※この記事は緊急事態宣言前の2020年3月に取材いたしました
近年のシビ辛ブームで、「麻辣」(マーラー)という言葉がすっかり一般的になりましたね。
麻辣……それは花椒(ホアジャオ。四川山椒とも言われる)と唐辛子とを組み合わせたテイストのことで、中国・四川料理の特徴の一つ。
花椒でビリビリとシビれ、唐辛子で辛いことから「シビ辛」と呼ばれるようになりました。
そんなシビ辛料理の代表格といえばやはり麻婆豆腐ですが、四川料理は他にもたくさんのレシピがあり、まだまだ知られていないものもあるはず。
一体何が美味しいのか……!?
食べてみないと分からない!
ということでやってきたのは……
陳麻婆豆腐 ルクアイーレ大阪店!
大阪駅直結の「ルクア」にテナントがある「陳麻婆豆腐 ルクアイーレ大阪店」。こちらは、1862年に中国・四川省で創業した「陳興盛飯舗」にルーツを持つ、麻婆豆腐発祥の店「陳麻婆豆腐」の日本支店です。
最も本場に近く、由緒正しい麻婆豆腐を提供するレストランといえます。
もちろんメニューは四川料理が中心。どのページを見ても、赤い料理の数々に圧倒されます。
試食するだけじゃなく採点までしてみる
この日、陳麻婆豆腐 ルクアイーレ大阪店では四川料理の専門家、料理研究家、グルメブロガーらが集められ、お店側が主催するメニュー試食会が開催されていました。
試食会メンバーは私を含めて6名。全員、空腹です。
この用紙に、全メニューの点数とコメントを記入していきます。
シビ辛メニューの数々を一度に食べられる、なかなか貴重なこの機会。
せっかくなので四川料理に新たな発見があるか? 麻婆豆腐に続くスター候補は果たしてどれなのか? を探ってみたいと思います!
試食会スタート! 次から次へと運ばれてくる赤い料理
いよいよ始まりました。陳麻婆豆腐全メニュー制覇試食会!
ふんわりとした香りが楽しめた、魚のトウガラシ煮!(税込1,782円、以下はすべて税込価格)
柔らかい胸肉とナッツとの食感のコラボと、コクのあるラー油が味わい深いよだれ鶏!(1,280円)
しっかりした味付けの肉と噛み応えのある野菜との組み合わせが楽しいチンヂャオロースー!(1,232円)
そして陳麻婆豆腐永遠の定番メニューも。辛さの中に花椒の香りが立ち、やたら食欲をそそられる豆板醤が癖になる麻婆豆腐!(1,280円)
これが本場の味……! 深いコクと花椒の香りがたまりません。
いやあ、美味しい!
と言ってるヒマもなく、次々とメニューが運ばれてきます。
食べては書き、食べては書き、食べては書き、を繰り返すこと6時間。
そして、陳麻婆豆腐にあるほぼ全てのメニュー50品を完食!
全員、満腹で動けなくなりました。
採点とコメントも集まりました。
新定番となりそうな料理は!?
陳麻婆豆腐のほぼ全てのメニュー約50品を6時間かけて食べ終わった我々。
データを精査し、麻婆豆腐に次ぐ四川料理の新定番となりうるメニューを考えてみました。
総評をしていただくのは、試食会にも参加した中川正道さん。四川料理の専門家です。
【中川正道さん PROFILE】
四川省公認の四川料理の専門家、麻辣連盟総裁、時色株式会社代表兼デザイナー。2002~2006年まで四川省に滞在、四川料理に魅了される。2012年に単身、四川省へ行き、四川の仲間たちと200店舗の四川料理店を食べ歩き「おいしい四川」サイトをリリース。2014年夏に日本初! 四川料理食べ歩きガイドブック『涙を流して口から火をふく、四川料理の旅』を出版。2日間で10万人を動員した四川フェス主催。
──試食会、お疲れ様でした。ずいぶん食べましたね。
中川さん:6時間食べっぱなしでした。
──さて今日の本題です。シビ辛ブーム以降、麻婆豆腐以外の四川料理にも注目が集まってきています。今日の試食会を通じて、四川料理のネクストブレイクを占っていただきたいと思います。
中川さん:よろしくお願いします!
