」。
特濃牛乳は添加物を加えて濃くする”足し算”が一般的だが、もうひとしぼりは”引き算”で濃縮している。だから、生乳100%で濃厚だ。

 

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極めつけは「会の雪」。
「もうひとしぼり」で作ったヨーグルトだ。

 

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昔ながらの牛乳びんみたいな紙の栓。

 

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もうさっきから、濃厚としか言っていないけど、これも濃厚なんだ。
口当たりがねっとりしていて、トルコアイスみたいにミョーンって伸びる。

 

食べるもの食べるもの、どれもやたら濃厚でおいしく感動したので、会中央乳業にお話しを聞いてみた。

 

「べこの乳」は牛乳のミディアムレア! だから、濃厚!

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▲会中央乳業株式会社 営業部リーダーの二瓶孝文さんにお話しをうかがった

 

――「べこの乳」、すごい濃厚ですよね。

 

価格競争だったら大手にかなわないので、特徴のある商品を作ろうと。
殺菌方法が違うんですよ。

 

――殺菌?

 

一般的な牛乳はほとんどが高温殺菌です。130℃ 2秒で殺菌します。これは効率的ですし、大量生産も可能です。
その反対で63℃ 30分間の低温殺菌というのもあります。法律上、殺菌の最低温度が63度なんですね。搾ったままに近い風味が特徴なので、好きな人は好きですが好みが分かれます。

 

「べこの乳」はその真ん中をとって85℃ 15分です。
酪農家さんが搾りたてを鍋で沸かして飲んでいる味、それを再現しようと試行錯誤したところ、85℃ 15分間殺菌にたどり着きました。

 

――殺菌方法で味が変わるんですね。

 

結局、牛乳もお肉と同じなんです。タンパク質と脂質で出来ていますから。
タンパク質は100℃超えるとどうしても焦げてくるので、いわば高温殺菌はウェルダンです。反対に低温殺菌は生っぽいのでレアですね。
とすれば、「べこの乳」はミディアムレアなんですよ。

 

――分かりやすい! だから濃厚だけど飲みやすいのか~。

 

もちろん高温殺菌の量産できる物もないと経営として成り立たないので、そういうものもあります。
でも、べこの乳ブランドは中温殺菌でして、それを軸にヨーグルトだったりチーズだったりを作っています。

 

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▲取材時に出していただいた飲み物もコーヒー牛乳だった

 

――飲むヨーグルトの「ソフトクリーミィヨーグルト」も濃厚ですよね。

 

飲むのが難しいでしょ(笑)。
「ソフトクリーミィヨーグルト」はべこの乳ブランドじゃないんですけど、昭和50年代からある商品ですね。
当時、大手メーカーが飲むヨーグルトを発売し始めた頃だったんですけど、作る機械が高くて入れられなかったんです。どうしたらいいかって考えた結果が「食べるヨーグルトを限界まで柔らかくしよう」って発想だったんですね。

 

――ああ、元は食べるヨーグルトなわけですね! ヨーグルト「会の雪」も濃厚ですよね。

 

「会の雪」は現社長が「会の雪印になろう!」という思いをこめてネーミングしたそうですよ。雪印の社員さんが紳士的だったので見習おうと。

 

――そんな意味がこめられていたとは!

 

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▲タンクローリーからタンクに牛乳を移し替えている。「最後の一滴まで無駄にできない」と前方を坂にして傾斜をつけている

 

パッケージの女の子の名前は「あの子」

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――公式サイトを拝見すると社長さんも同じ苗字ですが、ご家族で経営されているんでしょうか?

 

祖父が初代社長で父が現社長。9才上の兄が工場を担当していて、私が営業をしています。

 

――会社に入ることに葛藤はなかったですか?

 

この仕事がやりたくて、子どもの頃から手伝っていましたから。兄も私も牛乳配達をしてから登校していました。
子どもの頃は「『べこの乳』だって~、エッチな名前」ってクスクスされても、飲んでもらうといつもと違う反応なんですよね。おいしいってビックリして。
食を通じて感動が伝わるのは楽しいなと思っていたので、葛藤はなかったですね。

 

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――女の子のイラストは初代から使われているんですか。カワイイですよね。

 

「あの子」ですね。そうです。
「あの子」には実在したモデルがいまして、祖父である初代社長の2歳の娘なんです。当時、祖父は満州鉄道で働いていたんですが、終戦と同時にシベリア抑留されまして。妻であるおばあちゃんと2才の娘は、引き揚げ船に乗るため中国各地を逃げ回っていたんです。

 

満足に食べ物も手に入らない状況だったので、娘が栄養失調で亡くなってしまいました。

3年後シベリアから帰ってきた初代が、実家から生乳を分けてもらって牛乳屋さんをはじめました。

「子どもたちに栄養を与えたい」という思いが栄養失調で失った我が子と重なって、あの女の子のマークになったんです。

 

――あの女の子にはそういうエピソードがあったんですね。

 

名前もあえてつけていないんです。それぞれのおたくのお子さんの名前が当てはまると思っているので。だから、「あの子」と呼んでいます。

 

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▲ファンが作った「あの子」のファンアート

 

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▲「あの子」は会の看板屋さんが、パッケージの磐梯山は現社長が描いたもの

 

震災直後「会」が削られた牛乳パック

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▲工場見学をしていた地元の小学生たち。元気に牛乳クイズに答えていた

 

――福島県外でも広く販売していく予定なんでしょうか?

