「ライフガード」の発売元「チェリオ」って、どんな会社?
サバイバルな迷彩色に、超生命体飲料という謎の言葉が記された「ライフガード」。
発売元である「チェリオ」の定番商品の一つだ。
チェリオは、コンビニのドリンク売場では決して多数派ではない。しかも関東圏では自販機も少ないので、どこか謎めいたメーカーという印象を持っている人も多いかもしれない。
私の住む関西地区には、数多くのチェリオ自販機が設置されている。紅白の縦縞模様が印象的なデザインで、その多くはたくさんの100円商品がラインナップしている。
そんなチェリオの実体は、唯一無二のコンセプトを持つ商品を世に送り出したり、数多くのエポックメイキングを持つ創業60年の老舗の飲料メーカーなのだ。
チェリオの商品や歴史について、株式会社チェリオコーポレーション マーケティング部 マーケティング課の坂巻彩香さんに話を伺ってみた。
──チェリオという会社はいつ、どのようにして始まったのですか?
坂巻さん(以下、敬称略):1961年に大阪にて、「セブンアップ飲料(関西)株式会社」という社名で創業しました。当初はその名の通りアメリカの「セブンアップ」を日本で製造販売する会社でした。
──セブンアップって、レモン風味の炭酸飲料ですよね。
坂巻:はい。それからアメリカの「ハウディ」も製造販売しようとしたのですが、ハウディとはフランチャイズ契約ができなかったため中身は発売できず、ボトルの設計図だけをいただきました。その設計図を元にボトルを作り、日本オリジナルのドリンクとして発売したのが「チェリオ」だったのです。
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
──チェリオという企業名は元々一つの商品名だったのですね。反響はどうでしたか?
坂巻:当時の飲料は200mlが主流だったんですが、チェリオは他メーカーと同価格なのに296mlと内容量が多めでお得感があったので、大ヒット商品になりました。特に駄菓子屋で、子供達に人気でしたね。実は、アメリカンサイズの10オンス=296mlで設計したため、結果的に内容量が多くなったんです。
──子供達は内容量にこだわりますからね! それにしても、ボトルの形状がユニークですね。
坂巻:当時の日本にはなかった特徴的な形状で、チェリオが日本で初めて生産しました。このボトルはリターナブルボトルといって、飲んだ後はお店に返すとボトル代が戻ってきたんですよ。
チェリオの運命が決定した怒濤の80年代
「チェリオ」が大ヒットした背景には、内容量のお得さと、それを可能にしたアメリカンサイズのボトルを日本初導入した新規性にあったという。そして迎えた80年代、怒濤の新製品ラッシュが始まる。
──「チェリオ」のヒット後、80年代はいかがでしたか?
坂巻:1982年、新商品として「スィートキッス」を発売しました。当時アメリカで人気だった柑橘系の炭酸飲料を意識して作ったオリジナルドリンクです。
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
──ありました! ネオン管みたいなデザインが印象的な商品ですよね。
坂巻:あのデザインになったのは、新開発の300mlの軽量薄型ガラスボトルと、ボトルを覆うラベル印刷によるものなんです。薄型ガラスなので、ボトル全体にラベルを巻くことで強度を確保する必要があったんです。
──初期の丸い形のガラス瓶、新開発だったのですね。
坂巻:この頃の飲料用の瓶はガラスが厚く重かったため扱いにくかったので、薄型ガラスにプラスティックを圧着した新たなボトルを開発しました。軽くておしゃれな瓶が話題になり、大ヒットしました。この経験で、最新技術・内容量・味、全てが揃った時にヒットするのだという教訓を得ました。
──チェリオのヒット文法が、少し見えてきた気がします!
ライフガード誕生前夜に
坂巻:続いて1984年、新たにスポーツドリンクを作ることになりました。それが「セーフガード」です。
──セーフガード! 懐かしい!
坂巻:当時、他社が250mlで120円の水分補給飲料を発売していたのですが、割高感から苦戦していたのです。そこでチェリオでは大容量でガブ飲みできる水分補給飲料を作りました。
──チェリオ伝統の大容量作戦、またもや発動ですね!
坂巻:このセーフガードには350mlのアルミ缶を使ってるのですが、当時のアルミ缶は内圧の高い炭酸飲料専用で、非炭酸の清涼飲料水には使えなかったのです。
──確かにアルミ缶って、当時の主流だったスチール缶より凹みやすいですよね。
坂巻:そこで、缶に窒素を充填(じゅうてん)することで、350mlのアルミ缶に非炭酸の清涼飲料水を入れても強度を保持できるようにしました。350mlアルミ缶のスポーツドリンクはセーフガードが初めてで、またもや大ヒット商品に。
──瓶に続いて缶でも業界初が! 飲料ボトル界の革命児だ。
1986年、ついに「ライフガード」発売!
坂巻:セーフガードの成功を受け、水分補給と栄養補給を合わせた炭酸飲料「サバイバル飲料」として「ライフガード」を発売しました。
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
──サバイバル飲料! スポーツ飲料の一つ上の概念だ。どの辺がサバイバルなのですか?