注目メニュー①牛モツのラー油和え (夫妻肺片)
▲陳麻婆豆腐のメニュー名は「郭夫妻の成都名小吃」(520円)
──牛モツということでホルモンですよね。ホルモンがラー油和えになっているという。
中川さん:これ、四川で定番の料理なんです。ラー油の美味しさがダイレクトに伝わってくる料理ですね。
──食べてみるとさっぱりとしていて軽いですよね。
中川さん:そうなんです。だからこれは、一番最初に食べて欲しい料理ですね。値段も手頃ですし。まずこれを食べて一杯飲むのが良いと思います。
▲「四川在住時代、そうやって飲んでいました」
──このレシピにはストーリーがあると聞いたのですが?
中川さん:はい。これは現地では「夫妻肺片」(フーチーフェイピェン)といって、元々は四川省の貧しい夫婦が捨てられていた牛のタンやレバーを使って料理をしたことが始まりです。ところがこの料理が美味しいと人気になり、晩年は豊かに暮らしたという話ですね。
──まさに四川ドリームじゃないですか!
柔らかさの秘訣は「牛すね肉」
「陳麻婆豆腐 ルクアイーレ大阪店」店長の宋さん(写真上)にも話をうかがいました。
──このメニューのこだわりポイントはどの辺でしょうか?
宋さん:四川から取り寄せた香辛料を使い、肉の臭みを徹底的に取り除き、香りを引き立たせるようにしています。
▲ラー油からの香ばしい香りが楽しめる
──お肉が柔らかかったのですが、こだわりはありますか?
宋さん:牛肉のすね肉を使って、じっくり煮込んで柔らかくしています。
軽い食感で、カジュアルに四川テイストを楽しめる牛モツのラー油和え。まずはこれをオーダーしてお酒を楽しむのが良いでしょう。
注目メニュー②回鍋肉
▲言わずと知れた「ホイコーロー」(1,020円)
──おなじみの回鍋肉ですが、これに注目した理由は?
中川さん:四川風の回鍋肉は、日本でおなじみの回鍋肉とは全く別物なんです。
──いったいどこが別物なのでしょう?
中川さん:一般的なキャベツではなくて、ニンニクの葉を使っているところです。でも日本ではニンニクの葉はなかなか売っていなくて、少し珍しいですよね。
──味付けも違いますか?
中川さん:まず甘さがないですよね。日本では甜麺醤を使った甘い味付けが多いと思うんですが、四川では豆板醤と豆豉を使った少し塩っぱい味付けなんです。辛味はそこまで強くはないですね。
──ほう、そう聞けば確かに全然別物です。
中川さん:四川では回鍋肉はかなり人気のあるレシピなんですよ。本場の味を食べることで、日本人が持っている回鍋肉のイメージがアップデートされると思います。四川風の麻婆豆腐を食べてそうなったように。
──まさに回鍋肉2.0ですね!
ニンニクの葉が香りを引き立てる
宋さん:まず、皮付きの豚バラ肉を使うことが一番のこだわりですね。これによって食感や味が全然違います。
──この柔らかい食感にはそういう秘密があったんですね。
宋さん:そしてニンニクの葉を使うことですね。これによって香りが強く引き立つんです。
──四川の回鍋肉は日本で知られている回鍋肉とは違いますか?
宋さん:全く別物だと思いますね!
四川風の回鍋肉は日本の回鍋肉とは全く別物。これを一度食べると、回鍋肉に対するイメージがガラリと変わること必至です!
注目メニュー③牛肉の唐辛子煮込み (水煮牛肉)
▲ 強烈なビジュアルがインパクト大な牛肉の唐辛子煮込み (1,834円)
──これはまた真っ赤ですね!
中川さん:ビジュアルのインパクトが凄いでしょう。でも味も良いんですよ。見た目ほど辛くないですよね。本場四川では回鍋肉と人気を二分するくらい、おかずの定番です。
──どうやって食べるのでしょうか?