 

「べこの乳」は成城石井などでも取り扱っていますよ。
震災前は県外への出荷が5割だったんですけど、震災が起こって一時期ゼロになりました。
検査自体は何でもなかったんですけど、福島県の原乳が出荷停止になって売ることができなくなりました。

 

――大変な時期があったんですね。

 

うちは会産の原乳にこだわって、会の酪農家さん十数軒から原乳を集めています。
福島県の原乳が出荷停止になったときは、会産のものが使えなくなるし生産をやめようってなったんです。
でも、避難してくる人たちは粉ミルクもないし、子どもたちに飲ませる牛乳もない。「なんとか作ってくれないか」と言われて、じゃあってことで岩手から原乳を分けてもらいました。なるべく量を作って多くの人に行き渡るようにと。

 

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▲震災直後、「会」の表示を削った牛乳パック

 

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▲横の説明部分にも「会」の表記があったので、ごっそり空白

 

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▲ローマ字のAIZUも削っている

 

――創業の理念に通じますね。

 

わざわざ「岩手産」って書かれたシールを手貼りしていたんですけど、毎日何千枚も貼るのは続きません。
それでやむなくパッケージから「会」の名称を削りました。1カ月くらいは会の表記がないパッケージを使っていました。

 

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▲かたわらの牛のレプリカは、原乳を分けてもらった人から「頑張れよ」といただいたもの

 

2011年に1カ月くらい出荷停止になっていたので、原乳出荷再開後、また売りに行っても売り場が埋まっちゃってるんです。売り場の奪取からはじめるゼロからの営業ですね。
それでも震災前の3割ぐらいまでは回復しました。いつまでも震災にとらわれていても仕方ないので前を向いています。

 

――チーズは震災後に開発されたんですよね?

 

はい、そうです。チーズはずっとやりたかったんですよ。
牛乳は風評のため置いてもらえなくてもヨーグルトならOKだったので、それならチーズもいいんじゃないかと。
チーズは牛乳と塩で出来るから、牛乳のおいしさを伝えられるし、得意なヨーグルトの発酵技術も使えます。

モッツアレラとさけるチーズなんですけど、これも濃厚でおいしいですよ。
ぜひ食べてみてください!

 

男の桃モッツァレラを作ってみた

二瓶さんのお話しを聞いていたら、「べこの乳」のチーズ食べたい欲がムクムクと膨らんでしまった。
矢も楯もたまらず福島の桃と「べこの乳」のモッツァレラチーズで「桃モッツァレラ」を作ってみることにした。
SNSでちょくちょく話題になっていてうまそうだったし、レシピも簡単だから。

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用意したのはこちら。
言わずとしれた福島県の名産品、桃。大きいやつを2つ。
中央乳業の「熱してよいよいチーズ(モッツアレラ)」を2パック。
あとは、レモン1つ、ワインビネガー、オリーブオイル、塩、こしょうだ。

 

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1:モッツァレラチーズを手でちぎる

 

断面にソースがよく絡まるように包丁ではなく、手でちぎるのがポイントだよ。

 

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2:桃の皮をむいて、一口大にカットする

 

桃は種を取るのが大変だよね。

 

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男の桃モッツアレラを標榜しているので、カットサイズは大きめにした。

 

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3:塩、こしょうを振りかける

 

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4:レモン皮の千切りをのせて、ワインビネガーをかける

 

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5:最後にオリーブオイルをかける

 

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じゃ~~~~~~~ん!

 

男の桃モッツアレラの完成だ!!

 

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桃とモッツアレラをふんだんに使った豪快な「桃モッツアレラ」。一口サイズもかなりデカめだ。

 

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うま~~~い!!

 

べこの乳モッツアレラチーズの濃厚さと桃の甘さ、ソースとスパイスが絶妙にマッチングしてる~~~~!

ちょっと量を作りすぎたかなと思ったが、いったん食べ始めると箸が止まらず、カメラマンと2人でペロリと完食してしまった。

そのまま食べて良し、一工夫して良し。
「べこの乳」、最高にハマるぜ~~~~!!

 

取材協力:会津中央乳業株式会社

 

※この記事は2017年10月の情報です。

 

書いた人:松澤茂信

松澤茂信

観光会社「別視点」の代表。「東京別視点ガイド」を書いてます。

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