坂巻:水分補給飲料のセーフガードに栄養成分を追加することで、よりアクティブに活動する人に向けてのドリンクというコンセプトです。これもまたヒットしたんですよ。
──発売から35年以上たった今でも定番商品として愛されるライフガード、そうやって生まれたんですね。
坂巻:発売から4年後の1990年、ライフガードの500mlペットボトル版を発売することになりました。しかし当時の日本では500mlのペットボトルの製造許可が下りなかった(※)ので、香港で500mlペットボトルに飲料を充填し、それを日本に輸入した上で販売をしていました。
※500mlペットボトルが、規制緩和により製造開始されたのは1996年から。
──そんなトリッキーな工夫をしていたとは!
坂巻:ライフガードの液体はビタミン由来の色が付いてるんですが、光による色褪せを防ぐため、緑の色つきペットボトルを使用していました。しかし、後年になって色つきペットボトルの製造が規制されたので、新たにボトル全体にラベルを巻く「フルシュリンク」パッケージを開発しました。これもまた業界内ではいち早く取り入れた事例になります。
──ペットボトルの全体包装にも、実用的な狙いがあったとは……!
湾岸戦争で「砂漠の嵐」、映画より早かった「ダイ・ハード」など、名(迷)ドリンクの数々
※ここからしばらく坂巻さんのパンチラインが続きます。皆さん頑張ってついてきてください。
──個人的に忘れられない「砂漠の嵐」というドリンクがあったのですが、これはどんなドリンクだったのですか?
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
坂巻:1990年にイラクがクウェートに侵攻して、湾岸戦争が始まるかも? という時に、今の会長が「砂漠用の迷彩って格好いいな!」とひらめいて、ドリンクになったのです。
──いきなりぶっ飛んできましたね! 「迷彩って格好いいな」から「ドリンクにしよう」になるのが全然分からない! ちなみにライフガードも迷彩柄のデザインですけど、会長さんは迷彩柄がお好きなんですか?
坂巻:会長がかつてスペインに行った時、若者が着ていた迷彩柄のファッションを格好いいと思い、影響を受けたそうです。
──なるほど……? 「砂漠の嵐」という商品名はどのように決まったのですか?
坂巻:発売当初は湾岸戦争が起きる前という状況下で、砂漠の侵略から湾岸を守る! というニュアンスの「砂漠の盾」という商品名で企画が進んでいたのですが、発売前に開戦したことで湾岸戦争の作戦名である「砂漠の嵐」になりました。
──いやもう、何がなんだか……。肝心の味はどのような?
坂巻:私も飲んだことはないのですが、スィートキッスのスペシャル版だったようです。350ml缶が大人気を博したことで発売できた、この時期だけの“遊び商品”でした。
──そしてもう一つ忘れられないのが「ダイ・ハード」です。
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
坂巻:これも350ml缶がよく売れたことによる“遊び商品”で、グレープフルーツ味の炭酸飲料でした。
──なんなんでしょう、遊び商品って。気になるのは商品名ですが、例の映画とは何か関係があるのでしょうか?
坂巻:全くないです(キッパリ)。実は映画公開より前に商標を取得していました。
──まさかの映画よりこっちが先だった!(驚)
早すぎたスープ缶「どすこい」誕生秘話
──ちゃんこ風スープ「どすこい」という商品もありましたが、これは?
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
坂巻:これは当時の取引先から、具だくさんな豚汁の商品化を提案されたのがきっかけなんです。でも試作品を作ってみると、具が全く入ってなかったのです。
──えっ、どういうことですか?
坂巻:「飲み口に具が引っかかってダメでした」と……。だからスープのみになり、味もいつの間にかちゃんこ風になって、ちゃんこ風スープ「どすこい」として1990年に商品化されました。
──かなりの直球ネーミングですけど、これ、売れましたか?
坂巻:あんまり売れなかったと聞きます……。同じ商品でも、出す時期によって売れたり売れなかったりするので、少し時期が早かったのかもしれません。
──今、他社さんが「麻婆スープ」なんて売ってますし、今なら違う結果になったかもしれませんね。
もはやチェリオのお家芸。「なんちゃって」シリーズとは?
※もうしばらく坂巻さんのパンチラインは続きます。
──ラベルのイメージと中身が全く違うという「なんちゃって」シリーズ、これも気になってます。
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
──そもそもなぜ「なんちゃって」シリーズを始めることになったのですか?
坂巻:1970年代の東京で、電車で乗客を驚かせた後「なーんちゃって!」と言っていなくなる、なんちゃっておじさん(※)と呼ばれた人がいたそうなのですが、それがヒントになってます。
※1970年代後半、東京都の電車車内に出没して乗客達を笑わせたといわれる中年男性。実在の人物かは不明で、半ば都市伝説化している。
──都市伝説がドリンクのヒントに……? 「なんちゃって」シリーズはどのような商品ラインナップですか?