中川さん:麻婆豆腐と同様に、ご飯の上にかけて食べるのが一般的ですね。
──これ、「水煮」と書くけど水じゃなくて油まみれですよね。
中川さん:四川ではもっと油の量が多いんですよ。あと、魚バージョンもありますね。
▲油まみれの四川料理を深く愛する中川さん
「後がけ」で最高の香りが立つ
宋さん:こちらも麻婆豆腐などと同じく、四川ならではの香辛料と唐辛子を使うことが基本にあります。
──香りがもの凄く良いですよね。
宋さん:一番のポイントは、熱々の油の中に胡麻や唐辛子を入れて煮込んだものを、料理が完成した時にかけるんです。それで香りが立つんですよ。
──まさに四川料理らしい手法ですね!
宋さん:そうですね。あまり見ない手法だと思います。
真っ赤っかな見た目に反して、旨味と香りが堪能できる四川の代表的なレシピ。その秘密は、独特の作り方にあった!
番外編:ドラゴンチャーハン
▲これがドラゴンチャーハン(価格未定)
──これは、陳麻婆豆腐のメニューにないですよね?
中川さん:これは今日特別に作ってもらったものです。炒飯に、他の料理で余った唐辛子を混ぜ込んだもので、かなりスパイシーになっていると思います。
──かなりスパイシーでしたね。あとからジンワリと辛くなるタイプの。
中川さん:これ、元々は目黒の龍門というお店にあったものがヒントになっています。アントニオ猪木さんがそのお店に通っていて、鶏の唐揚げに唐辛子と山椒を加えた「辣子鶏」(ラーズジー)が大好きらしいのです。その辣子鶏で余った唐辛子を、チャーハンに混ぜることを猪木さんが考案して作られたのがこれで、「闘魂チャーハン」と呼ばれているんですよ。
──この「ドラゴンチャーハン」という名前の由来は?
中川さん:それは今日決めました。強そうな名前というだけですが。
──今日ですか!
▲えっ、今日ですか
中川さん:正確に言うと昨日ですけどね。
──どっちでもいいです(笑)。でもこれは、唐辛子の有効活用として素晴らしい!
中川さん:そうなんです。他の四川料理店でもどんどん出して欲しいですね!
四川料理らしいチャーハンは、やはりピリリとスパイスが効いたものであってほしい。ドラゴンチャーハンはそんな思いを形にしたチャーハンでした。キムチチャーハンとは似て非なる、唐辛子の辛さをじんわり感じられるチャーハン。流行る気がします!
麻婆豆腐や担々麺以外にも、日本で人気が出そうな四川料理はまだまだありそうです。
四川料理のハードルを上げているのは、中国語そのままの料理名ではないでしょうか。
「麻婆豆腐」や「回鍋肉」あたりは中国語読みがうまく馴染んだ例ですが、「夫妻肺片」って書かれても、読めないですよね。そのあたり、「ドラゴンチャーハン」のようなキャッチーな名前を付けることができれば、一気に身近な存在になるのではと思います。
美味しいシビ辛料理を食べたくなったら
というわけで、シビ辛ブームで麻辣テイストが一般的になった今、これから定番化するかもしれない四川料理のご紹介でした!
美味しいシビ辛料理を食べたくなったら、陳麻婆豆腐にどうぞ。
※この記事は緊急事態宣言前の2020年3月に取材いたしました
2020年7月よりTwitterの公式アカウントからも情報発信中!
https://twitter.com/chenmapo_doufu
店舗情報
陳麻婆豆腐 ルクアイーレ大阪店
住所:大阪府大阪市北区梅田3-1-3 ルクアイーレ10F
電話番号:050-5451-0713
営業時間:月~日曜、祝日、祝前日: 11:00~23:00 (料理L.O. 22:30 ドリンクL.O. 22:30)
定休日:ルクアイーレの定休日に準ずる
書いた人:BUBBLE-B
飲食チェーン店トラベラー。日本中の飲食チェーン店の本店や1号店を探訪し、創業者の熱い想いに共感しながら味わうと3割増で美味しくなるグルメ概念「本店道」を提唱する。
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- ブログ:飲食チェーン店めぐりブログ「本店の旅」