坂巻:2004年に発売した、見た目はオレンジ色なのに味はグレープの「なんちゃってグレープ」が始まりです。でも、色が違うだけで突き抜け感が足りなかったので、2008年に見た目は醤油のボトルという「なんちゃってオレンジ」、2010年には同様のボトルの「なんちゃってコーラ」、2013年に見た目はマヨネーズの「なんちゃってクリームソーダ」を発売しました。
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
──当時、ネットを中心に話題になったのを覚えてますけど、再現度が高すぎて飲むのが怖かったです!
坂巻:そして2019年、復刻版として醤油ボトルの「なんちゃってオレンジ」を、2020年にはマヨネーズボトルの「なんちゃってクリームソーダ」を発売しました。今までのシリーズの中で最も高い再現度を実現しました!!!!
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
──復刻版の「なんちゃってオレンジ」、どう見ても醤油ボトルにしか見えないのですが、さすがに醤油メーカーさんからボトルを購入してるんですよね?
坂巻:してないです!(キッパリ)。このボトルも自社で作ってるものです。「なんちゃってクリームソーダ」のマヨネーズボトルの方は、よりリアルなマヨネーズに見せるため、金型から新たに起こした専用設計なんですよ!!
──ちょっと、何を目指しているのかが分からなくなってきました。
LGBTQへの取り組みをドリンクで発信する
──最近の製品で、「レインボーティー」や「レインボーウォーター」という商品がありますよね。性の多様性を象徴する6色のレインボーカラーが大きくデザインされてますが、これはどのようなコンセプトでしょう?
坂巻:チェリオはダイバーシティへの取り組みとして2014年から「東京レインボープライド」への協賛を行い、一人ひとりの個性を最大限発揮できる社会の実現を目指しています。
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
──多様性のある社会の実現を目指したブレンド茶なんですね!
坂巻:はい。昨年はレインボーシリーズ第2弾として「レインボーウォーター」を発売開始しました! こちらも是非飲んでいただければと思います。
全社員から企画を募る自由な社風
──個性的なドリンクを多くラインナップしているチェリオさんですけど、どのようにして企画を作って商品化していくのですか?
坂巻:チェリオは全社員、新人から経営者まで自由に企画を作ることのできる社風なんです。新入社員の研修では、全員が企画から試作品までを作り、最後は社長プレゼンをするのですが、そこから実際に生まれた「スースーサイダー」という商品もありました。
──とにかく企画命なんですね。膨大な量の企画が集まると、選考も大変なのでは?
坂巻:そうですね、どの企画にも発案者の思いが込められてるので、選考は大変です。美味しいことは大前提ですが、本当に作ることができるものなのか、お客様に喜んでもらえるものなのか、という視点で精査していく感じです。
──残念ながら通らなかった企画もたくさんあるのではないでしょうか?
坂巻:たくさんありますね!
──記憶に残るボツ企画ってありましたか?
坂巻:あ、う~ん、それは秘密にさせていただきます!
──うわ~、気になる!
これからも、童心にかえることができる楽しい商品を
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
──これからのチェリオについてお聞かせください。
坂巻:チェリオという会社は「おいしい、たのしい、あたらしい」をモットーにしています。それは、他社にはない独自性、奇想天外なアイデアと新しい技術で、誰もが年齢に関係なく童心にかえることができるような楽しい商品を出していく、ということでもあります。
──1960年代、駄菓子屋で子供達の定番だったことが原点ですね。
坂巻:そしてどんな商品でも安心と安全が最重要です。2015年に竣工した滋賀工場では最新鋭の設備を揃えて、安心・安全の確保に努めています。その上で、これからも様々な商品を作っていきたいと考えています。
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
──今日はありがとうございました!
個性的な商品から定番商品まで、数多くのラインナップを揃えるチェリオは、どの飲料メーカーとも違う独自の哲学があった。そして、高い技術力で次々と新しいボトルを開発してきた歴史があった。
多様性を認め合う時代、自由な発想で作られたドリンク達が楽しさと美味しさを届けてくれる。それはまさに、現代をサバイブする我々のライフをガードしてくれる、唯一無二の存在に違いない。
東京にあるチェリオ自販機の場所
チェリオの自販機は中部・関西・沖縄を中心に設置されており、東京を含む東日本にはほとんど存在しない。しかしながら、原宿のキャットストリートにライフガード柄の自動販売機が設置されている。チェリオのキャラクター「ウサダー」が目印だ。気になった人は、是非チェックしてみてほしい。
ライフガードカーやストリートピアノなどコンテンツが盛りだくさん
(画像提供:株式会社チェリオコーポレーション)
企画協力:株式会社チェリオコーポレーション
書いた人:BUBBLE-B
飲食チェーン店トラベラー。日本中の飲食チェーン店の本店や1号店を探訪し、創業者の熱い想いに共感しながら味わうと3割増で美味しくなるグルメ概念「本店道」を提唱する。
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